法人で保険に入るとき、経理担当者や顧問税理士が最初に確認するのが、保険料のうちいくらが損金になり、いくらを資産に計上するかです。2019年(令和元年)の通達改正で、定期保険と第三分野保険(医療保険・がん保険など)は、最高解約返戻率によって資産計上の割合と期間が決まる仕組みになりました(法人税基本通達9-3-5の2)。
この記事では、通達の区分を表にまとめ、30年の定期保険の計算例で、資産計上から取崩しまでの流れを確認します。あわせて、養老保険・解約時・払済保険の経理と、銀行が保険をどう見るかを整理します。保険の加入を勧める記事ではなく、加入している、または検討している保険を正しく経理するための整理です。
- 定期保険・第三分野保険(保険期間3年以上)は、最高解約返戻率で区分。50%以下は原則として期間の経過に応じて損金
- 50%超70%以下は保険料の40%、70%超85%以下は60%を、保険期間の前半40%の期間、資産に計上する
- 85%超は、最高解約返戻率×70%(当初10年は×90%)を、返戻率がピークになる期間などまで資産に計上する
- 資産計上額は、取崩期間に均等に損金にする。途中で解約すれば差額を雑収入・雑損失に
- 銀行は保険積立金を解約返戻金で見直し、損金になる保険料は経常利益を下げるものとして見る
保険の種類ごとの経理の全体像
| 保険の種類 | 受取人 | 保険料の経理 | 通達 |
|---|---|---|---|
| 養老保険 | 死亡・満期とも法人 | 全額資産計上 | 法基通9-3-4(1) |
| 養老保険 | 死亡は遺族、満期は法人 | 2分の1を資産計上、2分の1を損金(役員・特定の使用人のみが被保険者なら給与) | 9-3-4(3) |
| 定期保険・第三分野保険 | 法人 | 期間の経過に応じて損金(9-3-5の2の対象を除く) | 9-3-5(1) |
| 定期保険・第三分野保険(最高解約返戻率50%超、保険期間3年以上) | 法人 | 区分に応じて一部を資産計上 | 9-3-5の2 |
| 定期保険・第三分野保険 | 被保険者・遺族 | 期間の経過に応じて損金(役員・特定の使用人のみが被保険者なら給与) | 9-3-5(2) |
解約返戻金のない短期払の定期保険・第三分野保険で、1人あたりの保険料が年30万円以下のものは、支払った事業年度に損金にすることも認められています(9-3-5の注2)。
最高解約返戻率による区分(法人税基本通達9-3-5の2)
最高解約返戻率とは、保険期間を通じて、解約返戻率(解約返戻金相当額÷それまでに払う保険料の合計)が最も高くなる期間の、その割合です。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取崩期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | なし(期間の経過に応じて損金) | - | - |
| 50%超70%以下 | 保険期間の開始から、保険期間の40%相当期間を経過する日まで | 当期分支払保険料×40% | 保険期間の75%相当期間経過後から、保険期間の終了まで |
| 70%超85%以下 | 同上 | 当期分支払保険料×60% | 同上 |
| 85%超 | 保険期間の開始から、最高解約返戻率となる期間(その後に、解約返戻金の増加額÷年換算保険料相当額が70%を超える期間があれば、その期間)の終了まで | 当期分支払保険料×最高解約返戻率×70%(保険期間の開始から10年を経過する日までは×90%) | 解約返戻金相当額が最も高くなる期間の経過後から、保険期間の終了まで |
例外として、最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額(保険料の総額÷保険期間の年数)が被保険者1人あたり30万円以下の保険は、9-3-5の扱い(期間の経過に応じて損金)になります。85%超の区分で資産計上期間が5年未満になる場合は5年(保険期間が10年未満なら保険期間の50%)とする定めもあります。
計算例:最高解約返戻率80%、保険期間30年の定期保険
法人が契約者・受取人、年払保険料300万円、保険期間30年、最高解約返戻率80%(70%超85%以下の区分)の例です(数字は説明用)。
| 期間 | 毎年の経理 | 資産計上額の累計 |
|---|---|---|
| 1〜12年目(保険期間の40%=12年) | 資産計上180万円(300万円×60%)、損金120万円 | 12年目末:2,160万円 |
| 13〜22年目と23年目の前半(保険期間の75%=22.5年まで) | 300万円を全額損金 | 2,160万円のまま |
