スタートアップや創業間もない会社では、最初の数期が赤字になるのは珍しいことではありません。そのときに知っておきたいのが繰越欠損金です。繰越欠損金とは、ある期に出た赤字(税務上の欠損金)を翌期以降に繰り越し、将来の黒字と相殺して税金を軽くできる仕組みのことです。
ただし、この仕組みには「青色申告であること」などの条件があり、条件を一つ落とすと、せっかくの赤字が税務上はなかったことになります。また、税金の計算で赤字が役立つことと、銀行が赤字の決算書をどう見るかは、まったく別の話です。この記事では、繰越欠損金の基本ルールを国税庁の公表内容に沿って整理したうえで、赤字の時期を、次の融資につながる決算書にどうつなげるかを、20行超の金融機関と折衝してきた税理士法人の目線で解説します。
- 繰越欠損金とは、赤字を将来の黒字と相殺できる仕組み。法人は10年間繰り越せる(平成30年4月1日以後開始の事業年度の欠損金)
- 使うための条件は、赤字の期に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告をし、帳簿書類を保存していること。青色申告の承認申請の出し忘れが最大の落とし穴
- 中小法人等と、設立から7年以内の新設法人(一定のものを除く)は、黒字の全額と相殺できる
- 税金の面では赤字が役に立つが、銀行は純資産の減少と債務超過を見ている。「いつ黒字化し、純資産がいつプラスに戻るか」を説明できるようにしておく
繰越欠損金とは|赤字を将来の黒字と相殺する仕組み
法人税は、1年間(1事業年度)の所得に税率をかけて計算します。ある期に赤字が出ても、その期の法人税がゼロになるだけで、赤字そのものは翌期には持ち越されない、というのが本来の考え方です。
しかし、事業は1年単位で区切れるものではありません。創業期に赤字を出しながら投資を続け、数年後に黒字になる会社にとって、黒字の期だけ税金を払うのは、通算で見ると利益以上の税金を払うことになりかねません。そこで、一定の条件を満たす法人には、過去の赤字(欠損金)を将来の所得から差し引くことが認められています。これが欠損金の繰越控除で、繰り越された欠損金を一般に「繰越欠損金」と呼びます。
具体例で見る繰越欠損金
たとえば、次のような会社を考えてみます(税金の計算は簡略化しています)。
| 事業年度 | 税務上の所得 | 使った繰越欠損金 | 課税される所得 | 期末の繰越欠損金残高 |
|---|---|---|---|---|
| 1期目 | ▲1,500万円 | — | 0円 | 1,500万円 |
| 2期目 | ▲500万円 | — | 0円 | 2,000万円 |
| 3期目 | 800万円 | 800万円 | 0円 | 1,200万円 |
| 4期目 | 1,500万円 | 1,200万円 | 300万円 | 0円 |
1期目と2期目の赤字の合計2,000万円を、3期目と4期目の黒字から差し引いていきます。この会社が中小法人等であれば、3期目は法人税の課税所得がゼロ、4期目は300万円だけが課税対象になります。
ここで大切なのは、繰越欠損金は「税金を減らす権利」であって、お金そのものではないということです。将来、黒字が出たときに初めて効果が出るもので、赤字の期に会社の手元に現金が戻ってくるわけではありません(現金が戻る仕組みとしては、後で説明する「繰戻し還付」があります)。
繰越欠損金のルール|期間・控除限度・条件
国税庁の公表内容(タックスアンサーNo.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」)をもとに、主なルールを整理します。
繰越期間は10年
平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は、10年間繰り越すことができます。それより前に開始した事業年度の欠損金は9年です。いまから創業する会社であれば、10年と考えて差し支えありません。
10年は長いように見えますが、古い欠損金から順に使っていくため、大きな赤字を出したまま黒字化が遅れると、使い切れずに期限切れになることもあります。
控除できる金額の上限
| 法人の区分 | 繰越欠損金で相殺できる上限 |
|---|---|
| 中小法人等(資本金1億円以下の普通法人など。大法人の100%子会社などを除く) | 制限なし(その期の所得の全額まで) |
| 設立から7年を経過する日までの期間内の事業年度にある新設法人(大法人の100%子会社や上場した法人などを除く) | 制限なし(その期の所得の全額まで) |
| 上記以外の法人 | その期の所得の50%まで |
