税のしるべ電子版(2026年11月4日)が、取引先から「残高はゼロ」と回答された完成工事未収入金を「前期損益修正損」として損金に算入したところ、損失には当たらないとして否認された国税不服審判所の非公開裁決を紹介しました。
完成工事未収入金は、建設業で使われる売掛金のことです。帳簿には残っているのに、取引先に聞くと「もう払った」「そんな残高はない」と言われる――建設業に限らず、売掛金の管理が追いついていない会社では珍しくない場面です。そのとき「今期の損失として落としてしまえばよい」と考えがちですが、税務ではそう単純ではありません。この記事では、報道で示された内容を整理したうえで、過去の売上の誤りを当期の損失にできる場合とできない場合、更正の請求の期限、そして売掛金の残高が銀行からどう見えるかを解説します。
- 報道によれば、取引先から残高が零円と回答された完成工事未収入金を、会社が前期損益修正損として損金に算入したところ、審判所は損失に当たらないとして損金算入を否認した(非公開裁決)
- 法人税の基本通達で当期の損金にできるとされているのは、過去に売上を計上した取引について、当期に契約の解除・取消し・返品などの事実が生じた場合。「帳簿の残高が実在しないと分かった」だけでは、当期の損失とは言えないことが多い
- 原因が過去の入金の処理漏れや売上の過大計上なら、直すべきなのは過去の事業年度の申告。法定申告期限から5年以内なら更正の請求ができるが、それを過ぎた分は原則として取り戻せない
- 実在しない売掛金は、銀行から見ると資産の水増し。決算前の残高確認と、動いていない残高の早めの整理が、税務と融資の両方で会社を守る
報道で示された内容
税のしるべ電子版の記事では、次のような内容が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 種類 | 国税不服審判所の裁決(公表されていない「非公開裁決」) |
| 対象の資産 | 取引先に対する完成工事未収入金 |
| きっかけ | 取引先から、会社(審査請求人)との間の完成工事未収入金の残高が零円であるなどの回答を受けた |
| 会社の処理 | その取引先に対する完成工事未収入金の残高を前期損益修正損として損金の額に算入し、法人税の確定申告をした |
| 審判所の判断 | 前期損益修正損の計上は損失に当たらず、損金算入は認められない |
出典:税のしるべ電子版「【非公開裁決】既に存在しない完成工事未収入金の前期損益修正損計上は損失に当たらず、損金算入を否認」(2026年11月4日)。
非公開裁決は、国税不服審判所のウェブサイトの公表裁決事例集には載っていない裁決です。この記事では、報道の見出しと要旨で示された範囲の事実をもとに、制度の仕組みを一般論として解説します。個々の取引の経緯や、残高がなかった原因は、報道の要旨からは分かりません。
「前期損益修正損」とは何か
会計では「過去の誤りの修正」を当期に出すことが多い
前期損益修正損は、前の事業年度までの損益の誤りや見積りの違いを、当期に修正するときに使われてきた勘定科目です。たとえば、過去に計上した売上が多すぎた、売掛金の入金を処理し忘れていた、といった誤りに気づいたとき、中小企業の決算書では、当期の特別損失に「前期損益修正損」として計上する例が少なくありません。
会計の処理としては、それで決算書の残高は正しい姿に戻ります。問題は、その損失を当期の法人税の計算で損金にしてよいかという点です。
法人税では「各事業年度の所得」を事業年度ごとに計算する
法人税は、事業年度ごとに所得を計算する仕組みです。過去の事業年度の所得の計算が誤っていたなら、本来はその事業年度の申告を直すのが原則で、誤りに気づいた年の損金にして帳尻を合わせることは、原則として認められません。
ただし、例外として当期の損金にできる場面が通達で示されています。国税庁の法人税基本通達2-2-16(前期損益修正)は、前の事業年度に収益を計上した資産の販売や役務の提供などについて、当期に契約の解除や取消し、返品などの事実が生じた場合には、それによる損失を当期の損金に算入すると定めています。
| 場面 | 当期の損金になるか | 考え方 |
