デューデリジェンス

業務委託のドライバーが「労働者」と判断され残業代の支払いを命令|偽装フリーランスは中小企業とM&Aの隠れ債務。税金・社会保険にも波及する

日本経済新聞(2026年10月29日朝刊)の「中小企業リーガル処方箋」が、業務委託か雇用かが争われた裁判を取り上げました。大阪市の運送会社が、契約書を作らないまま口約束で配送の仕事を任せた大学生のドライバーについて、裁判所は労働契約にあたると判断し、未払いの歩合給と残業代の支払いを命じました。控訴審では会社の代表者にも連帯して支払うよう命じ、判決が確定しています。

「業務委託だから残業代はいらない」と考えていると、思わぬ負担を抱えることがあります。しかも、その影響は残業代だけでなく、源泉所得税、消費税、社会保険にまで広がり、会社を売り買いする場面では「隠れ債務」になります。この記事では、報道された事例を整理し、中小企業とM&Aで注意したい点を解説します。

この記事の結論
  • 裁判所は、会社の勤務シフトに従って働いたドライバーについて、個別の細かな指示がなくても、業務の裁量がほとんどなく拘束の程度も強いとして労働契約と判断。未払いの歩合給と残業代あわせて約130万円の支払いを命じ、控訴審で代表者にも連帯して支払いを命じた(日本経済新聞)
  • 業務委託か雇用かは、契約の名前ではなく働き方の実態で判断される
  • 雇用と判断されると、未払残業代に加えて、外注費が給与と扱われることによる源泉所得税の徴収漏れ、消費税の仕入税額控除の否認、社会保険・労働保険の加入の問題にも広がりうる
  • M&Aでは、業務委託・外注で働く人の実態を確認し、リスクがあれば価格への反映や表明保証・補償で手当てしたい

報道された事例

項目報道で示された内容
契約2023年10月、運送会社が大学生と配送業務の契約。大手から受託した荷物を個人宅に届け、1件150円の歩合。契約書は作らなかった
働き方配送時間は午前9時〜午後9時。午前6時半に出勤して荷物の積み込みなどをするよう求めた。会社から貸与された軽貨物車を使用
争い男性は歩合給の未払いや、荷積み・配送実績の報告などの時間外の業務への対価がないと主張し、2024年5月に提訴。会社は、自損事故の車の修理費などと相殺されると考え、業務委託契約だと反論
一審(2025年4月、大阪地裁)会社の勤務シフトに従って働いた男性について、個別具体的な指揮命令を受けていなくても、業務遂行の裁量はほとんどなく拘束の程度も強いとして、労働契約にあたると判断。未払いの歩合給と残業代、計約130万円の支払いを命令
控訴審会社の代表者にも連帯して支払うよう命じ、判決が確定
弁護士の指摘大手から仕事を受けて個人に再委託する中小・零細企業ではトラブルが珍しくない。働く時間や場所を拘束しない、依頼を断る自由を担保する、などの対応を徹底するよう勧める。契約解除の違約金が過大で無効とされる例も

出典:日本経済新聞「残業代など未払い訴えたドライバー、委託か雇用か 裁量・拘束で争い」(2026年10月29日朝刊、中小企業リーガル処方箋)。

業務委託か雇用かを分ける主なポイント

ここからは、公認会計士・税理士として、中小企業の経営とM&Aのデューデリジェンスに関わってきた立場からの整理です。労働者にあたるかどうかは、契約の名前ではなく、次のような実態を総合して判断されます。

ポイント雇用(労働者)と判断されやすい方向業務委託と判断されやすい方向
仕事を断る自由依頼を断れない依頼を断ることができる
指揮命令仕事の進め方を会社が指示する進め方は本人の裁量
時間・場所の拘束出勤時間や勤務シフトが決められている時間や場所を本人が決められる
代わりの人本人が必ず働く必要がある他の人に任せることもできる
報酬の性質時間に応じて支払う、働いた時間で増減する成果物や件数に応じて支払う
道具・費用の負担車や道具を会社が用意する本人が自分の費用で用意する
専属性他の会社の仕事を受けられない他の会社の仕事も受けている

報道の事例では、歩合制で個別の細かな指示がなかったにもかかわらず、勤務シフトに従って働き、会社の車を使い、早朝の積み込みを求められていたことなどから、拘束の程度が強いと判断されました。報酬が歩合だから業務委託、とは言えないという点に注意が必要です。

