査察・税務調査

国税庁の「査察の概要」から分かること:脱税の手口と不正資金の使い道

国税庁は毎年6月ごろ、前年度(4月〜翌3月)の査察の実績をまとめた「査察の概要」を公表しています。いわゆる「マルサ」が、どんな事案を告発し、脱税で得たお金がどこに使われ、どこに隠されていたのかが、具体的に書かれた資料です。

この記事では、2026年6月に公表された「令和7年度 査察の概要」(国税庁)をもとに、数字と手口を整理します。目的は不安をあおることではありません。悪質な事案の共通点を知ると、普通の事業者が日頃どこに気をつければよいかが見えてきます。

この記事の結論
  • 令和7年度の告発は82件、告発分の脱税総額は84億円、告発率は64.6%。一審判決80件は全て有罪で、6人に実刑
  • 手口の中心は、架空の外注費・仕入れの計上と売上(収入)の除外。海外法人を使った架空取引や、消費税の不正還付も告発された
  • SNSで活動するインフルエンサーやイラストレーターなど、新しい業態の事業者の事案も告発されている
  • 不正資金は現金・預金で留保されるほか、投資、ギャンブル、ブランド品、高級クラブでの飲食、動画配信者への課金などに使われていた
  • 普通に記帳し、正しく申告していれば、査察を心配する必要はない。大切なのは「隠さない・作らない・出し忘れない」

査察とは何か(税務調査との違い)

査察は、国税局の査察部(国税査察官)が行う調査で、悪質な脱税者に刑事責任を追及し、検察庁に告発することを目的としています。国税庁は資料の冒頭で、「一罰百戒」の効果を通じて適正・公平な課税と申告納税制度を守るための制度だと説明しています。

申告内容の誤りを確認して正しい税額にする通常の税務調査とは、目的も手続きもまったく違います。違いは査察(マルサ)と税務調査の違いで詳しく解説しています。

数字で見る令和7年度の査察

「令和7年度 査察の概要」の参考計表から、主な数字を抜き出します。

項目令和5年度令和6年度令和7年度
着手件数154件151件131件
処理件数151件150件127件
告発件数101件98件82件
告発率66.9%65.3%64.6%
告発分の脱税額89億円82億円84億円
告発分1件あたりの脱税額88百万円84百万円102百万円

(出典:国税庁「令和7年度 査察の概要」(令和8年6月)。脱税額は資料の百万円単位の数字を億円に丸めたもの)

ポイントは2つです。

  • 件数はそもそも少ない:着手は年間131件です。日本中の事業者の数から見れば、ごく一部の悪質な事案に絞られています
  • 着手したら高い確率で告発される:処理した事案の6割以上が告発され、令和7年度の一審判決80件は全て有罪、6人に実刑判決が出ています。査察事件単独で最も重いものは、脱税スキームを複数の納税者に使わせていた脱税指南グループの首謀者に対する懲役6年でした

告発された事案の手口

資料には、告発した事案の概要が紹介されています。手口ごとに整理すると、次のようになります。

手口資料に挙げられた事案の例
架空の経費の計上美容系インフルエンサーの広告代理を行う会社が、不正加担者を使って架空の業務委託費を計上
売上・収入の除外SNSで海外顧客にイラストを販売していた事業者が、海外イベントでの販売収入の一部を除外
給付金などの雑収入の除外スポーツ教室の運営会社が、国からの給付金等の雑収入を除外し、架空の施設利用料も計上
無申告太陽光発電設備の販売会社の代表者が、個人の事業収入があるのに所得税の申告書を出さなかった
海外を使った架空取引・資金隠し輸入販売会社が海外の不正加担者と通謀して架空の輸入仕入れを計上/グループ会社が架空の仕入れで得た資金を海外預金として隠した
消費税の不正還付再生資源の輸出会社が、海外から輸入した機械を国内業者から高額で買ったように装い、課税仕入れを過大に計上して還付を受けた

