減価償却・設備

中古建物の改修費が取得価額の50%を超えると簡便法は使えない|耐用年数の3パターンと判決・裁決

築古の木造アパートを安く買い、リノベーションしてから貸し出す。中古物件の定番の手法ですが、ここで見落とされやすいのが、改修費(資本的支出)が建物の取得価額の50%を超えると、中古資産の簡便法による短い耐用年数が使えなくなるというルールです。

「築30年の木造だから4年」と考えていたのに、実際には5年や22年になる。逆に、短い耐用年数で償却を急ぐと決算書の見え方が悪くなり、次の融資に響くこともあります。この記事では、法令と通達で50%基準を確認し、数字の例、判決・裁決、銀行からの見え方まで整理します。

この記事の結論
  • 中古建物は、法定耐用年数の代わりに見積法か簡便法で耐用年数を決められる(耐用年数省令3条1項)
  • ただし、事業に使うための資本的支出が取得価額の50%を超えると、簡便法は使えない(同項ただし書)。見積法か、通達1-5-6の簡便計算による
  • 資本的支出が再取得価額の50%を超えると、見積法も簡便法も使えず法定耐用年数(通達1-5-2)
  • 事業に使い始めた後の改修でも、一の計画に基づく合計が再取得価額の50%を超えると法定耐用年数になる(通達1-5-3)
  • 耐用年数を短くするほど簿価が早く減り、債務超過に見えやすい。購入前に、税務・決算書・融資期間をまとめて試算する

簡便法の計算式と「50%ただし書」を条文で確認する

中古資産を取得して事業に使う場合、耐用年数は次のいずれかによることができます(減価償却資産の耐用年数等に関する省令〔耐用年数省令〕3条1項、e-Gov法令検索)。

  • 見積法(1号):事業の用に供した時以後の使用可能期間の年数
  • 簡便法(2号):使用可能期間を見積もることが困難なものについて、次の年数
法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数 × 20%法定耐用年数の一部を経過した資産:(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20%※1年未満の端数は切り捨て(同条5項)。2年に満たないときは2年

そして同項には、次のただし書があります。要約すると、その資産を事業の用に供するために支出した資本的支出の金額が、その資産の取得価額の100分の50に相当する金額を超える場合には、2号(簡便法)の年数は使えない、という内容です。ただし書が制限しているのは2号の簡便法だけで、1号の見積法は条文上は残っています。

「資本的支出」は、資産の価値を高めたり耐久性を増したりする支出です(法人税法施行令132条、所得税法施行令181条。区分は修繕費と資本的支出参照)。国税庁のタックスアンサーNo.5404も同じ説明です。

通達1-5-1〜1-5-6:50%基準に関係する取扱い

国税庁の「耐用年数の適用等に関する取扱通達」第5節(中古資産の耐用年数)は、次のように定めています。

通達見出し内容(要約)
1-5-1見積法及び簡便法算定は事業の用に供した事業年度にでき、その年度にしなかったときは後の年度ではできない
1-5-2見積法及び簡便法を適用できない中古資産事業の用に供するに当たって支出した資本的支出が再取得価額の50%超なら法定耐用年数
1-5-3資本的支出をした後の耐用年数見積法・簡便法で償却中の中古資産に、一の計画に基づく支出の合計(または各年度中の合計)が再取得価額の50%を超える資本的支出をしたら、1-5-2を準用
1-5-4見積りが困難な場合資料がなく技術者等の特別な調査が必要、または見積りに多額の費用がかかる場合
1-5-5経過年数が不明な場合構造、形式、製作時期の表示などから適正に見積もる
1-5-6資本的支出の額を区分した簡便計算ただし書で簡便法が使えなくても、次の算式の年数(1年未満切捨て)を認める。資本的支出が再取得価額の50%超のときを除く

1-5-6の算式は次のとおりです。

耐用年数 =(取得価額 + 資本的支出)÷(取得価額 ÷ 簡便法による耐用年数 + 資本的支出 ÷ 法定耐用年数)

「再取得価額」は、同じ新品を取得する場合の価額です。建物なら同じ規模・構造で新築する場合の建築費と考えます。国税庁のQ&Aは、法定耐用年数22年・経過10年の資産を1,000万円(再取得価額2,200万円)で取得し800万円の資本的支出をした例で、この算式により16年としています。

なお、事業に使い始めた後の資本的支出で、50%を超えないものは、その資本的支出も現に適用している耐用年数で償却します(同通達1-1-2、法人税法施行令55条1項)。

個人の場合も同じか

通達は文言上「法人」が対象ですが、東京地裁平成28年9月30日判決(後述)は、国税庁長官の昭和45年6月4日付の文書で所得税にも適用されるものとされていると認定しています。

