「VCからの出資はひと通り受けたが、次のラウンドまで資金が持つか不安」「これ以上、株式を出して持分を薄めたくない」。スタートアップの経営者からこうしたご相談を受けたときに、選択肢として名前が挙がるのがベンチャーデットです。
ベンチャーデットとは、まだ赤字の段階にあるスタートアップに対して、過去の利益ではなく将来の成長や出資の実績を背景に行われる融資のことです。新株予約権(ワラント)と組み合わせた「新株予約権付融資」の形をとることが多く、銀行や政府系金融機関、専門のファンドなどが担い手になっています。
この記事では、ベンチャーデットの仕組み、日本政策金融公庫の新株予約権付融資の条件、エクイティ(出資)との使い分け、契約で注意すべき点、そして決算書と銀行の見え方を整理します。
- ベンチャーデットは、赤字のスタートアップ向けの成長資金の融資。貸し手は利益よりも、VCの出資実績、ランウェイ、次の資金調達の見通しを見る
- 多くは新株予約権(ワラント)付き。貸し手は金利に加えて、将来の株価上昇の一部を受け取る
- 日本政策金融公庫のスタートアップ支援資金には、融資と社債の合計20億円まで、無担保・無保証人で使える新株予約権付融資がある(2026年11月時点)
- エクイティより持分の希薄化は小さいが、返済と利息の負担があり、返済原資は次のラウンドに頼りがち
- 決算書では負債として計上され、純資産は増えない。債務超過のスタートアップほど、エクイティとの順番と組み合わせが大事
ベンチャーデットとは:赤字でも受けられる「成長のための融資」
通常の銀行融資は、過去の決算書で利益が出ているか、借りたお金を利益から返せるかを中心に審査します。創業期の融資でも、自己資金や事業計画、経営者の経験が重視されます。
一方、研究開発や先行投資で赤字が続くスタートアップは、この物差しでは評価が難しくなります。そこで生まれたのがベンチャーデットです。貸し手は、次のような点を見て融資を判断します。
- ベンチャーキャピタル(VC)などからの出資の実績:プロの投資家が出資していること自体が、事業の将来性の裏づけになる
- ランウェイ:今の手元資金と毎月の資金の減り方から、何か月事業を続けられるか
- 次の資金調達の見通し:次のラウンドの時期、想定する調達額、既存の投資家の追加出資の意向
- 事業の進捗:売上の伸び、契約の積み上がり、開発のマイルストーン
返済の原資は、いま出ている利益ではなく、将来の売上や次のラウンドで集める出資金になることが多い。この点が、一般の融資との大きな違いです。
ベンチャーデットは、スタートアップの資金調達の選択肢の一つにすぎません。全体像はスタートアップの資金調達の選択肢で整理しています。
新株予約権(ワラント)付きの仕組み
ベンチャーデットの多くは、融資と同時に、会社が貸し手に新株予約権を発行する形をとります。新株予約権とは、あらかじめ決めた価格(行使価額)で会社の株式を取得できる権利です。
貸し手から見ると、赤字の会社に貸すリスクは、通常の融資より高くなります。その分を金利だけで取ろうとすると、スタートアップには払えない水準になってしまいます。そこで、金利は抑えつつ、会社が成長して株価が上がったときに新株予約権で利益を得る、という組み立てにするわけです。
借りる側から見ると、新株予約権は将来の希薄化の要因になります。ただし、同じ金額をエクイティで集める場合に比べれば、渡す株式の割合はずっと小さく抑えられるのが一般的です。
日本政策金融公庫の新株予約権付融資
公的な制度として代表的なのが、日本政策金融公庫の「スタートアップ支援資金」の中にある新株予約権付融資です。公庫の公表内容(2026年11月時点)を整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | VC等から出資を受けている(見込みを含む)方、またはJ-Startup(地域版を含む)に選定された方など |
| 仕組み | 会社が発行する新株予約権を公庫が取得し、無担保で資金を供給(貸付または普通社債の取得) |
| 限度額 | 融資と社債の合計で20億円 |
| 返済期間 | 20年以内(うち据置期間10年以内) |
| 利率 | 基準利率(上限3.0%) |
| 新株予約権の条件 | 行使価額は取得時の株式の時価、発行価額は無償。取得する新株予約権は、原則として行使したとみなした発行済株式総数の50%以内 |
| 新株予約権の扱い | 公庫は株式を取得せず、原則として株式公開時など一定の条件を満たしたときに経営責任者等へ売却 |
| 保証人 | 無保証人 |
出典:日本政策金融公庫「スタートアップ支援資金」。社債・新株予約権の発行には、取締役会や株主総会などの社内手続きが必要です。金利や適用条件は個別に決まるため、最新の内容は公庫で確認してください。
公庫が株式を自ら持たず、経営者側に売却する前提になっている点は、資本政策の上でも扱いやすい特徴です。民間のベンチャーデットでは、貸し手が新株予約権を行使して株主になる設計もあるため、条件をよく比べる必要があります。
ベンチャーCFO・IPO支援の経験をもとにしたクレフティの手法で、法人設立前の設計から融資・資本政策まで支援します。初回のご相談は無料です。
スタートアップ・ベンチャー支援を見るエクイティとベンチャーデットの使い分け
ベンチャーデットは、エクイティ(出資)の代わりではなく、エクイティと組み合わせて使うのが基本です。両者の違いを整理します。
| 比較項目 | エクイティ(VCからの出資など) | ベンチャーデット |
|---|---|---|
| 返済 | 不要 | 必要(元金と利息) |
| 持分の希薄化 | 大きい | 小さい(新株予約権の分だけ) |
| 決算書 | 純資産が増える | 負債が増える(純資産は増えない) |
