ネットショップや通販サイトは、店舗を持たずに全国、さらには海外のお客さまに商品を届けられる事業です。少ない資金で始められる一方で、売上が伸びるほど在庫と入金待ちのお金が膨らみ、黒字なのに資金が足りなくなることがよくあります。モールのルール変更や広告費の高騰にも左右されやすい事業です。
この記事では、EC事業の経営を経済産業省の最新の調査で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、売上の計上時期・ポイント・消費税など税務の論点、そしてEC事業の売却・承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 物販のBtoC-EC市場は2025年に15兆8,233億円(前年比3.97%増)。EC化率は9.80%で、前年からの上昇は0.02ポイントにとどまった
- 「食品、飲料、酒類」は3兆3,332億円と最大の分野だが、EC化率は4.66%と低く、まだ伸びる余地がある
- EC事業の決算書は、広告費・手数料・送料の比率と、在庫・入金待ちの売上(未収入金)が特徴。銀行はモール依存と在庫の実在性を見る
- 売上は総額で計上し、出荷・着荷などの基準を決めて続ける。自社ポイント、在庫の計上漏れ、海外販売の輸出免税に注意
- 2027年4月からの食料品の消費税率1%(案)では、一定の通信販売は経過措置で8%。事業の売却では、アカウントや顧客データの引継ぎが論点
EC市場の今:伸びは続くが、ペースは落ち着いてきた
| 区分 | 2024年 | 2025年 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| BtoC-EC全体 | 26.1兆円 | 27.6兆円 | 5.5%増 |
| 物販系分野 | 15兆2,194億円(EC化率9.78%) | 15兆8,233億円(EC化率9.80%) | 3.97%増 |
| サービス系分野 | 8兆2,256億円 | 8兆9,362億円 | 8.64%増 |
| デジタル系分野 | 2兆6,776億円 | 2兆7,985億円 | 4.52%増 |
| CtoC-EC(推計) | ― | 2兆6,870億円 | 6.34%増 |
出典:経済産業省「令和7年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2026年10月21日公表、2025年の1年間)
物販の主な分野では、「食品、飲料、酒類」が3兆3,332億円(前年比6.96%増)で最大です。「衣類・服装雑貨等」は2兆8,941億円(EC化率24.08%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」は2兆8,829億円(同43.08%)、「生活雑貨、家具、インテリア」は2兆6,258億円(同31.73%)と続きます(同調査)。
家電や書籍のように、すでに買い物の3〜6割がネットに移った分野がある一方、食品のEC化率は4.66%にとどまります。食品・日用品は伸びしろが大きいものの、鮮度管理と配送のコストが重い分野です。中小のEC事業者にとっては、市場全体の伸びに乗るだけでは成長しにくくなり、特定の分野で選ばれる理由と、広告費をかけずにリピートしてもらえる仕組みが、ますます大事になっています。
コストの面では、運送会社の運賃の引上げ、梱包資材の値上がり、モールの広告費の上昇が続いています。送料無料の基準をどこに置くか、自社サイトとモールの売上の比率をどうするかは、利益に直結する経営判断です。
EC事業の収益構造と決算書の特徴
粗利は高めでも、販管費の比率が大きい
EC事業は店舗の家賃や販売員の人件費がかからない代わりに、モールの手数料、決済手数料、広告費、送料、梱包費、物流倉庫の費用がかかります。次は、説明のための計算例です(公的な統計ではなく、構造を示すための数字です)。
| 項目 | 年商1億円の会社の例 | 売上に対する比率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1億円 | 100% |
| 売上原価(仕入) | 5,500万円 | 55% |
| 売上総利益(粗利) | 4,500万円 | 45% |
| モール・決済手数料 | 1,200万円 | 12% |
| 広告費 | 1,000万円 | 10% |
