融資・資金調達

銀行の不良債権処分損が5,355億円と2倍超に、それでも不良債権比率は1.0%|金融庁のデータで見る、自社が「要注意先」にならないための決算書対策

金融庁は2026年10月8日、「令和8年3月期における金融再生法開示債権の状況等(ポイント)」を公表しました。全国銀行の開示債権(いわゆる不良債権)は8.4兆円で前年から横ばい、不良債権比率は1.0%と低い水準です。一方で、銀行が不良債権の処理にかけた費用である不良債権処分損は、2,425億円から5,355億円へと2倍超に増えました。

この数字は銀行全体の集計で、銀行の経営に問題があるという話ではありません。ただ、借り手にとっては、銀行が貸出先をどう区分し、どこに費用をかけているのかを知るよい材料です。この記事では、公表データを読み解き、自社が要注意先と見られないために確認しておくことを整理します。

この記事の結論
  • 全国銀行の不良債権比率は1.0%。貸出が増えるなかで不良債権の額は8.4兆円で横ばいと、全体としては落ち着いている
  • 不良債権処分損は5,355億円と前年の2倍超に。増加の中心は貸倒引当金の繰入額(614億円→3,663億円)
  • 銀行は貸出先を債務者区分で分け、区分が悪いほど多くの引当てが必要になる。区分は融資の通りやすさに直結する
  • 借り手は、実態の純資産、債務償還年数、延滞の有無を自分で確認し、資金繰りが厳しくなる前に手を打ちたい

公表された内容

項目(全国銀行106行)2025年3月期2026年3月期
金融再生法開示債権8.4兆円8.4兆円
破産更生等債権1.1兆円1.1兆円
危険債権5.2兆円5.3兆円
要管理債権2.0兆円2.0兆円
総与信約766兆円約814兆円
不良債権比率1.1%1.0%
不良債権処分損2,425億円5,355億円
うち貸倒引当金繰入額614億円3,663億円
うち直接償却等1,777億円1,649億円
実質業務純益4.5兆円5.9兆円

出典:金融庁「令和8年3月期における金融再生法開示債権の状況等(ポイント)」の表1・表3。

業態別に見ると、地域銀行(97行)の不良債権比率は1.5%(前年1.6%)、信用金庫は3.3%(同3.6%)、信用組合は2.9%(同2.9%)です。小規模な取引先の多い業態ほど比率が高く出ますが、いずれも前年より悪化はしていません。

処分損の増加は、都市銀行・旧長期信用銀行・信託銀行の合計で529億円から3,152億円へと増えた分が大きくなっています。表からは、どの業種、どの取引先で発生したのかは読み取れません。したがって、ここから「特定の業種が危ない」と言うことはできません。

読み取れるのは、不良債権の額は横ばいでも、銀行は将来の損失に備える費用を増やしている、ということです。実質業務純益も伸びており、費用を負担できる利益があるなかでの動きです。

債務者区分と銀行の負担の仕組み

金融庁の資料では、自己査定の債務者区分ごとの残高も公表されています。全国銀行で見ると、正常先は696.3兆円から748.7兆円に増え、要注意先は33.1兆円から32.0兆円に減りました。区分と借り手への影響の関係は次のとおりです。

債務者区分開示上の扱い借り手への影響の目安
正常先不良債権に含まれない新規の融資を前向きに検討してもらいやすい
要注意先要管理債権以外は不良債権に含まれない慎重に見られ、新規の融資は難しくなりがち
要注意先のうち要管理債権不良債権(3か月以上の延滞、または再建・支援を目的に貸出条件を緩和したもの)新規の融資はかなり難しい
破綻懸念先不良債権(危険債権)原則として新規の融資は難しい
破綻先・実質破綻先不良債権(破産更生等債権)回収の対象になる

区分が下がるほど、銀行は貸倒れに備えて多くの引当金を積む必要があります。引当金の繰入れは銀行の費用です。つまり、区分の悪い先に貸すことは、銀行にとって利益を削ることを意味します。担当者がどれだけ前向きでも稟議が通りにくいのは、このためです(銀行融資の審査で見られるポイント)。

銀行全体の融資姿勢は、今のところ悪くありません。日銀は2026年10月の展望レポートで、金融機関の貸出態度は引き続き積極的だとしています。一方で植田総裁は記者会見で、中小零細企業の資金繰りについて「タイトになりつつあるという声が聞こえ始めている」と述べました(日本経済新聞 2026年10月31日朝刊)。金利が上がり、資金繰りの差が開いてくる局面では、銀行が取引先を見る目も細かくなると考えておくのが安全です。

