倉庫は、メーカーや卸売業、小売業の商品を預かり、必要なときに必要な場所へ送り出す、物流の「結節点」です。ネット通販の拡大や在庫を厚めに持つ動き、トラックドライバーの労働時間規制(いわゆる「物流の2024年問題」)によって、倉庫と物流センターの役割はますます大きくなっています。
一方で、倉庫会社の経営は、保管料がなかなか上がらない中で、建設費・電気代・人件費が上がるという難しさを抱えています。この記事では、倉庫業・物流センターの経営を、公的資料の数字で整理したうえで、中小倉庫会社の決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、倉庫の耐用年数や設備の税務、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 倉庫業の事業者は6,582者、うち中小企業が98.9%(令和3年度)。営業収入は約2兆6,000億円、従業員は約13万2千人
- 日本倉庫協会によると、普通倉庫の保管料はほとんど上がっていない一方、建設費は高騰。人員不足率は現在7.5%で、5年以内に15.9%まで広がる見込み
- 2026年4月から改正物流効率化法が施行。保管量70万トン以上の倉庫業者は「特定倉庫業者」として中長期計画やCLOの選任が義務に。中小でも荷主からの効率化の要請は強まる
- 銀行は、建物の設備資金を、荷主との契約とキャッシュフローで返せるかを見る。建物の返済期間と、荷主との契約期間のずれが最大のリスク
- 倉庫事業用の建物は一般の倉庫より耐用年数が短い(RC造31年、冷蔵21年)。承継では、営業譲渡・合併・分割・相続とも30日以内の届出が必要
倉庫業の今:物流の要なのに、料金は上がりにくい
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 倉庫業の事業者数 | 6,582者 | 国土交通省「数字で見る物流2023」(令和3年度)。日本倉庫協会資料に掲載 |
| 中小企業の割合 | 98.9% | 同上 |
| 営業収入 | 約2兆6,000億円 | 同上 |
| 従業員数 | 約13万2千人 | 同上 |
| 輸入貨物のうち営業倉庫を経由する割合 | 52.5% | 日本倉庫協会「営業倉庫の現状と課題について」(令和6年12月10日) |
| 人員不足率 | 現在7.5%、5年以内の離職を加味すると15.9% | 同上(NX総合研究所のアンケート調査を引用。フォークマンは現在8.8%) |
出典:日本倉庫協会「営業倉庫の現状と課題について」(令和6年12月10日、国土交通省の検討会資料)
なお、国土交通省の地方運輸局の資料によると、全国の倉庫事業者数の集計は令和2年度以降は行われていません。最新の全国の事業者数は、業界団体の資料などで補って見る必要があります。
保管料と建設費のギャップ
日本倉庫協会の資料では、国土交通省の「倉庫事業経営指標」をもとに、2000年以降、普通倉庫の保管料の指数がほぼ横ばいなのに対し、建設物価の指数は大きく上がっていることが示されています。同じ資料は、電気代や労務費の上昇分を料金に転嫁する取り組みが「道半ば」であり、トラックの標準的運賃のような料金の目安も倉庫にはないことを、課題として挙げています。
業界の中小企業比率が高く、協会自身も「実態としての利益率が高くない業界」と述べています。古い倉庫を使い続けているうちは採算が合っても、建て替えや新設のときに、今の保管料では投資を回収しにくい。これが、中小倉庫会社の多くが直面している構図です。
制度の動き:物流効率化法と倉庫業法
| 時期・制度 | 内容 |
|---|---|
| 倉庫業法(登録制) | 他人の物品を預かって保管する営業倉庫は、国土交通大臣の登録が必要。施設設備の基準を満たし、倉庫管理主任者を選任する |
| 2025年4月 | 改正物流効率化法により、荷主・物流事業者に、荷待ち・荷役時間の短縮などの努力義務 |
| 2026年4月 | 一定規模以上の事業者を「特定事業者」に指定。特定倉庫業者は貨物の保管量70万トン以上(特定トラック事業者は保有車両150台以上、特定荷主は取扱貨物9万トン以上)。中長期計画の作成、定期報告などが義務に |
出典:国土交通省「改正物流効率化法の施行に伴う義務」、国土交通省「物流効率化法について」
中小の倉庫会社の多くは特定倉庫業者には当たりませんが、取引先の大手荷主が特定荷主に指定されれば、トラックの予約受付システムの導入や、荷待ち時間の記録などを求められる場面は増えます。これは費用の増加であると同時に、「効率化への協力」を料金交渉の材料にできる機会でもあります。
中小倉庫会社の収益構造と決算書の特徴
倉庫業の売上は、主に保管料(預かっている期間と量に応じた料金)と荷役料(入出庫・仕分け・流通加工などの作業料金)でできています。近年は、在庫管理から出荷、配送の手配まで一括で請け負う、いわゆる3PL(サードパーティー・ロジスティクス)として受託する会社も増えています。
