保育所は長く「足りない」ことが問題でしたが、今は様子が変わりました。保育所等の定員は2年続けて減り、定員に対する利用児童の割合は87.7%まで下がっています。一方で都市部の一部には待機児童が残り、保育士の採用は依然として難しい状況です。
保育所の経営は、公定価格で収入の単価が決まるため、利用児童数と職員配置、加算の取得で決算が大きく変わります。この記事では、こども家庭庁の統計で業界の今を整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、委託費の使途制限と消費税などの税務の論点、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 保育所等は40,046か所、定員は約302万人、利用児童は約265万人(2026年4月、暫定値)。定員充足率は87.7%で前年から0.7ポイント低下した
- 待機児童は2,435人でピークの2017年の10分の1以下。89.1%の市区町村でゼロとなり、課題は「量」から、人口減少地域の統廃合・規模の縮小・多機能化に移っている
- 私立保育所の収支差率は3.2%、人件費率は73.3%(2023年度決算)。赤字の園は利用率が約7ポイント低い
- 銀行が見るのは利用率と年齢構成、加算の取得状況、職員の定着。委託費には使途の定めがあり、返済原資の説明に注意が必要
- 税務は、認可保育所と証明書のある認可外の保育料は非課税。証明書がない施設は対象外。事業譲渡では認可の取り直しと補助金の財産処分が論点
保育業界の今:足りない時代から、余り始める時代へ
定員と利用児童、待機児童の数字
| 指標 | 2026年4月 | 2025年4月 |
|---|---|---|
| 保育所等の数 | 40,046か所(+71か所) | − |
| 利用定員 | 3,016,417人(▲12,865人) | 3,029,282人 |
| 利用児童数 | 2,646,756人(▲31,661人) | 2,678,417人 |
| 定員充足率 | 87.7% | 88.4% |
| 待機児童数 | 2,435人(+181人) | 2,254人 |
| 待機児童ゼロの市区町村 | 1,552(全体の89.1%) | 1,530 |
出典:こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和8年4月1日)」。令和8年熊本地震の影響で、熊本県内の数字が未確定のため暫定値です
待機児童は増えましたが、同庁の説明では、東京都内で大きな増加があったことなどが影響しています。全国で見れば、ピークだった2017年の10分の1以下です。また、施設の数は増えているのに定員は減っています。園の数を保ちながら、定員を小さくしている姿が読み取れます。
需要の面では、女性の就業率(25〜44歳)の上昇が支えになっています(2025年は83.6%、総務省「労働力調査」、同資料)。一方、2025年の出生数は671,270人(確定数)で過去最少となり、利用児童の減少は続く見通しです。
認可外の保育施設は、2024年3月末時点で就学前の入所児童が218,752人で、前年の226,985人から減りました(こども家庭庁「令和5年度 認可外保育施設の現況取りまとめ」)。
倒産より廃業が目立つ
帝国データバンクの調査では、2025年の保育園運営事業者の倒産は14件、休廃業・解散は32件で、合計46件は年間の最多でした。2026年1〜8月も計36件(倒産6件、休廃業・解散30件)で、前年同期の27件を上回っています。7割超が三大都市圏以外の地方です(帝国データバンク、2026年9月4日)。法的整理の倒産より、自ら閉じる休廃業・解散のほうが多いのが特徴です。
人手不足と制度の変化
保育士の有効求人倍率は2025年7月時点で2.77倍で、全職種の1.18倍を大きく上回ります(こども家庭庁)。公定価格の人件費は、人事院勧告を踏まえて、令和6年勧告の分で10.7%、令和7年勧告の分で5.3%改善されました。
2026年度の主な変更は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 新しい事業類型 | 満3歳以上限定の小規模保育事業の創設(2026年4月施行) |
| 過疎地の加算 | 利用児童15人以下などの小規模施設向けに特別地域保育体制確保対応加算を創設 |
| 減算の創設 | 安全計画の策定等を行っていない場合、経営情報等の報告を行っていない場合の減算(2026年7月〜) |
| 配置基準 | 3歳児の年齢別配置基準(15人に1人)の経過措置は2027年度末まで |