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要注意先にならないために確認すること

ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。

私自身、2019年に複数の銀行から融資を断られました。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(簿価)よりも負債の金額のほうが大きくなる債務超過の状態に陥っていたことが原因でした。損益だけを見ていると、この種の問題には気づきにくいものです。

確認する項目銀行の見方借り手の対応
純資産債務超過か。実態の純資産はどうか回収できない売掛金、役員への貸付金、価値のない在庫を除いて計算する
損益赤字が続いていないか一時的な赤字は原因と回復の見通しを説明できるようにする
債務償還年数借入を何年で返せるか著書のモデルでは10年以内が健全、20年超は厳しい目安
延滞返済が遅れていないか1回でも遅れそうなら、遅れる前に相談する
返済条件の変更リスケの有無実行する場合は実現性の高い改善計画を一緒に用意する
試算表の提出期中の業績が見えるか月次で締め、求められる前に出せるようにする

1. 決算書を銀行の目線で読み直す

銀行は決算書をそのまま読むのではなく、実態に引き直して見ます。特に、役員への貸付金や回収の見込みが薄い売掛金は資産として見てもらえないことがあります。著書のモデルでは、銀行格付けは129点満点で、正常先の目安は32点以上です。自社の位置を一度確かめてみてください(銀行格付けを上げる方法、債務超過でも融資は受けられる?)。

2. 延滞とリスケは、順番を間違えない

要管理債権の定義にあるとおり、3か月以上の延滞と貸出条件の緩和は、不良債権に直結する事実です。資金繰りが苦しくなってからでは選択肢が減ります。3か月先までの資金繰り表をつくり、足りなくなりそうなら早めに借換えや期間の見直しを相談します。リスケを選ぶ場合も、影響を理解したうえで進めてください(リスケの影響と戻り方)。

3. 金利上昇を織り込んで見直す

利息が増えると利益が減り、債務償還年数は延びます。今は問題がなくても、金利が上がった場合に区分が悪化しないかを試算しておきましょう(日銀の10月30日の決定と借り手がやること)。不動産業を含む銀行の健全性については、日銀の金融システムレポートも参考になります。

今後も注意して見ていきたいこと

  • 2026年9月期の開示債権:次回の公表で、処分損の増加が続くか
  • 各行の4〜9月期決算:与信費用の増減と、その理由の説明
  • 12月の短観:中小企業の資金繰りと金融機関の貸出態度

まとめ

  • 全国銀行の不良債権は8.4兆円で横ばい、比率は1.0%と低い
  • 不良債権処分損は5,355億円と2倍超に増え、中心は貸倒引当金の繰入額だった
  • 表からは増加の業種や取引先は読み取れず、銀行全体の健全性を疑う材料でもない
  • 債務者区分が下がるほど銀行の負担は増え、融資は通りにくくなる
  • 実態の純資産、債務償還年数、延滞の有無を自分で確認し、資金繰りが厳しくなる前に相談する

自社が銀行からどう見られているかを確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

よくある質問

不良債権処分損が増えると、銀行の融資は厳しくなるのですか?
処分損の増加だけで融資全体が厳しくなるとは言えません。不良債権比率は1.0%と低く、日銀も金融機関の貸出態度は積極的だとしています。一方で、処分損の中心は貸倒引当金の繰入れで、銀行は貸した先の状態を個別に見ています。全体の話ではなく、自社がどの区分に見られるかを考えることが大切です。
要注意先は不良債権ですか?
要注意先への債権がすべて不良債権になるわけではありません。金融庁の整理では、不良債権は要管理債権、破綻懸念先債権、破綻先・実質破綻先債権の合計で、要管理債権以外の要注意先に対する債権は含まれません。ただ、要注意先になると銀行の見方は慎重になり、新規の融資は難しくなりがちです。
自社の債務者区分を銀行に聞くことはできますか?
銀行の内部の評価なので、教えてもらえないのが普通です。ただ、債務超過、赤字の継続、延滞、返済条件の変更の有無などから、おおよその位置は推測できます。決算書を銀行の目線で読み直し、実態の純資産と債務償還年数を自分で計算しておくことをおすすめします。

※本記事は2026年10月31日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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