項目法人個人
根拠法人税法31条、同法施行令132条、耐用年数省令3条所得税法49条、同法施行令181条、耐用年数省令3条
50%基準・通達1-5-2〜1-5-6適用同様に扱われる(上記判決の認定)
耐用年数を決める時期事業の用に供した事業年度業務の用に供した年分
償却費の計上償却限度額の範囲内で任意(損金経理が要件)計算した償却費を必要経費に算入(任意ではない)

数字で比べる:50%以下・50%超・再取得価額の50%超

次の物件で、改修費だけを変えて比べます(数字はすべて説明のための仮定です)。

  • 住宅用の木造アパート、築30年(法定耐用年数22年を全部経過)
  • 建物部分の取得価額 1,000万円(土地は別)
  • 再取得価額(同規模で新築した場合)2,000万円 → その50%は1,000万円
  • 簡便法の耐用年数:22年 × 20% = 4.4年 → 4年
  • 定額法、1年間フルに使った場合で計算
パターン改修費判定耐用年数償却の対象額年間の減価償却費
A:取得価額の50%以下400万円400万円 ≦ 500万円簡便法 4年(改修費も4年)1,400万円1,400万円 × 0.250 = 350万円
B:取得価額の50%超、再取得価額の50%以下600万円500万円 < 600万円 ≦ 1,000万円通達1-5-6の簡便計算 5年1,600万円1,600万円 × 0.200 = 320万円
C:再取得価額の50%超1,200万円1,200万円 > 1,000万円法定耐用年数 22年2,200万円2,200万円 × 0.046 = 101.2万円

パターンBの計算は、1,600万円 ÷(1,000万円 ÷ 4年 + 600万円 ÷ 22年)= 1,600万円 ÷ 約277.3万円 ≒ 5.77年 → 5年です。Bでは見積法を使う余地もありますが、根拠資料が必要です。見積法も簡便計算も使わなければ、法定耐用年数の22年になります。

改修費の大小で、償却のスピードがまったく変わることが分かります。

判決・裁決に見る「時期」と「工事の中身」

50%基準の当てはめそのものを正面から判断した公表裁決・判決は、今回の調査では見つかりませんでした。一方、耐用年数を決める時期、改修が資本的支出か、資本的支出の耐用年数については公表された事例があります。

事例争点結論ポイント
国税不服審判所 平成25年12月17日裁決取得年度に法定耐用年数を使った中古建物を、後の年度に見積法等へ変更できるか棄却(変更できない)耐用年数は最初の年度に決める
東京地裁 平成28年9月30日判決(税務訴訟資料266号-131)個人が法定耐用年数で申告した中古建物を、更正の請求で簡便法に訂正できるか訂正できない(控訴あり)通達は所得税にも適用。申告書の記載で選択が判断された
国税不服審判所 平成26年4月21日裁決賃貸マンションの台所・浴室の全面入替えは修繕費か全額が資本的支出(撤去部分の除却損は容認)全面的な入替えは資本的支出になりやすい
国税不服審判所 平成24年2月6日裁決使い始める前の工事費を雑損失にできるか取得価額。明細ごとに資産の種類で区分使用開始前の工事は「取得のための費用」
東京地裁 令和3年3月30日判決(税務訴訟資料271号-45)※機械の事案中古機械と、その改良費(資本的支出)に簡便法の2年を使えるか法定耐用年数8年(控訴あり)資本的支出の耐用年数は本体と同じになる

耐用年数は最初の年に決め、あとから直せない

平成25年12月17日裁決は、取得年度に法定耐用年数を使った法人が、後の年度に見積法等へ変えることを認めませんでした(国税不服審判所)。

東京地裁平成28年9月30日判決は個人の事案です。取得した年分の青色申告決算書に法定耐用年数を記載していたことから法定耐用年数を選択したと認定し、減価償却は同じ方法の継続が必要で通達1-5-1の扱いは合理的だとして、更正の請求による簡便法への訂正を認めませんでした(国税庁 税務訴訟資料 順号12909。事件番号は公開資料で伏せられています)。改修の規模で使える方法が変わる以上、取得の年の申告で50%判定と耐用年数の方法を確定させる必要があります。

改修工事の中身で資本的支出かが決まる

平成26年4月21日裁決は、賃貸マンションの台所・浴室を取り壊してシステムキッチンとユニットバスを設置した費用を、価値を高め耐久性を増すものとして全額資本的支出とし、撤去部分の未償却残額は除却損と認めました(国税不服審判所)。平成24年2月6日裁決は、使用開始前の工事費を修繕費とする主張を退け、明細ごとに建物・附属設備などの取得価額に区分しました(国税不服審判所)。購入直後のリノベーションは資本的支出が積み上がりやすく、50%判定に直結します。