決算書の特徴を、ほかの業種と比べると次のようになります。
| 項目 | 倉庫業の特徴 | 決算書での見え方 |
|---|---|---|
| 固定資産 | 倉庫の建物・土地、ラックや搬送機器などのマテハン設備 | 総資産に占める有形固定資産の割合が高い |
| 費用 | 減価償却費、固定資産税、電気代(冷蔵・冷凍倉庫で特に大きい)、作業員の人件費 | 固定費の割合が高く、稼働率で利益が大きく動く |
| 借り倉庫の場合 | 建物を借りて運営する | 減価償却費のかわりに地代家賃が大きい |
| 売掛金 | 月末締め・翌月払いなど掛けの取引が中心 | 売上の1〜2か月分程度の売掛金が常にある |
| 在庫 | 預かり品は荷主の資産で、自社の在庫ではない | 棚卸資産はほとんどない(流通加工の資材などに限られる) |
固定費が大きく、稼働率が利益を決めるのが、倉庫業の決算書の最大の特徴です。空きスペースが1割出るだけで、利益が大きく減ることがあります。逆に、稼働率の高い倉庫は、償却が進んだ後に安定したキャッシュフローを生みます。
日本倉庫協会の資料は、営業倉庫は堅牢に造られているため、減価償却期間が終わった後も長く使われていることが通例だと説明しています。償却が終わった古い倉庫が多い会社は、帳簿上の利益は出やすい一方で、建て替えの資金を内部に貯めておけているかが問われます。
銀行は倉庫業のどこを見るか
設備資金:建物の返済期間と、荷主との契約期間のずれ
倉庫の新設や増設は、数億円から数十億円の設備資金になります。銀行がまず見るのは、その倉庫から生まれるキャッシュフローで、借入を何年で返せるかです。
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。倉庫は建物の比重が大きいため、新設直後はこの年数が長くなりがちです。銀行は、会社全体の数字に加えて、新しい倉庫単体の収支計画(想定する荷主、保管料の単価、稼働率、電気代、人員)を求めます。
倉庫業ならではのリスクは、建物の返済期間が15〜20年といった長期になるのに、荷主との契約は数年単位で、短いものも多いことです。日本倉庫協会も、荷主との契約期間が短いとDX設備などへの投資の採算をとりにくい、と指摘しています。銀行に収支計画を出すときは、主要な荷主が抜けた場合に、どの程度の稼働率まで返済を続けられるかも試算しておくと、説得力が増します。返済期間の考え方は融資期間は耐用年数で決まる?で詳しく解説しています。
担保と、建物の「汎用性」
倉庫の土地・建物は、融資の担保になります。銀行は、その倉庫が特定の荷主専用の造りになっていないか、幹線道路や港へのアクセスなど、ほかの荷主にも貸せる立地かを見ます。汎用性の高い倉庫は、荷主が変わっても使い続けられるため、担保としての評価も安定します。
自社で建てずに、ファンドなどが保有する物流施設を借りて運営する形もあります。この場合、初期投資は少なくて済みますが、長期の賃貸借契約の賃料を、荷主との短い契約で払い続けることになるため、借入と同じように返済負担として見る必要があります。
運転資金と、電気代
倉庫業の運転資金は、売掛金の回収までの間に、作業員の人件費や電気代を先に払うことから生じます。新しい荷主を獲得して取扱量が増える局面では、立ち上げの人員を先に確保する必要があるため、資金が一時的に膨らみます(運転資金の融資はいくらが目安?)。
冷蔵・冷凍倉庫では、電気代が利益を大きく左右します。銀行は、電気代の上昇分を保管料に転嫁できているかを、過去の料金改定の実績から確認します。料金の交渉記録や、荷主と合意した改定の経緯を残しておきましょう。融資審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。
倉庫業特有の税務・会計の論点
「倉庫事業の倉庫用」は耐用年数が短い
耐用年数省令の別表第一では、倉庫の建物の耐用年数は、倉庫業として使うかどうかで変わります。
| 構造 | 一般の倉庫用 | 倉庫事業の倉庫用(冷蔵倉庫用) | 倉庫事業の倉庫用(その他) |
|---|---|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 38年 | 21年 | 31年 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 34年 | 20年 | 30年 |
| 金属造(骨格材の肉厚4ミリ超) | 31年 | 19年 | 26年 |
出典:e-Gov法令検索「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第一(2026年10月確認)
このほか、ラックやコンベヤーなど倉庫業で使う機械装置は「倉庫業用設備」として12年、フォークリフトは4年です。同じ設備でも、建物と一体の建物附属設備なのか、機械装置なのか、器具備品なのかで耐用年数が変わるため、取得時に見積書の内訳から区分しておくことが大切です。
