税のしるべ(2026年10月23日、10月26日号1面)が、政府税制調査会の専門家会合で、国税庁が租税回避スキームを販売する「プロモーター」の事例を報告したと伝えました。会合は10月20日に開かれ、財務省・国税庁の説明資料は税制調査会のホームページで公表されています。
資料には、税理士法人や金融機関が、スキームを数十の法人・個人に販売・提供していた例が並んでいます。なかには、金融機関が顧客の会社に対して、相続税評価額を圧縮するスキームを具体的な金額を示して提案していた例もあります。この記事では、公表資料の内容を整理したうえで、オーナー経営者や不動産投資家が「税金が減る」提案を受けたときに確認しておきたい点を、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 2026年10月20日の政府税調の専門家会合で、財務省・国税庁が租税回避スキームのプロモーターの例を示した。スキームが標準化され、数十の法人・個人に販売されている例が多数把握されている
- 例には税理士法人・税理士が代表の会社・金融機関が含まれ、金融機関が組織再編や資産の取得で相続税評価額を圧縮するスキームを具体的な金額を示して提案し、報酬を得ていた例もある
- 国税庁は、スキームの探知・調査・否認・けん制の各局面で課題があるとし、制度改正をしてもすぐにかいくぐる手法が開発されることを挙げた。政府税調は以前から、スキームの開示制度(MDR)の検討を求めている
- 否認されたときに追徴税額や加算税を負担するのは使った納税者自身。純資産が削られ、銀行の評価にも響く。提案を受けたら、その取引がなくても行う理由があるかを最初に確認したい
公表資料で示された内容
10月20日に開かれたのは、政府税制調査会の「第5回 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」です。財務省・国税庁は「租税回避等への対応」と題した説明資料を出しています。主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 資料で示された内容 |
|---|---|
| 背景 | 政府税調の2023年6月30日の答申が、スキームの開発・販売・利用の実態把握の強化と、義務的開示制度(MDR)を参考にした仕組みの検討を求めていた |
| 令和8年度改正の例① | 同族会社の役員等が、別の法人が発行した社債の利子で、実質的に自分の同族会社から受け取るものと認められる利子を、総合課税の対象に追加 |
| 令和8年度改正の例② | 外国子会社合算税制で、最高税率が適用されることが通常見込まれない累進税率を使って適用を免れる事例に対応し、租税負担割合の計算の特例を見直し |
| プロモーターの実態 | スキームが特定のプロモーターによって標準化され、多数の納税者に販売・提供されている。汎用的に使え、理論上は制限なく税負担を減らせる、還付金を作り出せるといったリスクの高いスキームが多数確認されている |
| 国税庁の取組み | スキームの分析・調査を担う専担部署の設置、全国の国税局・税務署からのスキーム情報の集約 |
| 課題 | 探知・調査・否認・けん制の各局面で課題に直面している |
| その他 | 国外でリモート勤務する非居住者の役員報酬の課税について、対応を検討 |
出典:税制調査会「第5回 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」財務省・国税庁説明資料〔租税回避等への対応〕(2026年10月20日)。報道:税のしるべ「国税庁が租税回避スキームを販売等するプロモーターの事例を報告、政府税調の専門家会合で」(2026年10月23日)。
国税庁が示した「プロモーター」の例
資料では、把握されたプロモーターとして、名前を伏せた例が示されています。スキームの具体的な手順は書かれておらず、この記事でも立ち入りません。
| 例 | 立場 | 税目 | 資料で示された内容(要約) |
|---|---|---|---|
| A | 税理士法人 | 法人税 | グループ法人税制などを使い、経済実態を伴わない多額の税務上の損失を作り出すスキームを数十法人に販売 |
