農業法人は、米や野菜、果樹、畜産などを会社の形で営む農業の担い手です。農業を続ける人が減るなかで、離農した人の農地を引き受けて規模を広げる法人が増え、地域の農業を支える存在になっています。農林水産省の資料によれば、農業法人は経営耕地面積の約4分の1、販売金額の約4割を担っています(農林水産省「農業法人の財務状況の特徴と経営改善のための取組について」、2024年6月)。
この記事では、農業法人の経営の動向を国の統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、準備金・消費税・減価償却などの税務、農地と株式の事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 2025年の農業経営体は83.6万で5年前から22.3%減った。一方、法人経営体は3.4万で10.1%増え、常雇いは24.2万人と54.4%増えた
- 農業法人の多くは営業利益がマイナスで、交付金などの営業外収益で経常黒字を確保している。自己資本比率も他産業より低い
- 銀行は、交付金を除いた本業の利益と、規模拡大の投資の回収計画を見る。農地は担保としての評価が付きにくい
- 税務では、農業経営基盤強化準備金(2027年3月まで)、消費税の簡易課税の事業区分、補助金の圧縮記帳を押さえたい
- 農地を持つ法人は、承継後も農地所有適格法人の要件を満たし続ける必要がある。株式の分散に注意
農業の今:担い手は減り、法人と大規模経営に集まる
| 指標 | 数字 | 時点 |
|---|---|---|
| 農業経営体数 | 83万6千(5年前比22.3%減) | 2025年2月1日 |
| うち個人経営体 | 79万6千(同23.3%減) | 同 |
| うち団体経営体 | 4万(同4.9%増) | 同 |
| うち法人経営体 | 3万4千(同10.1%増。うち会社法人2万5千、同23.0%増) | 同 |
| 1経営体当たりの経営耕地面積 | 3.6ha(北海道33.7ha、都府県2.6ha) | 同 |
| 基幹的農業従事者(個人経営体) | 103万6千人(同24.0%減)、平均年齢67.7歳 | 同 |
| 常雇い(年7か月以上の契約で雇った人) | 24万2千人(同54.4%増) | 同 |
出典:農林水産省「2025年農林業センサス 農林業経営体調査」結果の概要(確定値)(2026年8月公表、e-Stat掲載)
個人で農業を営む人は5年で4分の3ほどに減り、残った人の平均年齢は67.7歳です。その一方で、法人、とくに株式会社などの会社法人は2割以上増え、雇われて農業で働く人も大きく増えました。経営耕地面積でも20ha以上の層が全体の49.7%を占めるようになり、農地が大きな経営体と法人に集まっていることが分かります。
足元の景況は、品目によって大きく分かれています。日本政策金融公庫が融資先の担い手農業者に行った調査では、2026年上半期の農業景況DIは▲4.6と、2025年の29.0からマイナスに転じました。米の価格の上昇で大きく改善していた稲作も、都府県で81.9から18.8へ下がっています。生産コストDIは▲89.9と、ほぼすべての業種で「コストが上がった」とする回答が多数でした(日本政策金融公庫「農業景況調査(令和8年7月調査)」、2026年9月17日)。それでも、2026年に「設備投資予定あり」と答えた割合は60.7%と高く、規模拡大や省力化への投資意欲は続いています。
農業法人の収益構造と決算書の特徴
本業は赤字、交付金で経常黒字という形が多い
農林水産省が、日本政策金融公庫の融資先の農業法人(2021年決算、売上高1,000万円以上)の財務データを分析した結果を、主な営農類型で見てみます。
| 指標(中央値) | 稲作 | 露地野菜 | 施設野菜 | 酪農 | 養豚一貫 | 参考:製造業 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,650万円 | 1億540万円 | 1億2,340万円 | 2億890万円 | 3億9,120万円 | 5億6,100万円 |
| 売上高総利益率 | 17.4% | 26.7% | 29.9% | 16.3% | 20.2% | 22.3% |
| 売上高営業利益率 | −9.1% | −3.3% | −5.8% | −3.9% | 0.5% | 1.4% |
| 売上高経常利益率 | 3.3% | 2.8% | 0.3% | 2.1% | 2.2% | 2.7% |
| 自己資本比率 | 21.9% | 14.4% | 0.6% | 21.3% | 38.4% | 33.1% |
