日本経済新聞(2026年11月5日)は、銀行が破綻したときに「ペイオフ」で保護されない個人預金が、5年で1.4倍の140兆円超に増えたと報じました。相続や不動産の売買を通じて、1つの口座に大きなお金が入るケースが増えていることが背景とされています。
ペイオフは個人だけの話ではありません。会社の預金も1法人あたり元本1,000万円までが原則で、売上の入金や借入の実行で、残高が一時的に数千万円、数億円になる会社は珍しくありません。この記事では、記事で示された内容を整理したうえで、預金保険機構の資料をもとに、会社と個人の預金がどこまで守られるのか、借りている側として何を確認しておけばよいのかをまとめます。
- 保護されない個人預金は5年で1.4倍、140兆円超。残高1,000万円以上の口座は5年で23%増えた(日本経済新聞、日銀の統計などから)
- 一般預金等は1金融機関ごと・1預金者ごとに元本1,000万円と利息まで。法人は1法人で1預金者、個人事業主は事業用と生活用が合算される
- 当座預金・無利息型普通預金などの決済用預金は全額保護。大きな残高を短期間置くなら、決済用預金が選択肢になる
- 借入のある銀行の預金は、破綻時に預金者の側から相殺できることがある。ただ、日本でペイオフが発動したのは2010年の1例だけで、むやみに分散するより融資取引とのバランスで置き場所を考えたい
記事で示された内容
日本経済新聞の記事では、次のような内容が紹介されています。
| 項目 | 記事で示された内容 |
|---|---|
| 個人預金の残高 | 日銀によると2026年8月末時点で593兆円。増加傾向が続く |
| 大口の口座 | 残高1,000万円以上の口座は2026年3月に1,288万口座で、5年で23%増。1億円以上は15万2,400口座で1.5倍 |
| 小口の口座 | 1,000万円未満は6億7,584万口座。全体の98%を占めるが、口座数は1割減った |
| 保護されない預金 | 第一ライフ資産運用経済研究所の試算で、2026年3月時点で142兆円超(5年で36%増)。個人預金全体に占める比率は10年前の15%から24%に |
| 背景 | 相続の増加(相続税の課税対象者は2024年に約16万人で、2015年の6割増)や、不動産の売買による大口化 |
| 発動の例 | ペイオフが発動したのは2010年の日本振興銀行の破綻のみ。超過分の一部は返還されなかった |
| 上限額 | 1,000万円の上限は1986年から40年変わっていない。金融庁幹部は「現状では見直しは検討していない」 |
| 銀行の動き | 金利のある世界に戻り、銀行は相続や不動産売買の資金を取り込もうと大口の預金を奪い合っている |
出典:日本経済新聞「個人預金『ペイオフ保護なし』140兆円に 相続で大口化、金融リスクに」(2026年11月5日)。
なお、日銀の預金者別預金の口座数は、同じ人が複数の口座を持っていても別々に数えたもので、預金者ごとに合算(名寄せ)した数字ではありません。「1,000万円以上の口座」がそのまま「保護されない人」を意味するわけではない点には注意が必要です。
預金はどこまで守られるのか
預金保険機構の資料では、保護の範囲は次のように整理されています。
| 預金の種類 | 例 | 保護の範囲 |
|---|---|---|
| 決済用預金(無利息・要求払い・決済サービスを提供できる、の3要件を満たすもの) | 当座預金、無利息型普通預金 | 全額保護 |
| 一般預金等 | 利息のつく普通預金、定期預金、通知預金、貯蓄預金、納税準備預金、定期積金など | 1金融機関ごとに、1預金者あたり合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等 |
| 保護の対象外 | 外貨預金、譲渡性預金など | 破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われる(一部カットされることがある) |
出典:預金保険機構「預金保険制度の解説」(保護される預金等の範囲)。
経営者が押さえておきたいのは、「誰の預金として数えられるか」です。
| 預金者 | 名寄せの扱い |
|---|---|
| 法人 | 1法人を1預金者とする。本社と支店の口座も合算される |
| 個人 | 1個人を1預金者とする。夫婦や親子は別々の預金者。家族の名義を借りた預金は保護の対象外 |
| 個人事業主 | 事業用の預金と事業用以外の預金は、同一人の預金として合算される |
| 銀行の合併・事業譲受け | その後1年間に限り、保護の上限は「1,000万円×合併等にかかわった金融機関の数」とする特例がある |
| 同じ持株会社の傘下の複数の銀行 | 銀行ごとに、それぞれ元本1,000万円までと利息等が保護される |
出典:預金保険機構「預金保険制度の解説」(名寄せに際しての預金者の扱い、保護される預金等の範囲)。
地方銀行の経営統合が続いていますが、持株会社の傘下に入っただけなら銀行ごとに保護の枠があり、合併した場合も1年間は特例があります。統合そのものを理由に、あわてて預金を動かす必要はありません(北東北3行の経営統合と取引先への影響)。
借入のある銀行の預金は「相殺」できる
