施設の常駐警備、工事現場や道路の交通誘導、イベントの雑踏警備、現金輸送、ホームセキュリティ。警備業は、社会の安全を支える仕事として、業者数・警備員数ともに増え続けています。
その一方で、警備業の経営は、警備員の高齢化と深刻な人手不足、そして売上の大半を人件費が占める収益構造という課題を抱えています。この記事では、警察庁の統計で業界の今を整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、税務の論点、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 令和7年12月末の警備業者は1万949業者、警備員は59万6,985人。業者数は毎年増え、警備員100人未満の業者が90.3%、営業所が1か所だけの業者が84.2%を占める
- 警備員の70歳以上が21.6%、在職1年未満が18.3%。警察庁は、保安の職業の有効求人倍率が6.70倍(全職業1.10倍、2025年9月)と、人手不足の深刻さを示している
- 交通誘導警備員の公共工事設計労務単価(全国平均)はA 18,911円(+5.8%)、B 16,749円(+6.7%)。公表単価の上昇は、価格交渉の根拠になる
- 銀行は、給与の先払いと入金のずれ(運転資金)、主要な取引先への依存、税金・社会保険料の滞納や行政処分がないかを見る
- 承継では、認定・指導教育責任者・検定合格警備員と、取引先との関係を引き継げるかが企業価値の中心。合併では認定は引き継がれない
警備業の今:業者は増え、警備員の高齢化が進む
業者数と警備員数
| 指標 | 令和7年12月末 | 前年比 |
|---|---|---|
| 警備業者(警備業法第4条の認定業者) | 10,949業者 | 138業者(1.3%)増 |
| 警備員 | 596,985人 | 9,137人(1.5%)増 |
| うち臨時警備員 | 51,106人(8.6%) | ― |
| うち女性警備員 | 45,304人(7.6%) | ― |
| 70歳以上の警備員 | 129,012人(21.6%) | ― |
| 在職1年未満の警備員 | 109,450人(18.3%) | ― |
| 警備業者の営業所の総数 | 16,728営業所 | ― |
| 売上高(全国警備業協会の調査、回答5,210業者) | 約3兆5,056億円 | 令和6年は約3兆4,477億円 |
出典:警察庁生活安全局生活安全企画課「令和7年における警備業の概況」。売上高は一般社団法人全国警備業協会の調査によるもので、年ごとに調査方法・対象数が異なります
警備業者は令和3年末の10,359業者から毎年増え続けています。警備員数も令和4年末の58万2,114人から増加に転じ、令和7年末には約60万人に迫りました。ただし、警備員の5人に1人以上が70歳以上で、在職1年未満の人も2割近くいます。経験を積んだ警備員の確保と、若い世代の採用が、業界全体の課題です。
小さな業者が大半を占める
同じ資料で、警備業者を警備員数の規模別に見ると、次のとおりです。
| 警備員数 | 業者数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 1,000人以上 | 57 | 0.5% |
| 100〜999人 | 1,007 | 9.2% |
| 30〜99人 | 2,413 | 22.0% |
| 10〜29人 | 3,387 | 30.9% |
| 9人以下 | 4,085 | 37.3% |
出典:同上(警備業者の警備員数別状況、令和7年12月末)。100〜999人、30〜99人、10〜29人、9人以下は、資料の区分を合算したもの
警備員100人未満の業者が9,885業者(90.3%)を占め、9人以下の業者も3割を超えます。営業所が1か所だけの業者も9,219業者(84.2%)あり、地域に根ざした中小の警備会社が業界の大部分を支えています。
業務の区分では、交通誘導警備を行う業者が8,241業者(75.3%)と最も多く、施設警備が6,690業者(61.1%)、雑踏警備が5,164業者(47.2%)と続きます(複数の業務を行う業者はそれぞれに計上)。建設工事や道路工事の動向が、多くの警備会社の売上を左右していることが分かります。
人手不足と国の取組み
警察庁は令和7年12月22日に「省力化投資促進プラン―警備業―」を公表しました。その中で、保安の職業の有効求人倍率が6.70倍(全職業1.10倍、2025年9月)であること、令和6年に65歳以上の労働者の割合が警備業で34.3%(全職業13.6%)であることを示し、警備業の労働生産性を2029年度までに2024年度比で25%向上させる目標を掲げています(警察庁「省力化投資促進プラン―警備業―」)。警備ロボットや交通誘導システムの活用、勤怠・シフト・給与計算などの事務のシステム化が、施策の柱になっています。
単価は上がっている