| ICT | 要件をすべて満たす施設への保育ICT推進加算を創設 |
出典:こども家庭庁「令和8年度 公定価格・基準等の見直し事項」令和8年4月
このほか、0歳6か月から満3歳未満の未就園児を対象とする「こども誰でも通園制度」が2026年度から給付制度として始まりました(こども家庭庁 Q&A)。定員に余裕のある園にとっては、新しい収入源と地域との接点になり得ます。
2026年12月25日にはこども性暴力防止法が施行されます。認可保育所は義務の対象、認可外保育施設などの民間事業者は国の認定を受ける仕組みです。採用時の確認や記録の管理の費用も、計画に入れておきましょう。
収益構造と決算書の特徴
公的な調査で見る収支
こども家庭庁の調査(2023年度決算)では、私立施設の数字は次のとおりです。
| 区分 | 収支差率 | 人件費比率 | 常勤の保育士等の給与月額 |
|---|---|---|---|
| 保育所 | 3.2%(前回2.3%) | 73.3% | 34.1万円 |
| 認定こども園 | 2.1%(前回4.2%) | 71.8% | 32.7万円 |
| 小規模保育(A型) | 7.9%(前回10.3%) | 66.5% | 29.0万円 |
| 事業所内保育(B型適用) | ▲6.7%(前回5.7%) | 82.6% | 27.1万円 |
出典:こども家庭庁「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査 集計結果」。前回は2018年度決算。認定こども園は基本金組入前。給与は賞与の12分の1を含む
調査の平均的な保育所は定員90.6人、収益約1億4,648万円、人件費約1億730万円でした。実際の配置は公定価格の基準より3.6人多く、基準より手厚い配置が収支を圧迫している面もあります。ただ、配置を厚くすることは保育の質と採用に関わるため、単純に削ればよいものではありません。
福祉医療機構の融資先の分析では、2024年度の保育所の赤字施設割合は18.0%、利用率は96.6%でした。黒字施設と赤字施設を比べると差がはっきりします。
| 指標(保育所・2024年度) | 黒字施設 | 赤字施設 |
|---|---|---|
| 利用率 | 97.9% | 90.7% |
| 利用児童単価 | − | 黒字施設より月9,832円低い |
| 人件費率 | − | 黒字施設より10.1ポイント高い |
| 従事者1人あたり収益 | − | 黒字施設より63.9万円低い |
出典:福祉医療機構「2024年度 保育所・幼保連携型認定こども園の経営状況について」2026年3月27日。融資先の5,590施設が対象で、公立は含みません
単価の差は、公定価格が高い3歳未満児の比率と、処遇改善や障害児保育などの加算の取得状況から生じています。過疎地域の利用率は92.7%まで下がり、赤字施設の割合も10ポイントほど高くなっています。
小規模な事業者の決算
日本政策金融公庫の調査の「保育所」(61社)は、小規模な事業者の参考になります。
| 指標 | 平均 | 中央値 | 黒字かつ自己資本プラスの企業の平均 |
|---|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | 2.1% | 2.5% | 7.5% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 5.2% | 5.3% | 10.2% |
| 人件費対売上高比率 | 64.7% | 65.4% | 65.0% |
| 借入金回転期間 | 6.7か月 | 4.6か月 | 5.9か月 |
| 自己資本比率 | 4.3% | 9.0% | 32.1% |
| 損益分岐点比率 | 100.9% | 99.3% | 94.2% |
| 従業者1人あたり売上高 | 479万円 | 423万円 | 470万円 |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)医療・福祉 業種別(2026年8月公表)
決算書の読み方
| 項目 | 保育業の特徴 |
|---|---|
| 売上 | 委託費・施設型給付費・地域型保育給付費が中心。単価は地域区分、定員区分、年齢、加算で決まる |
| 売掛金 | 公金が中心で貸倒れは少ない。公庫の受取勘定回転期間は0.3か月 |
| 人件費 | 売上の6〜7割。配置基準があるため、児童が減っても機械的に下げにくい |
| 固定資産 | 自社園舎か賃借かで形が変わる。施設整備の補助金を受けている場合がある |
| 定員 | 定員区分と実際の児童数の差が単価に影響する。定員の見直しが収支の改善になることもある |
