融資・資金調達

全東信に貸し続けた金融機関「情報収集弱かった」|監査報告書があっても粉飾は見抜けなかった。越境融資の見直しで、遠くの銀行から借りている会社に起きること

日本経済新聞(2026年11月3日朝刊)が、7月に破産手続きに入ったクレジットカードの決済代行会社「全東信」に融資していた金融機関の内側を報じました。取引のあった金融機関は短期借入金で57、長期借入金で10。担保などで保全されていない58億円を損失処理した東和銀行の頭取は、「情報収集が弱かった」と振り返っています。

当事務所では前日に、金融庁が地銀に「融資先の管理強化」を要請した件を取り上げました。この記事では今回の報道から、なぜ多くの金融機関が見抜けなかったのかと、越境融資の見直しが借り手に何をもたらすかを考えます。

この記事の結論
  • 全東信に融資していた金融機関は、短期借入金で57、長期借入金で10。金融庁の緊急調査では、不良債権として管理していたのは3つの金融機関だけだった(日本経済新聞)
  • 東和銀行は80億円の貸出金のうち保全されていない58億円を損失処理。会計監査人の監査報告書を確認していても粉飾を見抜けなかった
  • 融資した金融機関の7割が大阪府外からの越境融資。一方、異変に気づいて融資を引き揚げていた銀行もあった
  • 銀行は「他人任せの審査」を見直し、実在の確認と期中のモニタリングを強める方向。遠方の銀行から借りている会社は、地元の取引の厚みも見直しておきたい

報道で示された内容

項目報道で示された内容
取引金融機関破産申立書によると、短期借入金で57、長期借入金で10の金融機関。収益基盤に課題のある銀行も、高い利回りを求めて融資に追随
金融庁の調査申立ての翌日から緊急調査。不良債権としてリスク管理していたのは3つの金融機関に過ぎなかった(業界関係者)
東和銀行2012年から融資。全東信への貸出金80億円のうち、保全されていない58億円を損失処理し、2026年4〜6月期は30億円の最終赤字
見抜けなかった理由監査報告書を徴求・検証し、会計処理は適正と判断。コロナ禍で苦しむ飲食店を間接的に支える意義もあった。倒産が少ない時代が続き、リスク感覚も鈍っていた
当局2018年に検査局を廃止し、金融機関の自主性を尊重。7割が大阪府外からの越境融資だったが、当局も十分に点検できていなかった
引き揚げた銀行三井住友銀行やSBI新生銀行など、異変に気づき融資を引き揚げていた金融機関もある
金融庁の要請9月16日の地銀との意見交換会で、信用リスク管理態勢の点検・見直しを求めた

出典:日本経済新聞「全東信に貸し続けた金融機関『情報収集弱かった』」(2026年11月3日朝刊)。破産時の報道では、負債総額は約1,151億円、実際は約605億円の債務超過で、預金残高の水増しなどの手法で粉飾していた可能性があると伝えられています(共同通信(熊本日日新聞))。

なぜ多くの金融機関が見抜けなかったのか

ここからは、税理士・公認会計士として、また監査の実務に携わってきた立場からの考えです。

「他人任せの審査」が重なる構図
監査報告書があるだから決算書は正しいはず
大手も貸しているだから大丈夫なはず
↓
自らの確認が薄くなる
↓
遠方で実態が見えない越境融資
利回りが高い貸したい理由がある
報道をもとに作成。一つひとつは合理的な判断でも、重なると確認の空白が生まれる

監査は、決算書が適正かについて合理的な保証を与えるものですが、経営者が組織ぐるみで隠す不正をすべて見つけられるわけではありません。監査報告書は、銀行が自ら確認することの代わりにはならない、というのが今回の教訓です。

もう一つは距離です。地元の銀行なら、本社や取引先の様子、地域での評判が自然と耳に入ります。遠方からの越境融資では、決算書と面談だけで判断せざるをえない部分が大きくなります。地銀の越境融資の広がりは、地銀再編の主戦場は「大都市」へでも取り上げました。

銀行の審査と管理はどう変わるか

見直しが予想される点借り手が求められそうなこと
実在の確認預金の残高証明、通帳の写し、主要な売掛金・買掛金の明細
期中のモニタリング試算表の定期的な提出、資金繰り表、業績が変わったときの早めの説明
資金の流れ売上の入金口座と支払の口座のつながり。グループ会社との資金のやり取り
越境融資遠方の取引先への融資の点検。新規は慎重に、既存は条件の見直しも
利回りの高い融資高い金利を払う理由の確認。他行がなぜ貸しているかではなく、自行の判断で

融資先の管理の具体的な方向は、銀行が見る試算表や銀行格付けを上げる方法も参考にしてください。

融資が通る決算書と事業計画を、一緒につくります

20行超の金融機関と折衝し、累計120億円超の融資承認を得てきたチームが、資料作成から金融機関への打診まで伴走します。

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遠方の銀行から借りている会社が備えること

  1. 借入の一覧に「どこの銀行か」を加える:地元の銀行、営業地域の外の銀行、それぞれの残高と期限を把握する
  2. 地元の取引を厚くする:越境融資が見直されたとき、借り換えの受け皿になるのは地元の金融機関です(メインバンクのつくり方)
  3. 資料をすぐ出せる体制にする:残高証明、試算表、資金繰り表、主要取引先の明細を、頼まれる前にそろえておく
  4. 説明できない数字を作らない:多額の仮払金、役員やグループ会社への貸付金、理由の分からない預金の動きは、真っ先に確認の対象になります
  5. 期限の短い借入の借り換えを早めに相談する:短期の融資が多い会社は、更新のたびに見直しの対象になりえます

M&Aや取引先の選び方にも同じ教訓

「立派な決算書がある」「大手と取引している」は、安心の材料にはなっても、裏付けにはなりません。会社を買う側のデューデリジェンスでも、通帳と取引先の実在を自ら確認することが基本です(買い手のデューデリジェンス・チェックリスト)。

まとめ

  • 全東信には短期で57、長期で10の金融機関が融資し、不良債権として管理していたのは3つだけだった
  • 東和銀行は監査報告書を確認していても粉飾を見抜けず、58億円を損失処理した
  • 融資した金融機関の7割が越境融資。異変に気づいて引き揚げた銀行もあった
  • 銀行は実在の確認と期中のモニタリングを強める方向。借り手は資料をすぐ出せる体制と、地元の取引の厚みを整えておきたい

取引銀行の構成や、銀行に出す資料の整え方を一度見直したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

全東信の問題で、まじめな中小企業の融資にも影響がありますか?
粉飾とは無関係の会社でも、銀行の確認の手間は増えると考えておいたほうがよいでしょう。預金の残高や売掛金の実在を裏付ける資料、試算表の提出などを求められる場面が増えることが考えられます。普段から資料を早く出せる会社にとっては、むしろ信頼を示す機会になります。
越境融資とは何ですか?自社に関係ありますか?
銀行が本来の営業地域の外にある企業に融資することです。地元の資金需要が細るなかで、都市部の企業に貸し出す地方銀行が増えてきました。遠方の銀行から借りている会社は、その銀行が越境融資を見直すと、借り換えや追加の融資が難しくなる可能性があります。
監査報告書があれば、銀行は安心するのではないですか?
今回の報道では、会計監査人の監査報告書を確認していても粉飾を見抜けなかったとされています。銀行は今後、監査や決算書だけでなく、通帳の動き、取引先との実際の取引、資金の流れなどを自ら確認する方向に向かうと考えられます。

※本記事は2026年11月3日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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