調剤薬局(保険薬局)を含む薬局は全国に6万施設を超えます。その多くは、薬剤師である経営者が1店舗から数店舗を運営する中小企業です。収入の大半は国が決める調剤報酬と薬価で決まり、自由に値上げはできません。そこに、2年に1度の報酬改定と毎年の薬価改定、薬剤師の採用難、経営者の高齢化が重なっています。
この記事では、調剤薬局の経営を厚生労働省などの統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、保険調剤の消費税や医薬品在庫など税務・会計の論点、そして事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 薬局は63,203施設(2024年度末)で前年度から375施設増。一方、薬局の開設者・法人の代表者である薬剤師(管理者を兼ねる人)は2年で7.3%減り、勤務する薬剤師は増えている
- 医療経済実態調査では、法人の保険薬局の損益率は5.1%→4.9%(2023→2024年度)。2〜5店舗のグループは3.2%と、規模による差が大きい
- 2026年度改定は本体+3.09%(2年度平均)だが、各科改定率は調剤+0.08%。薬価は▲0.86%
- 銀行は、処方箋の応需先(どの医療機関に依存しているか)、薬剤師の確保、在庫と買掛金の回転を見る
- 承継は「株式譲渡」か「事業譲渡」かで、開設許可と保険薬局の指定の扱いが変わる
調剤薬局の今:施設は微増、経営者は減って勤務者が増える
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 薬局数 | 63,203施設(前年度比+375、+0.6%) | 厚生労働省「衛生行政報告例」(2024年度末) |
| 人口10万人あたり薬局数 | 51.1 | 同上 |
| 届出薬剤師数 | 329,045人(前回比+1.7%) | 厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」(2024年12月31日) |
| 薬局に従事する薬剤師 | 197,437人(前回比+3.5%)、平均年齢46.8歳 | 同上 |
| うち開設者・法人の代表者(管理者を兼ねる) | 12,591人(前回比▲7.3%) | 同上 |
| うち勤務者(管理者以外) | 132,085人(前回比+5.1%) | 同上 |
出典:厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例の概況」、同「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(薬剤師)」
薬局の数はわずかに増え続けていますが、中身は変わりつつあります。自ら薬局を開設し管理者も務める薬剤師が2年で約1,000人減り、勤務する薬剤師が6,000人以上増えているのです。個人経営や小規模な薬局が、複数店舗を運営するグループに引き継がれる流れが、統計にも表れていると読めます。
2026年度の診療報酬改定は、全体で本体+3.09%(2026・2027年度の平均)と大きな引上げになりました。ただし、多くは賃上げと物価への対応に充てる前提で、保険薬局への配分は、物価対応分が+0.01%、経営環境の悪化への緊急対応分が+0.01%です。それ以外の各科改定率は調剤+0.08%で、医科+0.28%、歯科+0.31%を下回りました。あわせて、後発医薬品への置換えが進んだことを踏まえた評価の見直しや、調剤報酬の適正化が明記されています。薬価は▲0.86%の引下げです。
賃上げについては、薬局の勤務薬剤師や事務職員も、実際に支払われた給与(賞与を含む)で賃上げを確認する仕組みの対象になりました。報酬の引上げ分を、給与の引上げに確実につなげることが求められます。
出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(2025年12月24日)
調剤薬局の収益構造と決算書の特徴
店舗数によって損益率が大きく違う
厚生労働省の医療経済実態調査は、保険薬局の収支を開設者別・グループの店舗数別に調べています(1か月の処方箋の取扱いが300件以上の薬局が対象)。
| 区分(施設数) | 収益 2024年度 | 損益率 2023年度 | 損益率 2024年度 |
|---|---|---|---|
| 法人全体(1,018) | 1億7,971万円(+2.4%) | 5.1% | 4.9% |
| 個人(39) | 7,348万円(▲1.3%) | 11.7% | 11.2% |
| 法人・1店舗(59) | 1億719万円 | 5.1% | 5.2% |
| 法人・2〜5店舗(317) | 1億4,620万円 | 4.0% | 3.2% |
| 法人・6〜19店舗(151) | 1億4,157万円 | 8.1% | 7.6% |
| 法人・20〜49店舗(77) | 1億9,331万円 | 9.8% | 10.2% |
| 法人・300店舗以上(315) | 2億4,078万円 | 4.2% | 4.1% |
