融資の申込みをすると、決算書や試算表に加えて「通帳を見せてください」と言われることがあります。融資の審査で通帳はどこまで見られるのか、何を見られると困るのか、気になる経営者の方は多いはずです。
結論からいえば、通帳は決算書の数字が本当かどうかを確かめる資料です。銀行や日本政策金融公庫は、売上が実際に入金されているか、決算書に出ていない借入れや返済がないか、税金や社会保険料をきちんと払っているか、自己資金がどこから来たのかを、通帳の動きから読み取ります。この記事では、融資の審査で通帳が見られる理由と確認されるポイント、そして審査の前に整えておきたいことを、銀行の評価の視点から整理します。
- 通帳は、決算書・試算表の数字の裏付けとして見られる。数字と通帳が合わないと、決算書全体の信頼性が下がる
- 主に見られるのは、売上の入金、他の金融機関への返済、税金・社会保険料の支払い、役員・親族との資金移動、自己資金の出どころ
- 創業融資では、自己資金が時間をかけて貯めたお金か、申込直前に入れた見せ金ではないかが確認される
- 審査の前に、事業用口座の集約、大きな入出金の説明資料、残高と帳簿の一致を整えておく
- 通帳の「きれいさ」は日々の資金管理の結果。直前に取り繕うのではなく、普段の管理体制を整えることが最大の対策
なぜ融資の審査で通帳を見るのか
銀行の融資審査の中心は、決算書を使った格付け(債務者区分)です。ただ、決算書は会社が自分で作る書類です。銀行員は、決算書の数字が実態を反映しているかを、別の角度から確かめたいと考えます。そこで使われるのが通帳です。通帳の入出金は、金融機関の記録そのものなので、数字の裏付けとして信頼性が高いのです。
銀行の審査全体の流れは銀行融資の審査で見られるポイントで詳しく解説していますが、通帳は主に次の3つの目的で見られます。
| 目的 | 通帳で見るもの | 決算書のどこと照らし合わせるか |
|---|---|---|
| 数字の裏付け | 売上の入金額・入金元、主な経費の支払い | 売上高、売掛金、仕入・外注費 |
| 隠れた負債・リスクの把握 | 他の金融機関・リース会社・カード会社への定期的な返済、税金・社会保険料の支払状況 | 借入金、未払金、未払税金 |
| 資金の性格の確認 | 役員・親族・関係会社との入出金、創業時の自己資金の積み上がり方 | 役員借入金・役員貸付金、資本金 |
メインバンクとして口座の動きを日々見ている金融機関であれば、提出を求めるまでもなく、資金の流れをある程度把握しています。逆に、新しく取引を始める金融機関や、日本政策金融公庫のように普段の口座取引がない金融機関ほど、通帳やネットバンキングの入出金明細で実態を確かめようとします。メインバンクに資金の流れを集める意味はメインバンクの作り方でも解説しています。
銀行が通帳で確認する5つのポイント
1. 売上が通帳に入金されているか
最初に見られるのは、売上の入金です。決算書の売上高に対して、通帳への入金が極端に少ない、取引先からの入金ではなく現金の預け入ればかり、という状態だと、「この売上は本当にあるのか」と疑問を持たれます。
売上の入金口座が複数の金融機関に分かれている場合は、すべての口座を合わせて説明できるようにしておきます。現金売上が多い業種では、レジの日報と預け入れの記録を対応させておくと説明がしやすくなります。
2. 決算書に出ていない借入れ・返済がないか
通帳から、毎月決まった日に決まった額が引き落とされていれば、銀行員はすぐにそれが何の返済かを確認します。決算書の借入金明細に載っていない金融機関への返済、リース料、ノンバンクやカードローンへの返済が見つかると、「説明されていない負債がある」と受け取られます。
特に、経営者個人のカードローンや消費者金融の利用が事業用の口座から返済されている場合は、資金繰りが苦しいサインと見られやすく、評価への影響は小さくありません。すべての借入れとリースは、借入金明細やリース契約の一覧で先に開示しておくほうが、後で見つかるよりはるかに印象が良くなります。
3. 税金と社会保険料をきちんと払っているか
法人税・消費税・源泉所得税・住民税、そして社会保険料の支払いは、通帳の引落しや振込で確認できます。滞納があると、多くの金融機関は融資に慎重になります。保証協会の保証付き融資では、税金の滞納があると原則として保証を受けにくくなるため、納付の状況は特に重要です。
分納や納税の猶予を受けている場合は、隠さずに、税務署や年金事務所との合意内容と、その後の支払いの実績を説明できるようにしておきます。
4. 役員・親族・関係会社とのお金の出入り
会社の口座から社長個人への送金、社長からの入金、関係会社との資金のやり取りは、銀行が必ず目を留めるポイントです。会社から個人への資金流出が多いと、決算書では役員貸付金として残り、銀行はこれを実質的な資産と見ないことが多くなります。詳しくは役員貸付金の銀行評価と解消の方法をご覧ください。
一方、社長から会社への入金は役員借入金になります。役員借入金は、条件次第で自己資本に近いものとして評価されることもあります(役員借入金の銀行評価)。いずれも、通帳の動きと帳簿の科目が一致していることが前提です。
5. 資金繰りの余裕
月末に残高がほとんどゼロになる、入金の直後に全額が出ていく、という動きが続いていると、資金繰りに余裕がない会社と見られます。融資の返済日に残高が足りず、入金を待って引き落とされているような形跡は、特に避けたいところです。
