クレジットカード決済代行の全東信(大阪市)の破産を受けて、金融庁が地方銀行に対し、融資先の経営状況の管理を強化するよう文書で求めたと、共同通信が2026年9月16日に報じました。同じ9月に公表された「2026事務年度 金融行政方針」にも、与信先の突発破綻を踏まえて与信管理を確認すると書かれています。
全東信は長年決算を粉飾していた疑いがあると報じられており、多くの借り手には関係のない話に見えるかもしれません。ただ、銀行の管理の仕方が変わると、影響はまじめに経営している会社にも及びます。この記事では、公表された資料をもとに、銀行のチェックがどう変わるのか、借り手が何を用意しておけばよいのかを整理します。
- 金融庁は地銀に、融資先の経営状況の管理を強化するよう文書で要請したと報じられた。「他行が取引を続けている」ことを理由に融資を続けた例を問題視(共同通信)
- 金融行政方針は、貸出先の実態把握、与信判断、融資実行後の管理を検証するとし、国内の不動産業向け貸出も重点項目に挙げている
- 今後は融資を受けた後の試算表・資金繰り表・借入残高表の提出や、面談・現地確認が増える可能性がある
- 借り手の対策はシンプル。資料を早く、全行に同じ内容で出すこと。数字の動きを自分の言葉で説明できるようにしておく
報道・発表で示された内容
| 項目 | 示された内容 | 出所 |
|---|---|---|
| 破産 | 全東信が2026年7月6日に破産開始決定。負債は約1,259億円(2025年3月期決算時点)。申立書では金融債権者63社、貸付総額約1,130億円 | 東京商工リサーチ |
| 粉飾の疑い | 長年決算を粉飾していた疑いがあるとされる。調査が続く事案で、確定した事実ではない | 共同通信、東京商工リサーチ |
| 金融庁の要請 | 地方銀行に融資先の経営状況の管理の強化を文書で要請。信用金庫・信用組合にも同様の要請が出るとみられる | 共同通信(9月16日) |
| 問題視された点 | 一部の地銀が、主力行の融資縮小や経営不振につながる情報を把握しながら、他行が取引を続けていることを理由に融資を続けていた | 共同通信 |
| 今後の監視 | 融資実行時の審査体制と融資先の財務状況の管理を厳しく見る。引当金や担保の確保など、リスクに見合った対応を求める | 共同通信 |
| 金融行政方針 | 地域金融機関について、与信先の突発破綻事象も踏まえた与信管理や内部牽制の実効性を確認。貸出先の実態把握、与信判断、融資実行後の管理を検証 | 金融庁(2026年9月) |
| 不動産 | 国内不動産業向け貸出、大口与信などについて、案件審査、期中管理、集中リスク管理の実効性を確認 | 金融庁(2026年9月) |
| 過去の警告 | 不動産業向け融資の増加を懸念し、融資限度額の設定やストレステストの活用が不十分な地銀に改善を求めた | 共同通信(2026年2月20日) |
出典:秋田魁新報(共同通信配信)2026年9月16日、東京商工リサーチ(全東信)、同(粉飾の疑い)、同(債権者)、金融庁「2026事務年度 金融行政方針」、共同通信(2026年2月20日)。
なお、金融庁から地銀への文書そのものは公表資料では確認できていません。要請の内容は報道によるものです。一方、金融行政方針は金融庁の公表資料で確認しています。
銀行のチェックは何が変わるのか
金融庁が2025年6月に公表した「粉飾等予兆管理態勢の高度化に向けたモニタリングレポート」を読むと、銀行が何を問題だと考えているかが見えてきます。
このレポートは、決算時点で問題がなかったからといって、その後の試算表や資金繰り表を確認せずに追加融資をした例や、必要な資料が数か月出てこないのに放置していた例を挙げています。また、主力行が貸しているからと安心して自分では確かめない融資を、レポートは「ぶら下がり」融資と呼び、遠方への越境貸出とあわせて期中管理の弱さを指摘しています。
今回の全東信の件で問題視されたのは、まさにこの点です。ここから、銀行が強化していくと考えられる点を、レポートの項目に沿って整理します。
| 銀行が見る項目(レポートの記載) | 銀行が確かめたいこと | 借り手に起こりそうなこと |
|---|---|---|
| 売上・利益・キャッシュフローの推移 | 業績と資金の動きが合っているか | 利益が出ているのに現金が減る理由を聞かれる |
| 現預金の月商比、売上債権等の回転期間 | 売掛金や在庫が不自然に増えていないか | 回転期間が延びた理由の説明を求められる |
| 税務申告書・勘定科目明細の開示 | 決算書の中身が確かめられるか | 明細の提出を求められる |
| 試算表・金融機関借入残高表の提出状況 | 決算の後も実態を追えるか | 提出の頻度が増える、遅れを指摘される |
| 金融機関の取引数、預金と貸出のシェアのバランス | 借入の全体像が見えているか | 全行の借入一覧を求められる |
| 連結の有無、関係会社 | グループ全体で実態を見られるか | 子会社や資産管理会社の決算書も求められる |
| 経営者との面談の可否、補佐役の有無 | 経営者本人と話せるか | 社長との定期的な面談を求められる |
| 工場・倉庫などの実査 | 規模に見合う在庫や設備があるか | 現地の確認が増える |
※「借り手に起こりそうなこと」は筆者の見立てで、金融庁や銀行が公表したものではありません。
レポートでは、粉飾の予兆に気づいたきっかけは「担当者の違和感」が最も多いとされています(50%)。次いで決算分析が30%、実態把握が20%です。数字だけでなく、担当者が受ける印象も判断材料になっていることが分かります。
