融資・資金調達

プライベートクレジットは「選別」の局面へ|ムーディーズとPGIMの見方から、中小企業の資金調達で読み取れること

日本経済新聞(2026年10月31日朝刊)が、プライベートクレジット(ファンドなどを通じた融資)の現状について、ムーディーズ・レーティングスとPGIMの幹部の見方を伝えました。年初に米金融市場で相次いだ混乱は一服しつつある一方、借り手の選別が進んでいるという内容です。

遠い世界の話に見えますが、語られていることは、日本の中小企業の資金調達にもそのまま置き換えられる内容です。この記事では、記事の内容を整理し、中小企業の経営者が読み取っておきたいことを考えます。

この記事の結論
  • ムーディーズの幹部は、市場全体は安定しているが借り手の選別が進んでいると指摘。強いビジネスモデルと契約に基づく安定したキャッシュフローを持つ企業は堅調で、脆弱な企業には圧力がかかる
  • 日本は米国と異なり、銀行とプライベートクレジットが協業的な市場で、銀行融資を優先株や劣後債といったメザニンが補完するとの見方
  • PGIMの幹部は、需要はなお強いとする一方、巨額の社債発行が他の資金を押しのける懸念にも言及
  • 中小企業に置き換えると、安定した収入の仕組み、借入の少なさ、自己資本の厚さで選別されやすくなる。銀行以外の資金は、使い道と返済の原資を確認してから使いたい

記事で示された内容

項目語られた内容
信用の状況全体は総じて安定。デフォルト率は歴史的な平均並み。ただし利払いが滞る債権やウオッチリストの融資は徐々に増えている(ムーディーズ)
選別強靱なビジネスモデル、契約に基づく安定したキャッシュフロー、資金調達力を持つ企業は堅調。脆弱な企業や景気の影響を受けやすい企業は圧力にさらされる(ムーディーズ)
市場の規模ダイレクトレンディング市場は約2兆ドルから2030年に4兆ドル近くになる可能性(ムーディーズ)
日本の市場規模は小さいが伸びていく。銀行融資を優先株や劣後債といったメザニンが補完する協業的な市場(ムーディーズ)
高金利の影響規模が小さく高いレバレッジを抱える企業は課題に直面する(ムーディーズ)
個人投資家の教訓何を買っているか十分に理解しないまま投資していた例があった。一定の換金性があるとされる商品でも、換金できなくなることがある(ムーディーズ)
需要プライベートクレジットへの需要は依然強い。流動性が低い分の上乗せが魅力(PGIM)
懸念巨大なクラウド事業者の巨額の社債発行が、他の資金を押しのける懸念はある。ただ市場全体への影響はまだ出ていない(PGIM)

出典:日本経済新聞「プライベートクレジット、『選別進む』『需要なお強い』 市場の見方」(2026年10月31日朝刊)。

ムーディーズの幹部は、信用市場を「風船」にたとえています。銀行の融資を抑えても、資金の需要は別の場所に現れるという意味です。当事務所でも以前、銀行の貸出余力に限界、ファンドが企業融資の担い手にで、この流れを取り上げました。

「選別」を中小企業に置き換えると

ここからは、税理士・公認会計士として、また自らも複数の地銀から融資を受けてきた立場からの考えです。

大企業向けの話ですが、資金の出し手が見ているポイントは、銀行が中小企業を見るときと変わりません。

記事で挙げられた点中小企業に置き換えるとやっておきたいこと
強靱なビジネスモデル価格転嫁ができ、取引先が分散している主要な取引先の比率を把握し、値上げの実績を説明できるようにする
契約に基づくキャッシュフロー保守、賃料、顧問料など継続収入がある継続収入の比率を数字で示す
資金調達力複数の金融機関と取引がある取引先を分散し、借入の一覧をつくる(信用金庫と地方銀行の違い)
高いレバレッジを避ける債務償還年数が長すぎない借入の返済を利益でまかなえるか確認する(銀行格付けを上げる方法)
景気の影響を受けにくい売上の変動が小さい売上が2割減ったときの資金繰りを試算する

