日本経済新聞(2026年10月29日朝刊)が、年末に予定される安全保障関連3文書の改定をめぐり、防衛費増額の財源として法人税などの増税案が政府・与党内で浮上していると報じました。与党内には、令和8年度から始まった防衛特別法人税の税率引き上げを念頭に置く声もあるとされています。
まだ「選択肢に挙がった」段階で、具体的な議論は進んでいないと報じられています。ただ、防衛特別法人税は今年4月以後に始まる事業年度からすでに課されている税金で、3月決算の会社は来年5月に最初の申告を迎えます。この記事では、報道の内容を整理したうえで、今の防衛特別法人税の仕組みと所得別の試算、そして決算と融資の面から今のうちに備えておきたいことを解説します。
- 防衛費の財源として、法人税などの増税案が政府・与党内で浮上。防衛特別法人税の税率引き上げを念頭に置く声もある。ただし具体的な議論は進んでおらず、経団連会長は「基本的に反対」(日本経済新聞)
- 今の防衛特別法人税は、(基準法人税額-年500万円)×4%。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から課税(国税庁)
- 中小法人で特別な税額控除がなければ、所得がおおむね2,400万円台を超えるあたりから税額が生じる。税額が0でも申告は必要
- 3月決算の会社は2027年3月期が最初の対象。12月決算の会社は2027年12月期から
- 銀行は税引後の利益と納税の実績を見る。増税の議論が進んでも慌てないよう、納税資金を資金繰り表に織り込むことから始めたい
報道で示された内容
記事では、次のような内容が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 議論の場 | 年末に予定する安全保障関連3文書の改定。27日の有識者会議で、メンバーの一人が歳出を見直しても不足する分について増税も排除すべきでないと提起 |
| 政府の説明 | 木原官房長官は28日の会見で、財源のあり方は財政の持続可能性にも配慮しながら議論していくと説明 |
| 増額が必要な背景 | 現行の3文書は防衛費と関連経費を「GDPの2%」に達するよう措置するとしており、名目GDPの増大で2%を維持するだけでも数兆円の増額が必要。米国は同盟国にGDP比3.5%を求めている |
| 法人税の扱い | 2022年末に法人税・所得税・たばこ税の増税を決定。法人税は防衛特別法人税として2026年度から4%の付加税。与党内に、この税率の引き上げを有力な選択肢とする声がある |
| 法人税収 | 2025年度の法人税収は21.7兆円で、36年ぶりに過去最高を更新 |
| ほかの財源案 | 外為特会の剰余金に期待する声もあるが、2027年4月から2年間の消費税減税の財源としても有力視されており、恒常的な防衛費には向かないとの意見も |
| 議論の状況 | 政府・財務省内で法人税増税などの具体的な議論は進んでいない。消費税減税法案の審議中で議論しにくい |
| 経済界の反応 | 経団連の筒井会長は20日、防衛費増額のための法人増税案に「基本的に反対」と述べた |
出典:日本経済新聞「防衛財源に増税案浮上、法人税など選択肢 経済界『投資拡大に水』」(2026年10月29日朝刊)。
ポイントは、新しい税金をつくる話ではなく、すでにある防衛特別法人税の税率を上げる案が念頭にあるという点です。仕組みはすでに動いているため、税率が変われば、そのまま税額に跳ね返ります。まずは今の仕組みを押さえておきましょう。
今の防衛特別法人税の仕組み
国税庁のリーフレット「防衛特別法人税が創設されました」(令和7年5月、令和8年6月改訂)によると、仕組みは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 納める法人 | 各事業年度の所得に対する法人税を課される法人 |
| 対象の事業年度 | 令和8年4月1日以後に開始する各事業年度 |
| 基準法人税額 | 所得税額控除・外国税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額 |
| 基礎控除額 | 年500万円(事業年度が1年未満なら、500万円÷12×月数) |
| 税率 | 4% |
| 計算式 | (基準法人税額-年500万円)×4% |
| 確定申告 | 原則、事業年度終了の日の翌日から2か月以内。法人税の申告期限が延長されていれば、その延長後の期限 |
| 中間申告 | 令和9年4月1日以後に開始する事業年度から。法人税の中間申告が必要な法人が対象 |
| 税額が0のとき | 申告は必要。別表一次葉の該当欄を記載し、税額欄に「0」と書いて提出 |
申告書は法人税・地方法人税と一体の様式ですが、国税庁は、防衛特別法人税の記載欄は別葉になるので提出を忘れないようにと注意を促しています。「うちは税額が出ないから関係ない」と思っていても、申告書の作成には影響がある、ということです。
最初の申告はいつか
対象は「令和8年4月1日以後に開始する事業年度」です。決算月によって、最初に対象となる事業年度が変わります。
| 決算月 | 最初に対象となる事業年度 | 確定申告の期限(原則) |
|---|---|---|
| 3月 | 2026年4月〜2027年3月 | 2027年5月末 |
| 6月 | 2026年7月〜2027年6月 | 2027年8月末 |
| 9月 | 2026年10月〜2027年9月 | 2027年11月末 |
| 12月 | 2027年1月〜2027年12月 | 2028年2月末 |
12月決算の会社は、2026年1月に始まった今の事業年度は対象外です。決算月によって1年近く差が出るので、自社がいつから対象になるのかを一度確認しておきましょう(法人税の申告期限)。
中小企業はいくら払うのか:所得別の試算
資本金1億円以下の中小法人を前提に、法人税の税率を「所得年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%」として、税額控除がない場合の防衛特別法人税を試算すると、次のようになります。
