読売新聞(2026年10月30日)が、国税庁や電子申告・納税システム「e-Tax(イータックス)」をかたる不審なメールについての電話相談が、9月下旬から国税庁と全国の国税局で急増していると報じました。e-Taxも10月16日に注意喚起のページを更新し、「還付金の受取手続き」をうたって偽のアプリを入れさせようとする新しい事例を追加しています。
年末調整、そして確定申告の時期が近づくと、「税務署からのお知らせ」という件名のメールが届いても不思議ではない、と感じる方が増えます。会社の経理担当者や、不動産を買ったばかりの方がだまされて、振り込んだり、カード情報やログイン情報を入力したりすれば、そのまま会社や家計の損失になります。
この記事では、報道と国税庁・e-Taxの公表資料をもとに、最近の不審メールの事例と見分け方を整理したうえで、会社の経理で決めておきたいルールと、万一被害に遭ったときの税務・決算書の扱いを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 国税庁・e-Taxをかたる不審メールの電話相談が9月下旬から急増。通常は1日10件程度のところ、2,000件を超えた日もあったと報じられている(読売新聞)
- e-Taxが公表する最近の事例には、「還付金の受取手続きのご案内」「未納税金のお知らせ」「不動産取得資金に関する調査および回答提出の要請」などがある。e-Taxの定型メールと同じ件名を使う手口もある
- 正規のe-Taxメールは定型文で、本文に原則としてURLを載せず、手続きや納付の催促も含まない。メールのリンクは使わず、e-Taxのサイトを自分で開いてメッセージボックスで確認するのが基本
- 詐欺の被害は、個人は雑損控除の対象外。法人は損害が発生した年度に損金にでき、賠償金は受け取ることが確定した年度の益金になる(国税庁)。銀行には一時的な損失であることを説明できる資料を残しておく
報道と公表資料で示された内容
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 相談の状況 | 不審メールに関する電話相談が9月下旬から国税庁と全国の国税局で急増。通常は1日10件程度だが、2,000件を超えた日もあった | 読売新聞 2026年10月30日 |
| 主な手口 | 送信者名を国税庁やe-Taxに偽装し、税の未申告や還付を装う文面で偽サイトに誘導したり、偽アプリをダウンロードさせたりする | 同上 |
| e-Taxの注意喚起 | 「e-Taxを装った不審なメール等にご注意ください」を令和8年10月16日に更新し、最近の事例を追加 | e-Tax |
| 国税庁の呼びかけ | 国税庁のサイトに掲載している不審メールの実例を確認するよう求めている | 読売新聞、国税庁 |
報道では、実際の金銭の被害の有無や件数は示されていません。
国税庁が公表している最近の事例
e-Taxの注意喚起のページには、実際に確認された不審メールの例が掲載されています。件名と特徴を整理すると、次のとおりです。
| 件名(e-Taxの掲載例) | 特徴 |
|---|---|
| 【重要】還付金の受取手続きのご案内 | 還付金の額を示し、アプリのダウンロードを求める。「アプリをインストール」を押すとフィッシングサイトに誘導される(10月16日に追加) |
| 税務署からのお知らせ【宛名の登録確認及び秘密の質問等の登録に関するお知らせ | 件名はe-Taxの定型メールと同じだが、文面が違う。e-Taxの利用開始届出書を模したフィッシングサイトに誘導する |
| 税務署からのお知らせ【e-Tax個人アカウントの登録確認に関する重要なお知らせ | 末尾に「国税庁 特許情報局」と書かれているが、国税庁にそのような部局はない |
| 【重要】未納税金のお知らせ - e-Tax | キャラクターやロゴの画像付き。国税庁はこうした画像付きのメールを送っていない |
| 不動産取得資金に関する調査および回答提出の要請 | 国税庁はこのようなメールを送信していない |
過去には、支払の催促や差押えの予告、滞納の金額を書いたメールも確認されています。