定員区分の細分化は2025年度に行われました。児童が減った園は、定員を実態に合わせて減らしたほうが単価が上がる場合があるため、自治体に相談しながら試算する価値があります。
銀行は保育事業のどこを見るか
利用率と年齢別の見通し
公金が入る保育事業は、一般の小規模事業より売上の見通しが立てやすい業種です。その分、銀行はこれから児童が減らないかを見ます。次の数字を年度ごとに示せるようにしましょう。
- 年齢別の利用児童数と定員、申込数の推移
- 周辺の就学前人口の見通しと、近隣の園の開設・閉園
- 加算の取得状況と、取得できていない加算の理由
- 職員の人数、離職率、紹介手数料の金額
委託費の使途と「返済できる資金」
ここは保育業界に固有の論点です。私立保育所の委託費は、児童福祉法に由来する性格から使途の範囲が定められています(こども家庭庁通知「私立保育所に対する委託費の経理等について」最終改正 令和8年3月31日)。
| 論点 | 通知の内容(要旨) |
|---|---|
| 原則 | 人件費・管理費・事業費に支出する |
| 弾力運用 | 配置や給与規程などの要件を満たせば、区分を超えて充当でき、人件費・修繕・備品等の積立資産に積み立てられる |
| 施設整備と借入金 | 処遇改善等加算の基礎分の範囲内などで、同じ設置者の保育所等の建物整備、賃借料、それらに係る借入金の償還に充当できる |
| 繰越 | 翌年度に繰り越せる当期末支払資金残高は、委託費収入の30%以下 |
| 貸付 | 同一法人内の他の拠点や本部への貸付は、やむを得ない場合に年度内に限る。それ以外への貸付は認められない |
| 確認の対象 | 積立支出と当期資金収支差額の合計が事業活動収入の5%を超える場合などは、分析表の提出を求めて遵守状況を確認する |
つまり、損益計算書の利益と、借入金の返済に使える資金は一致するとは限りません。銀行に返済計画を説明するときは、どの資金からいくら返済できるのかを通知の枠組みで整理する必要があります。社長への貸付や関連会社への資金移動は、指導の対象になる可能性があるだけでなく、銀行の評価も下げます。社長への貸付金は、特に注意してください。
なお、認定こども園や小規模保育は施設型給付・地域型保育給付で、委託費とは仕組みが異なります。自園の類型に応じて確認しましょう。
債務償還年数と資金調達先
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。公庫の平均の借入金回転期間6.7か月、償却前利益率5.2%で仮に計算すると、現預金と税金を考えなければ約11年です。黒字企業の平均(5.9か月、10.2%)なら約5年です。
資金調達では、民間の銀行と日本政策金融公庫に加えて、社会福祉法人などは福祉医療機構の融資が候補になります(融資制度のあらまし)。株式会社の場合の対象は施設の類型により異なるため、機構に確認してください。
業界固有のリスク
- 職員の退職:配置基準を下回ると減算や受入れの制限につながる(2026年度に、急な退職の場合の減算の適用時期が見直された)
- 事故・不適切保育:一つの事案が、認可や評判に直結する
- 賃借園舎の更新:長期の賃料と、退去時の原状回復の費用
- 自己資本の薄さ:公庫の中央値で9.0%。自己資本比率の目安を確認する
審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントで解説しています。
保育事業の税務・会計の論点
消費税:非課税の範囲
認可保育所の経営は社会福祉事業で、保育料などは非課税です(タックスアンサーNo.6201)。認可外の扱いは、国税庁の質疑応答事例で次のように整理されています。
| 区分 | 取扱い |
|---|---|
| 指導監督基準を満たす証明書のある施設、幼稚園併設型の保育料(延長・一時・病児保育を含む) | 非課税 |
| 保育に必要な予約料、年会費、入園料、送迎料 | 非課税 |
| 給食費、おやつ代、施設に備え付ける教材の教材費、保険料の負担金、施設費(保育に必要不可欠なもの) | 別の名目でも非課税 |
| 選択で受けるクリーニング代、オムツサービス代、習い事の講習料 | 課税 |
| 利用者に販売する教材、バザー収入、家事代行の料金 | 課税 |
出典:国税庁 質疑応答事例「認可外保育施設の利用料」(令和7年8月1日現在)
証明書の有無が税務の出発点です。証明書がない認可外施設は、この非課税の対象になりません。証明書の交付状況と、行政の立入調査の結果を確認し、料金表の項目ごとに課税・非課税を分けておきましょう。
建物の消費税と補助金