|---|---|---|
| 当期に契約の解除・取消し・返品があった | なる(基本通達2-2-16) | 損失の原因となる事実が、当期に生じている |
| 当期に取引先が倒産するなどして、回収できなくなった | 要件を満たせば貸倒損失として当期の損金(基本通達9-6-1〜9-6-3) | 債権は実在していたが、当期に回収不能になった |
| 過去に入金済みだったのに、入金の処理を誤っていた | ならない | 過去の売上が二重に計上されていたなど、過去の所得の計算の誤り |
| 過去の売上そのものが過大だった(工事が未完成、金額の誤りなど) | ならない | 過去の事業年度の売上の計上の誤り |
出典:国税庁 法人税基本通達2-2-16、9-6-1〜9-6-3。
「残高がない」という事実は同じでも、原因によって扱いがまったく違います。報道された裁決で、会社は取引先の回答を受けて残高を前期損益修正損として落としましたが、審判所は、それは当期に生じた損失には当たらないと判断しました。
売掛金が「実在しない」とき、直すべきなのはどこか
まず、残高がない原因を確かめる
取引先から残高ゼロと言われたら、最初にやるべきことは、いつ、なぜ残高がなくなったのかを確かめることです。
- 過去の入金を、別の取引先の入金や雑収入として処理していなかったか
- 取引先との相殺(買掛金や立替金との相殺)を記帳していなかったのではないか
- 値引きや追加・変更工事の減額の合意が、帳簿に反映されていなかったのではないか
- 工事が完成していないのに、完成工事高を計上していなかったか
- 請求書の二重計上がなかったか
原因によって、直すべき事業年度と方法が変わります。取引先の回答だけを根拠に処理すると、今回の裁決のように、税務調査や審判所で認められないおそれがあります。
過去の申告の訂正は「更正の請求」
原因が過去の事業年度の売上の過大計上や入金の処理漏れなら、払いすぎた法人税は、更正の請求によって減額を求めることになります。国税通則法第23条により、更正の請求ができるのは、原則として法定申告期限から5年以内です。
ここに大きな落とし穴があります。売掛金の残高は、何年も動かないまま繰り越されることがあります。気づいたときには、誤りが生じた事業年度が5年より前で、更正の請求の期限が過ぎていることもあります。当期の損金にもできず、過去の申告も直せない、ということになりかねません。修正申告と更正の請求の期限の全体像は、修正申告と更正の請求で整理しています。
売上を「仮装」していた場合は、さらに不利になる
売上を意図的に水増しして決算書をよく見せていた場合(いわゆる粉飾)は、もう一段厳しい扱いになります。法人税法では、事実を仮装して経理したことによる過大な申告について、会社が修正の経理をし、その修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまで、税務署長は減額の更正をしないことができるとされています(法人税法第129条)。さらに、減額された税額は一部を除いてすぐには還付されず、その後の事業年度の法人税額から順に差し引かれる仕組みです(法人税法第135条)。
粉飾した決算書で融資を受けていた場合は、税金の問題にとどまらず、金融機関との信頼関係の問題にもなります。過去の決算書の数字を正すときは、税務と融資の両面を考えて、手順を慎重に決める必要があります。
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オンライン記帳・申告サポートを見るここからは、税理士・公認会計士として考えること
ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
実在しない売掛金は、銀行から見ると「資産の水増し」
売掛金は、銀行が決算書を見るときに、とくに注意する科目のひとつです。銀行は、売上に対して売掛金が何か月分あるか(売上債権回転期間)を前の期と比べ、急に増えていないか、長く動いていない残高がないかを見ています。回収の見込みが薄い売掛金は、銀行が会社の実態の財務を評価するときに、資産から差し引かれることがあります。