また、銀行は自動のアラートやAIの活用も進めています。数字の動きが大きい会社は、理由があってもシステムに拾われる可能性があります。悪いことをしていなくても、説明を求められる場面は増えると考えておいたほうがよいでしょう。
ここで大事なのは、これが借り手を疑うための話ではない、ということです。金融行政方針は同時に、金融機関に対して事業者に寄り添った資金繰り支援や、経営改善・事業再生の支援を促すとしています。不良債権の処分が増える局面でも、取引先の実態をつかんでいる銀行ほど、適切に支援できるはずです(銀行の不良債権処分損が5,355億円と2倍超に)。
借り手が今そろえておくこと
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
| 準備すること | 具体的な中身 | 目安 |
|---|---|---|
| 月次の試算表 | 前年同月と比べて説明できる形にする。減価償却や賞与の未計上がないようにする | 翌月の中旬〜下旬まで |
| 借入の一覧表 | 全金融機関の残高・金利・返済額・保証・担保。公庫やリース、役員からの借入も入れる | 毎月更新 |
| 資金繰り表 | 向こう6〜12か月の入出金の予定 | 毎月更新 |
| 科目の内訳 | 売掛金・在庫・仮払金・貸付金の相手先と、長く動いていないものの説明 | 決算時と半期ごと |
| 同じ資料を全行に | 銀行ごとに違う数字を出さない。出す資料と日付を記録する | その都度 |
| グループの全体像 | 子会社・資産管理会社を含めた合算の数字 | 決算時 |
| 物件の一覧(不動産投資の場合) | 物件ごとの収支、入居率、残債、修繕の予定 | 半期ごと |
1. 提出は「早さ」で差がつく
レポートには、銀行が見ている項目として、試算表や借入残高表の開示の遅れが挙がっています。つまり、資料の提出が遅いこと自体が、銀行にとって注意すべき情報になります。数字が悪い月ほど早く出すことをおすすめします。悪い数字を理由とともに先に伝える会社と、聞かれるまで黙っている会社では、印象が全く違います(銀行に出す試算表の作り方)。
2. 「資産に積んだまま」の科目を整理する
仮払金、役員や関係会社への貸付金、古い売掛金、動いていない在庫は、銀行が気にする科目です。レポートでも、回収の見込みがない同族への貸付金を資産に計上した例や、損失を仮払金に計上した例が挙げられています。
中小企業では、悪意がなくても、こうした科目が残っていることがよくあります。決算の前に中身を確認し、回収の見込みや処理の方針を説明できるようにしておきましょう(決算書を銀行に出す前に)。
3. 悪い決算を隠さない
決算を良く見せたい気持ちは、経営者なら誰でも持つものです。ただ、レポートにあるように、粉飾は少額から始まり、繰り返すたびに大きく、複雑になります。そして、銀行ごとに違う決算書を出すことは、絶対に避けなければなりません。
私自身、2019年に、減価償却が速い物件が多かったことから貸借対照表上の資産より負債が大きくなる債務超過に陥り、複数の銀行から融資を断られました。そのときは毀損した物件の売却、納税、現預金の積み増しで財務を立て直しました。数字を正面から直すほうが、結局は融資への近道だと実感しています。
4. 銀行が遠い借入ほど、こちらから情報を届ける
不動産投資で遠方の銀行から借りている方は、特に注意が必要です。金融庁のレポートは越境貸出の管理を課題としており、金融行政方針も不動産業向け貸出の案件審査と期中管理を確認するとしています。
地銀の不動産融資はこの1年で大きく伸びてきました(地銀の不動産融資が過去最大の伸び)。今後は、融資枠の見直しや、借入全体の確認が厳しくなることも考えられます。銀行から聞かれる前に、決算の報告と物件の状況を届けておくと、次の融資の相談もしやすくなります(銀行員との付き合い方)。
5. 決済代行やカード売上の入金の確認
今回の破産では、決済代行を使っていた飲食店などの資金繰りへの影響も報じられています。カード決済の売上がある会社は、決済代行会社への未収金がどのくらいあるか、入金のサイトはどうなっているかを確認しておきましょう。売掛金と同じように、取引先の一社への集中は資金繰りの弱点になります(資金繰り表の作り方)。
今後も注意して見ていきたいこと
- 信用金庫・信用組合への広がり:同様の要請が出るとみられ、金融行政方針も協同組織金融機関の検証を挙げている
- 追加融資の審査の変化:決算書だけでなく、試算表や資金繰り表の確認が必須になる銀行が増えるか
- 不動産業向け融資の枠:融資の限度額の管理が強まり、新規の融資に影響が出るか
- 全東信の破産手続き:粉飾の実態は、今後の手続きの中で明らかになっていく
- 企業価値担保権の活用:事業の実態を見る融資が広がるか。事業の実態の説明が、融資そのものにつながる流れでもある
銀行の管理が厳しくなることは、裏を返せば、自社の実態をきちんと説明できる会社が評価されやすくなるということでもあります。
まとめ
- 全東信の破産を受け、金融庁が地銀に融資先の管理の強化を文書で求めたと報じられた
- 金融行政方針は、貸出先の実態把握と融資実行後の管理を検証し、不動産業向け貸出も確認するとしている
- 試算表・借入残高表の提出、面談、現地確認など、融資を受けた後のやり取りが増える可能性がある
- 資料は早く、全行に同じ内容で出す。仮払金や貸付金など説明しにくい科目を整理する
- 遠方の銀行から借りている場合は、こちらから情報を届ける
銀行に出す資料の整え方や、説明の仕方を確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