このほか、マンションの大規模修繕工事や電気工事の会社、リノベーション物件の販売会社、食料品メーカー、幼稚園、障害福祉サービスの会社、相続税の申告漏れなど、業種は幅広いことも資料から読み取れます。

重点として取り組んでいるのは、消費税事案、無申告事案、国際事案です。令和7年度の無申告事案の告発は12件で、うち8件は不正な行為を伴わずに故意に申告書を出さない「単純無申告ほ脱犯」でした。消費税の不正受還付事案の告発は12件です。

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不正資金はどこに使われ、どこに隠されていたか

資料によると、脱税で得た不正資金の多くは現金や預貯金として手元に残されていましたが、数千万円規模を個人の資産形成や消費に回していた例もありました。使い道として挙げられているのは次のようなものです。

  • 有価証券などへの投資
  • 競馬や海外カジノなどのギャンブル
  • ブランド品の購入
  • 高級クラブなどでの飲食(交際費・遊興費)
  • アプリを通じた動画配信者やゲームへの課金

隠し場所としては、クローゼットに置いた缶、居室の棚の箱、スーツケースやバッグ、室内収納に隠した金庫などが挙げられ、不正に使った預金通帳をクローゼットの紙袋に隠していた例もありました。

普通の事業者が学べること

告発された事案は、どれも「うっかりミス」ではなく、意図的に隠した・作ったものです。裏を返せば、次の3つを守っていれば、査察を心配する必要はありません。

  1. 売上を隠さない:現金売上、海外のイベントやプラットフォーム経由の売上、給付金・補助金などの雑収入も、すべて帳簿に載せる
  2. 経費を作らない:実態のない外注費や仕入れは、どんな理由があっても計上しない。「請求書を出してあげる」と持ちかけてくる人とは関わらない
  3. 申告を出し忘れない:売上がある年は、所得税・法人税・消費税の申告が必要かを確認する。うっかり期限を過ぎても、すぐに申告する

また、資料にある「脱税指南グループ」の事例のように、うまい節税スキームを持ちかけられたときこそ注意が必要です。節税と脱税の境目は良い節税・悪い節税でも解説しています。

なお、通常の税務調査で指摘を受けた場合にかかる加算税や延滞税については、税務調査で最悪どうなる?加算税・延滞税・重加算税をご覧ください。どんな会社が調査に選ばれやすいかは税務調査が来る会社・来ない会社にまとめています。

まとめ

「令和7年度 査察の概要」によると、査察の着手は年間131件、告発は82件で、一審判決は全て有罪でした。手口の中心は、架空の経費の計上と売上の除外、そして無申告です。SNSで活動する事業者や海外取引を使った事案など、新しい形の脱税にも目が向けられています。

一方で、査察はごく一部の悪質な事案に絞って行われます。売上を隠さない、経費を作らない、申告を出し忘れない。この当たり前を守り、取引の記録を残しておくことが、いちばん確実な備えです。

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よくある質問

査察(マルサ)の告発率はどれくらいですか?
国税庁の「令和7年度 査察の概要」によると、令和7年度に処理した127件のうち82件を検察庁に告発し、告発率は64.6%でした。査察は、もともと悪質な脱税の疑いが強い事案に絞って着手するため、告発に至る割合が高くなっています。
普通に申告している個人事業主にも査察は来ますか?
査察は、悪質な脱税者の刑事責任を追及するための制度で、年間の着手件数は百数十件程度です。売上を意図的に隠す、架空の経費を作るといった不正をしていなければ、通常は査察の対象にはなりません。申告の誤りを確認するのは、通常の税務調査の役割です。
査察の概要に出てくる「無申告」も告発されるのですか?
はい。令和7年度は無申告事案を12件告発しており、そのうち8件は、不正な行為を伴わずに故意に申告書を出さないで税を免れる「単純無申告ほ脱犯」でした。申告しないこと自体が、悪質な場合は刑事事件になり得ます。

※本記事は2026年10月25日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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