金融庁の金融審議会に設けられた「成長企業への資金供給の在り方等に関するワーキング・グループ」で、事業者向けの貸付けにかかる貸金業法の規制を見直す議論が進んでいます。2026年8月31日に金融担当大臣が諮問し、9月16日と10月9日に会合が開かれました。金融庁は11月2日、第3回を11月9日に開くと公表しています。
M&Aや事業再編の資金を、銀行だけでなく、ファンドやリース会社などのノンバンクからも調達しやすくする狙いです。プライベートクレジットの広がりは10月20日の記事でも取り上げました。この記事では、金融庁の資料から、何を変えようとしていて、中小企業にとって何が変わらないのかを確認し、銀行以外から借りる前に確認しておくことを整理します。
- 金融庁は、大企業など十分な交渉力を持つ「プロ向け」の貸付けについて、貸金業の登録要件や書面交付などの規制を柔軟にする方向で議論している
- 「プロ」の線引きには、コミットメントライン法の借り手の範囲(資本金3億円超、純資産10億円超、上場会社など)を使う案が示された
- 委員からは、中小零細企業はプロの範囲に入れるべきではないとの意見が出ている。中小企業向けの上限金利などの保護は、現時点で変える案は出ていない
- 中小企業にとっては、M&Aのメザニンやベンチャーデットなど銀行以外の資金の選択肢が増える可能性がある。使う前に、登録の確認と、手数料を含めた実質の負担の計算を
金融庁の資料で示された内容
| 項目 | 示された内容 |
|---|---|
| 諮問 | 戦略分野への成長投資や、企業の事業再構築・再編を支える資金の好循環を生むため、資金供給主体の多様化の観点から、事業者向け貸付けにかかる貸金業の規制の柔構造化などを検討(2026年8月31日) |
| 第1回の論点 | 国内に拠点を持たない外国の金融機関が、大企業向けのシンジケートローンに融資の実行だけを担う形で参加する場合、参入要件を緩和してはどうか |
| 第2回の論点 | 大企業など「プロ向け」の貸付けだけを行う貸金業者について、①資本金などの登録要件や更新制度、②書面交付や取立ての行為規制、③銀行や保険会社などへの債権譲渡の規制を柔軟にしてはどうか |
| 「プロ」の線引き案 | コミットメントライン法の借り手(会社法上の大会社、資本金3億円超、純資産10億円超、上場会社などとその子会社など) |
| 手数料の扱い | 貸金業者が大企業などから受け取るコミットメントフィーを、みなし利息の例外とすることも論点に |
| 委員の意見 | 中小零細企業はプロの範囲に入れるべきではない、借り手が成長段階や信用力に応じて調達手段を選べる環境を整える必要がある、など |
| 業界からの提言 | 日本プライベート・エクイティ協会は、LBOのメザニン融資を念頭に規律の明確化・簡素化を提言。Fintech協会は、ベンチャーデットの担い手が社債で資金を集めやすくするよう、ノンバンク社債法の要件の見直しを提言 |
| 今後 | 第3回は2026年11月9日 |
出典:金融庁 金融審議会「成長企業への資金供給の在り方等に関するワーキング・グループ」の第1回配付資料(2026年9月16日)、第2回配付資料(2026年10月9日)。
いまの貸金業の規制と、見直しの対象
銀行以外の会社がお金を貸すには、原則として貸金業の登録が必要です。金融庁の資料では、主な規制として次のものが挙げられています。
| 規制 | 主な内容 | 見直しの対象か |
|---|---|---|
| 参入規制 | 登録(3年ごとに更新)、最低純資産5,000万円、貸金業務取扱主任者の設置など | プロ向け専業の貸し手について論点 |
| 上限金利 | 利息制限法の上限(借入額に応じて15〜20%)を超える契約は行政処分の対象、出資法の上限(20%)を超えると刑事罰の対象 | プロ向けのコミットメントフィーの扱いが論点。中小企業向けは示されていない |
| みなし利息 | 貸し手が受け取る手数料なども原則として利息とみなされる | 同上 |
| 行為規制 | 契約前・契約時の書面交付、取立て行為の規制、債権譲渡時の規制 | プロ向けの貸付けについて論点 |