| 23年目の後半〜30年目(取崩期間7.5年) | 300万円を損金+資産計上額を取崩し(2,160万円÷7.5年=年288万円)を損金 | 30年目末:0円 |
1年目の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 保険積立金(資産) | 180万円 | 現金預金 | 300万円 |
| 支払保険料(損金) | 120万円 |
30年間を通じて損金になる額は、支払保険料の総額9,000万円で変わりません。通達が決めているのは、損金になる時期です。期の途中で資産計上期間や取崩期間が始まる・終わる場合は、月数で按分します。
解約したとき・払済保険にしたとき
途中で解約したとき
解約返戻金を受け取ったときは、資産に計上している保険積立金を取り崩し、差額を雑収入または雑損失にします。上の例で、12年目末に解約返戻金2,800万円を受け取ったとすると、保険積立金2,160万円との差額640万円が雑収入(益金)です。役員退職金の財源にする場合の考え方は役員退職金の財源としての生命保険で解説しています。
払済保険に変更したとき
保険料の払込みをやめて払済保険に変更した場合は、原則として、その時点の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を益金または損金に算入します(法人税基本通達9-3-7の2)。払済保険にしても、経理上は一度解約したのと同じ扱いになるのが原則です。ただし、特約のない養老保険・終身保険・定期保険・第三分野保険・年金保険から同じ種類の払済保険に変更した場合は、この処理をせず、それまでの資産計上額を契約の終了まで計上し続けることも認められています(同通達の注1)。
契約内容を変更したとき
9-3-5の2の扱いは、契約時の内容で判定しますが、契約内容を変更した場合は、変更後の期間は変更後の内容で判定し直します(同通達の注5)。保険期間の延長や保険金額の減額などで、区分が変わることがあります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行から見た法人保険
保険の経理は税金だけの問題ではありません。銀行は決算書の保険関係の数字を、次のように見ています。
- 保険積立金は解約返戻金で見直す:実態の純資産を計算するとき、帳簿の保険積立金ではなく、その時点の解約返戻金の額に置き換えます。上の例のように、返戻金が積立金を上回っていれば評価が上がり、下回っていれば下がります。保険会社が発行する解約返戻金の試算表を、決算書と一緒に提出できるようにしておくとよいでしょう
- 損金になる保険料は経常利益を下げる:資産計上期間が終わった後は、保険料の全額が費用になります。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、保険料の分だけ分母が小さくなります
- 税金を減らすための保険と見られないか:利益が出た年に大きな保険に入ると、「利益を圧縮している」と見られます。「払った税金の2倍、会社は強くなる」というのが著者の考え方で、保険料の支払で利益と現預金を減らすことが、会社の信用力を高めるとは限りません
保険と融資の関係は法人の生命保険と銀行融資への影響でも詳しく解説しています。
HD体制での注意点
HD体制では、どの会社で保険に入るかで、経理の影響を受ける決算書が変わります。
- 事業会社で入れば、事業会社の利益が下がり、許認可の財務要件や格付けに影響する
- HDで入れば、HDの資産に保険積立金が増える。HDは株式保有特定会社の判定に注意が必要な会社で、判定を免れるための資産構成の変動は、なかったものとして判定される(財産評価基本通達189のなお書き)
契約者・受取人の決め方はHDと生命保険、保険を使った対策の落とし穴は保険を使った対策の落とし穴をご覧ください。
まとめ
- 定期保険・第三分野保険の保険料は、最高解約返戻率で区分して資産計上の割合と期間を決める(法人税基本通達9-3-5の2)
- 50%超70%以下は40%、70%超85%以下は60%を前半40%の期間に資産計上。85%超は返戻率×70%(当初10年は×90%)
- 保険期間を通じた損金の総額は変わらない。通達が決めるのは損金になる時期
- 解約・払済・契約変更のときは、資産計上額と返戻金の差額の処理と、区分の判定し直しに注意する
- 銀行は保険積立金を解約返戻金で見直し、保険料は経常利益を下げるものとして見る
保険の経理は、加入時の契約内容(最高解約返戻率・保険期間)の確認から始まります。クレフティでは、保険商品の選定ではなく、加入済みの保険の経理処理の確認や、決算書と銀行への説明の整理をお手伝いしています。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。
