取得・建築

国内の不動産投資額が7〜9月に2.2兆円で過去最高|「事業会社が既存物件を買う」時代に、法人で取得するときの税務・決算書・銀行の見方

日本経済新聞(2026年10月30日朝刊)が、国内の事業用不動産の投資額が7〜9月期に2兆2100億円となり、四半期として過去最高を更新したと報じました。不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE)の集計によるもので、住宅への投資額も四半期で過去最高だったとされています。

金利が上がるなかで、なぜ投資が増えているのか。記事では、賃料の上昇が見込めるようになったこと、そして建築費の高騰を背景に、事業会社が自ら開発するより既存の物件を買う動きが広がっていることが紹介されています。この記事では、報道の内容を整理したうえで、本業のある会社が法人で物件を取得するときの税務・決算書・銀行の見方を、税理士・公認会計士の立場から解説します。個別の物件や銘柄の売買をおすすめするものではありません。

この記事の結論
  • CBREの集計で、7〜9月期の国内の事業用不動産(10億円以上の取引)の投資額は前年同期比4%増の2兆2100億円で、四半期として過去最高。住宅は35%増の4190億円で過去最高、オフィスは29%減(日本経済新聞)
  • 金利が上がるなかでも賃料の上昇期待が根強く、期待利回りは横ばい。買い手として事業会社の存在が目立つ
  • 法人で既存物件を買うときは、取得価額に入れる費用と入れなくてよい費用、土地と建物の区分、中古の耐用年数、居住用賃貸建物の消費税を取得前に確認したい
  • 銀行は「賃料が上がる見込み」ではなく、今の賃料で返済できるかを見る。本業と賃貸の利益を分けて説明できる決算書にしておくことが大切

報道で示された内容

項目報道で示された内容
投資額(7〜9月期)2兆2100億円(前年同期比4%増)。四半期として過去最高。10億円以上の取引が対象
大型取引1000億円以上の取引が4件。最大はヒューリックなどによる東京・丸の内のオフィスビルの一部取得(約2300億円)。シンガポールの政府系企業グループによる千葉県印西市のデータセンターの取得(1710億円)も
物件の種類別オフィスは29%減の5800億円。住宅は35%増の4190億円で四半期の過去最高。カナダのブルックフィールドが大都市圏の賃貸マンション50棟を1000億円で取得するなどの取引があった
投資主体別海外投資家は30%増の7750億円、J-REITは49%増の3860億円。REIT以外の国内投資家は1兆490億円で、前年同期から17%減
背景インフレの環境で幅広い不動産の賃料上昇が見込めるようになった。金利が上がるなかでも期待利回りは横ばい
買い手の変化事業会社の存在が目立つ。建築費の高騰などを背景に、自ら開発するより既存の不動産を取得する動き

出典:日本経済新聞「国内の不動産投資額、7〜9月は2.2兆円 四半期で過去最高」(2026年10月30日朝刊)。集計はCBRE。

同紙は、1〜3月期は2兆円台で過去最大(2026年5月11日)、4〜6月期は1兆円超(同8月3日)と報じており、2026年は投資額の大きい状態が続いています。

金利が上がっても価格が下がらない理由

ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けて不動産投資を続けてきた立場からの考えです。

不動産の価格は、おおまかに「年間の純収益 ÷ 期待利回り」で考えられます。金利が上がると、投資家が求める利回りも上がりやすく、価格には下げの圧力がかかります。今回の報道では、期待利回りは横ばいとされています。つまり、金利の上昇分を、賃料が上がる見込みで打ち消している状態といえます。

要素価格への影響今回の状況(報道)
金利の上昇期待利回りを押し上げ、価格を下げる方向金利は上昇している
賃料の上昇期待純収益を増やし、価格を上げる方向幅広い不動産で見込めるようになった
建築費の高騰新築の供給を抑え、既存物件の価値を支える方向事業会社が既存物件の取得を選ぶ
結果—期待利回りは横ばい、投資額は過去最高