売上の大半が非課税だと、園舎の建築や内装にかかった消費税は、仕入税額控除でほとんど取り戻せないことがあります。資金計画は消費税込みの工事費で立てましょう。
施設整備の補助金は、工事の完了後に入金されることが多く、つなぎの資金が必要です。固定資産の取得に充てる補助金については、圧縮記帳の可否を確認します。考え方は補助金と圧縮記帳で解説しています。
法人格による違い
株式会社は、通常どおり法人税の課税対象です。社会福祉法人は公益法人等として、法人税の対象は収益事業の所得に限られます。一方、株式会社でも保育料は非課税、社会福祉法人でも職員の給与の源泉徴収は同じです。法人格ごとに会計基準も異なるため、複数の施設を持つ法人は、施設別に損益を出せる形にしておくことが、委託費の管理にも銀行への説明にも役立ちます。
事業承継・M&A:認可の取り直しと、職員の同意が鍵
保育所等の合併・事業譲渡の統計はありませんが、こども家庭庁の調査研究のアンケートでは、回答した9,597事業者のうち92.5%は打診をしたことも受けたこともなく、経験があるのは7.5%でした(保育所等の合併・事業譲渡等に関するガイドライン 令和8年3月)。こども家庭庁は人口減少地域の統廃合や規模の縮小を促す方針で、今後は増えると見られます。
| 承継の形 | 主な手続き |
|---|---|
| 株式会社の株式譲渡・親族内承継 | 設置者の法人は同じ。役員の変更の届出など自治体に確認 |
| 認可保育所の事業譲渡 | 譲渡側は保育所の廃止、譲受側は設置の認可。市町村の確認も必要 |
| 小規模保育の事業譲渡 | 譲渡側は廃止の承認、譲受側は事業の認可 |
| 社会福祉法人の事業譲渡 | 譲渡側は定款に記載した事業の廃止の認可、譲受側は事業追加の認可 |
| 社会福祉法人・学校法人の合併 | 包括承継で、認可は原則として存続法人に引き継がれる |
| NPO法人・株式会社の合併 | 包括承継とは整理されず、設置者の変更や確認が必要 |
出典:同ガイドライン。実際の手続きは施設の類型と自治体により異なる
社会福祉法人には株式がなく、株式のように売却して対価を受け取る形はとれません。後継の理事長をどう選ぶか、親族以外の法人との合併を検討するかが、事業承継のテーマになります。
ガイドラインは失敗の例も挙げています。職員に知らせず遠方の会社への譲渡を決めた結果、保育士の8割が退職を表明し、自治体が認可を保留して休園に至った例や、補助金で整備した建物の財産処分の申請を怠り、一括返還を命じられた例です。買い手・売り手が確認したい点は次のとおりです。
- 施設整備の補助金の履歴と、財産処分の承認の要否。有償譲渡では残存期間に応じた返還が生じる
- 園長・主任保育士の残留と、職員への説明の時期(キーパーソンの残留)
- 給与体系の違いと、処遇改善等加算の要件を譲受側で満たせるか
- 土地・建物の賃貸借契約のチェンジ・オブ・コントロール条項
- 未払残業代、監査の指摘事項、事故の記録
- 社長の個人保証の扱い(事業承継と経営者保証)
手続き全体の比較は許認可はM&Aで引き継げるかにまとめています。閉園を選ぶ場合も、在園児の転園先の確保に時間がかかるため、廃業と売却の比較を含めて早めに検討しましょう。
経営者が今やっておきたいこと
- 年齢別の利用児童数と定員の推移を5年分まとめ、今後3年の見通しを作った
- 定員の見直しで公定価格の単価がどう変わるかを試算した
- 取得できていない加算を洗い出し、取得の可否を確認した
- 安全計画の策定と経営情報等の報告の状況を確認した(減算の対象にならないか)
- 3歳児の配置基準の経過措置の終了(2027年度末)に向けた職員計画を作った
- 委託費の使途と繰越の状況を点検し、返済の原資を整理した
- 認可外の場合、証明書の交付状況と料金ごとの消費税の区分を確認した
- 施設整備の補助金の履歴と、財産処分の制限期間をまとめた
- こども性暴力防止法の施行に向けた手続きと費用を確認した
- 園長の後任と、法人の承継の形を検討している
資金の見通しは資金繰り表の作り方で解説しています。
まとめ
保育業界は、待機児童の解消を目指して増やす時代から、地域ごとに必要な規模を見直す時代に入りました。定員充足率が下がるなかでは、利用率と年齢構成を管理し、加算を確実に取得し、職員に定着してもらうことが、決算と銀行の評価の両方に直結します。委託費の使途を踏まえて返済計画を説明できること、消費税の区分と補助金の履歴を整えておくことも、他業種にはない準備です。承継や統合を考えるなら、職員と自治体への相談を最初に置いて進めましょう。
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