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第三者割当増資の株価の決め方|「有利発行」と判定される10%の目安、引き受けた人と会社にかかる税金、銀行の見え方

「知人の経営者が500万円出資してくれることになった。株価はいくらにすればいいのか」「設立時は1株5万円だったから、今回も5万円でいいだろう」。創業期の会社からよくいただくご相談です。

第三者割当増資の株価(1株あたりの払込金額)は、会社が自由に決めてよいように見えて、実は会社法と税法の両方に縛りがあります。とくに、時価よりおおむね10%以上安い株価で発行すると、税務上は「有利発行」と判定され、引き受けた人に思わぬ税金がかかることがあります。この記事では、第三者割当増資の株価の決め方と、有利発行の判定、引き受けた人・会社への課税、そして増資が決算書と銀行の評価にどう表れるかを、公認会計士・税理士の視点で整理します。

この記事の結論
  • 第三者割当増資の株価は「その時点の時価」が出発点。時価よりおおむね10%以上安いと、税務上は有利発行と判定される
  • 有利発行で株を引き受けると、法人は受贈益、役員・従業員は給与所得、既存株主の親族は贈与税などの課税が生じ得る
  • 非上場会社の時価は、直近の独立した第三者との取引価格や、税務上の株式評価の方法で根拠を残す
  • 増資は純資産を厚くし、銀行の評価にはプラス。ただし資本金の額は、税制の特例や消費税への影響まで考えて決める

第三者割当増資とは?株価が問題になる理由

第三者割当増資とは、特定の人(既存株主かどうかを問わない)に新しく株式を発行し、出資を受け入れる方法です。エンジェル投資家、取引先、ベンチャーキャピタル、役員や従業員が引き受ける場合も、法的にはすべて第三者割当の形をとることが多くなります。

株主全員に持株数に応じて平等に新株を割り当てる「株主割当」であれば、株価をいくらにしても既存株主の間で損得は生じません。しかし第三者割当では、安い株価で新株を発行すると、既存株主が持つ株式の価値が薄まり、その分が新しい株主に移ります。会社法も税法も、この「価値の移転」に着目してルールを置いています。

発行の方法株価が安い場合に起きること
株主割当(持株比率に応じて平等に割当て)既存株主の間で価値の移転は起きない。原則として課税の問題は生じにくい
第三者割当(特定の人に割当て)既存株主から新株主へ価値が移る。有利発行として会社法の手続きと課税の問題が生じる

資本政策全体の考え方は資本政策の基本と、創業初期にやりがちな失敗で解説しています。この記事では、その中の「いくらで渡すか」に焦点を当てます。

会社法の手続き|有利発行には株主総会の特別決議が必要

非上場の会社(株式の譲渡に会社の承認が必要な会社)では、募集株式の数や払込金額などの募集事項は、原則として株主総会の特別決議で決めます。公開会社(定款に譲渡制限のない株式を発行する会社)では、原則として取締役会で決められます。

そのうえで、払込金額が引き受ける人に「特に有利な金額」であるときは、取締役が株主総会でその金額で募集する理由を説明しなければなりません。公開会社であっても、この場合は株主総会の特別決議が必要になります。

創業者が議決権の3分の2以上を持つ会社なら、決議自体は通ります。しかし、手続きを省略したり、議事録に理由を残していなかったりすると、後から入ってきた投資家のデューデリジェンス(買収や出資の前の調査)で指摘を受けることがあります。株価の根拠と、決議の記録はセットで残すのが基本です。

税務の「有利発行」|時価よりおおむね10%以上安いと課税の問題

判定の目安は「おおむね10%」

税務では、新株の払込金額が、その金額を決める日の株式の価額に比べて「社会通念上相当と認められる価額を下回る」場合を、有利な金額での発行(有利発行)として扱います。法人税基本通達2-3-7と所得税基本通達23〜35共-7は、その判定を、株式の価額と払込金額の差が、株式の価額のおおむね10%以上かどうかで行うとしています。

たとえば、時価が1株10万円と評価される会社が、1株9万5,000円で発行するなら差は5%で、有利発行には当たりにくいと考えられます。1株5万円で発行すれば差は50%で、有利発行と判定される可能性が高くなります。