ここで注意したいのは、価格を支えているのは「見込み」の賃料だという点です。買い手が大手や海外の投資家であれば、自己資金の厚さで吸収できるかもしれません。一方、中小企業や個人の投資家が借入で買う場合、賃料の上昇が見込みどおりに進まず、金利だけが上がると、返済の余裕が先に削られます。金利の上昇と借入の関係は、金利上昇局面の不動産投資、ICRとはでも解説しています。

事業会社が既存物件を買うときの税務

報道で「事業会社が買い手として目立つ」とされたように、本業のある会社が賃貸物件を持つ場面は増えていくと考えられます。法人で既存の物件を取得するときに、取得前に確認しておきたい税務のポイントを整理します。

取得価額に入れる費用、入れなくてよい費用

購入代金に加えて、仲介手数料など取得のために要した費用は、原則として取得価額に含めます。一方、法人税基本通達7-3-3の2では、不動産取得税、登録免許税その他登記のために要する費用などは、取得価額に算入しないことができる(損金にできる)とされています。

費用法人個人(不動産所得)
購入代金(土地・建物)取得価額取得価額
仲介手数料取得価額(土地・建物に按分)取得価額(土地・建物に按分)
不動産取得税・登録免許税・登記費用取得価額に入れないことができる(法基通7-3-3の2)業務用の資産であれば、必要経費として扱うのが一般的
固定資産税の精算金取得価額取得価額

取得時の費用の全体像は、不動産の取得価額に含める費用、固定資産税の精算金の扱いで詳しく扱っています。

土地と建物の区分

減価償却できるのは建物(と設備)だけで、土地は償却できません。一括で買った物件は、契約書の内訳、消費税額からの逆算、固定資産税評価額の比などで、土地と建物に区分します。区分の仕方は、毎年の償却費と、売却時の利益の両方に効いてきます。争いになった事例は土地と建物の按分が争われた事例をご覧ください。

中古の耐用年数

中古の建物は、法定耐用年数ではなく、残りの使用可能期間を見積もった年数を使うことができます。見積もりが難しい場合の「簡便法」は、国税庁のタックスアンサー(No.5404)によれば次のとおりです。

  • 法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数 × 20%
  • 一部を経過した資産:(法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%
  • 1年未満の端数は切り捨て、2年に満たない場合は2年

ただし、取得後に事業の用に供するために支出した資本的支出が、その資産の再取得価額の50%を超える場合は、簡便法は使えず法定耐用年数によります。リノベーション前提で買う場合は特に注意が必要です(中古建物の資本的支出50%基準)。

居住用賃貸建物の消費税

報道では住宅への投資が過去最高とされました。住宅として貸す建物を買う場合、消費税の扱いに注意が必要です。2020年10月1日以後に取得する居住用賃貸建物(税抜1,000万円以上のもの)は、仕入税額控除の対象になりません(消費税法30条10項)。店舗や事務所が入る建物は、住宅部分とそれ以外を合理的に区分して判定します。取得後3年以内に住宅以外に用途を変えた場合や売却した場合の調整もあります。

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決算書の表示と、銀行の見え方

本業と賃貸の利益を分けて見せる

本業のある会社が賃貸物件を持つと、損益計算書には本業の売上と賃料収入が並びます。賃料収入を売上高に入れるか、営業外収益に入れるかは、税務上の所得には影響しませんが、決算書の見え方(営業利益など)は変わります。どの区分にするかは、不動産賃貸が事業の目的として定款に入っているか、継続的・主要な事業か、といった取引の実態に応じて、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。考え方は「収益は上に、費用は下に」の本当の意味と税務と会計(GAAP)の違いをご覧ください。