特に注意したいのは、正規のメールと同じ件名を使う手口です。件名だけで本物と判断することはできません。また、不動産を買った方に届く「不動産取得資金に関する調査」のメールは、実際に購入した直後の方ほど「税務署から確認が来たのかもしれない」と考えてしまいやすい内容です。
正規のe-Taxメールとの見分け方
e-Taxの案内によれば、正規のメールには次の特徴があります。
| 確認する点 | 正規のe-Taxメール |
|---|---|
| 送信元 | 「e-Tax(国税電子申告・納税システム)<info@e-tax.nta.go.jp>」 |
| 件名 | 「税務署からのお知らせ」または「国税庁からのお知らせ」で始まり、通知の種類が続く |
| 本文 | 定型文。原則としてURLを載せない(メールアドレスの登録・変更時の認証、パスワードの再設定など、利用者が自分で手続きをした場合の案内は例外) |
| 内容 | 手続きや納付の催促は含まない。中身はe-Taxにログインしてメッセージボックスで確認する |
| 宛名 | 宛名を登録していれば、その宛名が表示される。「納税者様」などの一般的な宛名は不審の目安 |
| 返信 | 送信専用で、返信は受け付けていない |
あわせて国税庁は、SMS(ショートメッセージ)でURLを載せた案内を送ることはないこと、納付の要求や差押えについてSMSやメール、LINEで連絡することはないこと、還付金や未納を理由にATMの操作や振込を求めることはないことを示しています。
ただし、e-Taxの案内にもあるとおり、送信元のアドレスや表示名を偽装したメール(なりすましメール)もあります。送信元が正しく見えても、メールのリンクからログインしないことが大切です。確認したいときは、次のどちらかにします。
- e-Taxのサイトを自分でブックマークやアプリから開いてログインし、メッセージボックスを見る
- 国税庁のサイトで所轄の税務署の電話番号を自分で調べて問い合わせる(メールに書かれた電話番号にはかけない)
e-Taxの正規メールには、「お尋ね文書」や「通知文書」が届いたことを知らせる種類もあります。本物の通知であれば、メッセージボックスに同じ内容が届いているはずです。
会社の経理で決めておきたいこと
ここからは、税理士・公認会計士として、法人の経理や資金繰りをお手伝いしている立場からの考えです。
個人の方の被害だけでなく、会社の場合は、経理担当者が「未納税金」や「差押え予告」のメールを見て、急いで振り込んでしまうことが心配です。税金の滞納や加算税の話は、担当者にとって「会社に迷惑をかけたくない」という焦りにつながりやすいからです。
日頃から、次のようなルールを社内で決めておくことをおすすめします。
| ルール | 理由 |
|---|---|
| 国税の納付は、会社が決めた方法(ダイレクト納付、振替納税、納付書など)だけで行う | メールやSMSで案内された口座やリンクから払う必要はない |
| 税金に関するメール・電話が来たら、振り込む前に必ず顧問税理士か経営者に相談する | 本物の税務署の連絡であれば、確認してから対応して困ることはない |
| e-Taxのメッセージボックスは、決まった担当者が定期的に自分でログインして確認する | 本物の通知を見落とさないことが、偽メールに惑わされない一番の対策 |
| 振込は、承認者と実行者を分ける(ダブルチェック) | 1人の判断で会社の資金が出ていかない仕組みにする |
| 不審なメールを受けたら社内で共有する | 同じ手口が別の担当者に届くことが多い |
e-Taxの利用者識別番号や暗証番号、法人の電子証明書は、会社の申告・納税の手続きに直結します。入力を求められても応じないこと、もし入力してしまったら、すぐに暗証番号を変更し、顧問税理士に相談することが大切です。
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オンライン記帳・申告サポートを見るだまされて振り込んでしまったときの税務と決算書
万一、被害に遭ってしまった場合の税金の扱いも整理しておきます。
個人は雑損控除の対象にならない