| B | 株式会社(代表者は税理士) | 所得税 | 総合課税と分離課税の税率差を使うスキームを数十人に販売。過去の改正で対策が取られた後も、さらに回避するスキームを考案(令和8年度改正で個別の否認規定を追加) |
| C | 税理士法人(金融機関も関与) | 消費税 | ペーパーカンパニーを使い、納税のない消費税還付を生じさせるスキームに数十社で関与 |
| D | 株式会社(税理士ではない) | 法人税 | 国内で課税されずに国外へ所得を移す仕組みを数十社に販売 |
| E | 金融機関 | 法人税 | 過去の税務調査で計算誤りが把握され、十数件が是正された。その後もスキームを修正して積極的な販売を継続 |
| ― | ある金融機関 | 相続税 | 顧客の経営する法人について、組織再編成や資産の取得などで相続税評価額を圧縮するスキームを、具体的な金額を示しながら提案し、アドバイザリー報酬などを得ている事例を把握 |
出典:同上「租税回避スキームのプロモーターの例」。資料の表の区切りから、DとEの記載の対応はこの記事での読み取りです。
目を引くのは、示された例の多くに、税理士や金融機関が関わっている点です。「専門家が勧めるのだから大丈夫」「取引銀行の提案だから安心」とは言えないことを、国税庁自身が示した形です。
国税庁が挙げた4つの課題
資料は、スキームへの対応を「探知 → 調査 → 否認(課税処分・制度改正) → けん制」の流れで整理し、それぞれの局面の課題を挙げています。
| 局面 | 資料で示された課題(要約) |
|---|---|
| 探知 | 情報の分析やスキーム情報の集約に取り組んでいるが、新しいスキームを早く網羅的に把握することが難しい |
| 調査 | 調査への非協力やペーパーカンパニーの利用などで、実態解明や証拠集めが妨げられる。国際事案では執行管轄権の壁がある |
| 否認 | 制度を改正しても、すぐにそれをかいくぐる手法が開発される。行為計算否認規定などへの対応があらかじめ講じられていたり、規定の射程が及ばなかったりする事例がある |
| けん制・ペナルティ | スキームが広がる速さに対して、調査による是正や制度改正には時間とコストがかかる。課税処分をしても、プロモーターがスキームの組成・販売を繰り返す |
出典:同上「租税回避スキーム対応における課題」。
開示制度(MDR)の議論につながるか
資料の冒頭では、政府税調の2023年6月30日の答申「わが国税制の現状と課題」が引用されています。答申は、租税回避スキームは現行法のもとで適法であっても、放置されれば課税の公平を損なうとし、OECDのBEPSプロジェクトが勧告する義務的開示制度(MDR)などを参考に、税務当局がスキームを的確に把握できる仕組みの検討を進める必要があるとしていました。
MDRは、一定のスキームを販売するプロモーターや利用者に、税務当局への報告を義務づける制度で、英国などが導入しています。今回の会合で日本への導入が決まったわけではありませんが、国税庁が「探知」と「けん制」を課題に挙げたことは、この議論が今後の税制改正で取り上げられる可能性を示しています。
非居住者の役員報酬も検討の対象に
同じ資料では、国外でリモート勤務する役員の報酬も取り上げられました。非居住者が日本での勤務などで受け取る給与・役員報酬は、一律の源泉徴収(国税庁のタックスアンサーNo.2884では、復興特別所得税を含めて20.42%)で課税関係が終わります。国内で勤務する人は累進税率(所得税の最高税率45%)なのに対し、高額の役員報酬を国外で受け取る人は源泉徴収だけで済むという不均衡があるとして、源泉徴収で完結させる骨格は維持しつつ対応を検討するとしています。海外に移住して日本の会社から報酬を受け取っている経営者は、今後の議論に注意が必要です(海外移住と税金)。
「税金が減る提案」を受けたときの確認点
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けながら事業と不動産投資を続けてきた立場からの考えです。
否認されたときに負担するのは、使った側
スキームが否認されると、本来の税額に加えて、過少申告加算税や延滞税がかかります。仮装・隠蔽があったとされれば重加算税の対象にもなります。この負担は、提案した税理士や金融機関ではなく、スキームを使った会社や個人にかかります。アドバイザリー報酬はすでに支払っていて、戻ってきません。