残高の推移は、資金繰り表とあわせて見られます。資金繰り表で「この時期は残高が薄くなるが、翌月に回収がある」と先に説明しておけば、同じ通帳でも受け取られ方は大きく変わります。
創業融資で通帳が重視される理由:自己資金と「見せ金」
日本政策金融公庫の創業融資などでは、通帳は自己資金の確認のために特に重視されます。公庫の創業融資の審査の全体像は日本政策金融公庫の創業融資の審査で解説しています。
審査で見られるのは、自己資金の金額だけではありません。どのように貯まってきたかです。給与から毎月少しずつ積み立ててきた預金は、計画性と返済能力の裏付けになります。反対に、申込みの直前に、まとまったお金が一度に入金されている場合、その出どころを必ず聞かれます。
| 通帳の動き | 審査での受け取られ方 | 用意しておきたい説明 |
|---|---|---|
| 毎月の給与から一定額を積み立てている | 計画性があり、自己資金として評価されやすい | 特になし(通帳の履歴そのものが説明になる) |
| 申込直前に親族からまとまった入金 | 借入れか贈与かを確認される。返済が必要なお金なら、自己資金と見られにくい | 贈与であることの記録(贈与契約書など)、借入れなら返済条件 |
| 申込直前に出どころ不明の入金があり、融資後に出ていく予定 | 一時的に借りて入れた「見せ金」と疑われ、評価が大きく下がる | このような資金の作り方はしない |
| 退職金・保険の解約金・株式の売却代金 | 出どころが確認できれば自己資金として評価されやすい | 退職金の明細、解約・売却の書類 |
見せ金は、審査で見抜かれれば信用を一気に失います。仮に融資が通ったとしても、借りたお金で借りたお金を返す形になり、創業直後の資金繰りを自ら苦しくすることになります。自己資金が足りないなら、融資額や事業の規模を見直すか、開業の時期をずらして貯める期間をつくるほうが、結果として資金調達はうまくいきます。
審査の前に整えておきたい通帳まわりのこと
事業用の口座をできるだけ集約する
売上の入金口座、経費の支払口座、借入金の返済口座がばらばらだと、資金の流れが追いにくくなります。主な入出金は、メインバンクを中心に1〜2口座へ集約しておくと、銀行にとっても会社にとっても管理しやすくなります。法人口座のつくり方は法人口座の開設と審査を参考にしてください。
個人と会社のお金を分ける
個人事業から法人化した直後などは、個人の口座と会社の口座が混ざりがちです。事業の売上と経費は会社の口座、生活費は個人の口座と、今日から線を引きます。過去に混ざった分は、役員借入金・役員貸付金として帳簿に反映させ、残高を合わせておきます。
大きな入出金には説明資料を用意する
数百万円単位の入出金、普段と違う相手との取引、関係会社との資金移動などは、聞かれる前提で資料を用意します。契約書、請求書、金銭消費貸借契約書、取締役会の議事録など、お金の性格がわかるものを手元に揃えておきましょう。
帳簿と通帳の残高を毎月合わせる
試算表の預金残高と、通帳の残高が一致していることは、基本中の基本です。ここがずれていると、銀行員は試算表のほかの数字も信用できなくなります。試算表を出すときの注意点は試算表を銀行に提出するときのポイントで詳しく解説しています。
チェックリスト
- 決算書の売上高と、通帳への入金の合計が説明できる
- 借入金明細・リース一覧に、通帳で返済しているものがすべて載っている
- 税金・社会保険料の滞納がない(分納中なら合意内容を説明できる)
- 役員・関係会社との入出金が、帳簿の科目と一致している
- 創業融資の場合、自己資金の積み上がりを通帳で説明できる
- 試算表の預金残高と通帳の残高が一致している
通帳の「きれいさ」は、財務の強さを映す鏡
通帳の動きは、日々の資金管理の結果そのものです。審査の直前に慌てて整えようとしても、過去の入出金は変えられません。だからこそ、普段から「銀行に見せても説明できる通帳」にしておくことが、融資を受け続けるための近道になります。
代表の相亰自身、2019年に複数の銀行から融資を断られた経験があります。減価償却の速い物件が多く、負債が資産の簿価を上回る債務超過に陥っていたためで、毀損物件の売却・納税・現預金の積み増しで財務を立て直しました。決算書の数字を変えるのは、結局は日々のお金の動きです。
クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、決算書・試算表・資金繰り表と通帳の動きが一致した「説明できる財務」づくりを支援しています。資金調達部長は元地方銀行員で、銀行員がどこを見るかを踏まえた事前準備をお手伝いします。
まとめ
- 融資の審査で通帳は、決算書・試算表の数字の裏付けとして見られる
- 確認されるのは、売上の入金、決算書にない返済、税金・社会保険料、役員・関係会社との資金移動、資金繰りの余裕
- 創業融資では、自己資金の積み上がり方が見られる。見せ金は絶対に避ける
- 口座の集約、個人と会社の区分、大きな入出金の説明資料、残高の一致を、審査の前に整える
- 通帳は日々の資金管理の鏡。普段から説明できる状態にしておくことが最大の対策
融資の申込み前の書類の整え方や、金融機関への説明の準備については、融資・資金調達のご支援をご覧ください。初回のご相談は無料です。