| 調達までの時間 | 交渉・デューデリジェンスに時間がかかりやすい | エクイティより短い傾向(ただし貸し手による) |
| 経営への関与 | 株主として議決権・情報請求権を持つ | 契約上の報告義務やコベナンツで関与 |
| 向く場面 | 事業の大きな転換、長期の研究開発 | 次のラウンドまでの期間の延長、評価額が上がる前の資金の手当て |
使い分けの典型は、次のような場面です。
- ラウンドの間をつなぐ:直近のラウンドで集めた資金に上乗せし、ランウェイを延ばす。次のラウンドを、より良い数字が出た段階で迎えられる
- 評価額が上がる前に株式を出しすぎない:あと半年で大きな契約や製品の公開を控えているなら、その前に株式を出すより、デットでつないでから評価額の上がったところで出資を受けたほうが、創業者の持分を守れることがある
- 用途がはっきりした資金:設備や在庫など、資金の使い道と回収の時期が見えているもの
逆に、事業の方向性がまだ定まらず、資金の使い道も回収の時期も見えない段階では、返済が必要なデットは重荷になります。そうした段階では、エクイティや、創業期の融資・補助金を先に検討します。株式を誰にどれだけ持ってもらうかの全体設計は資本政策の基本で解説しています。
契約で確認すべきこと:金利だけで比べない
ベンチャーデットは、表面の金利だけを比べると判断を誤ります。次の項目を一覧にして、実質の負担と制約を比べてください。
- 手数料:契約時の手数料(アップフロントフィー)、期限前に返済するときの手数料
- 新株予約権の条件:行使価額、対象となる株式の数、行使できる期間、貸し手が行使するのか第三者に売却するのか
- コベナンツ(財務制限条項など):手元資金を一定額以上に保つ、一定の売上を達成する、追加の借入や担保設定を制限する、といった約束。守れないと期限の利益を失うおそれがある
- 報告義務:月次の試算表、資金繰りの見通し、重要な契約の報告などの提出
- 担保と保証:無担保か、知的財産や売掛金などに担保を求められるか、経営者の個人保証が求められるか
- 返済の形:一定期間は利息のみで、その後に元金を返す形が多い。据置明けの返済額を資金繰り表に落とし込んでおく
据置期間の考え方は融資の据置期間とはもあわせてご覧ください。
なお、民間の貸し手については、貸金業の登録の有無や、利息制限法との関係などの論点が専門家から指摘されています。銀行・政府系金融機関以外から借りる場合は、貸し手が適法に融資を行える立場にあるかも確認しておきましょう。2026年には金融庁の作業部会で、ベンチャーデットの担い手の資金調達に関わる制度の見直しも議論されています(金融庁の事業者向け貸付の規制の見直し)。
決算書と銀行の見え方:「純資産は増えない」ことを忘れない
ベンチャーデットで集めたお金は、決算書では借入金(負債)です。現預金は増えますが、純資産は1円も増えません。この点が、エクイティとのいちばん大きな違いです。
赤字が続くスタートアップは、利益の積み重ねがマイナスになり、純資産が小さく、あるいはマイナス(債務超過)になりがちです。エクイティで資本を入れ直さずにデットだけを重ねると、債務超過が深くなり、銀行の格付けは下がっていきます。著書のモデルでは、銀行の格付けを安全性・収益性・成長性・返済能力の4つで見ており、自己資本比率や債務償還年数が大きなウエートを占めます。赤字のうちは、返済能力の評価で点を取りにくいことを前提に計画を立てる必要があります。
ここで大切なのは、エクイティとデットの順番と組み合わせです。
- エクイティで純資産を厚くした直後にベンチャーデットを組み合わせると、債務超過を避けながら資金を厚くできる
- 公庫の資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)のように、金融機関が債務者区分を判断するうえで資本とみなせる扱いの融資もある。ただし、会計上は借入金のまま
- 将来、銀行のプロパー融資に移っていくことを見すえ、月次の試算表と資金繰り表を整え、計画との差を説明できる状態にしておく
新株予約権の会計処理や、手数料・利息の期間配分は、条件によって扱いが変わります。上場準備中の会社であれば監査法人の見解も必要になるので、契約前に顧問税理士と確認しておきましょう。
クレフティにできること
ベンチャーデットは、資本政策・資金繰り・融資の3つにまたがるテーマです。どれか一つだけを見て決めると、後で「持分は守れたが、資金繰りが回らない」「借りられたが、次のラウンドの条件が悪くなった」ということが起こり得ます。
クレフティには、ベンチャーCFO出身でIPO準備・資本政策を統括するパートナーの髙橋と、元地方銀行員の資金調達部長をはじめとする金融機関出身のスタッフがいます。代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、資本政策の試算、エクイティとデットの組み合わせの検討、金融機関への説明資料づくりまでを一体でお手伝いしています。
まとめ
- ベンチャーデットは、赤字のスタートアップが、将来の成長とVCの出資を背景に受ける融資
- 多くは新株予約権付き。金利を抑える代わりに、貸し手が将来の株価上昇の一部を受け取る
- 日本政策金融公庫のスタートアップ支援資金には、融資と社債の合計20億円まで、無担保・無保証人の新株予約権付融資がある
- エクイティより希薄化は小さいが、返済・利息・コベナンツの負担があり、返済原資は次のラウンドに頼りがち
- 決算書では負債。純資産は増えないので、エクイティとの順番と組み合わせを設計してから使う
ベンチャーデットを含めた資金調達の組み立てや資本政策にお悩みの方は、スタートアップ支援をご覧ください。初回のご相談は無料です。
