法人化・税務

政府税調が租税回避の「指南役」への規制・ペナルティと義務的開示制度の検討を提示|税理士・金融機関の行動規範も。スキームの提案を受けるオーナー経営者への影響

税のしるべ電子版(2026年11月6日、11月9日号1面)が、政府税制調査会の専門家会合で、租税回避の指南役(プロモーター)に対する規制や、義務的開示制度の整備などの検討が必要とされたと伝えました。会合は11月4日に開かれ、財務省・国税庁の説明資料は税制調査会のホームページで公表されています。

10月20日の前回の会合では、税理士法人や金融機関がスキームを数十の法人・個人に販売していた例が示されました(前回の会合の内容はこちら)。今回は、そのときの委員の意見を踏まえて、「検討の方向性(案)」と5つの具体的な検討課題が示されています。この記事では、公表資料の内容を整理したうえで、相続対策や組織再編の提案を受けることの多いオーナー経営者にとって何が変わりうるのかを、税理士・公認会計士の立場から解説します。

この記事の結論
  • 2026年11月4日の政府税調の専門家会合で、財務省・国税庁が租税回避への対応の「検討の方向性(案)」を示した。プロモーターへの規制等の制度面・執行面の対応について、速やかに具体的な検討を進める必要があるとした
  • 検討課題は5つ。税理士の業務の範囲の明確化、税理士や金融機関の行動規範、国税当局の情報発信(問題視するスキームの公表など)、義務的開示制度(MDR)など把握の仕組み、プロモーターへの規制・ペナルティ
  • 米英のMDRでは、プロモーターがスキームの情報と顧客リストを当局に報告する。日本で同様の制度ができれば、スキームを使った会社は当局に把握されやすくなる
  • 一方で、事業承継などのための組織再編まで租税回避とされないよう丁寧な議論が必要との意見も出ている。提案を受けたら、税金以外の目的を説明できるかを最初に確認したい

公表資料で示された内容

11月4日に開かれたのは、政府税制調査会の「第6回 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」です。財務省・国税庁は「租税回避等への対応」と題した説明資料を出しました。資料は、前回の会合での委員の主な意見、「検討の方向性(案)」、海外の制度を紹介する参考資料で構成されています。

項目資料で示された内容(要約)
問題意識租税回避は課税の公平性や税に対する信頼を損ない、取り締まりのコストなど社会的な損失ももたらす。プロモーターの存在で利用が広がっているとみられる例も明らかになり、中長期的に納税意識へ大きな影響を及ぼすことが懸念される
方向性租税回避の基本的な考え方について共通理解の形成に努めつつ、租税回避の把握やプロモーターに係る規制等の制度面・執行面の対応について、速やかに具体的な検討を進める必要がある
検討課題①業務独占の対象となる税理士行為の範囲の明確化
検討課題②税理士や金融機関等の、タックス・プランニングに関する行動規範
検討課題③租税回避行為に対する国税当局の注意喚起や、当局が問題視しているスキームの公表など、情報発信の強化
検討課題④税務当局が租税回避スキームやその利用者を早期かつ網羅的に把握する仕組み(義務的開示制度など)の整備
検討課題⑤スキームの組成・販売等を行うプロモーター(指南役)に対する規制・ペナルティ(開示制度などに関連した義務を含む)

出典:税制調査会「第6回 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」財務省・国税庁説明資料〔租税回避等への対応〕(2026年11月4日)。報道:税のしるべ電子版「租税回避の指南役に対する規制等や義務的開示制度の整備などの検討が必要、政府税調が専門家会合」(2026年11月6日)。

前回の資料が「どんな問題が起きているか」を示したものだったのに対し、今回は「何を検討するか」の項目が並びました。制度の中身や導入の時期はまだ決まっていませんが、議論が一段進んだと言えます。

