金融庁が2026年10月30日、「金融機関における貸付条件の変更等の状況について」を更新し、令和8年9月末時点の数字を公表しました。銀行が中小企業者から受けた返済条件の変更(いわゆるリスケ)の申込みは、2025年4月から2026年9月末までの1年半で54万5,428件、実行率は98.6%です。
98.6%という数字を見て「リスケは簡単に通る」と考えるのは早計です。この記事では、金融庁のデータを確認しながら、この数字の読み方と、返済が苦しくなりそうなときに借り手が取るべき順番を整理します。
- 中小企業者の貸付条件の変更は、2025年4月〜2026年9月末で申込み54万5,428件、実行52万7,970件、謝絶7,257件。実行率は98.6%(金融庁)
- 2026年7〜9月の3か月の申込みは約9.3万件で、前年同期とほぼ同じ水準が続いている
- 実行率が高くても「評価に影響がない」わけではない。リスケをすると債務者区分が下がり、新規融資は難しくなるのが一般的
- 金融庁は2026事務年度の方針で、金融機関に資金繰り支援と、早期かつ主体的な経営改善・事業再生支援を促すとしている
- 借り手がやるのは、延滞する前に、資金繰り表と改善の方針を持って相談すること
金融庁の発表で示された内容
| 業態(金融機関数) | 申込み | 実行(A) | 謝絶(B) | 審査中 | 取下げ | A/(A+B) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主要行等(9) | 69,209 | 66,449 | 1,999 | 4,084 | 1,102 | 97.1% |
| 地域銀行(96) | 475,747 | 461,184 | 5,234 | 19,278 | 8,794 | 98.9% |
| その他の銀行(77) | 472 | 337 | 24 | 67 | 63 | 93.4% |
| 合計(182) | 545,428 | 527,970 | 7,257 | 23,429 | 9,959 | 98.6% |
債務者が中小企業者である場合。2025年4月1日〜2026年9月末の実績(単位:件)。
出典:金融庁「金融機関における貸付条件の変更等の状況について」(令和8年9月末時点PDF)。
6月末時点の数字(申込み45万2,642件、実行43万6,947件、謝絶6,066件)との差をとると、2026年7〜9月の3か月は、申込み9万2,786件、実行9万1,023件、謝絶1,191件となります。前年の7〜9月は同じく差をとると申込み9万3,196件で、ほとんど変わりません。これらの差は公表値から筆者が計算したものです。
住宅資金の借入者についても公表されており、同じ期間で申込み1万1,240件、実行9,282件、謝絶654件、取下げ1,460件、実行率93.4%でした。協同組織金融機関(信用金庫・信用組合など)の数字は別に公表されており、最新は令和8年6月末時点です。
あわせて確認しておきたいのが、金融庁の考え方です。「2026事務年度金融行政方針」(2026年9月15日)は、物価高や人手不足に加え、中東情勢や災害の影響で厳しい状況にある事業者が多いとしたうえで、金融機関に、きめ細かな資金繰り支援とともに、早期かつ主体的な経営改善・事業再生支援を促すとしています。
数字の読み方:3つの注意点
1つ目は、件数の数え方です。 件数は貸付債権ベースです。1社が複数の借入について条件変更をすれば、複数件と数えられます。54.5万件は、54.5万社という意味ではありません。
2つ目は、98.6%の分母です。 実行率は「実行÷(実行+謝絶)」で、審査中の2万3,429件と取下げの9,959件は含まれません。取下げの中には、条件が折り合わなかった例もあるかもしれません(理由の内訳は公表されていません)。また、この実績には2025年3月以前の申込みの一部が含まれており、表の件数の合計と申込件数は一致しません。
3つ目は、これが最も大切なのですが、実行されることと、評価が保たれることは別だということです。 返済条件の緩和は、銀行にとって貸出条件緩和債権として扱われる可能性があり、債務者区分は下がるのが一般的です。銀行の不良債権の数字については銀行の不良債権処分損が5,355億円と2倍超に、リスケの影響と正常化の道筋はリスケの影響とはで詳しく解説しています。
| 誤解しやすい読み方 | 実際の読み方 |
|---|---|
| リスケはほぼ通るから安心 | 条件変更には応じてもらえても、評価は別に判断される |
| 申し込めばすぐ資金が楽になる | 元金は減らない。利息の総額はむしろ増えるのが普通 |
| 54.5万社がリスケした | 貸付債権ごとの件数で、社数ではない |
| 件数が横ばいだから問題ない | 金利が上がる局面での負担増は、これから表れる可能性がある |
返済が苦しくなりそうなときに、借り手がやること
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
金利が上がる局面では、借入の多い会社ほど利息の負担が重くなります。リスケの申込件数はまだ大きく増えていませんが、基準金利の見直しが返済に表れてくるのはこれからです。大切なのは、リスケを「最後の手段」として確保しつつ、その手前でできることを順番に進めることだと考えています。
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 3〜6か月先の資金繰り表を作る | いつ、いくら足りなくなるかを見える化する |
| 2 | 手元でできる改善を洗い出す | 売掛金の回収、在庫、役員報酬、不要な資産の売却 |
| 3 | 取引銀行に早めに相談する | 延滞の前に、試算表と資金繰り表を持っていく |
| 4 | 借換えを検討する | 返済期間を延ばして月々の返済を軽くできないか |
| 5 | 公的な支援制度を確認する | 政策金融、借換保証、セーフティネット保証など |
| 6 | それでも足りなければリスケを申し込む | 経営改善計画を添えて、全取引行に同じ考え方で依頼する |
借換えについては融資の借り換え、資金繰り表は資金繰り表の作り方を参考にしてください。保証の制度は要件が業種や時期で変わるため、セーフティネット保証の記事とあわせて、信用保証協会や取引金融機関で最新の内容を確認するのが確実です。
銀行にとって判断しにくいのは、数字が悪いことに加えて、経営者が自社の状況や今後の見通しを説明できないことだと考えています。良くない状況ほど早く、数字と対策をセットで伝える。これは借り手がコントロールできる数少ないことのひとつです(銀行員との付き合い方)。
また、金融行政方針が金融機関に求めているのは、資金繰りの支援だけではありません。早期かつ主体的な経営改善・事業再生の支援もセットです。借り手の側も、リスケで時間を買うだけでなく、その時間で何を変えるのかを示す必要があります。
今後も注意して見ていきたいこと
- 毎月の貸付条件の変更等の状況:申込みと謝絶の件数が増えていくか
- 協同組織金融機関の数字:信用金庫・信用組合の取引先の動き
- 短期プライムレートの見直しと返済額:利上げの影響が実際の返済に表れる時期
- 12月の金融政策決定会合:追加利上げの有無
- 金融庁から金融機関への要請:年末の資金繰り支援についての動き
まとめ
- 貸付条件の変更は、2025年4月からの1年半で申込み54万5,428件、実行率98.6%
- 2026年7〜9月の申込みは約9.3万件で、前年同期とほぼ同じ水準
- 件数は貸付債権ベースで、実行率には審査中と取下げが含まれない
- 実行されても評価は別の話。債務者区分が下がり、新規融資は難しくなるのが一般的
- 資金繰り表、早めの相談、借換えの検討の順に進め、リスケは計画を添えて申し込む
資金繰りが心配な方、銀行への相談の前に数字を整理したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