スタートアップの場合、ベンチャーキャピタルからの出資で資本金が1億円を超えると、中小法人等に当たらなくなることがあります。それでも、設立から7年以内であれば、新設法人として所得の全額まで欠損金を使えるのが原則です。ただし、上場(株式の上場や店頭登録)があると、その日以後に終了する事業年度からはこの扱いが外れます。資本金の決め方については資本金はいくらにすべきかでも解説しています。
繰越欠損金を使うための3つの条件
繰越欠損金を使うためには、次の3つを満たす必要があります。
- 欠損金が生じた事業年度に、青色申告書である確定申告書を提出していること
- その後の各事業年度について、連続して確定申告書を提出していること
- 欠損金が生じた事業年度の帳簿書類を保存していること
なお、欠損金が生じた期が青色申告であれば、その後の期が白色申告になっても、欠損金の控除自体は認められます。逆に言えば、赤字が出た期に青色申告でなかったら、その赤字は繰り越せません。
最大の落とし穴は「青色申告の承認申請」の出し忘れ
新しく設立した法人が1期目から青色申告をするには、税務署に「青色申告の承認申請書」を期限内に提出しておく必要があります。設立した法人の場合、原則として、設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日が期限です。
創業直後は、登記、口座開設、契約、採用と手続きが重なり、この申請が漏れてしまうことがあります。1期目は赤字になりやすい期ですから、ここで青色申告ができないと、いちばん大きな赤字を将来に持ち越せないことになります。設立後の届出やスケジュールは法人1期目の税金スケジュールにまとめていますので、あわせて確認してください。
期限内に申告すること自体も条件
条件の2つ目にある「連続して確定申告書を提出していること」も見落としがちです。赤字だから税金がかからないと考えて申告を後回しにすると、青色申告の承認の取消しや、欠損金の扱いで不利になるおそれがあります。赤字の期こそ、期限内にきちんと申告するのが鉄則です。
赤字でも出ていく税金と、繰戻し還付
繰越欠損金があっても払う税金
繰越欠損金は法人税(と、それに連動する地方法人税、法人住民税の法人税割、法人事業税の所得割)を軽くするものですが、次の税金には効きません。
| 税金 | 繰越欠損金との関係 |
|---|---|
| 法人住民税の均等割 | 赤字でも毎年かかる。資本金等の額と従業者数で金額が決まる |
| 消費税 | 利益ではなく、売上と仕入れ・経費で計算するため無関係 |
| 源泉所得税 | 役員報酬・給与を払えば、会社の損益に関係なく預かって納める |
| 社会保険料 | 役員報酬・給与に応じてかかる |
創業期の資金繰りでは、「赤字だから税金はゼロ」と思い込まず、これらの支払いを資金繰り表に入れておくことが大切です。特に消費税は、設立1期目・2期目に免税事業者になれるかどうかで大きく変わります。詳しくは新設法人の消費税をご覧ください。
前期の法人税を取り戻す「繰戻し還付」
繰越欠損金が将来に向けた仕組みであるのに対し、過去に払った法人税を取り戻すのが「欠損金の繰戻しによる還付」です。国税庁の公表内容(タックスアンサーNo.5763)によれば、主な内容は次のとおりです。
- 対象は原則として中小企業者等(資本金1億円以下の普通法人などで、大法人の100%子会社などを除く)
- 欠損金が生じた事業年度の開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰り戻し、その期に納めた法人税の還付を受けられる
- 欠損事業年度の青色申告書である確定申告書を提出期限までに提出し、同時に還付請求書を出す必要がある
創業1期目は「前期」がないため使えませんが、黒字の期のあとに赤字の期が来た会社では、資金繰りの助けになることがあります。一方で、繰戻し還付を受けた分の欠損金は繰越欠損金としては使えなくなるため、どちらが有利かは、今後の利益の見通しとあわせて判断します。なお、還付を受けられるのは国税の法人税であり、地方税の扱いは異なります。
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スタートアップ・ベンチャー支援を見る銀行は赤字の決算書をどう見るか
ここからが、税金の解説だけでは見えてこない部分です。繰越欠損金は税務署との関係では「得をする」仕組みですが、銀行は、決算書の赤字を税金とは別の物差しで見ています。
銀行が見るのは「純資産」と「債務超過」
赤字が出ると、その分だけ決算書の純資産(資本金+利益の蓄積)が減ります。資本金1,000万円で設立し、1期目・2期目で合計2,000万円の赤字を出せば、純資産はマイナス1,000万円、つまり債務超過です。