誰が引き受けたかで、課税の内容が変わる

有利発行で株式を引き受けた場合、時価と払込金額の差額は、引き受けた人が得をした部分(経済的利益)とみなされます。その課税は、引き受けた人によって変わります。

引き受けた人主な課税の考え方根拠の例
法人(取引先、投資会社など)株式の取得価額を時価とし、差額は受贈益として益金に算入法人税法施行令119条1項4号、法人税基本通達2-3-7〜2-3-9
発行会社の役員・従業員職務に関連して与えられたものとして、原則として給与所得所得税法施行令84条、所得税基本通達23〜35共-6
上記以外の個人(知人の投資家など)原則として一時所得所得税基本通達23〜35共-6
同族会社の株主の親族など既存株主から引受権の贈与を受けたものとして贈与税相続税法基本通達9-4

※給与所得や退職所得として所得税の課税対象となる場合は、贈与税の対象から除かれます。個別の判定は、取引の経緯や引き受けた人と会社の関係によって変わります。

とくに見落とされやすいのが、役員・従業員に「頑張ってくれているから」と安く株を持たせるケースです。会社にとっては善意のつもりでも、本人には給与所得として所得税・住民税がかかり、会社には源泉徴収の問題が生じるおそれがあります。従業員へのインセンティブには、ストックオプションの税金で解説した税制適格ストックオプションのように、制度として課税の扱いが定まっている方法を検討するのが安全です。

また、家族経営の会社で、子どもだけに安い株価で新株を割り当てると、親から子へ株式の価値が移ったものとして贈与税の問題になります。事業承継の文脈で増資を使うときは、とくに注意が必要です。

非上場会社の「時価」はどう決めるか

上場株式なら市場の株価がありますが、非上場の会社には市場価格がありません。そのため、次のような方法で「その時点の時価」の根拠をつくります。

1. 独立した第三者との取引価格

直近に、会社と利害関係のない投資家(ベンチャーキャピタルなど)が交渉のうえで出資した株価は、時価を示す有力な根拠になります。ただし、優先株式で出資を受けている場合、普通株式の時価とは同じにならないことがあります。投資家の株式に残余財産の優先分配などの権利がついている分、普通株式の価値はそれより低く評価されるのが一般的です。

2. 税務上の株式評価の方法

独立した第三者との取引がない場合は、法人税基本通達や所得税基本通達が定める方法(財産評価基本通達の評価方法を、一定の修正を加えて使う方法など)で評価するのが一般的です。会社の純資産や利益の水準によって、評価額は大きく変わります。自社株の評価の考え方は自社株評価の方法でも解説しています。

3. 第三者による株式価値の算定

外部から大きな出資を受ける場合や、M&A・IPOを見据える場合は、DCF法(将来のキャッシュフローから価値を求める方法)などを使った株式価値算定書を作ることもあります。クレフティには、大手FASでバリュエーション(企業価値評価)を手がけてきた公認会計士・税理士も所属しています。

よくある失敗パターン
  • 設立から時間がたち、利益で純資産が増えているのに、設立時と同じ株価で増資する
  • ベンチャーキャピタルが高い株価で出資した直後に、創業者の家族や役員にだけ設立時の株価で新株を割り当てる
  • 株価の根拠を残さず、議事録に「協議のうえ決定」としか書いていない

創業期で株価を決めにくい段階では、株価の決定を次の資金調達まで先送りできるJ-KISSという方法もあります。

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増資は決算書と銀行の評価にどう表れるか

純資産が増え、自己資本比率が上がる

増資で払い込まれた金額は、貸借対照表の純資産の部に、資本金と資本準備金として計上されます。借入金と違って返済の必要がないため、銀行から見ると自己資本比率が上がり、財務の安全性が高まったと評価されるのが一般的です。赤字が続いて債務超過に近づいている会社にとっては、増資は債務超過を解消する有力な手段にもなります(債務超過とは)。

著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』で紹介している銀行格付けのモデルでも、自己資本比率や純資産額は「安全性」の重要な項目です。銀行が見る自己資本の考え方は、自己資本比率の目安は何%?で詳しく解説しています。

銀行は「増えたお金の使い道」と「その後の収益力」も見る

ただし、増資をすれば必ず融資が受けやすくなるわけではありません。銀行が確認するのは、増資で入ったお金を何に使うのか、それによって返済の原資となる利益とキャッシュフローがどう増えるのかです。増資の直後に融資を申し込むなら、資金使途と事業計画をセットで説明できるように準備しておきましょう。