委員から出た主な意見

資料には、前回の会合での委員の意見が、論点ごとにまとめられています。オーナー経営者に関係の深いものを抜き出すと、次のとおりです。

論点紹介された意見(要約)
指南役への対応個別の税務調査で課税するより、指南や助言の行為そのものへの指導が必要。金融機関なら金融庁が指導することも考えられる
税理士でない者の助言税理士でない者が個別具体的な金額を示して税負担を減らす方策を助言することは、税理士法に抵触する可能性がある。そのことを明確にし、違反には厳正に対処すべき
税理士の行動規範租税回避の定義に共通の了解がない中で懲戒処分は難しい。まずは日本税理士会連合会の協力を得て、税負担の軽減に関する税理士の行動規範のようなものを作ることが必要
ペナルティ手法を定型化して複数の納税者に勧める行為は、税務相談とは全く別のもの。プロモーターへのペナルティの導入を検討すべきで、課徴金など新たな手法も検討が必要
開示制度諸外国のMDR(義務的開示制度)を参考にすることを考える時期に来ている。国税通則法74条の7の2を参考に、プロモーターに誰にスキームを使わせたかを報告させる制度も考えられる
正当な取引への配慮組織再編や資産の取得そのものが悪いわけではない。事業承継や技術の伝承など、事業目的に照らした適正な経営判断としての組織再編が圧倒的に多く、広く「租税回避」とされないよう丁寧な議論が必要
正当な助言への配慮相続税の観点から生前贈与を勧めるような助言は、お互いにメリットがある。関係者が参加して助言のガイドラインを作ることも考えられる

出典:同上「前回会合での主な御意見」。資料では順不同で、複数の出席者の同じ趣旨の発言はまとめて記載されています。

国税通則法74条の7の2は、2019年度(令和元年度)の改正で設けられた規定で、所轄の国税局長が、一定の取引の相手方や取引の場を提供する事業者に対し、取引をした人の氏名や住所などの報告を求めることができるものです。委員の意見は、この仕組みを参考に、プロモーターに顧客の情報を出させることを想定したものです。

海外ではどんな制度があるか

参考資料では、海外の制度が紹介されています。日本で何が検討されるかを考える手がかりになります。

国・地域制度資料で示された内容(要約)
米国義務的開示制度一定のスキームについて、プロモーターがスキーム情報を報告し、顧客リストを作成・維持する。顧客である納税者は申告時にスキーム番号の記載が必要。違法と指定されたスキームの報告義務違反は最低10万ドルの制裁金
英国義務的開示制度税務上の利益が主な目的で、秘密保持・税の軽減額に連動した報酬・標準化などの特徴があるスキームを、具体的な助言をした日などから5日以内に報告。顧客リストも定期的に提出
英国プロモーター規制歳入関税庁が、業務改善命令・監視命令・販売差止命令を段階的に出す。販売差止命令を受けたプロモーターは実名が公表される
英国銀行の行動規範銀行は真正な商業活動を支えるもの以外のタックス・プランニングを行わない。採択した銀行は315行(2026年3月末時点)、違反した銀行の名称は公表できる
EUDAC6一定の越境取引について、プロモーターに税務当局への報告を義務づけ
米国・カナダ・豪州プロモーターへのペナルティ納税者への加算税とは別に、虚偽の説明でスキームを広めたプロモーターに民事罰。米国では、その行為で得た総収入の50%など

出典:同上 参考資料「諸外国におけるスキーム情報等の報告義務(義務的開示制度)」「英国におけるプロモーター(指南役)規制」「英国における『銀行の税務に関する行動規範』」「諸外国におけるプロモーターに対するペナルティ」。

共通しているのは、スキームを使った納税者を後から一件ずつ調べるのではなく、売る側から情報を集めるという発想です。日本でもこの方向で制度が作られれば、プロモーターの顧客であること自体が、当局に知られる入り口になります。

株主構成の整理から、承継・売却まで一緒に考えます

M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。

事業承継・M&A支援を見る

ここからは、税理士・公認会計士として

ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けながら事業と不動産投資を続けてきた立場からの考えです。