いずれの区分にしても、銀行に説明するときは、本業の利益と賃貸の利益(償却前)を分けた資料を用意しておくと、返済の原資がどこにあるのかが伝わりやすくなります。

銀行が見るのは「今の賃料」

銀行は、賃料が上がる見込みよりも、今の賃料と、金利が上がったときの返済余力を見ます。著書のモデルでは、債務償還年数を次のように考えます。

(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)10年以内が健全、20年超は厳しい

物件を借入で買うと、分子の借入金が一度に増えます。賃料収入で分母も増えますが、利回りが低い物件を高い金利で買うと、債務償還年数は長くなりがちです。中古の物件で償却期間を短くすると、税務上の所得は小さくなる一方、帳簿上の建物の価額が速く減っていきます。2019年、私自身、減価償却の速い物件が多く、貸借対照表上の資産の簿価よりも負債のほうが大きい債務超過の状態になり、複数の銀行から融資を断られました。償却は銀行の評価にも効くことを、取得前から意識しておきたいところです(減価償却と銀行のEBITDAの見方)。

取得前のチェックポイント

確認すること理由
今の賃料で、金利が1%上がっても返済できるか賃料上昇は見込みにすぎない。DSCR・ICRで確認する
土地と建物の区分と、その根拠資料償却費と売却益の両方に影響する
中古の耐用年数と、予定している改修の金額資本的支出が50%を超えると簡便法が使えない
住宅部分の有無と、消費税の控除の可否居住用賃貸建物は仕入税額控除の対象外
本業の決算書への影響(債務償還年数・自己資本比率)本業の運転資金の借入に影響しないか
賃料収入の表示区分取引の実態に応じて、会計の基準で判断する

今後も注意して見ていきたいこと

  • 日銀の金融政策:10月29〜30日の金融政策決定会合の結果と、12月以降の追加利上げの見通し(日銀10月会合の見通し)
  • 賃料の上昇が実際に進むか:特に住宅で、賃料の上昇が入居者の負担の限界にぶつからないか
  • 期待利回りの動き:金利の上昇が続いた場合に、横ばいの期待利回りが上がり始めるか
  • 建築費:建築費の高止まりが続くと、既存物件への需要が続く一方、取得価格は高くなりやすい

まとめ

  • CBREの集計で、7〜9月期の国内の事業用不動産の投資額は2兆2100億円と四半期で過去最高。住宅も過去最高、オフィスは減少
  • 金利の上昇を賃料の上昇期待が打ち消し、期待利回りは横ばい。建築費の高騰で、事業会社が既存物件を買う動きが目立つ
  • 法人で取得するときは、取得価額に入れる費用、土地と建物の区分、中古の耐用年数、居住用賃貸建物の消費税を取得前に確認する
  • 銀行は「今の賃料で返せるか」を見る。本業と賃貸の利益を分けて説明でき、債務償還年数が長くなりすぎない買い方を考えたい

本業のある会社で賃貸物件の取得を考えている方、取得後の決算書の見せ方や金融機関への説明に不安がある方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

よくある質問

金利が上がっているのに、なぜ不動産の投資額は過去最高なのですか?
報道では、インフレの環境のなかで幅広い不動産で賃料の上昇が見込めるようになり、金利が上がっても期待利回りは横ばいで推移していると説明されています。また、建築費の高騰を背景に、自ら開発するより既存の物件を買う事業会社が増えているとされています。ただし、賃料の上昇は「見込み」であり、借入をして買う場合は、金利の上昇に耐えられるかを別に確認する必要があります。
法人で中古の賃貸マンションを買うと、消費税は戻ってきますか?
住宅として貸す建物で、税抜1,000万円以上のもの(居住用賃貸建物)は、2020年10月1日以後の取得から仕入税額控除の対象外です(消費税法30条10項)。一方、事務所や店舗として貸す部分は、課税売上割合などに応じて控除の対象になります。用途の判定や、取得後3年以内に用途を変えた場合・売却した場合の調整もあるため、取得前に確認してください。
本業がある会社が賃貸不動産を持つと、銀行の評価はどう変わりますか?
賃料収入が安定していれば、返済の原資が増える一方、借入も増えるため、債務償還年数や自己資本比率は変わります。本業と賃貸のどちらの利益で返済しているのかが分かるように、決算書の表示や部門別の数字を整えておくと、銀行に説明しやすくなります。賃貸収入を売上高に入れるか営業外収益に入れるかは、取引の実態に応じて会計の基準で判断します。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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