金利が上がる局面では、利払いの負担がそのまま「選別」の材料になります。金利がついていなかった時代には表に出なかった差が、これから決算書に出てきます。

銀行融資の「上」に積む資金という考え方

記事で興味深いのは、日本は銀行とプライベートクレジットが競合するのではなく、銀行融資の不足を補う形で協業する市場だという見方です。

資金の積み上げ方のイメージ
自己資本返済不要・最後に戻る
↑ リスクが高く、コストも高い
メザニン優先株・劣後ローンなど
↑
銀行融資最初に返済・金利は低い
銀行融資だけでは足りない部分を、中間の資金で補う考え方

中小企業の場面では、次のような形で同じ考え方が使われます。

  • 公庫の資本性ローン:銀行から資本に近いものとして見てもらえる場合があり、民間の融資の呼び水になる(資本性劣後ローンとは)
  • M&Aや承継の資金:買収資金の銀行融資の上に、売り手の分割払いや劣後の資金を組み合わせる(HD化・M&Aと融資の組み立て)
  • ノンバンクのつなぎ資金:不動産の買い替えなどで短期に使う。金利は高いので、返済の出口が見えていることが前提

銀行以外の資金を使うときの注意点

確認すること理由
実質の負担金利のほかに手数料がかかる。年率に直して比べる
使い道投資や買収なのか、赤字の穴埋めなのか。穴埋めに高い金利の資金を使うと悪化しやすい
返済の原資利益からか、物件の売却からか、銀行への借り換えか
担保と保証銀行融資との優先順位、既存の融資契約に抵触しないか
銀行への説明銀行に黙って高い金利の資金を入れると、信頼を損なうことがある
融資が通る決算書と事業計画を、一緒につくります

20行超の金融機関と折衝し、累計120億円超の融資承認を得てきたチームが、資料作成から金融機関への打診まで伴走します。

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余裕資金の運用でも同じ教訓

記事では、個人投資家が中身を十分に理解しないまま投資し、解約に応じてもらえない事態が起きた例にも触れられています。経営者の方にも、利回りの高いファンドや私募の商品の話が持ち込まれることがあります。

会社の余裕資金で投資する場合は、換金できる時期、仕組み、預ける先を読んでから判断してください。利回りが高いのは、換金しにくさや信用のリスクの対価です。銀行から見ても、換金しにくい資産は手元資金としては評価されにくいものです。

まとめ

  • プライベートクレジットの混乱は一服しつつあるが、借り手の選別が進んでいる
  • 日本では、銀行融資を優先株や劣後債などのメザニンが補完する形で伸びるとの見方がある
  • 中小企業に置き換えると、安定した収入、借入の軽さ、自己資本の厚さ、取引先の分散が選別の基準になる
  • 銀行以外の資金は、実質の負担と使い道、返済の原資を確認してから使う
  • 高利回りの運用商品は、換金のしやすさと仕組みを理解してから判断する

資金調達の組み立てや、銀行からの見え方を一度整理したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

プライベートクレジットとは何ですか?
銀行ではなく、投資ファンドなどが企業にお金を貸す融資のことです。銀行に比べて金利は高めですが、柔軟に条件を組めることがあります。これまでは主に大企業やM&Aの資金が中心でしたが、銀行の貸出余力が細るなかで、利用される場面が広がっています。
中小企業にも関係がありますか?
ファンドから直接借りる場面はまだ限られますが、無関係ではありません。銀行の融資が届かない部分を、劣後ローンや優先株といった資金で補う考え方は、中小企業のM&Aや事業承継でも使われています。公庫の資本性ローンのように、公的な制度で同じような役割を果たすものもあります。
銀行に断られたら、ファンドやノンバンクを使うべきですか?
金利と手数料が高くなるのが一般的なので、まず断られた理由を確認することが先です。一時的な資金不足なのか、収益力の問題なのかで答えが変わります。返済できる見込みが立たないまま高い金利の資金を入れると、状況を悪化させることがあります。資金の使い道と返済の原資を確認してから判断してください。

※本記事は2026年10月31日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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