「売る側」への規制は、「使った側」を守るものではない

プロモーターへのペナルティや開示義務は、売る側に課されるものです。しかし、それでスキームを使った会社の税負担が軽くなるわけではありません。否認されれば、本来の税額に加えて加算税や延滞税を払うのは、これまでどおり使った会社や個人です。

そのうえ開示制度ができると、顧客リストを通じて、同じスキームを使った会社が一度に把握されやすくなります。相続税の評価を下げるスキームであれば、効果が出るのは相続のときで、何年も後に相続人が調査を受けることになりかねません。今回の議論は、「バレにくいから大丈夫」という前提そのものが崩れていく方向だと受け止めておくべきです。

提案者が「誰か」も、これからは確認したい

検討課題の一つ目は、税理士の業務の範囲の明確化です。委員の意見にもあるとおり、税理士でない者が個別具体的な金額を示して税負担を減らす方法を助言することは、税理士法に触れる可能性があります。コンサルティング会社や、金融機関の営業担当者から「御社の株価がこれだけ下がり、相続税がこれだけ減ります」という資料を渡されたときは、その計算と助言に、税理士が責任を持って関わっているかを確認してください。

金融機関の提案には、新たな借入れや組織再編の手数料がセットになっていることがあります。今回の資料では、英国で銀行向けの税務の行動規範があることも紹介されました。日本でも行動規範が作られれば、銀行の提案の仕方も変わる可能性があります。

提案を受けたときの確認表

確認すること見るポイント
税金以外の目的事業承継、経営権の集約、リスクの切り分けなど、税負担が減らなくても行う理由を説明できるか
標準化された商品か「多くの会社で使っている」「パッケージになっている」という説明は、資料が問題視する「定型化して複数の納税者に勧める」形に近い
助言者の資格と責任税額の試算に税理士が関わっているか。否認されたときに提案者が責任を負う契約か(通常は負わない)
報酬の決まり方減った税額に連動する成功報酬や、秘密保持の約束は、英国のMDRで報告対象の特徴とされている
決算書と銀行の見え方取引後の貸借対照表・損益計算書を、取引銀行の審査担当に説明できるか
第三者の意見提案者と利害関係のない税理士に確認したか(セカンドオピニオンの頼み方)

正当な組織再編・承継対策まで萎縮する必要はない

今回の資料で大事なのは、事業目的のある組織再編は「圧倒的に多い」と明記されたことです。ホールディングス化による事業承継や、生前贈与による計画的な承継まで、すべて疑われるわけではありません。分かれ目は、事業上の目的があり、その目的に合った手順と形になっているかです。

ホールディングス化と株価対策の関係はHD化による株価対策と総則6項で、否認された事例と目的を説明できる設計の考え方を整理しています。生前贈与については生前贈与と相続税をご覧ください。税負担を軽くする方法のうち、法律が予定している制度を使うものと、そうでないものの見分け方はいい節税と悪い節税の見分け方にまとめています。

銀行が見るのは決算書です。実態のない損失を作る取引で利益を削れば、その期の格付けが下がり、否認されれば追徴で純資産も削られます。払った税金の2倍、会社は強くなる。税金を払って残った利益が純資産として積み上がり、次の融資を引き出す力になります。目先の税額のために、その土台を危うくする取引は避けるべきだというのが、私の考えです。

今後も注意して見ていきたいこと

  • 年末の税制改正大綱:義務的開示制度やプロモーターへのペナルティが、どこまで具体的に書かれるか。導入の時期と、対象になるスキームの範囲
  • 国税庁の情報発信:当局が問題視しているスキームの公表が始まるか。公表されれば、自社が使っている仕組みが当てはまらないかを確認する
  • 税理士・金融機関の行動規範:日本税理士会連合会や金融庁が、タックス・プランニングの指針をどう作るか。銀行の提案の仕方が変わるか
  • 財産評価の見直し:貸付用不動産や取引相場のない株式の評価の見直しとあわせて、相続対策の前提がどう変わるか