出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(2025年11月公表。収益・損益率は新型コロナ関連の補助金を除く。店舗数は同一グループで保険調剤を行う店舗数)
中小の薬局が多い2〜5店舗のグループは損益率が3.2%と低く、前年度から0.8ポイント下がりました。1店舗の薬局より収益は大きいものの、本部の人件費や店舗間の応援体制などの固定費が先にかかる段階だと考えられます。一方、6〜49店舗の中堅グループは損益率が高めです。店舗を増やすなら、どの段階で本部コストを吸収できるかを計画しておく必要があります。
個人の薬局の損益率が高く見えるのは、経営者自身の報酬が費用に入っていないためです。同じ調査で、法人の薬局の薬剤師の平均年収(賞与込み)は約480万円、管理薬剤師は約726万円で、いずれも前年度からの伸びは0.2〜0.3%にとどまっています。
小規模な薬局の財務:利益は薄く、「支払いが後」の構造
日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)は、公庫が融資している従業者50人未満の法人企業が対象です。
| 指標 | 調剤薬局(122社) |
|---|---|
| 売上高総利益率(平均) | 41.2% |
| 売上高経常利益率(平均/中央値) | ▲0.7%/0.9% |
| 人件費対売上高比率(平均) | 25.3% |
| 損益分岐点比率(平均) | 104.1% |
| 商品回転期間/受取勘定回転期間/支払勘定回転期間(平均) | 0.7か月/1.5か月/2.6か月 |
| 借入金回転期間(平均) | 4.6か月 |
| 自己資本比率(平均/中央値) | ▲12.2%/1.2% |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)卸売・小売業(決算期2024年7月以降、2026年8月公表)
経常利益率の中央値は1%未満で、自己資本比率の中央値もほぼゼロです。注目したいのは回転期間で、在庫(0.7か月)と調剤報酬の入金待ち(1.5か月)の合計より、医薬品卸への支払い(2.6か月)のほうが長いことです。仕入先への支払いが入金より後になるため、平常時は手元にお金が残りやすい構造です。
裏を返せば、処方箋が減って売上が落ちると、買掛金の残高が減る分だけ現預金も一気に減ります。近くの医療機関の閉院や移転で処方箋が急に減ったとき、利益の減少以上に資金繰りが悪化するのはこのためです。
銀行は調剤薬局のどこを見るか
処方箋の「応需先」への依存
調剤薬局の売上は、近くの医療機関がどれだけ処方箋を出すかでほぼ決まります。銀行は、処方箋の何割が特定の医療機関から来ているか、その医療機関の医師の年齢や承継の予定、建物の賃貸借契約の期間などを確認します。1つの医療機関に大きく依存している場合は、その医療機関の承継や閉院が最大のリスクになります。
設備資金と運転資金
開業や新店舗には、内装工事、調剤機器、薬歴システム、初期の医薬品在庫の資金が必要です。調剤報酬は月ごとにまとめて審査支払機関に請求し、入金は調剤した月の翌々月が一般的です。開業直後は医薬品卸への支払いが先に来ることもあるため、数か月分の仕入代金と人件費を運転資金として見込んでおきます。考え方は運転資金の融資と資金繰り表の作り方で解説しています。
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。調剤薬局は1店舗あたりの設備投資が比較的小さい一方で利益も薄いため、店舗の出店を続けると借入金が積み上がりやすくなります。
調剤薬局に特有の審査の視点
- 処方箋枚数と応需先:月ごとの処方箋枚数、主な応需先の構成と、その医療機関の継続性
- 薬剤師の確保:管理薬剤師と勤務薬剤師の人数、派遣やパートへの依存度、採用コスト
- 調剤報酬の算定状況:調剤基本料の区分、地域支援体制加算などの届出状況と、改定による増減の見込み
- 在庫と買掛金:在庫の月数、期限切れ廃棄の金額、医薬品卸への支払条件
- 店舗ごとの損益:赤字の店舗が全体の利益を食っていないか
複数店舗を運営しているなら、店舗別の損益と処方箋枚数の推移を毎期そろえて出すと、銀行の理解が格段に進みます。決算書の出し方は銀行に出す前の決算書のチェックも参考にしてください。
調剤薬局特有の税務・会計の論点
消費税:保険調剤は非課税、仕入れは課税
健康保険法などにもとづく保険調剤は、患者の自己負担分も含めて消費税が非課税です(国税庁 No.6201 非課税となる取引)。一方、市販薬(OTC医薬品)、日用品、サプリメント、介護用品などの物販は課税です。
| 取引 | 消費税 | 注意点 |
|---|---|---|
| 保険調剤(自己負担分を含む) | 非課税 | 対応する医薬品の仕入れの消費税は、原則として差し引けない |
| 市販薬・日用品などの物販 | 課税 | 物販の売上で課税売上高を判定 |