公共工事の積算に使われる国土交通省の公共工事設計労務単価(令和8年3月から適用)では、全国平均で交通誘導警備員Aが18,911円(前年3月比+5.8%)、交通誘導警備員Bが16,749円(同+6.7%)と、全職種の平均(+4.5%)を上回る伸びとなりました(国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」令和8年2月17日)。国の施設の保全業務に使われる建築保全業務労務単価(令和8年度)でも、警備員の全国平均は17,040円(+9.1%)です(国土交通省、令和8年2月17日)。
なお、これらの単価は警備員に支払う賃金の水準を示すもので、会社の利益や法定福利費などの経費は含まれていません。警備料金はこれに経費と利益を上乗せした水準でなければ、採算が合わない点に注意が必要です。
警備会社の収益構造と決算書の特徴
売上の大半は警備員の人件費
警備会社の売上原価の大部分は警備員の給与・社会保険料です。施設警備は月額の契約が中心で売上が安定しやすい一方、交通誘導や雑踏警備は、工事やイベントの予定に合わせて日ごとに人を出すため、天候や工事の進み具合で売上が月ごとにぶれます。
| 項目 | 施設警備(1号) | 交通誘導・雑踏警備(2号) | 機械警備(1号) |
|---|---|---|---|
| 売上 | 月額の常駐契約。安定 | 日ごと・現場ごとの請求。ぶれが大きい | 月額の契約。ストック型 |
| 主な費用 | 常勤警備員の給与・社会保険料 | 日雇い・短期の警備員の給与、移動費 | 機器・通信回線・待機要員・車両 |
| 設備 | 小さい | 小さい(車両・資機材程度) | 機器・管制センターへの投資が大きい |
| 主な取引先 | ビル・施設の所有者、管理会社 | 建設会社、自治体、イベント主催者 | 事業所・住宅 |
| 主なリスク | 契約更新・入札 | 建設会社への依存、天候 | 機器の更新投資、価格競争 |
教育・資格にかかる費用
警備業法では、警備員に対する教育が義務づけられており、営業所ごと・警備業務の区分ごとに警備員指導教育責任者を置く必要があります。また、一部の警備業務では、検定に合格した警備員の配置が求められます。警察庁の資料によると、令和7年12月末に何らかの検定合格証明書を持つ警備員は16万1,019人です。教育の時間・講習の費用は、売上に直接結びつかない固定費として、決算書の利益を圧迫します。
銀行は警備会社のどこを見るか
運転資金:給与は先、入金は後
警備会社は、警備員の給与を先に払い、取引先からの警備料は月末締め・翌月末払いなどで後から入金されます。日雇いの警備員に日払い・週払いをしている会社では、入金までのずれはさらに大きくなります。取扱う現場が増えるほど、必要な運転資金も増えます。
銀行は、売掛金の回転期間と主要な取引先の支払条件を見て、必要な運転資金を判断します。建設会社からの入金サイトが長い場合は、その事情を説明できるようにしておきましょう。資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方、運転資金の考え方は運転資金の融資はいくらが目安?で解説しています。
返済能力と、業界固有のリスク
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。施設警備や交通誘導が中心の会社は設備が少なく、減価償却費が小さいため、返済の原資はほぼ利益そのものです。機械警備を行う会社は、機器への投資が大きく減価償却費も大きくなるため、設備資金の返済期間を機器の使用期間と合わせて組むことが大切です。
銀行が警備会社で特に気にするのは、次のような点です。
- 取引先の集中:特定の建設会社や施設の所有者に売上の多くを頼っていないか
- 税金・社会保険料の納付:人件費が大きいほど納付額も大きく、滞納は審査で最も厳しく見られる
- 法令の遵守:警察庁の資料では、令和7年中に警備業者に対して指示116件、営業停止12件、認定の取消し1件の行政処分が行われている。営業停止は売上の停止に直結する
- 労務管理:長時間労働や未払残業代、社会保険の加入漏れがないか
- 価格転嫁:最低賃金や労務単価の上昇に合わせて、警備料金を見直せているか
審査全体の流れは銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。
警備業特有の税務・会計の論点
消費税:給与は課税仕入れにならない
警備料金は消費税の課税売上ですが、売上の大部分を占める警備員の給与は、消費税の課税仕入れになりません。そのため、売上にかかる消費税から差し引ける税額が少なく、納税額が利益に比べて大きくなりやすいのが特徴です。納税資金は毎月の資金繰りに組み込み、前年の納税額に応じた中間申告・中間納付の時期を把握しておきましょう(中間申告の仕組み)。
協力会社(同業の警備会社)に一部の現場を任せる場合、その外注費は課税仕入れになります。相手がインボイスを発行できない免税事業者だと、仕入税額控除は経過措置の範囲でしか受けられないため、外注先の登録状況も確認しておく必要があります。
日雇いの警備員の源泉所得税
交通誘導や雑踏警備で、日々雇い入れて働いた日ごとに給与を支払う場合、源泉所得税は原則として日額表の丙欄で計算します。あらかじめ雇用契約の期間が2か月以内と決まっている場合も丙欄です。ただし、継続して2か月を超えて支払う給与には丙欄は使えず、契約の延長や再雇用で2か月を超えた場合は、その日から甲欄または乙欄に切り替える必要があります(国税庁 タックスアンサーNo.2514)。
