日本経済新聞(2026年10月31日朝刊)が、旧赤坂プリンスホテル跡地の複合施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京・千代田)の大部分を、大和証券グループ本社系が組成するファンドが買収すると報じました。オフィスと商業施設を計3,000億円超で取得し、その一部はデジタル証券にして個人に販売するとのことです。
機関投資家に限られていた大型不動産に、個人が少額で投資できるようになる動きです。一方で、「個人が買える不動産投資」といっても、現物の不動産投資とは中身がかなり違います。この記事では、報道の内容を整理し、融資・税金・相続の面から違いを考えます。
- 東京ガーデンテラス紀尾井町のオフィスと商業施設を、大和証券G系のファンドが3,000億円超で取得。2026年で最大級の不動産取引に(日本経済新聞)
- オフィスのうち約900億円分を三菱UFJ信託銀行が受託し、借入を除く約300億円分をデジタル証券として大和証券が個人に販売する
- 背景には都心オフィスの好調がある。都心5区の空室率は6か月連続で低下し、募集賃料は1年で14%近く上昇(三鬼商事)
- デジタル証券は手軽だが、融資を使えない、賃貸経営の実績にならない、損益通算の効果は期待しにくいなど、現物の不動産投資とは別物。目的に応じて使い分けたい
報道で示された内容
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 対象 | 東京ガーデンテラス紀尾井町のオフィスと商業施設。住居部分は対象外 |
| 取得額 | 計3,000億円超。売り手はブラックストーン |
| デジタル証券 | オフィスのうち約900億円分を三菱UFJ信託銀行が受託。借入を除く約300億円分を、投資単位を小さくして大和証券が個人向けに販売。1度の不動産デジタル証券の発行額として最大規模 |
| これまでの経緯 | 西武HDが約1,040億円を投じて再開発し2016年に開業。2025年にブラックストーンがホテルや住居部分も含めて4,000億円規模で買収。ホテル部分などは、西武HDが新たに組成するファンドで再び投資すると7月に発表 |
| オフィス市況 | 9月の東京都心5区の空室率は6か月連続で低下。平均募集賃料は1年で14%近く上昇し、2002年以降の最高値を更新(三鬼商事) |
| 他の大型取引 | カナダのファンドによる電通本社ビルの取得が約3,000億円(シービーアールイー) |
出典:日本経済新聞「『赤坂プリンスホテル』跡地ビル、大和証券G系が3000億円で買収」(2026年10月31日朝刊)。
お金の流れを図にすると
報道の数字から単純に計算すると、約900億円分のうち3分の2ほどは借入ということになります。個人が買うデジタル証券も、実は借入の上に乗っていると読むことができます。自分で融資を受けなくても、金利が上がれば物件側の利払いが増え、分配に影響しうるという点は押さえておきたいところです(これは報道の数字からの私の計算で、商品の実際の条件は目論見書で確認が必要です)。
現物の不動産投資と何が違うのか
ここからは、税理士・公認会計士として、また自らも不動産投資を行ってきた立場からの考えです。
| 項目 | 現物の不動産(個人・法人) | デジタル証券 |
|---|---|---|
| 必要な資金 | 自己資金+融資。金額は大きい | 少額から投資できる |
| 融資 | 使える。レバレッジが効く | 投資家自身は基本的に使わない |
| 運営 | 自分で判断する(管理会社への委託を含む) | ファンド側に任せる。口出しはできない |
| 物件 | 中小規模が中心 | 一等地の大型物件にも投資できる |
| 換金 | 売却に時間と費用がかかる | 売買の仕組みはあるが、買い手がいる範囲で。価格は変動する |
| 銀行から見た実績 | 賃貸業の実績と返済の実績になる | 賃貸経営の実績にはならない |
| 税金 | 不動産所得。個人は一定の損益通算あり、減価償却を自分で計上 | 分配金として課税。減価償却を自分で計上しない |
一番大きな違いは、融資を使って資産を積み上げられるかどうかです。現物の不動産投資は、融資を返済していくことで純資産が積み上がり、その実績が次の融資につながります。デジタル証券は手軽ですが、この循環は生まれません。
税金と相続で確認しておきたいこと
- 分配金の課税:商品の仕組みによって異なります。受益証券発行信託を使う商品か、匿名組合を使う商品かで扱いが変わるため、購入前に目論見書と証券会社の案内で確認してください。受益証券発行信託の商品では、税引き後の利回りを税率20.315%で示した案内の例があります(野村證券の案内。過去の商品の例です)
- 2026年4月からの変更:令和7年度税制改正により、2026年4月1日以降、特定受益証券発行信託の分配金の一部について税務上の扱いが変わったと大和証券が案内しています(大和証券のお知らせ)。古い解説をそのまま信じず、最新の案内を確認してください
- 相続税評価:現物の不動産は路線価や固定資産税評価額で評価され、賃貸していれば評価がさらに下がります(相続税で不動産はいくらに評価される?)。デジタル証券に同じ効果があるとは限りません。「不動産だから相続に有利」と決めつけず、商品ごとに確認が必要です
- 法人で買う場合:個人と課税の形が変わります。不動産法人の余裕資金で買うなら、税金だけでなく銀行からの見え方も一緒に考えましょう(不動産法人の法人税等の税率)
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る都心の大型取引は、中小の不動産投資家に関係があるのか
3,000億円の取引は別世界の話に見えますが、次のような形で関係してきます。
- 賃料が上がる市場が見える:都心のオフィス賃料の上昇は、オフィス需要が強いことの表れです。ただし都心の一等地の話で、中小規模のビルや地方に同じように当てはまるとは限りません
- 投資家の資金が厚くなる:個人マネーが不動産に向かう経路が増えれば、利回りが低めでも買われやすくなり、価格を支える方向に働きます
- 融資の見方は別:銀行の不動産融資への姿勢は、価格の動きとは別に厳しくなることがあります(地銀の不動産融資が過去最大の伸び)
- 金利の影響は全員に及ぶ:利回りが低い物件ほど金利上昇の影響を受けやすい。現物でも証券でも同じです(不動産投資の金利上昇対策)
どう使い分けるか
- 賃貸業として資産を積み上げたい:現物の不動産。融資の実績と純資産づくりが目的なら、デジタル証券は代わりになりません
- 余裕資金の分散先を増やしたい:デジタル証券は選択肢の一つになります。その場合も、仕組み、手数料、換金のしやすさ、分配の前提を読んでから判断してください
- 相続対策として考えている:商品の評価が現物と同じとは限りません。買う前に試算しましょう
まとめ
- 東京ガーデンテラス紀尾井町のオフィスと商業施設を、大和証券G系のファンドが3,000億円超で取得し、約300億円分をデジタル証券で個人に販売する
- 都心オフィスは空室率の低下と賃料の上昇が続き、一等地の取引が活発
- デジタル証券は少額で一等地に投資できるが、融資を使えず、賃貸経営の実績にもならない。現物の不動産投資とは別物と考える
- 分配金の課税は商品の仕組みで異なり、2026年4月に変更もあった。相続税評価も現物と同じとは限らない
不動産投資の進め方、法人での保有や融資の組み立てを一度整理したい方は、お気軽にご相談ください。