| 医薬品・調剤機器の仕入れ | 課税(仕入側) | 保険調剤の比率が高いほど、払った消費税の多くが費用になる |
医薬品は課税で仕入れ、保険調剤は非課税で売るため、仕入れにかかった消費税の多くは差し引けず、実質的に費用として負担します。課税売上割合の計算や、課税売上と非課税売上に共通する仕入れの区分を、会計ソフトの段階で正しく分けておくことが大切です。物販の売上が増えて課税事業者になる場合や、法人を新しく作った場合の扱いは新設法人の消費税で解説しています。
医薬品在庫と薬価改定
期末に残っている医薬品は棚卸資産として計上し、利益に影響します。評価方法を届け出ていない法人は、法定の評価方法(最終仕入原価法)で評価します(国税庁「棚卸資産の評価方法の届出」)。
- 薬価改定の影響:薬価が下がると、同じ調剤でも受け取る薬剤料が減ります。改定前に多めに仕入れた在庫は、利益を押し下げる要因になります
- 期限切れ・破損の廃棄:実際に廃棄した医薬品は、廃棄の記録(品名・数量・日付)を残して損失として処理します
- 棚卸の精度:店舗が増えるほど、期末の棚卸の数え漏れが利益のぶれにつながります
調剤報酬の計上時期と返戻
調剤報酬は、入金のタイミングではなく、調剤を行った月の収益として計上します。期末の月や前月に調剤した分の請求額は、決算時点では入金前のため未収金になります。審査で返戻・査定された金額は、確定した時点で処理をそろえておきましょう。未収金の残高が月商の何か月分かは、銀行もよく見る数字です。
事業承継・M&A:株式譲渡か事業譲渡かで手続きが変わる
| 論点 | 内容 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 経営者の減少 | 開設者・法人の代表者で管理者を兼ねる薬剤師は12,591人(2年で▲7.3%) | 厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」 |
| 開設者が変わる場合 | 元の薬局はいったん廃止し、新しい開設者が開設許可と保険薬局の指定を受け直す | 関東信越厚生局FAQ |
| 遡及指定 | 相続・経営譲渡・合併による引継ぎや、個人と法人の間の変更で、患者が継続して来局している場合などに認められることがある | 同上 |
出典:関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等について(FAQ)」
承継の方法と手続き
株式会社の薬局を株式譲渡で引き継ぐ場合、開設者は同じ会社のままなので、開設許可や保険薬局の指定は原則として継続します。代表者や管理薬剤師が変わる場合の変更届は必要です。
一方、個人の薬局や、会社の一部の店舗だけを売る事業譲渡では、開設者が変わるため、新しい開設者が保健所で開設許可を取り、地方厚生局に保険薬局の指定を申請します。遡及指定が認められないと、保険調剤ができない期間が生じるおそれがあるため、譲渡日を決める前に保健所と地方厚生局に相談することが欠かせません。違いは事業譲渡と株式譲渡の違い、許認可の扱いはM&Aでの許認可の引継ぎで解説しています。
価格を左右するのは「応需先」と「薬剤師」
調剤薬局の価値は、店舗の設備よりも、処方箋を出す医療機関との関係と、そこで働く薬剤師にあります。買い手は、主な応需先の医師の年齢や承継の予定、薬剤師が承継後も働き続けるか、建物の賃貸借契約を引き継げるかを確認します。管理薬剤師が辞めると営業できなくなるため、承継前に薬剤師へどう説明するかも段取りに組み込みます。
経営者が今やっておきたいこと
- 主な応需先ごとの処方箋枚数の割合と、その医療機関の継続性(医師の年齢・承継予定)を把握している
- 2026年度改定で、自社の調剤基本料の区分や加算がどう変わるかを試算している
- 薬剤師の賃上げの計画と、報酬改定の評価がつながっている
- 在庫の月数、期限切れ廃棄の金額、医薬品卸への支払条件を毎月確認している
- 保険調剤と物販の売上、共通する仕入れを、消費税の区分どおりに記帳している
- 複数店舗なら、店舗別の損益と処方箋枚数を銀行に出せる形で整理している
- 承継の時期と方法(親族・社内・第三者、株式譲渡か事業譲渡か)の候補を決めている
医療分野のほかの業界は、診療所・クリニックや歯科診療所でも解説しています。
まとめ
- 薬局は63,203施設と微増だが、開設者を兼ねる薬剤師は減り、勤務する薬剤師が増えている
- 法人の保険薬局の損益率は4.9%。2〜5店舗のグループは3.2%と低く、規模の段差がある
- 2026年度改定の各科改定率は調剤+0.08%、薬価は▲0.86%。賃上げを給与に反映する仕組みも求められる
- 支払いが入金より後になる構造のため、処方箋が減ると資金繰りが一気に悪化する
- 承継は、株式譲渡か事業譲渡かで、開設許可と保険薬局の指定の扱いが変わる
新店舗の出店や改装の資金調達、店舗別の損益を使った銀行への説明、薬局の承継について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
