漁業・養殖業は、海や川、湖で魚介類や海藻をとり、育てる業界です。担い手の多くは家族で営む個人の漁業者と、漁船や養殖いけすを持つ中小の会社で、地域の漁協や市場、水産加工の会社と一体になって地域の経済を支えています。
この記事では、漁業・養殖業の経営の動向を水産白書や国の統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、消費税・変動所得・減価償却などの税務、漁業権と事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 2024年の漁業・養殖業の生産量は約364万t(前年比約5%減)。海面漁業経営体は2023年に6万5,662で、20年前の半分
- 生産額は約1兆6,297億円で、その約44%を養殖が占める。2025年の水産物の輸出は4,231億円(前年比17.2%増)
- 漁船漁業の会社は平均で漁労利益がマイナス、漁労外の事業や営業外収益で経常黒字。燃油と漁船の老朽化が重い
- 個人の漁業者には変動所得の平均課税がある。消費税の簡易課税は、食用の水産物なら第2種
- 漁業権は移転が制限され、貸付けもできない。承継の方法で手続が変わるので早めに確認したい
漁業・養殖業の今:生産は減少、養殖と輸出に活路
| 指標 | 数字 | 時点 |
|---|---|---|
| 漁業・養殖業の生産量 | 約364万t(前年から約19万t、約5%減) | 2024年 |
| うち海面漁業の漁獲量 | 約279万t | 同 |
| うち海面養殖業の収獲量 | 約80万t | 同 |
| 漁業・養殖業の生産額 | 約1兆6,297億円(うち養殖業 約7,240億円、約44%) | 同 |
| 漁業就業者数 | 11万4,820人(前年比5.4%減) | 2024年 |
| 新規漁業就業者数 | 1,754人 | 2024年度 |
| 漁船の隻数 | 約10.7万隻 | 2024年 |
| 10トン未満の漁船のうち船齢20年以上 | 約85%(30年以上は約65%) | 2024年度 |
出典:水産庁「令和7年度 水産白書」第1部第2章(1)漁業・養殖業の国内生産の動向、同(2)漁業の経営の動向、同(3)漁業の就業者をめぐる動向
生産量の減少の背景には、海洋環境の変化や水産資源の減少があるとされています。一方で、2024年の海面養殖業の生産額は、のりの不作による価格の上昇やクロマグロの増加で、前年から約2%増えました。生産量では2割ほどの養殖が、生産額では4割を超えることからも、育てる漁業の比重が高まっていることが分かります。
漁業の経営体の数も減り続けています。2023年の海面漁業経営体は6万5,662で、5年前(7万9,067)から17.0%減り、2003年(13万2,417)の約半分になりました。その中で、会社経営体は2,651と5年前から4.0%増えています(農林水産省「2023年漁業センサス構造分析書」、2026年3月)。
輸出は伸びています。2025年の水産物の輸出額は4,231億円(前年比17.2%増)で、ホタテ貝が約906億円(同30.4%増)、ぶりが約528億円(同27.4%増)でした(農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」、2026年2月)。
中小漁業の収益構造と決算書の特徴
漁船漁業の収支:魚価で改善しても、本業は厳しい
農林水産省が2026年10月30日に公表した2025年の漁業経営の調査では、漁船漁業の収支は次のとおりでした。
| 指標(1経営体当たり) | 個人経営体(漁船漁業) | 会社経営体(漁船漁業) |
|---|---|---|
| 漁労収入(売上高) | 994万円 | 3億4,620万円 |
| 漁労支出 | 644万円 | 3億8,992万円 |
| 漁労所得・漁労利益 | 350万円 | −4,371万円 |
| 経常利益 | — | 788万円 |
出典:農林水産省「令和7年漁業経営統計調査結果」(2026年10月30日公表)。個人経営体は専業または第1種兼業、会社経営体は使用する動力漁船の合計トン数が10トン以上の経営体。2025年調査から計上方法の一部が見直されている
旧基準で比べると、2025年は魚の価格が上がったことで、個人経営体の漁労所得は前年から41.8%増えました。それでも会社経営体は、漁労(本業)ではマイナスで、漁労以外の事業や営業外収益を加えてようやく経常黒字という形です。
