「自宅で仕事をしているけれど、家賃はどこまで経費にできるの?」「法人にすると家賃が経費になると聞いた」。自宅の家賃は、毎月出ていく金額が大きいだけに、個人事業主とひとり会社のどちらで考えるかで、税金の差が出やすい費用です。
この記事では、自宅の家賃を経費にする方法を、個人事業主と法人で比較します。個人事業主の按分の詳しいやり方は賃貸の自宅で仕事:家賃はいくら経費にできる?(個人事業主)、法人の社宅の仕組みはひとり会社は自宅を社宅に:家賃を経費にする仕組みと賃料相当額で詳しく説明しています。
- 個人事業主は、家賃のうち仕事に使う部分だけを按分して経費にする。根拠は床面積や使用時間などの記録
- 法人は、会社が借りた住宅を社宅として役員に貸し、賃料相当額以上を受け取れば、家賃との差額を会社の経費にできる
- 経費にできる金額は法人のほうが大きくなりやすいが、契約名義の変更、給与からの天引き、社会保険の計算など手間とルールが増える
- どちらも「説明できる記録」があることが前提。家賃だけで法人化を決めない
個人事業主は「仕事に使う部分」だけを按分する
個人事業主が自宅の家賃を経費にするときの考え方は、「家事関連費」のルールです。国税庁のタックスアンサー(No.2210)では、仕事と生活の両方にかかわる支出のうち、取引の記録などに基づいて業務に直接必要だったことが明らかに区分できる部分だけが必要経費になると説明されています(所得税法施行令96条)。
所得税基本通達45-2では、業務に必要な部分が50%を超えるかどうかで判定するとしつつ、50%以下でも、その部分を明らかに区分できれば必要経費にしてよいとしています。つまり「何割まで」という決まりはなく、どれだけ根拠を示せるかで決まります。
よく使われる按分の基準は次のとおりです。
- 仕事専用の部屋の床面積 ÷ 住まい全体の床面積
- リビングの一角などを使う場合は、面積に使用時間の割合をかける
- 仕事専用のスペースがない場合は、按分の根拠が弱くなる
国税不服審判所の平成31年3月28日裁決(裁決事例集No.114)では、自宅兼事務所の賃料と水道光熱費を67%・86%で按分すべきだという納税者の主張が退けられました。一部屋は事務所専用だったものの、残りは生活と仕事の部分を区別していなかったため、50%を超えて仕事に使っていたとは認められなかったのです。割合そのものより、区分と記録が大事だということが分かる事例です。
法人は「社宅」として会社が借りる
法人の場合は、仕組みがまったく違います。会社が貸主と賃貸借契約を結んで家賃を払い、その住宅を社宅として役員(社長)に貸します。社長は会社に家賃(社宅使用料)を払います。
国税庁のタックスアンサー(No.2600)によると、役員から1か月あたり賃料相当額以上を受け取っていれば、給与として課税されません。賃料相当額は、住宅の広さによって計算方法が変わります。
| 住宅の区分 | 賃料相当額(月額)の計算 |
|---|---|
| 小規模な住宅(法定耐用年数30年以下の建物は床面積132㎡以下、30年超の建物は99㎡以下) | 建物の固定資産税の課税標準額×0.2%+12円×(床面積㎡÷3.3㎡)+敷地の固定資産税の課税標準額×0.22% |
| 小規模でない住宅(会社が借りたもの) | 会社が払う家賃の50%と、固定資産税の課税標準額をもとにした計算額の、いずれか多い額 |
| 豪華社宅(床面積240㎡超などで総合的に判定) | 通常支払うべき使用料(いわゆる時価) |
小規模な住宅は、固定資産税の課税標準額をもとに計算するため、実際の家賃よりかなり低い金額になることが多くあります。家賃との差額が会社の経費になるので、個人事業主の按分よりも経費にできる金額が大きくなりやすいのです。
計算のイメージ
あくまで仮の数字ですが、家賃が月15万円、マンション(鉄筋コンクリート造)の床面積が60㎡、建物の課税標準額が600万円、敷地の課税標準額(持分)が1,000万円だとします。
社長が月約3.4万円を会社に払えば、残りの約11.6万円は会社の経費になります。実際には、課税標準額は貸主から固定資産税の資料をもらって確認する必要があります。
個人事業主と法人の比較
| 比べる点 | 個人事業主 | 法人(社宅) |
|---|---|---|
| 経費にできる部分 | 仕事に使う部分だけ(按分) | 家賃から役員が払う賃料相当額を引いた額 |
| 必要な根拠 | 床面積・使用時間などの按分の記録 | 会社名義の契約、賃料相当額の計算、社長からの受取の記録 |
| 契約の名義 | 本人のままでよい | 原則として会社が借主になる |
| 社長が払うお金 | なし(自分の家賃を自分で払う) | 賃料相当額を会社に払う(給与から天引きが一般的) |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金なので関係しない | 社宅は社会保険では「現物給与」として報酬に含まれる場合がある |
| 消費税 | 住宅の家賃は非課税なので仕入税額控除はない | 同じく非課税。社長から受け取る社宅使用料も非課税 |
法人で見落としやすい社会保険
税金では賃料相当額の基準を満たしていても、社会保険(健康保険・厚生年金)では別の基準があります。日本年金機構によると、社宅は「現物給与」として、厚生労働大臣が定める価額で通貨に換算して報酬に含め、標準報酬月額を決めます。本人が家賃を負担している場合は、その価額から負担額を差し引いた額が報酬に加わります。
この住宅の価額は、2026年10月1日から、畳1畳あたりの金額から住宅の面積1㎡あたりの金額に改正されました。東京都は1㎡あたり1,330円です(都道府県ごとに異なります)。税金の基準で決めた社宅使用料が、社会保険の価額を下回ると、その差額が報酬に加わって保険料が上がることがあります。社宅を始めるときは、両方の基準で確認しておきましょう。
どちらを選ぶかの考え方
家賃の扱いだけを見れば法人が有利に見えますが、法人化には、法人住民税の均等割、社会保険への加入、決算申告の費用など、毎年の維持費がかかります。家賃の差だけで法人化を決めるのはおすすめしません。法人化の判断は個人と法人、どっちが税金はお得?所得別の比較や個人事業主の法人化のタイミングと目安もあわせてご覧ください。
すでに法人がある場合は、次の順で進めるとスムーズです。
- 貸主・管理会社に、借主を会社に変更できるか確認する(できなければ転居時に会社名義で契約する)
- 社宅管理の規程をつくり、社宅使用料を決める(固定資産税の課税標準額を確認する)
- 給与から社宅使用料を天引きし、毎月記帳する
- 社会保険の現物給与の価額と比べ、報酬月額の届出に反映する
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 個人事業主は、家賃のうち仕事に使う部分だけを按分する。割合の上限はないが、区分と記録が必要
- 法人は、会社が借りた住宅を社宅にし、役員から賃料相当額以上を受け取れば、差額を会社の経費にできる
- 法人の社宅は、契約名義・規程・天引き・社会保険(2026年10月から面積1㎡あたりの価額に改正)まで整えて初めて成り立つ
- 家賃だけで法人化を決めず、維持費や社会保険を含めて比べる
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