日本経済新聞(2026年10月28日朝刊)が、外国為替市場で「有事の円買い」が再び動き出したと報じました。アジアや米国の株価が下がるのと歩調を合わせて円が買われ、1ドル=156円台前半と約1か月ぶりの水準まで上昇した場面があったといいます。今週後半の日銀の金融政策決定会合では、植田総裁の会見後に円安に振れることが多かった過去の例とは逆に、円高になるのではという見方も出ています。
為替の動きは、輸入や輸出をする会社だけでなく、外貨預金や海外不動産を持つ人にも関わります。この記事では、報道の内容を整理し、円相場が動くときに確認しておきたい資金繰りと税務の基本を解説します。為替の先行きを予想したり、売買をすすめたりするものではありません。
- かつて地政学リスクの際に見られた「有事の円買い」が、株安のなかで再び見られた。背景には、日銀が利上げしやすい環境になり、実質金利のマイナス幅が縮小していることなどがある(日本経済新聞)
- 一方で、円が安全資産としての姿を取り戻したわけではなく、消去法的な円買いという見方も示されている
- 輸入・輸出の中小企業は、取引の通貨と決済の時期を確認し、為替がどちらに動いても資金繰りが回るようにしておきたい
- 外貨建ての債権・債務や外貨資産は、決算や申告での円換算と為替差損益の扱いを押さえておく
報道で示された内容
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 円相場の動き | 10月以降、1ドル=157〜158円台を中心に推移していた円が、前週に一時156円台に。10月22〜23日にかけてアジアや米国の株安と歩調を合わせて円が上昇し、一時156円08銭近辺 |
| 「有事の円買い」の歴史 | 円は貿易黒字国・対外純資産国として、有事に海外から資金が戻るとの見方から安全資産とされてきた。2011年の東日本大震災以降は、エネルギー輸入の増加や企業の海外での再投資で、円買いが起きにくくなった。2022年のロシアのウクライナ侵略時は、むしろ円売りが膨らんだ |
| 今回の背景 | 財政悪化やインフレへの懸念のイメージがある程度払拭され、投機の円売りが出にくくなった。日銀が利上げしやすい環境になってきた |
| 実質政策金利 | 日本のマイナス幅は0.85%と、欧州(1.3%)やスイス(1%)を上回り、主要中銀で最低ではなくなった。2025年には一時2%を超えていた |
| ファンドの動き | 短期売買を好むファンドの円売り越しは9月に一時買い越しに転じた |
| 今後の見方 | 円キャリー取引での円の魅力を下げるには、政策金利を1.75〜2.00%程度まで上げる必要があるとの見方。2026年度内に150円を突破して円高に振れる余地があるとの声も。一方で、リスク回避に伴う「消去法的な円買い」という特徴が鮮明との指摘も |
出典:日本経済新聞「円、動き始めた有事の買い 日銀『植田会見後』の下落に終止符か」(2026年10月28日朝刊)。
金利の見通しについては、日銀10月会合は利上げ見送りへでも整理しています。
中小企業の資金繰りへの影響
ここからは、税理士・公認会計士として、また中小企業の資金繰りを支援してきた立場からの考えです。
| 立場 | 円高のとき | 円安のとき |
|---|---|---|
| 輸入している会社(外貨で仕入れ) | 円建ての支払額が減る。仕入れのコストが下がりやすい | 支払額が増える。価格転嫁が追いつかないと利益が減る |
| 輸出している会社(外貨で売上) | 円に替えた売上が減る | 円に替えた売上が増える |
| 国内取引だけの会社 | 原材料・燃料の価格が下がる方向。輸出の多い取引先の業績が落ちることも | 原材料・燃料の価格が上がる方向 |
| インバウンド向けの事業 | 訪日客にとって日本の物価が割高に感じられ、消費が鈍る可能性 | 割安に感じられ、消費が増えやすい |
為替を予想して当てにいくより、どちらに動いても資金繰りが回るようにしておくことが大切です。外貨建ての取引がある会社は、次の点を確認しておきましょう。
- 取引の通貨と決済の時期:外貨建ての売掛金・買掛金がいつ、いくら決済されるか
- 価格の決め方:為替が動いたときに、販売価格や仕入価格を見直せる契約になっているか
- 為替予約などの手段:金融機関の為替予約を使う場合は、手数料や途中解約の条件も確認する
- 運転資金の余裕:為替の変動で一時的に資金が足りなくなる場合に備え、融資枠を確保しておく(当座貸越とは)
決算・申告での為替の扱い(基本)
為替が動くと、決算や申告の数字にも影響します。基本的な考え方を整理します。
| 場面 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 外貨建ての取引の記帳 | 原則として取引日の為替相場で円に換算 | 原則として取引日の為替相場で円に換算 |
| 期末に残っている外貨建ての債権・債務 | 期間などの区分に応じて、期末の相場で換算し直すか、取引日の相場のままにするかが決まる(届出で選べる場合あり)。換算し直した差額は為替差損益 | 事業の取引は事業所得の計算に含める |
| 外貨預金を円に戻したときの差益 | 為替差損益として益金・損金 | 原則として雑所得 |
| 海外不動産の売却 | 売却益・売却損として法人税の対象 | 取得時と売却時の為替相場でそれぞれ換算して譲渡所得を計算 |
| 海外不動産の家賃収入 | 円に換算して収益に計上 | 円に換算して不動産所得に計上 |
ポイントは、現地通貨では利益が出ていても、円に換算すると損失になることがある(逆もある)という点です。たとえば、海外不動産を円安のときに買い、円高のときに売ると、現地通貨では値上がりしていても、円換算では利益が小さくなったり、損失になったりします。個人の海外不動産の損失の扱いには、近年の改正による制限もあります(海外中古不動産の損失の制限)。
為替の換算の具体的な方法や、届出の要否は、取引の内容によって変わります。決算の前に、外貨建ての取引や資産の一覧をつくって、税理士に確認しておくことをおすすめします。
今後も注意して見ていきたいこと
- 日銀の金融政策決定会合と総裁の会見:会見後の円相場の反応
- 米国やユーロ圏の金融政策:日本との金利差の動き
- 原油価格:エネルギー輸入を通じて、円売りの圧力になりうる
- 株式市場の動き:リスク回避の円買いが続くかどうか
まとめ
- 株安のなかで「有事の円買い」が再び見られ、日銀会合後に円高に振れるとの見方も出ている
- 背景には、日銀が利上げしやすい環境になり、実質金利のマイナス幅が縮小したことなどがある。一方で「消去法的な円買い」との指摘もある
- 輸入・輸出の中小企業は、取引の通貨と決済の時期を確認し、為替がどちらに動いても資金繰りが回るようにしておく
- 外貨建ての債権・債務や外貨資産は、決算や申告での円換算と為替差損益の扱いを押さえておく
外貨建ての取引や海外資産の決算・申告、為替の変動に備えた資金繰りを一度確認したい方は、お気軽にご相談ください。