銀行の格付けでは、債務超過は非常に重く見られます。私自身、2019年に複数の銀行から融資を止められた原因は、減価償却の速い物件が多く、簿価ベースで負債が資産を上回る債務超過の状態だったことでした。たとえ現場の事業がうまく回っていても、決算書の数字が債務超過であれば、銀行の評価はそこで決まってしまうのです。債務超過が銀行にどう見えるか、どう解消するかは債務超過とはで詳しく解説しています。
繰越欠損金は決算書のどこにも載らない
中小企業の決算書では、繰越欠損金は貸借対照表の資産として表れないのが一般的です(法人税の申告書の別表には記載されます)。銀行の担当者が申告書まで確認すれば、「今後しばらくは税金がかからず、利益がそのまま純資産の回復に回る」ことは読み取れますが、自分から説明しなければ伝わらないと考えておいたほうが安全です。
ここに、繰越欠損金を融資の説明に生かす余地があります。黒字化した後、繰越欠損金がある間は法人税がかからないため、利益のほぼ全額が純資産の回復に回ります。「何期目に黒字化し、繰越欠損金がある間に、何期目までに債務超過を解消する」という計画を数字で示せれば、赤字の決算書でも、銀行にとっては見通しの立つ会社になります。
赤字の「理由」を説明できるか
同じ赤字でも、銀行の受け止め方は理由によって大きく違います。
| 赤字の理由 | 銀行の受け止め方(目安) |
|---|---|
| 計画どおりの先行投資(開発費・採用・広告) | 計画との差と、黒字化の時期が説明できれば理解されやすい |
| 一時的な費用(移転費用、固定資産の除却など) | 本業の利益(営業利益)が出ていれば影響は限定的 |
| 本業そのものの不振(売上が計画を大きく下回る) | 最も厳しく見られる。改善策の具体性が問われる |
| 役員報酬を高く設定しすぎた | 「利益を出す意思があるのか」と見られることがある |
最後の例は意外に多いケースです。創業期に役員報酬を高く設定すると、会社は赤字、個人には所得税と社会保険料、という形になり、会社の純資産が積み上がりません。役員報酬の決め方は役員報酬の決め方で、赤字の会社が融資を受けるときの考え方は赤字でも融資は受けられるかで解説しています。
スタートアップが押さえておきたい実務のポイント
最後に、繰越欠損金を「税金の得」で終わらせず、資金調達につなげるための実務のポイントを整理します。
1. 設立直後に青色申告の承認申請を出す
繰り返しになりますが、これがすべての前提です。設立の手続きを専門家に依頼した場合でも、税務署への届出まで含まれているかを確認してください。
2. 赤字の期も期限内に申告し、帳簿を整える
赤字の期の申告が遅れると、繰越欠損金の条件を失うだけでなく、銀行に「数字の管理ができない会社」と見られます。月次で試算表を作り、決算は期限内に締める習慣を1期目から作っておきます。
3. 黒字化の時期と純資産の回復を数字で示す
事業計画では、損益だけでなく期末の純資産の推移まで作っておくと、銀行との会話がまったく変わります。繰越欠損金がある期間は税金がかからない(または少ない)前提で、純資産がいつプラスに戻るかを示します。
4. 黒字化した後に「利益を削りすぎない」
繰越欠損金を使い切ったあとは、利益に応じて税金がかかります。ここで目先の税金を減らそうとして利益を圧縮すると、債務超過からの回復が遅れます。著書では「払った税金の2倍、会社は強くなる」とお伝えしています。税金を払って利益を残すことは、純資産を積み上げ、次の融資を受けるための土台です。
5. 出資を受けるときは資本金の区分にも注意
出資を受けて資本金が1億円を超えると、繰越欠損金以外にも、税金の扱いがいくつも変わります。新設法人の特例で欠損金の控除は全額使えても、繰戻し還付や軽減税率など、中小法人向けの扱いが使えなくなるものがあります。資本政策を考える段階で、税金への影響もあわせて確認しておくと安心です。
まとめ
- 繰越欠損金とは、赤字を将来の黒字と相殺できる仕組み。法人は平成30年4月1日以後開始の事業年度の欠損金を10年間繰り越せる
- 中小法人等と、設立から7年以内の新設法人(一定のものを除く)は、黒字の全額と相殺できる。それ以外の法人は所得の50%まで
- 使うための条件は、赤字の期の青色申告、その後の連続した申告、帳簿の保存。設立直後の青色申告の承認申請が最大のポイント
- 均等割、消費税、源泉所得税、社会保険料は赤字でも出ていく。資金繰り表に入れておく
- 銀行は赤字を純資産と債務超過で見る。繰越欠損金がある間は利益がそのまま純資産に積み上がることを、計画の数字で説明する
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