資本金の額は、税金への影響まで考えて決める

払い込まれた金額は、全額を資本金にする必要はなく、最大で半分まで資本準備金にできます。資本金の額は、次のような税金の扱いに影響します。

資本金の額主な影響
1,000万円以上で設立した場合設立1期目・2期目でも消費税の免税事業者にならない
1億円超中小法人向けの軽減税率、交際費の定額控除限度額などの特例が使えなくなる
資本金等の額の区分法人住民税の均等割の金額が変わる

設立時の資本金と消費税の関係は、法人設立前に知るべき消費税で解説しています。増資で資本金が1億円を超えそうなときは、資本準備金への配分で調整できるかを事前に検討します。なお、外形標準課税の判定など、資本金だけでなく資本剰余金も含めて判定する制度もあるため、増資の規模が大きいときは個別に確認が必要です。

増資の前に確認したいチェックリスト

確認することポイント
株価の根拠直近の第三者との取引価格、税務上の評価額、算定書のいずれで説明するか
有利発行に当たらないか時価との差がおおむね10%以上にならないか
引き受ける人と会社の関係役員・従業員・親族が含まれるか。課税の内容が変わる
会社法の手続き募集事項の決議、有利発行なら理由の説明と特別決議、議事録
資本金と資本準備金の配分1,000万円・1億円などの節目と税制への影響
持株比率増資後に創業者が議決権の3分の2・過半数を保てるか
銀行への説明資金使途と、増資後の事業計画・返済計画

株価の決め方は、税務・会社法・資本政策・融資のすべてにかかわります。クレフティでは、代表の相亰とパートナーの髙橋(ベンチャーCFO出身でIPO準備・資本政策を統括)が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、出資と融資を組み合わせた資金調達をご支援しています。初回のご相談は無料です。

まとめ

  • 第三者割当増資の株価は、その時点の時価が出発点。時価よりおおむね10%以上安いと有利発行と判定される
  • 有利発行では、会社法上は株主総会での理由の説明と特別決議、税務上は引き受けた人への課税が問題になる
  • 課税の内容は、法人なら受贈益、役員・従業員なら給与所得、その他の個人なら一時所得、親族なら贈与税と、引き受けた人によって変わる
  • 非上場会社の時価は、第三者との取引価格、税務上の評価方法、算定書で根拠を残す
  • 増資は純資産を厚くし、銀行の評価にはプラス。資本金の額は税制への影響まで考えて配分する

エンジェル投資家から出資を受ける場合の税制はエンジェル税制の仕組みで解説しています。増資の株価や資本金の配分、出資と融資の組み合わせに迷ったら、スタートアップ・起業支援からお気軽にご相談ください。

よくある質問

第三者割当増資の株価は、会社が自由に決めてよいのですか?
会社法上は、募集株式の払込金額は株主総会(取締役会設置の公開会社では原則として取締役会)で決めます。ただし、時価に比べて特に有利な金額で発行するときは、株主総会で理由を説明したうえで特別決議が必要です。税務でも、時価よりおおむね10%以上安い払込金額は「有利な金額」と判定され、引き受けた人に課税が生じることがあります。法律上も税務上も、根拠のある株価で決めることが前提です。
設立時と同じ1株5万円で、1年後に知人に増資を引き受けてもらっても問題ありませんか?
その間に会社の価値が変わっていなければ問題になりにくいですが、利益が出て純資産が増えていたり、直前に投資家が高い株価で出資していたりすると、5万円は時価より安い「有利な金額」と判定されるおそれがあります。引き受けた人が役員・従業員なら給与所得、それ以外の個人なら一時所得、既存株主の親族なら贈与税の問題が生じ得ます。増資のたびに、その時点の株価の根拠を残しておくことが大切です。
増資をすると銀行の評価は上がりますか?
払い込まれた金額だけ純資産が増えるので、自己資本比率や債務超過の解消という点では評価が上がるのが一般的です。ただし、銀行は増えたお金の使い道と、その後の収益力も見ます。また、資本金を大きくしすぎると、中小法人向けの税制の特例が使えなくなる、消費税の免税の扱いが変わるといった影響があるため、資本金と資本準備金の配分も含めて設計することが大切です。

※本記事は2026年10月27日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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