償却期間が短いほど、毎年の償却費は大きくなり、帳簿上の利益と純資産は早く減ります。私自身、不動産投資で償却の速い物件を多く抱え、帳簿上の資産より負債が大きい債務超過の状態になって、2019年に融資が止まった経験があります。倉庫の新設直後は、キャッシュは回っていても決算書の見た目が悪くなりやすいことを、銀行に先回りして説明できるようにしておきましょう(債務超過になると融資はどうなるか)。
修繕と資本的支出
倉庫は長く使う資産のため、屋根の防水、床の補修、外壁、シャッター、照明のLED化といった工事が定期的に発生します。その工事が、元の機能を維持するための修繕費なのか、価値を高めたり使用期間を延ばしたりする資本的支出なのかで、その期の費用になるか資産計上して償却するかが変わります。判断の考え方は修繕費と資本的支出の判断事例で整理しています。
固定資産税と償却資産の申告
倉庫の土地・建物には固定資産税がかかり、ラックや搬送設備などの償却資産も、毎年1月1日時点の所有分を市町村に申告する必要があります。設備投資の多い倉庫業では、償却資産の申告漏れが起きやすいため、固定資産台帳と申告の内容を毎年照合しておきましょう(固定資産税の仕組み)。
保管料の計上時期と消費税
保管料は、預かっている期間に応じて収益を計上するのが基本です。数か月分をまとめて前受けした場合は、まだ期間が来ていない分を前受収益として整理します。保管料や荷役料は消費税の課税取引で、倉庫の建物や設備を取得した期は、仕入税額控除が大きくなります。建物を取得する前後は、消費税の納税額や還付の有無が大きく変わるため、事前に試算しておくと資金繰りの見通しが立てやすくなります。
事業承継・M&A:登録と「荷主との関係」を引き継ぐ
倉庫業は、中小企業の比率が高く、地域の産業や港湾と結びついて長く続いてきた会社が多い業種です。建て替えや自動化の投資負担が重くなる中で、同業者や運送会社、荷主側の企業への譲渡が検討されることもあります。中小企業のM&A全体の動きは中小企業M&Aの件数と最近の傾向で整理しています。
倉庫業の登録の扱いは、承継の方法によって次のように異なります。
| 承継の方法 | 倉庫業の登録 | 手続き |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社は変わらないため登録は残る | 役員の変更などの届出 |
| 営業の譲渡・合併・分割 | 承継した者が倉庫業者の地位を承継 | その日から30日以内に運輸局等へ届出(倉庫業法17条)。発券倉庫業者は認可が必要 |
| 個人の倉庫業者の相続 | 相続人が地位を承継 | 死亡を知った日から30日以内に届出(同19条)。発券倉庫業者は死亡後60日以内に認可申請 |
出典:国土交通省中部運輸局「変更登録、届出等について」。許認可の承継の全体像は許認可はM&Aで引き継げるかを参照。
買い手や後継者が最も気にするのは、荷主との契約がいつまで続くかと、建物の状態です。主要な荷主との契約が短期で、口約束に近い形で続いているなら、承継の前に契約書を整えておきたいところです。建物については、修繕の履歴、耐震性、倉庫業法の施設基準を満たし続けているかが確認されます。
もう一つの論点は、倉庫の不動産を会社に残すかどうかです。土地・建物の含み益が大きい会社では、株価が高くなり、後継者が株式を引き継ぐ負担や、買い手の資金負担が重くなります。不動産を別会社に分ける、賃貸に切り替えるといった選択肢には、それぞれ税金と融資への影響があるため、早めに検討しておきましょう。
経営者が今やっておきたいこと
- 倉庫ごと・荷主ごとの収支(保管料、荷役料、人件費、電気代、償却費)を把握している
- 電気代や人件費の上昇を、保管料・荷役料に転嫁する交渉をし、記録を残している
- 主要な荷主との契約期間と、倉庫の借入の返済期間のずれを把握している
- 主要な荷主が抜けた場合の稼働率と、返済を続けられるかを試算している
- 建物・設備の耐用年数を正しく区分し、償却資産の申告と照合している
- 大手荷主から物流効率化法への対応(予約受付、荷待ち時間の記録など)を求められたときの体制と費用を見積もっている
- 建物の修繕・建て替えの計画と、そのための資金の準備を始めている
- 倉庫管理主任者やフォークリフトの作業者など、現場の要となる人材の後任を育てている
トラック運送の動向とポイントは運送業(一般貨物自動車運送業)の動向と経営のポイント、卸売業については卸売業の動向と経営のポイントで解説しています。
まとめ
倉庫業は、物流の要でありながら、保管料が上がりにくく、建設費・電気代・人件費の上昇を抱える業種です。中小の倉庫会社にとっては、稼働率と料金の改定で、固定費の大きさを利益に変えられるかが、経営と融資の両方の分かれ目になります。
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