決算書に表れる業界特有のポイント
- 売上が年によって大きく動く:漁獲量と魚価は資源や海の状態で変わり、マイワシ・サバ・サンマなどは数量で価格が大きく動く
- 燃油費の比重が高い:A重油の価格が経営を左右する。2026年2月末からの中東情勢で、価格は不安定になっている
- 漁船・設備が古い:10トン未満の漁船の約85%が船齢20年以上。修繕費がかさみ、更新の資金が課題になる
- 養殖は在庫と餌代が重い:ぶりやまだいなどの魚類養殖は、出荷まで1年以上育てる魚が在庫として残り、配合飼料などの餌代が大きな割合を占める
- 制度の受取金:漁業共済や漁業収入安定対策(積立ぷらす)などの受取金が、損益に影響する
銀行は漁業のどこを見るか
返済能力:数年分の平均で見る
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。漁業は1年ごとの利益の振れが大きいため、1期の結果ではなく、数年分の平均の償却前利益で返済能力を説明するのが現実的です。不漁の年の赤字が一時的なものか、構造的なものかを、漁獲量・魚価・コストの推移で示しましょう。審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントで解説しています。
設備資金:漁船の更新と養殖施設
漁船の建造・中古船の購入、エンジンの換装、養殖いけすや陸上の施設などは、長期の設備資金で借りるのが基本です(借入期間と耐用年数の考え方)。漁業の資金は、民間の銀行や信用金庫のほか、漁協系統の金融機関(JFマリンバンク)や日本政策金融公庫の農林水産事業、漁業信用基金協会の保証などが使われます。水産庁は、地域の計画で中核的な漁業者とされた人が漁船をリース方式で導入する取組も支援しています。
運転資金:漁期と養殖の育成期間
漁期の前に燃油や資材、人件費がかかり、水揚げ後に入金されます。養殖では、稚魚の購入から出荷まで餌代が出続けるため、出荷までの期間に見合った運転資金が必要です(運転資金の融資の考え方)。在庫として育てている魚の尾数・重量と出荷の予定を、月ごとに資金繰り表に落としておくと説明しやすくなります。
業界特有のリスクとして見られる点
| リスク | 銀行が確認すること |
|---|---|
| 資源・海洋環境の変化 | 漁獲量の推移、対象魚種・漁法の分散 |
| 燃油・餌の値上がり | コストの推移、漁業経営セーフティーネット構築事業などへの加入 |
| 漁船の老朽化 | 船齢、修繕の履歴、更新の時期と資金計画 |
| 赤潮・病気・台風 | 漁業共済・保険への加入、被害の実績 |
| 人手 | 乗組員・海技資格を持つ人の確保 |
| 販路 | 市場出荷と直販・加工・輸出の割合 |
国の2025年度補正予算では、燃油や配合飼料の値上がりに備える漁業経営セーフティーネット構築事業に232億円が措置されました(水産白書)。こうした制度への加入状況も、リスクへの備えとして説明できます。
漁業特有の税務・会計の論点
消費税:食用の水産物は簡易課税の第2種
簡易課税を選んでいる場合、漁業のうち飲食料品の譲渡に係る事業は第2種(みなし仕入率80%)、それ以外(観賞用の魚、飼料用、真珠など)は第3種(同70%)です(国税庁 No.6505)。同じページでは、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の譲渡の消費税率が引き下げられるとされています。燃油や漁具・資材の仕入れは標準税率のままですので、本則課税の事業者は還付になる場合もあり、課税方式の選択を見直す余地があります。
個人の漁業者:変動所得の平均課税
所得税には、年によって大きく変動する所得の税負担を平準化する「変動所得の平均課税」があります。漁業では、次の所得が対象です。
| 対象になるもの | 対象にならないもの |
|---|---|
| 漁獲(水産動物の捕獲)、のりの採取 | こんぶ・わかめなどの水産植物の採取 |
| はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝、真珠、真珠貝の養殖 | えび、こい、ますなどの養殖 |
| 自分でとったものに、切断・乾燥・冷凍・塩蔵などの簡易な加工をして売る所得 | — |
出典:国税庁 所得税基本通達2-30、国税庁 所得税基本通達 法第90条関係