| 課税所得 | 法人税の額(基準法人税額) | 防衛特別法人税 |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 166.4万円 | 0円 |
| 2,000万円 | 398.4万円 | 0円 |
| 3,000万円 | 630.4万円 | 約5.2万円 |
| 5,000万円 | 1,094.4万円 | 約23.8万円 |
| 1億円 | 2,254.4万円 | 約70.2万円 |
※説明のための単純化した計算例です。中小法人の軽減税率(年800万円以下15%)は、令和9年3月31日までに開始する事業年度までの措置で、所得が年10億円を超える事業年度は17%になります。賃上げ促進税制などの税額控除、地方法人税・住民税・事業税は含めていません。
基準法人税額が500万円になるのは、この前提では所得がおおむね2,400万円台のあたりです。それより所得が少ない会社は、今の制度では税額が生じません。
報道で念頭にあるとされる「税率の引き上げ」が行われた場合、影響は500万円を超える部分に比例します。たとえば上の表で所得1億円の会社は、仮に税率が1ポイント上がるごとに、年に約17.5万円の負担増になる計算です(税率の具体的な案は報じられていません)。
なお、国税庁の資料で基準法人税額の計算から除くとされているのは、所得税額控除・外国税額控除など一部の税額控除です。賃上げ促進税制のような税額控除は、適用した後の法人税額が基準になると読めます。税額控除を受けている会社は、顧問税理士と一緒に計算を確かめてください。
税理士・公認会計士として考える、決算と融資への備え
ここからは、税理士・公認会計士として、また自らも融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
増税の議論が出ると、「来年は利益を減らしたほうがいいのでは」というご相談が増えます。しかし、銀行の評価から見ると、利益を削って税金を減らすことは、多くの場合、融資の力を弱めます。著書でお伝えしている「払った税金の2倍、会社は強くなる」という考え方は、税金を払った後に残る利益が純資産と現預金を積み上げ、それが次の融資を支える、という意味です(「払った税金の2倍、会社は強くなる」の意味)。
そのうえで、増税の可能性に備えて、今のうちにやっておきたいことを整理します。
| やること | 中身 | 銀行の見え方 |
|---|---|---|
| 対象になるかの確認 | 決算月から最初の対象事業年度を確認し、今期の見込み所得で基準法人税額を試算する | — |
| 納税資金の確保 | 防衛特別法人税を含めた納税額を、資金繰り表に月ごとに織り込む | 納税で手元資金が急に減ると、借入の申込み時期によっては見え方が悪くなる |
| 中間申告の準備 | 令和9年4月以後開始の事業年度から防衛特別法人税も中間申告の対象。予定納税か仮決算かを検討する | 予定納税の資金負担を抑えられれば、手元資金を厚く保てる |
| 債務償還年数の確認 | 法人税等が増えた場合でも、債務償還年数が悪化しすぎないかを試算する | 税引後の利益が返済原資。年数が延びると評価が下がる |
| 決算書の見せ方 | 法人税等の内訳と、納税をきちんと済ませている実績を説明できるようにする | 納税の滞りがないことは信用の土台 |
債務償還年数への影響は小さいが、ゼロではない
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算します。法人税等が増えると、分母の返済原資が減り、年数がわずかに延びます。上の試算で所得1億円の会社なら、今の防衛特別法人税は約70万円で、返済原資に与える影響は大きくありません。ただし、税率の引き上げや他の増税が重なれば、少しずつ効いてきます。
大切なのは、増税の可能性を理由に利益を削ることではなく、増えるかもしれない税金を最初から資金計画に入れておくことです。特に、決算後2か月で法人税・地方法人税・防衛特別法人税・住民税・事業税をまとめて納めることになるため、決算月の前後の資金繰りは早めに組んでおきたいところです(中間申告と予定納税の仕組み)。
「節税のための支出」は慎重に
増税が話題になると、決算前に不要な支出や保険で利益を圧縮したくなる方もいます。ですが、現預金が減り、純資産も積み上がらないため、銀行の評価は下がりがちです。支出は、事業に必要かどうかで判断するのが基本です(良い節税と悪い節税)。
今後も注意して見ていきたいこと
- 年末の安保3文書の改定:防衛費の規模と、財源をどう賄うと書き込まれるか
- 令和9年度税制改正大綱:防衛特別法人税の税率見直しが盛り込まれるか、盛り込まれる場合はいつの事業年度から適用されるか
- 基礎控除額(年500万円)の扱い:税率だけでなく、中小企業への配慮として基礎控除がどう扱われるか
- 外為特会の剰余金の使い道:2027年4月からの消費税減税の財源とどう分け合うか
- 中小法人の軽減税率:年800万円以下15%の措置は令和9年3月31日までに開始する事業年度までで、延長されるかどうかも、中小企業の税負担に直結する
税率の見直しが決まる場合でも、適用は大綱・法改正を経てからになるのが通常です。慌てて決算を変えるのではなく、まずは今の制度で自社がいつから、いくら対象になるのかを把握しておきましょう(不動産法人の法人税等の税率)。
まとめ
- 防衛費の財源として、法人税などの増税案が政府・与党内で浮上。防衛特別法人税の税率引き上げを念頭に置く声もあるが、具体的な議論は進んでいない
- 今の防衛特別法人税は(基準法人税額-年500万円)×4%で、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から課税。税額が0でも申告が必要
- 中小法人で特別な税額控除がなければ、所得がおおむね2,400万円台を超えるあたりから税額が生じる
- 3月決算は2027年3月期、12月決算は2027年12月期が最初の対象
- 増税に備えて利益を削るのではなく、納税資金を資金繰り表に織り込み、債務償還年数への影響を試算しておく
自社が防衛特別法人税の対象になるか、増税された場合に資金繰りや融資にどう響くかを一度確認したい方は、お気軽にご相談ください。