相続税の評価を圧縮するスキームは、効果が出るのが相続のときです。何年も後に、本人が亡くなった後で、相続人が税務調査を受けて否認されるという形になりやすく、相続人が説明に困ります。相続税の評価については、財産評価基本通達の総則6項による否認が最高裁で認められた例もあります(タワマン節税の最高裁判決)。貸付用不動産の評価方法についても、見直しが進んでいます(貸付用不動産の評価見直しと自社株評価)。
銀行から見た「スキーム」
銀行が見るのは決算書です。実態のない損失を作るスキームを使えば、その期の決算書は赤字や利益の減少になります。格付けの「収益性」や「返済能力」の点数が下がり、融資の条件が悪くなることがあります。そして、否認されれば追徴と加算税で純資産が削られ、二度目の打撃になります。
金融機関が提案する相続対策には、新たな借入れや組織再編の手数料がセットになっていることもあります。提案した支店の担当者と、将来その会社の融資を審査する人は別人です。税金を減らすための取引で決算書が傷めば、次の融資で困るのは自分たちです。著書のモデルでも、債務償還年数は「経常利益+減価償却費−法人税等」で計算します。利益を削る取引は、返済能力の見え方を直接悪くします。
提案を受けたら確認したいこと
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 税金を除いても行う理由があるか | 税負担が減ること以外に、事業上・経営上の目的を説明できるか。答えられなければ要注意 |
| 効果の大きさ | 「理論上いくらでも減らせる」「還付が出る」といった、効果に上限がない説明は国税庁がリスクの高いスキームとして挙げている特徴に近い |
| 誰が、いくら受け取るか | アドバイザリー報酬、手数料、新たな借入れの金利。提案者の利益と自社の利益が一致しているか |
| 否認されたときの負担 | 追徴・加算税・延滞税を誰が負担するか。提案者が責任を負う契約になっているか(通常はならない) |
| 決算書と銀行の見え方 | その取引をした後の貸借対照表と損益計算書を、銀行に説明できるか |
| 第三者の意見 | 提案者と利害関係のない税理士に、取引の目的と税務上のリスクを確認したか(セカンドオピニオンの頼み方) |
税負担を軽くする方法には、法律が予定している制度を使うもの(青色申告、各種の特例、適切な役員報酬の設計など)と、法律が想定していない取引を作り出して規定に当てはめるものがあります。資料が問題にしているのは後者です。両者の見分け方はいい節税と悪い節税の見分け方でまとめています。消費税の還付スキームが改正で次々に封じられてきた経緯は自販機スキーム・金地金スキームと改正の歴史をご覧ください。
払った税金の2倍、会社は強くなる。税金を払って残った利益が純資産として積み上がり、それが次の融資を引き出します。目先の税額を減らすために、その土台を危うくする取引は避けるべきだというのが、私の考えです。
今後も注意して見ていきたいこと
- 年末の税制改正大綱:MDRのような開示制度や、プロモーターへのペナルティが取り上げられるか。個別の否認規定が追加されるか
- 非居住者の役員報酬:国外勤務の役員への報酬について、源泉徴収の仕組みがどう見直されるか
- 財産評価の見直し:貸付用不動産や取引相場のない株式の評価の見直しが、どの時期から、どの範囲で適用されるか
- 税務調査の動き:国税庁がスキーム情報の集約を進めていることから、同じスキームを使った納税者への調査が広がる可能性
まとめ
- 2026年10月20日の政府税調の専門家会合で、財務省・国税庁が、租税回避スキームを標準化して数十の法人・個人に販売するプロモーターの例を示した
- 例には税理士法人や金融機関が含まれ、金融機関が相続税評価額を圧縮するスキームを具体的な金額を示して提案していた例もある
- 国税庁は探知・調査・否認・けん制の各局面で課題を挙げた。政府税調は以前から開示制度(MDR)の検討を求めており、今後の改正の議論に注意が必要
- 否認されたときの追徴・加算税は使った側が負担し、純資産と銀行の評価も傷む。提案を受けたら、税金以外の目的があるか、決算書を銀行に説明できるかを確認する
「税金が減る」という提案を受けて判断に迷っている方、すでに使っている仕組みのリスクを確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