まとめ

  • 2026年11月4日の政府税調の専門家会合で、財務省・国税庁が租税回避への対応の「検討の方向性(案)」を示し、プロモーターへの規制等を速やかに具体的に検討する必要があるとした
  • 検討課題は、税理士の業務範囲の明確化、税理士・金融機関の行動規範、国税当局の情報発信、義務的開示制度など把握の仕組み、プロモーターへの規制・ペナルティの5つ
  • 海外の開示制度は売る側から顧客の情報を集める仕組みで、日本でできればスキームを使った会社は把握されやすくなる。否認されたときの負担は、これまでどおり使った側にある
  • 事業目的のある組織再編や承継対策まで萎縮する必要はない。提案を受けたら、税金以外の目的を説明できるか、決算書を銀行に説明できるかを確認する

相続対策や組織再編の提案を受けて判断に迷っている方、すでに使っている仕組みのリスクを確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

よくある質問

日本でも、租税回避の指南役(プロモーター)への罰則ができるのですか?
2026年11月4日の政府税制調査会の専門家会合で、財務省・国税庁は「検討の方向性(案)」として、プロモーターに対する規制・ペナルティや、税務当局がスキームと利用者を早期に把握する仕組み(義務的開示制度など)について、速やかに具体的な検討を進める必要があると示しました。あくまで検討の方向性で、導入の時期や中身はまだ決まっていません。年末の税制改正大綱などで、どこまで具体化するかを見ていく必要があります。
義務的開示制度(MDR)ができると、スキームを使った会社にはどんな影響がありますか?
米国や英国の制度では、スキームを販売するプロモーターが、スキームの情報や顧客のリストを税務当局に報告します。米国では、顧客である納税者が申告書にスキームの番号を書くことも義務づけられています。日本で同じような制度ができれば、スキームを使った会社が税務当局から把握されやすくなると考えられます。
組織再編や生前贈与を使った相続対策も「租税回避」とされるのですか?
そうとは限りません。会合の資料でも、事業承継などの事業目的に照らした適正な経営判断として組織再編を行うケースが圧倒的に多く、広く租税回避と判断されないよう丁寧な議論が必要だという意見や、生前贈与の助言のようにお互いにメリットのある助言もあるという意見が紹介されています。税負担が減ること以外に、事業上の目的を説明できるかどうかが分かれ目になります。

※本記事は2026年11月7日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

RELATED

あわせて読みたい

法人化・税務

実在しない売掛金を「前期損益修正損」で落としたら損金不算入に|完成工事未収入金をめぐる非公開裁決。過去の売上の誤りは当期の損失か、更正の請求か

取引先から残高ゼロと回答された完成工事未収入金を前期損益修正損として損金に算入したところ、損失に当たらないとして否認された非公開裁決が報じられました。過去の売上の誤りを当期の損失にできる場合とできない場合、更正の請求の5年の期限、売掛金の残高と銀行の見え方を税理士・公認会計士が整理します。

2026年11月8日
法人化・税務

11月期限の中間申告書・納付書の発送が遅れ|国税庁のお知らせと、3月決算法人などが11月30日までに確認したいこと

国税庁は2026年11月5日、11月が期限の法人税の予定申告書・消費税の中間申告書と納付書の発送、e-Taxの「お知らせ」の送信が遅れていると公表しました。期限の延長は示されていません。書類が届かなくても期限内に納める方法、仮決算の判断、銀行から見た注意点を税理士・公認会計士が整理します。

2026年11月6日
法人化・税務

国税庁・e-Taxをかたる不審メールの相談が急増|「還付金」「未納税金」「不動産取得資金の調査」メールの見分け方と、経理担当者が振り込んでしまったときの税務

国税庁やe-Taxをかたる不審メールの相談が9月下旬から急増したと報じられました。国税庁が公表している最近の事例、正規のe-Taxメールとの見分け方、会社の経理で決めておきたいルール、詐欺の被害に遭った場合の税務と決算書の扱いを、税理士・公認会計士が整理します。

2026年11月3日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずはお気軽にご相談ください。

初回のご相談は無料です。まずは担当者がお話を伺い、内容に応じて担当税理士や金融機関出身のコンサルタントがご提案します。