背景にあるのは、M&Aや事業承継の資金の組み方の変化です。大きな案件では、銀行の融資(シニアローン)の上に、返済順位が後になる代わりに金利の高いメザニンを重ねることがあります。このメザニンを担うファンドやリース会社は貸金業者として登録しており、もともと消費者や中小企業向けの小口融資を想定した規制が、大企業向けの融資にもそのままかかっている、というのが事務局の問題意識です。
中小企業との関係で大切なのは、柔軟にする対象を「プロ」に限り、中小企業向けの保護は残す方向で議論されていることです。中小企業がノンバンクから借りるときのルールが、すぐに緩くなるわけではありません。
銀行以外から借りる前に確認すること
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
規制が柔軟になれば、まずは大企業やファンドの案件から、銀行以外の資金が増えていくとみられます。中小企業にも、M&Aの買収資金やスタートアップのベンチャーデットなど、選択肢が広がる可能性があります。ただ、選択肢が増えるほど、借りる側の確認が大切になります。
| 確認すること | 具体的に | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 貸し手の登録 | 金融庁の登録貸金業者の検索サービスで、登録番号と名称を確認 | 無登録の業者との取引は、トラブルになっても守られにくい |
| 実質の負担 | 金利に加え、事務手数料・保証料・アレンジメントフィーなどを合計し、年率に直す | 手数料は原則として利息とみなされる。表面の金利だけで比べない |
| 返済の順位と条件 | 銀行の借入より返済順位が後か、財務制限条項(コベナンツ)はあるか | 条件に違反すると一括返済を求められることがある |
| 銀行への説明 | なぜ銀行以外から借りるのか、何に使い、どう返すのか | 銀行は資金の流れと返済の見通しを見る |
| 借り換えの道筋 | 金利の高い資金を、いつ銀行の融資に置き換えるか | 高い金利を長く払い続けると利益が削られる |
1. 「借りられる」と「借りてよい」は別
ノンバンクの資金は、銀行より審査が早く、担保の考え方も柔軟なことがあります。その分、金利は高くなるのが普通です。借入金利が年10%で1億円借りれば、利息は年1,000万円です。その資金で利息以上の利益を生めるかを、借りる前に計算しておきましょう。
2. M&Aでは、銀行の融資と組み合わせて考える
買収資金をすべて銀行から借りられないとき、メザニンや劣後ローンを組み合わせることがあります。返済順位が後の資金は、銀行から見ると自己資本に近い役割を果たすため、銀行の融資が出やすくなる面があります。一方で、買収後の利益で両方を返せる計画になっていなければ意味がありません(LBOの規模と銀行の見方)。
3. 決算書を整えておけば、どの貸し手とも話せる
銀行でもファンドでも、見られるのは返済の見通しです。月次の試算表、資金繰り表、事業計画がそろっていれば、条件の比較もしやすくなります。銀行の評価を上げておけば、金利の高い資金に頼る場面そのものを減らせます(銀行融資の審査で見られるポイント)。
今後も注意して見ていきたいこと
- 11月9日の第3回:どんな論点が議論され、「プロ」の範囲がどう整理されるか
- 報告書の取りまとめ:中小企業向けの保護がどこまで維持されるか
- 法改正の時期:貸金業法などの改正案がいつ国会に出されるか
- 銀行の動き:銀行とファンドの提携によるメザニンやベンチャーデットの供給がどこまで広がるか
議論は途中で、結論は決まっていません。報告書や改正案が出た段階で、改めて確認する必要があります。
まとめ
- 金融庁の金融審議会で、事業者向け貸付けにかかる貸金業の規制を柔軟にする議論が進んでいる。第3回は2026年11月9日
- 対象は大企業など「プロ向け」の貸付けで、線引きにはコミットメントライン法の借り手の範囲を使う案が示された
- 委員からは中小零細企業をプロの範囲に入れるべきではないとの意見があり、中小企業向けの保護を変える案は現時点で示されていない
- 銀行以外の資金の選択肢は広がる可能性がある。使う前に、登録の確認、手数料を含めた実質の負担、返済順位と条件、銀行への説明を確認したい
M&Aや設備投資の資金を、銀行とそれ以外の資金でどう組み立てるか検討したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