残業代だけでは終わらない:税金・社会保険への波及

業務委託が雇用と判断されると、影響は労働法の分野にとどまりません。

分野起こりうること
未払賃金残業代・深夜手当などの支払い。賃金の請求権の時効は当分の間3年で、さかのぼって請求されうる(労務DDと未払残業代のリスク)
源泉所得税外注費として払っていた報酬が給与と判断されると、給与として源泉徴収すべきだったことになり、源泉所得税の徴収漏れと不納付加算税を指摘されることがある
消費税外注費は課税仕入れとして仕入税額控除の対象になるが、給与は対象にならない。給与と判断されると、控除していた消費税が否認されることがある
社会保険・労働保険健康保険・厚生年金、雇用保険・労災保険の加入の対象になりうる。さかのぼって保険料を求められることも
代表者の責任報道の事例のように、代表者個人が連帯して支払いを命じられることもある

税務調査でも、「外注費」の中身は確認されやすい項目です。業務委託契約書がない、毎月ほぼ同じ金額を払っている、会社の指示で決まった時間に働いている、といった場合は、給与と判断されるリスクが高くなります。

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M&Aでは「隠れ債務」として確認する

会社を買う側にとって、偽装フリーランスの問題は、決算書には載っていない簿外債務です。買収した後に、元のドライバーから残業代を請求されたり、税務調査で源泉所得税や消費税を追徴されたりすれば、その負担は買い手が引き継いだ会社が負うことになります。

DDで確認すること内容
業務委託・外注の一覧人数、職種、報酬の決め方、支払額の推移
契約書契約書があるか。業務の範囲、時間・場所の定め、断る自由、違約金の定め
働き方の実態勤務シフト、出勤の指示、車や道具の持ち主、他社の仕事の有無
過去の紛争・相談労働基準監督署の調査、未払いの請求、退職者とのトラブル
税務の処理外注費の源泉徴収の要否の判断、消費税の仕入税額控除の扱い

リスクがある場合は、未払残業代、源泉所得税・消費税・社会保険料のおおよその負担を試算し、買収価格に反映するか、売り手の表明保証と補償の対象にします(DDでよく見つかる問題と価格への反映、買い手のためのDDチェックリスト)。運送業のように、大手から仕事を受けて個人に再委託する業種では特に重要です(運送業の動向と経営のポイント)。

中小企業の経営者が今からやっておきたいこと

  1. 契約書を作る:口約束で業務委託をしない。業務の範囲、報酬、時間・場所の扱い、断る自由、費用の負担を明記する
  2. 実態を契約に合わせる:現場が勤務シフトのように時間を指定したり、細かく指示したりしていないかを見直す
  3. 雇用が実態に合うなら、雇用にする:社会保険や残業代の負担を見込んだうえで、雇用契約に切り替えることも検討する
  4. 違約金・相殺の扱いに注意する:報酬と損害の相殺や、過大な違約金は、無効とされたり争いの原因になったりする
  5. 税務の処理を確認する:外注費として処理している支払いが、給与と判断されるおそれがないかを税理士と確認する

まとめ

  • 口約束の業務委託で働いたドライバーについて、裁判所は労働契約と判断し、会社と代表者に未払いの歩合給と残業代の支払いを命じた
  • 業務委託か雇用かは契約の名前ではなく、断る自由、指揮命令、時間・場所の拘束、道具の負担などの実態で判断される
  • 雇用と判断されると、残業代に加えて、源泉所得税、消費税の仕入税額控除、社会保険にも影響が広がりうる
  • M&Aでは、業務委託・外注の実態を確認し、リスクがあれば価格や表明保証・補償で手当てする

業務委託・外注の契約や税務の処理、M&Aでの労務・税務のデューデリジェンスについて確認したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

業務委託契約を結んでいれば、残業代は払わなくてよいのですか?
契約の名前ではなく、働き方の実態で判断されます。働く時間や場所を会社が決め、仕事を断る自由がなく、会社の指示に従って働いているような場合は、業務委託契約の形でも労働基準法上の労働者と判断されることがあります。その場合は、労働時間の規制が及び、残業代の支払いが必要になります。
業務委託が「雇用」と判断されると、税金にも影響しますか?
影響することがあります。外注費として払っていたものが給与と判断されると、給与として源泉所得税を差し引いて納める必要があったことになり、源泉徴収の漏れを指摘されることがあります。また、外注費は消費税の課税仕入れになりますが、給与は課税仕入れにならないため、仕入税額控除が否認されることもあります。社会保険や労働保険の加入の問題にも広がります。
M&Aで会社を買うとき、どこを確認すればよいですか?
業務委託や外注で働いている人の人数、契約書の有無と内容、働き方の実態(時間・場所の指定、指示の程度、断る自由、使っている車や道具の持ち主)を確認します。労働者と判断されるおそれがある場合は、未払残業代や源泉所得税・消費税・社会保険料の負担を試算し、価格への反映や、売り手の表明保証・補償で手当てします。

※本記事は2026年10月29日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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