| 売上高キャッシュフロー比率 | 13.9% | 13.5% | 7.1% | 16.3% | 8.7% | 1.7% |
出典:農林水産省「農業法人の財務状況の特徴と経営改善のための取組について」(2024年6月。農業法人は日本政策金融公庫の融資先の2021年決算、他産業は帝国データバンクの2021年度データ。いずれも中央値)
この表から、農業法人の決算書の特徴が3つ読み取れます。
- 営業利益はマイナス、経常利益はプラス:経営所得安定対策などの交付金や補助金が、売上ではなく営業外収益に入るためです。交付金がなければ赤字、という法人が少なくありません
- 自己資本が薄い:資本金が小さく、利益の積み上げも少ないため、自己資本比率は他産業より低めです
- 償却前の資金は残りやすい:機械やハウス、牛舎などの減価償却費が大きく、売上高に対するキャッシュフローの比率は他産業より高めです
このほか、生物も固定資産になる点も業界特有です。果樹や乳牛・繁殖牛などは、成熟して収穫・搾乳などに使い始めてから、減価償却資産として償却します。
銀行は農業法人のどこを見るか
返済能力:交付金を除いた本業の利益で見る
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。
たとえば売上高5,650万円の稲作法人(上の表の中央値)で、売上高キャッシュフロー比率13.9%なら、年に約785万円の資金が残る計算です。借入金8,000万円、現預金1,000万円なら、債務償還年数は約8.9年になります(法人税等を考慮しない単純な試算)。ただし、このキャッシュフローには交付金が含まれています。銀行は、交付金が制度の見直しで減ったときにも返済が続くかを見ますので、交付金の種類ごとの金額と、交付の根拠となる作付計画を説明できるようにしておきましょう。審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントで解説しています。
資金の出入りの季節性と、借入の使い分け
稲作や露地野菜は、春に資材・燃料の支払いが集中し、売上の入金は秋以降、交付金はさらに後になります。作付けから入金までの運転資金は短期の借入で、トラクターやコンバイン、ハウス、畜舎などは長期の設備資金で、と分けて借りるのが基本です(運転資金の融資の考え方、借入期間と耐用年数の考え方)。
農業の資金は、民間の銀行や信用金庫に加え、農協(JAバンク)や日本政策金融公庫の農林水産事業も大きな役割を担っています。公庫の農業景況調査の対象が「スーパーL資金又は農業改良資金等のご融資先」とされているように、認定農業者向けの長期の制度資金は、規模拡大の投資の柱になっています。
業界特有のリスクとして見られる点
| リスク | 銀行が確認すること |
|---|---|
| 天候・病害・家畜の伝染病 | 収入保険や共済への加入、過去の被害と回復の実績 |
| 価格の変動 | 品目と販路の分散、契約栽培・直販の割合 |
| 資材・飼料・燃料の値上がり | コストの推移と、販売価格への反映 |
| 交付金への依存 | 交付金を除いた損益、制度変更の影響 |
| 担保の弱さ | 農地は買い手が農業者などに限られ、担保としての評価が付きにくい |
| 人手 | 常雇いの確保、技術を持つ従業員の定着 |
自己資本が薄い法人は、利益を残して純資産を厚くしていくことが、次の借入につながります(自己資本比率の目安、債務超過と融資)。
農業法人特有の税務・会計の論点
農業経営基盤強化準備金
経営所得安定対策などの交付金を、農業経営改善計画などに従って積み立てると、積立額を損金(個人は必要経費)に算入できる制度です。積み立てた準備金を取り崩して農用地や農業用の機械・建物などを取得したときは、圧縮記帳が使えます(租税特別措置法61条の2・61条の3)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 青色申告をする認定農業者(個人・農地所有適格法人)または認定新規就農者で、地域計画で「農業を担う者」に位置付けられている農業者 |
| 適用期限 | 2027年3月31日まで(令和7年度税制改正で2年延長) |
| 農用地の取得 | 2026年4月以降の取得は、地域計画で準備金を活用する人が利用する農用地として定められていることが必要 |
出典:農林水産省「農業経営基盤強化準備金」、国税庁 措置法通達 第61条の2関係
準備金は課税の繰延べで、圧縮記帳した資産はその分だけ減価償却費が小さくなります。利益を一時的に圧縮すると、決算書の純資産も薄く見える点は、融資を受ける立場では意識しておきたいところです。