同じ人を繰り返し使っているのに丙欄のまま計算している、というのは、税務調査で指摘されやすい点です。人数が多い分、誤りがあると追加で納める金額も大きくなります。
外注と雇用の線引き
警備員を「業務委託」や「個人事業主」として扱っている場合、実態が雇用と変わらなければ給与と判断され、源泉所得税や消費税の処理が変わるおそれがあります。警備業法上も、警備員として教育や名簿の管理が必要です。契約の形と働き方の実態をそろえておきましょう(偽装フリーランスが「隠れ債務」になるリスク)。
機械警備の機器と減価償却
機械警備で顧客の施設に設置するセンサーなどの機器を自社で保有する場合、それは自社の固定資産として減価償却します。契約の解約で機器を撤去・廃棄したときは、帳簿に残っている金額を除却損として処理します。機器ごとに、どの契約の、どこに設置しているかを固定資産台帳で管理しておくことが、正しい償却と除却の前提になります。
事業承継・M&A:認定と「人」を引き継ぐ
警備業は、認定と教育体制、そして経験のある警備員をまとめて引き継げるため、M&Aで規模や営業エリアを広げる動きがある業種です。中小企業のM&A全体の動きは中小企業M&Aの件数と最近の傾向で整理しています。
認定の扱い
警備業を営むには、主たる営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会の認定が必要で、認定の有効期間は5年です(警備業法第4条・第5条)。承継の形によって、認定の扱いは次のように変わります。
| 承継の形 | 認定の扱い | 確認すること |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社は変わらないため、認定は残る | 役員の変更の届出。新しい役員が欠格事由に当たらないか |
| 合併 | 消滅する会社の認定は引き継がれない(届出が必要) | 存続する会社が認定を受けているか |
| 事業譲渡 | 譲り受ける会社が自ら認定を受ける必要がある | 認定の取得時期と、空白期間が生じないか |
| 親族内承継(社長交代) | 会社が同じなら認定は残る | 役員の変更の届出、指導教育責任者の後任 |
警備業法には、建設業法のような合併・事業譲渡による地位の承継の仕組みは設けられておらず、合併で法人が消滅した場合は届出の対象になります(e-Gov法令検索「警備業法」)。承継の形を決める前に、所轄の公安委員会(警察署)に確認しておくことが欠かせません。許認可の承継の全体像は許認可はM&Aで引き継げるかで解説しています。
人・資格・取引先
警備会社の価値の中心は、指導教育責任者や検定合格警備員などの資格者、経験のある警備員、そして取引先との関係です。承継の前に、次の点を整理しておきましょう。
- 指導教育責任者が、営業所ごと・業務の区分ごとに承継後も確保できるか
- 検定合格警備員の人数と、配置が必要な現場を回せるか
- 主要な取引先との契約の期間・更新条件と、経営者が変わったときの解約条項の有無
- 未払残業代や社会保険の加入漏れなど、簿外の債務がないか(労務DDと未払残業代のリスク)
- 社長の個人保証の扱い(事業承継と経営者保証)
主要な建設会社や施設の所有者との関係を社長が一人で抱えている会社は、承継後に取引が続くかを買い手が不安に感じ、評価が下がります。現場の責任者や営業担当者への引き継ぎは、承継の数年前から進めておきたいところです。
経営者が今やっておきたいこと
- 現場・取引先ごとの損益を把握し、採算の合わない契約を把握している
- 公共工事設計労務単価や最低賃金の改定を根拠に、警備料金の見直しを交渉している
- 消費税・源泉所得税・社会保険料の納付資金を毎月積み立て、滞納がない
- 日雇いの警備員の源泉所得税の欄(丙欄か甲欄・乙欄か)を、雇用期間に合わせて正しく使い分けている
- 取引先ごとの支払条件と入金予定をまとめた資金繰り表をつくり、運転資金の融資枠を銀行と相談している
- 認定の更新時期と、指導教育責任者・検定合格警備員の在籍状況を管理している
- 勤怠・シフト・給与計算のシステム化など、事務の省力化を進めている
- 主要な取引先との関係を、社長以外の担当者にも引き継いでいる
建物の管理を総合的に請け負う会社についてはビルメンテナンス・清掃業の動向と経営のポイント、交通誘導の主な取引先である建設業については建設業(総合工事業・工務店)の動向と経営のポイントもあわせてご覧ください。
まとめ
警備業は、業者数・警備員数ともに増え、売上も3兆円を超える規模で推移しています。一方で、警備員の高齢化と人手不足は深刻で、売上の大半を占める人件費の上昇を警備料金に転嫁できるかどうかが、利益と返済能力を左右します。現場ごとの採算を把握して交渉の根拠をつくること、給与の先払いと消費税の納付に備えた資金繰りを組むこと、そして認定と資格者を引き継げる体制を整えておくことが、銀行の評価と事業の承継の両方を支える土台になります。
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