| 送料・梱包・倉庫費 | 1,000万円 | 10% |
| 人件費・その他 | 1,000万円 | 10% |
| 営業利益 | 300万円 | 3% |
粗利率が高く見えても、手数料・広告費・物流費で3割以上が消えると、利益は数%しか残りません。広告費を1割増やして売上が1割伸びなければ、利益はなくなる計算です。決算書では、こうした費用を「支払手数料」「広告宣伝費」「荷造運賃」などの科目に分けて、毎期同じように記帳しておくことが、自社の分析にも銀行への説明にも役立ちます。
お金が寝る場所:在庫と「入金待ちの売上」
EC事業の貸借対照表で目立つのは、在庫と、モールや決済会社からまだ入金されていない売上(未収入金・売掛金)です。
- 仕入れてから売れるまでの期間(在庫の期間)
- 売れてからモール・決済会社から入金されるまでの期間(入金サイクル)
- 仕入代金を払うまでの期間(支払サイト)
前の2つの合計が支払サイトより長いと、その差の分だけお金が先に出ていきます。海外から仕入れて前払いで代金を払う会社や、セールに備えて在庫を積み増す会社は、売上が伸びる局面ほど資金が足りなくなります。運転資金の考え方は運転資金の融資で詳しく解説しています。
銀行はEC事業のどこを見るか
モール依存と、売上の「質」
銀行がまず気にするのは、売上の大半を一つのモールに頼っていないかです。モールの規約変更、検索順位の変動、アカウントの停止は、EC事業者の努力ではどうにもならない、業界特有のリスクです。自社サイト、複数のモール、卸売や実店舗への販売など、販路が分散しているほど評価されやすくなります。
次に見られるのが、リピート購入の比率と、広告費をかけたときの売上の伸びです。新規客を広告で集め続けないと売上が維持できない会社と、リピート客が売上の土台になっている会社とでは、同じ売上でも返済の確実性の見え方が違います。取引先の集中がM&Aの評価に与える影響は取引先の集中リスクも参考になります。
在庫の実在性と評価
EC事業では、外部の物流倉庫やモールの倉庫に在庫を預けていることが多く、銀行は帳簿の在庫が実際にあるのか、売れる在庫なのかを確認します。倉庫会社の在庫の証明と帳簿の数字が合っているか、長く売れていない在庫がないかを、決算のたびに確認しておきましょう。
債務償還年数と運転資金
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。EC事業は設備が少なく減価償却費が小さいため、利益の水準がそのまま返済力の評価になります。在庫に見合う運転資金の借入れは、短期継続融資や当座貸越で支えてもらう形が合っています。創業間もない時期は、日本政策金融公庫の融資から始めるのが一般的です(日本政策金融公庫の創業融資)。
EC事業特有の税務・会計の論点
売上は総額で、計上基準を決めて続ける
商品の販売による収益は、引渡しの日の事業年度に計上します。引渡しの日は、出荷した日や相手方に着荷した日など、取引に応じて合理的なものを選び、毎期継続して適用します(国税庁 法人税基本通達2-1-2)。決算月の注文で、代金は受け取ったが発送していない分、発送したが入金がまだの分をどちらの期に入れるかを、基準に沿って整理します。
モール経由の売上は、手数料を差し引いた入金額ではなく、お客さまに販売した金額で売上を計上し、手数料は費用に計上するのが原則です。入金額だけで記帳すると、売上と経費がともに小さくなり、粗利率や広告費率がゆがんで見えます。
ポイント・クーポン
自社サイトで発行するポイントを不特定多数のお客さまに付与している場合、発行年度ごとの管理や、1ポイントから使えることなどの要件をすべて満たせば、継続適用を条件に、付与したポイントを将来の売上の前受けとして扱えます(法人税基本通達2-1-1の7)。モールなど他社が運営するポイントは対象外で、自社が負担する分は販売の値引きや手数料として処理します。
在庫の計上漏れに注意
外部倉庫・モールの倉庫に預けている在庫、海外から輸送中の商品(代金を払い、所有権が移っているもの)は、手元になくても期末の在庫に含めます。在庫の計上漏れは、税務調査で指摘されやすい論点です。評価方法を届け出ていない場合は、最終仕入原価法で評価します(国税庁「棚卸資産の評価方法の届出」)。
消費税:事業区分、海外販売、広告費