補助金と圧縮記帳
機械や施設の購入に国や自治体の補助金を受けたときは、補助金は収益になり、一定の要件で圧縮記帳ができます(法人税法42条)。補助金で取得した機械の消費税の扱いは、補助金で農機を買ったときの仕入税額控除で解説しています。
消費税:簡易課税の事業区分
簡易課税を選んでいる場合、農業のうち飲食料品の譲渡に係る事業は第2種(みなし仕入率80%)、花きなど飲食料品以外は第3種(同70%)です(国税庁 No.6505)。同じページでは、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の譲渡の消費税率が引き下げられ、その間は簡易課税に特別な計算方法があるとされています。肥料や農薬、燃料、機械の仕入れは標準税率のままですので、本則課税の法人は還付になる場合もあり、課税方式の選択を見直す余地があります。
減価償却と収益の計上
農業用の機械・装置の法定耐用年数は7年です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第二「農業用設備」)。果樹や牛などの生物は、別表第四で種類ごとに耐用年数が決まっています。個人の農業者は、農産物を収穫した時点の価額で収入に計上する特別な扱いがありますが(所得税法41条)、法人では通常の棚卸資産として期末に評価します。法人化した年は、在庫の計上方法が変わるので注意が必要です(個人事業の法人成り)。
事業承継・M&A:農地の権利と株式をまとめて考える
個人で農業を営む人が5年で2割以上減ったことは、後継者のいない経営から、農地を引き受ける法人へと担い手が移っていることを示しています。法人自身の承継では、次の点が論点になります。
| 論点 | 確認すること |
|---|---|
| 農地所有適格法人の要件 | 農業関係者が総議決権の過半、役員の過半が法人の農業に常時従事、役員または重要な使用人の1人以上が農作業に従事(原則年60日以上)など。承継後も満たし続ける必要がある |
| 株式の分散 | 農業に従事しない親族や外部の人に株式が渡ると、議決権の要件を外れるおそれ |
| 農地の名義 | 法人の所有か、創業家個人からの賃借か。個人名義の農地は相続で分散しやすい |
| 認定・制度資金 | 認定農業者の認定、借入の条件、交付金の受給者の変更手続 |
| 技術と取引先 | 栽培・飼養の技術、販売先との契約を後継者に引き継げるか |
出典:農地法2条3項、農林水産省「農業経営発展計画制度について」
2025年4月からは、食品事業者などと連携する農地所有適格法人が国の認定を受けると、議決権の要件を緩める特例も設けられました。外部からの出資を受け入れる場合は、この特例を使うかどうかも含めて、株式の設計を考えましょう。親族への承継の進め方は親族内承継のメリットと注意点、自社株の承継の税制は事業承継税制の基本、議決権の設計は事業承継での種類株式の活用も参考にしてください。
経営者が今やっておきたいこと
- 交付金・補助金を除いた本業の損益を、営農類型(作目)ごとに把握している
- 作付けから入金・交付金の受取りまでの月ごとの資金繰り表がある
- 資材・飼料・燃料の値上がりを、販売価格や契約にどう反映するか決めている
- 収入保険・共済の加入状況と、災害時の資金の手当てを確認している
- 農業経営基盤強化準備金の要件(地域計画への位置付け、2027年3月の期限)を確認している
- 2027年4月からの飲食料品の税率引下げに向けて、課税方式と請求書の税率区分を点検している
- 農地の名義と賃貸借の契約、株主構成と農地所有適格法人の要件を一覧にしている
- 後継者または中核の従業員に、技術と販売先を引き継ぐ計画がある
農産物を加工・販売する会社の動向は、食品製造業や食品スーパー・食品小売業でも解説しています。
まとめ
- 2025年の農業経営体は83.6万で5年前から22.3%減。法人経営体は3.4万で10.1%増え、農地と雇用が法人に集まっている
- 農業法人の多くは営業赤字を交付金で補う構造で、自己資本比率も低め。交付金を除いた本業の利益が問われる
- 銀行は、交付金が減っても返済できるか、規模拡大の投資を回収できるかを見る。運転資金と設備資金は分けて借りる
- 農業経営基盤強化準備金(2027年3月まで)、簡易課税の事業区分、補助金の圧縮記帳、法人化時の在庫の扱いを押さえる
- 承継では、農地所有適格法人の要件を満たし続けられるよう、株式・役員・農地の名義をまとめて整理する
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