変動所得と臨時所得の合計が総所得金額の20%以上であることなどが要件です。法人には同じ制度がないため、法人化を考えるときは、役員報酬で所得を平準化できる点と合わせて比較しましょう(個人事業の法人成り)。
減価償却:設備は5年、漁船は船舶として
減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第二では、「漁業用設備」と「水産養殖業用設備」の法定耐用年数はいずれも5年です。漁船そのものは船舶として、別表第一で材質や総トン数に応じた耐用年数を使います。中古の漁船を買う場合は、残りの耐用年数の見積りも論点になります。修繕のたびに、修繕費か資本的支出かの判断も必要です(修繕費と資本的支出の考え方)。
補助金・共済の受取金
漁船や設備の取得に国や自治体の補助金を受けたときは、補助金は収益になり、一定の要件で圧縮記帳ができます(法人税法42条)。漁業共済や積立ぷらすの受取金は、どの事業年度の収益になるかを、支払の通知や制度の内容に沿って整理しておきましょう。
事業承継・M&A:漁業権・許可・漁船・乗組員
漁業センサスの分析では、二世代で営む個人経営が減り、後継者の確保が難しい経営体が多いことが指摘されています。親子で操業できるだけの漁業所得を確保できる漁業種類は限られる、という見方も示されています。
漁業の承継では、会社の株式や漁船だけでなく、漁業を営む権利と許可が論点になります。
| 権利・許可 | 主なポイント |
|---|---|
| 漁業権(定置・区画・共同) | 権利の移転が制限され、貸付けは禁止。定置漁業権は漁業者、区画漁業権は漁業者または漁協等、共同漁業権は漁協等に免許される。存続期間は定置5年、区画5年(真珠など一部は10年)、共同10年 |
| 法人化の特例 | 定置・区画漁業権を持つ個人が、改善計画に従って法人化し、知事が認可した場合は、法人に漁業権を移せる(漁業経営の改善及び再建整備に関する特別措置法) |
| 大臣許可・知事許可の漁業 | 漁船ごとの許可。相続・事業の譲渡・法人化では、許可の承継や新たな申請の手続が必要 |
| 漁協の組合員資格 | 共同漁業権の漁場で操業するには、漁協の組合員であることが前提になる |
出典:水産庁 九州漁業調整事務所「漁業権について」、水産庁「漁業法等の一部を改正する等の法律の概要」
会社の株式を譲り渡す方法なら、漁業権や許可を持つ会社そのものは変わりません。事業の譲渡では、権利と許可の扱いを一つずつ確認する必要があります(事業譲渡と株式譲渡の違い、M&Aでの許認可の引継ぎ)。このほか、船長・機関長などの海技資格を持つ乗組員が引き続き働けるか、漁船や陸上の施設が創業家の個人名義になっていないか、取引先の市場・仲買・加工会社との関係も、早めに整理しておきたい点です。
経営者が今やっておきたいこと
- 魚種・漁法ごとの漁獲量・単価・コストを、数年分の推移で把握している
- 燃油・餌の値上がりへの備え(セーフティーネット事業・共済への加入)を確認している
- 漁船の船齢と更新の時期、必要な資金と調達の方法を計画している
- 養殖の在庫(尾数・重量)と出荷の予定を、月ごとの資金繰り表に落としている
- 漁労(本業)と漁労以外の事業・営業外収益を分けて、銀行に説明できる
- 2027年4月からの飲食料品の税率引下げに向けて、課税方式と請求書の税率区分を点検している
- 漁業権・許可・漁協の組合員資格を、承継の方法ごとに確認している
- 海技資格を持つ乗組員の確保と、次の世代への技術の引継ぎを進めている
とった魚を加工・販売する会社の動向は、食品製造業や卸売業でも解説しています。
まとめ
- 2024年の漁業・養殖業の生産量は約364万tで減少が続き、海面漁業経営体は2023年に6万5,662と20年前の半分
- 生産額の約44%を養殖が占め、2025年の水産物の輸出は4,231億円(前年比17.2%増)と伸びている
- 漁船漁業の会社は平均で本業が赤字。銀行は数年分の推移、燃油と漁船の更新、本業以外の収入の中身を見る
- 消費税は食用の水産物なら簡易課税の第2種。個人には変動所得の平均課税があり、法人化の比較材料になる
- 漁業権は移転が制限され、承継の方法で手続が変わる。権利・許可・乗組員・名義をまとめて整理する
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