融資を受けている会社にとって大事なのが、相殺の仕組みです。預金保険機構の資料では、預金者が破綻した金融機関から借入をしている場合、預金と借入を相殺できることがあるとされています。
- 相殺は、預金者の側から所定の手続で意思表示をする必要がある。破綻した金融機関の側から相殺することは原則ない
- 相殺できる期間は倒産手続によって違う。民事再生手続では債権届出期間内に限られる
- 満期前の定期預金でも、預金規定により相殺できるのが一般的。返済期日が来ていない借入も、借り手が期限の利益を放棄すれば相殺できる
- 借入約定で相殺が禁止されている場合や、支払停止を知った後に負担した借入、すでに保険金を受け取った預金などは相殺できない
- 1,000万円を超える部分は一部カットされることがあるため、超過分がある場合は相殺に使ったほうが有利になることが多い
つまり、借入のある銀行に置いている預金は、借入がない銀行の預金より、いざというときに守りやすいという面があります。
経営者・不動産投資家がやること
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
日本でペイオフが発動したのは2010年の1例だけで、金融当局は早めに公的資金を入れて破綻を防ぐ姿勢をとってきたと報じられています。ペイオフを理由に、取引のある銀行から預金を引き揚げたり、細かく分散したりするのはおすすめしません。銀行は融資と預金をセットで見ており、預金が急に減れば「資金繰りが苦しいのでは」と受け取られることもあります(メインバンクの作り方と選び方)。
そのうえで、次の点は一度確認しておくと安心です。
| 確認すること | 具体的な内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 銀行ごとの残高を一覧にする | 会社・代表者個人・資産管理会社ごとに、どの銀行にいくら、どの種類の預金があるかをまとめる | 個人事業主は事業用と生活用が合算される点に注意 |
| 2. 借入との対応を確かめる | 銀行ごとに、預金残高と借入残高を並べる | 借入がある銀行の預金は相殺の対象になりうる。借入のない銀行に大きな残高が集中していないかを見る |
| 3. 大口の入金が一時的に入るときの置き場所 | 物件の売却代金、借入の実行、相続の預金などで、短期間だけ残高が大きくなるとき | 決済用預金(当座預金・無利息型普通預金)なら全額保護。利息はつかないので、期間と金額で判断 |
| 4. 利息との比べ方 | 金利のある世界に戻り、定期預金にも利息がつくようになった | 全額保護の安心と利息のどちらを取るかは、金額と置いておく期間で決める |
| 5. 現預金の厚さそのものを保つ | 置き場所よりも、借入に見合った手元資金があるか | 銀行は手元資金の厚さを見ている。現預金は債務償還年数の計算で借入から差し引かれる |
置き場所より「厚さ」が評価を左右する
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算します。現預金が厚いほど年数は短くなり、銀行の評価は上がります。どの銀行に置くかよりも、借入に見合った現預金を持ち続けているかのほうが、融資を受け続けるうえではずっと大事です。
金利が上がる局面では、銀行は預金の獲得を強めています(預金獲得競争と預貸率)。融資を受けている銀行に一定の預金を置くことは、取引の実績づくりにもなります。大きな残高を一時的に預ける場面だけ、決済用預金や、借入のある銀行への配分を意識する、という考え方が現実的です。
不動産投資家は「個人」と「法人」の両方を見る
不動産投資家は、個人名義の口座と資産管理会社の口座の両方を持っていることが多く、売却代金や敷金・修繕積立のお金が一時的に膨らみます。個人と法人は別の預金者として数えられるため、名義ごとに残高を確認しておくとよいでしょう。家族名義を借りた預金は保護されないだけでなく、税務の上でも問題になるので避けてください。
今後も注意して見ていきたいこと
- 保護上限の見直しの議論:シンガポールや韓国は上限を引き上げた。日本では金融庁幹部が現状では検討していないとしているが、物価の上昇が続けば議論が出てくる可能性がある
- 大口預金の金利競争:相続や不動産売買の資金を狙った特別金利がどこまで広がるか
- デジタルバンクと預金の動きやすさ:スマートフォンで瞬時にお金を動かせる時代に、預金の流出リスクをどう見るか
- 地域金融機関の再編:合併の特例や持株会社方式の違いが、取引先の預金にどう関わるか
まとめ
- ペイオフで保護されない個人預金は5年で1.4倍の140兆円超に増えた(日本経済新聞)
- 一般預金等は1金融機関ごと・1預金者ごとに元本1,000万円と利息まで。法人は1法人で1預金者、個人事業主は事業用と生活用が合算される
- 当座預金・無利息型普通預金などの決済用預金は全額保護される
- 借入のある銀行の預金は、破綻時に預金者の側から相殺できることがある
- ペイオフを理由にした預金の引き揚げや過度な分散より、銀行ごとの残高と借入の一覧を作り、大口の一時入金の置き場所だけ意識する。評価を左右するのは置き場所より現預金の厚さ
取引銀行ごとの預金と借入のバランスや、手元資金の持ち方を一度見直したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