国税庁のタックスアンサー(No.1110)によれば、雑損控除の対象になるのは、災害、盗難、横領による損失に限られます。詐欺や恐喝の場合には、雑損控除は受けられないと明記されています。偽メールにだまされて振り込んだお金は、所得税の計算で差し引けないと考えておく必要があります。
法人は損害が発生した年度の損金にできる
法人の場合、法人税基本通達2-1-43は、他の者から受け取る損害賠償金は、支払を受けることが確定した事業年度(実際に受け取った事業年度とすることも可)の益金にするとしています。そして、その注書きで、損害による損失は、保険金などで補塡される部分を除き、損害が発生した事業年度の損金にできるとされています。
つまり、外部の詐欺グループにだまされた損失は、その年度に損失として計上し、後で取り戻せた場合はその時点で収益にする、という考え方です。
| 個人 | 法人 | |
|---|---|---|
| 詐欺による損失 | 雑損控除の対象外 | 損害が発生した事業年度の損金にできる(保険金などで補塡される部分を除く) |
| 後で取り戻せた場合 | — | 支払を受けることが確定した年度(または受け取った年度)の益金 |
| 注意点 | 盗難・横領とは区別される | 役員や従業員が関わる場合は、扱いが変わることがある |
ただし、役員や従業員が関わっていた場合の扱いは、裁判例や学説でも考え方が分かれている論点です。被害の内容によって処理が変わるため、顧問税理士に事実関係を伝えて判断してください。
決算書での見え方
決算書の上では、詐欺の被害による損失は、本業の費用ではありません。臨時で金額が大きいものであれば、企業会計の考え方では特別損失として表示することが考えられます。どの区分に表示するかは、金額や頻度などの実態に沿って判断するもので、顧問税理士・会計の専門家と相談して決めてください。
銀行は、決算書を見て「なぜこの年度に損失が出たのか」「同じことがまた起きないか」を確認します。被害の経緯、警察への届出、再発防止のために決めた社内ルールを書面で残しておくと、決算の説明のときに、一時的な損失であり、管理体制を見直したことを伝えやすくなります。会社の資金が減ったことで、手元資金の水準や資金繰りの見通しも変わります。資金繰り表を早めに見直しておくことをおすすめします。
なお、だまされて振り込んでしまった、カード情報を入力してしまったという場合は、すぐに振込先の金融機関やカード会社、警察に連絡してください。国税庁の注意喚起のページにも、相談先の案内があります。
今後も注意して見ていきたいこと
- 年末調整と確定申告の時期:年末から春にかけて、税務署やe-Taxからの連絡が自然に感じられる時期が続きます。還付金や未納をうたう偽メールが増えるおそれがあります
- 新しい手口の追加:e-Taxの注意喚起のページには、事例が順次追加されています。社内で共有する際は、最新の掲載例を確認してください
- 本物の照会との区別:税務調査の前に帳簿データの提出を依頼する運用も始まっています(税務調査の前に「帳簿データを出してください」と言われたら?)。本物の連絡であっても、メールのリンクから手続きをするのではなく、所轄の税務署に自分で確認するという順番は変わりません
まとめ
- 国税庁・e-Taxをかたる不審メールの相談が9月下旬から急増し、多い日は2,000件を超えたと報じられた
- 「還付金の受取手続き」「未納税金のお知らせ」「不動産取得資金に関する調査」など、還付・未納・調査を装う手口が多い。正規メールと同じ件名を使うものもある
- 正規のe-Taxメールは定型文で、原則としてURLはなく、納付の催促もしない。リンクは使わず、e-Taxを自分で開いてメッセージボックスを確認する
- 会社は、納付方法の固定、振込のダブルチェック、税理士への事前相談などのルールを決めておく
- 詐欺の被害は個人の雑損控除の対象外。法人は損害が発生した年度の損金になる。銀行への説明に備え、経緯と再発防止策を記録しておく
e-Taxのメッセージボックスの確認や納付の方法を含め、経理の体制を整えたい方は、お気軽にご相談ください。税務調査で見られやすい点については、税務調査が来る会社・来ない会社でも解説しています。