つまり、実在しない売掛金を帳簿に残していても、決算書がよく見えるわけではありません。むしろ、銀行に説明できない残高が残っていること自体が、決算書の信頼性を下げます。売掛金を差し引いた結果、実質的に債務超過になる会社もあります(債務超過の会社は融資を受けられるか)。
建設業は、工事の期間が長く、出来高払いや追加・変更工事、相殺が多いため、完成工事未収入金の残高と実際の残高がずれやすい業種です。業界の経営の特徴は建設業(総合工事業・工務店)の動向と経営のポイントでもまとめています。
「今期の損失でまとめて落とす」前に確認したいこと
| 確認すること | 理由 | 対応 |
|---|---|---|
| 残高がなくなった原因と時期 | 当期の損失か、過去の誤りかで扱いが変わる | 取引先の元帳・入金記録・契約書・請求書を突き合わせる |
| 誤りが生じた事業年度 | 更正の請求は法定申告期限から5年以内 | 期限内の事業年度は更正の請求を検討する |
| 当期に解除・返品・減額の合意があったか | あれば当期の損金になりうる(基本通達2-2-16) | 合意書や変更契約など、当期の事実を示す書類を残す |
| 取引先の倒産・回収不能 | 貸倒損失は通達の要件を満たす必要がある | 法的整理の書類、債務免除の通知、取引停止後の経過などを確認する(滞納家賃の例は滞納家賃と貸倒損失の要件) |
| 消費税の扱い | 売上の取消しや貸倒れは、消費税の申告にも影響する | 法人税と合わせて消費税の処理も確認する |
| 銀行への説明 | 特別損失や売掛金の急な減少は理由を聞かれる | 原因と、再発防止の管理方法を説明できるようにしておく |
決算前の「残高確認」を習慣にする
いちばんの予防は、誤りを何年も繰り越さないことです。決算の前に、主な取引先と売掛金・買掛金の残高を確かめ合うだけで、入金の処理漏れや相殺の記帳漏れの多くは、その期のうちに見つかります。その期に見つかれば、正しい事業年度の数字で決算を組むことができます。
月次の試算表で、取引先ごとの売掛金の残高と回収予定を一覧にしておくと、動いていない残高にも早く気づけます。銀行に試算表を出す会社なら、その一覧は融資の相談でもそのまま説明資料になります(決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェック)。
数字をよく見せることより、説明できる数字を積み上げることのほうが、融資を受け続けるうえでは強い。帳簿の残高を正しく保つことは、その土台です。
今後も注意して見ていきたいこと
- 非公開裁決は審判所のウェブサイトでは公表されていないため、判断の詳しい理由は、報道の全文や今後の解説で確認していく必要がある
- 過去の誤りの修正を、当期の特別損失として処理する決算は中小企業で多い。税務調査で、前期損益修正損の中身(当期の事実に基づくものかどうか)を確かめられる場面は今後も続くとみられる
- 金融機関は、融資先の決算書の信頼性を確かめる動きを強めている。売掛金の残高の説明を求められる場面は増えていくと考えられる
まとめ
- 報道によれば、取引先から残高が零円と回答された完成工事未収入金を前期損益修正損として損金に算入した会社について、審判所は損失に当たらないとして損金算入を否認した(非公開裁決)
- 当期の損金にできるのは、当期に契約の解除・取消し・返品などの事実が生じた場合(基本通達2-2-16)や、要件を満たす貸倒れの場合。「残高が実在しないと分かった」だけでは当期の損失とは言えないことが多い
- 原因が過去の入金の処理漏れや売上の過大計上なら、直すのは過去の事業年度の申告。更正の請求は法定申告期限から5年以内
- 売上を仮装していた場合は、修正の経理が必要で、減額された税額もすぐには還付されない
- 実在しない売掛金は、銀行から見ると資産の水増し。決算前の残高確認で、誤りをその期のうちに直すことが、税務と融資の両方で会社を守る
売掛金や未収入金の残高に説明できない金額が残っている、過去の決算書の数字をどう直せばよいか迷っている、という方は、お気軽にご相談ください。