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 簡易課税の事業区分 | 消費者への販売は第二種事業(みなし仕入率80%)、事業者への販売は第一種事業(90%)。選べるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合(国税庁 No.6505) |
| 海外のお客さまへの販売 | 輸出免税の対象になり得るが、輸出の事実を証明する書類の保存が必要 |
| 国外の事業者から受ける広告配信 | 事業者向けの電気通信利用役務として、リバースチャージの対象になり得る。一般課税で課税売上割合が95%以上の課税期間や、簡易課税の課税期間は、当分の間対象外 |
| 2027年4月からの食料品1%(案) | 食品を扱う通販は1%の対象。ただし一定の定期供給契約や通信販売は、経過措置で8%が続く |
出典:国税庁 タックスアンサー、国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」(令和8年9月)
食料品の税率引下げは、2026年10月時点では法案の審議中で、成立した場合の内容です。通販の経過措置は、1%を前提に契約している場合や、契約が変更された場合などは除かれるとされています。定期便の規約や、カタログ・サイトの価格表示の切り替え時期は、システム改修とあわせて早めに確認しましょう。インボイスや中間申告の特例は飲食料品の消費税1%とインボイスで整理しています。
事業承継・M&A:EC事業は「売りやすい」が、引継ぎに注意
EC事業は、店舗や工場を持たないぶん、事業ごと売却しやすい業種です。会社の株式を売る方法のほか、ショップの運営に必要なものだけを移す事業譲渡もよく使われます。両者の違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで解説しています。
EC事業の売却・承継で論点になりやすいのは次の点です。
- モールのアカウントの名義:モールによっては、アカウントの譲渡や名義の変更に制限がある。事業譲渡を選ぶ場合は、規約を事前に確認する
- ドメイン・商標・サイトのデータ:自社サイトのドメインや商標が社長個人の名義になっていないかを確認し、会社に移しておく
- 顧客データ:個人情報保護法では、事業の承継に伴って個人データを渡す場合は、本人の同意がなくても第三者への提供にあたらないとされている。ただし、利用目的の範囲内で使う必要がある
- 社長への依存:商品の企画、仕入先との関係、広告の運用を社長が一人で担っていると、評価が下がる。業務の手順を文書にして、担当者に引き継いでおく(社長への依存リスク)
- 在庫の評価:売れ残りの在庫は、価格の調整項目になる。売却前に処分しておくほうが、交渉が進めやすい
EC事業は小規模なM&Aの対象としても人気があり、1億円以下の小規模M&Aの考え方も参考になります。
経営者が今やっておきたいこと
- 在庫の期間・入金サイクル・支払サイトを把握し、繁忙期やセールの前に必要な資金を資金繰り表で計算している
- 売上を総額で計上し、手数料・広告費・送料を科目ごとに分けて記帳している
- 売上のうち、一つのモールに頼っている比率を把握し、販路の分散を計画している
- 外部倉庫・モールの倉庫の在庫を、決算のたびに証明書と照合している
- 自社ポイントの規約と会計処理、海外販売の輸出証明の保存を確認している
- 食品を扱う場合、2027年4月からの消費税率1%(案)と通販の経過措置について、契約・表示・システムの対応を始めている
- アカウント・ドメイン・商標の名義と、社長が一人で担っている業務を整理している
ほかの業界は、卸売業や食品スーパー・食品小売業でも解説しています。
まとめ
- 物販のBtoC-EC市場は2025年に15兆8,233億円。伸びは続くが、EC化率の上昇は鈍化している
- EC事業は手数料・広告費・物流費の比率が大きく、利益は薄くなりやすい。在庫と入金待ちの売上が運転資金を膨らませる
- 銀行はモール依存、リピート率、在庫の実在性を見る。運転資金は短期の融資や当座貸越で支えるのが合っている
- 売上は総額で計上し、計上基準を続ける。在庫の計上漏れ、ポイント、輸出免税、リバースチャージに注意
- 事業は売りやすいが、アカウント・ドメイン・顧客データの引継ぎを事前に整理する
運転資金の融資枠の相談、決算書の見せ方、EC事業の売却・承継について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