参考:資本的支出の耐用年数は本体と一緒に動く

東京地裁令和3年3月30日判決は、中古の充填機(取得約446万円)に640万円の改良をして本体も改良費も簡便法の2年で償却した法人について、工場設備の一部を構成する中古機械には簡便法を適用できないとし、本体も資本的支出も法定耐用年数の8年としました(国税庁 税務訴訟資料 順号13547)。機械の「総合償却」という建物にはない論点で判断されたもので、50%基準を判断したものではありませんが、短い耐用年数は根拠を問われることを示す例です。

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購入前・改修前に確認すること

確認すること理由・注意点
改修の見積りと、建物の取得価額・再取得価額の目安50%判定は「取得価額」と「再取得価額」の2本立て。土地と建物の按分で建物の取得価額が変わる
工事の明細の区分(建物・建物附属設備・器具備品・修繕)資本的支出の範囲が判定の分母・分子を左右する。明細ごとに見積書を分けてもらう
工事の時期と事業供用日(募集開始日)ただし書は「事業の用に供するために」した支出が対象。時期の線引きは記録で説明する
改修を分けて行う場合の計画通達1-5-3は「一の計画」に基づく支出を合算する。判定を避けるための分割は勧められない
簡便法・見積法・法定のどれを使うか事業の用に供した最初の年度に決める。あとから変更できない(通達1-5-1)
銀行の融資期間金融機関によっては、法定耐用年数から築年数を引いた残りの年数を融資期間の目安にすることがある。税務の耐用年数とは別物
数年分の決算書の試算償却費、経常利益、建物の簿価、借入残高、純資産を並べて確認する

取得価額と資本的支出の区分は購入直後のリノベーション費用は取得価額か修繕費か、簡便法の基本は中古建物の耐用年数(簡便法)と裁決事例と中古物件の減価償却、融資期間は融資期間と耐用年数をご覧ください。

会計上の扱いと決算書の表示

資本的支出に当たる改修費は、会計上も建物・建物附属設備などに計上し、減価償却します。企業会計は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従い(会社法431条)、法人税の所得計算も一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されます(法人税法22条4項)。

中小企業の実務では、税法の耐用年数(簡便法などの年数を含む)を会計上もそのまま使うのが一般的です。ただ、簡便法の年数は税法の計算方法で、建物が実際に使える期間ではありません。4年償却なら4年後に帳簿上の建物はほぼゼロですが、物件はその後も賃料を生み続けます。

銀行からの見え方:耐用年数を短くして赤字を作るリスク

パターンA〜Cについて、建物と改修費の全額を借入れ(期間20年、元金均等)でまかなったと仮定し、4年後の建物の簿価と借入残高を比べます(土地、利息、賃料収入は省いた単純化です)。

パターン年間の償却費年間の元金返済4年後の建物簿価4年後の借入残高
A(簡便法4年)350万円70万円約0円(備忘価額)1,120万円
B(簡便計算5年)320万円80万円320万円1,280万円
C(法定22年)101.2万円110万円約1,795万円1,760万円

A・Bは償却費が元金返済を大きく上回り、簿価が借入残高より早く減ります。赤字になれば純資産も削られ、貸借対照表で資産より負債が大きい債務超過に近づきます。

著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』でも、減価償却費が元金返済を上回る状態では短期間で債務超過に転落しうることを、数字の例で示しています。銀行は償却前利益で返済能力を見ますが、債務超過や赤字が続く決算書は格付けで大きなマイナスです。税金が減る代わりに、次の融資が引きにくくなる可能性があります。償却と銀行評価の関係は減価償却費と銀行の見方、減価償却が速い物件の落とし穴もご覧ください。

法定耐用年数になるパターンCは、簿価が借入残高とほぼ同じペースで減るため、決算書は安定しやすくなります。どれが「得」かではなく、正しい判定のうえで、決算書の見え方を数年分試算することが大切です。

まとめ

  • 中古建物の簡便法は「(法定-経過)+経過×20%」。ただし、事業に使うための資本的支出が取得価額の50%を超えると使えない(耐用年数省令3条1項ただし書)
  • 取得価額の50%超・再取得価額の50%以下なら、見積法か通達1-5-6の簡便計算。再取得価額の50%超なら法定耐用年数(通達1-5-2)
  • 事業に使い始めた後でも、一の計画に基づく資本的支出が再取得価額の50%を超えると法定耐用年数になる(通達1-5-3)
  • 耐用年数は最初の年に決め、あとから変えられないとした裁決・判決がある
  • 短い耐用年数は簿価を早く減らし、債務超過に見えやすい。購入前に改修の規模、融資期間、決算書をまとめて試算する

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よくある質問

中古アパートを1,000万円で買い、貸し出す前に600万円の改修をしました。簡便法の耐用年数は使えますか?
使えません。耐用年数省令3条1項ただし書により、事業の用に供するために支出した資本的支出が取得価額の50%(この例では500万円)を超えると、簡便法による耐用年数は使えなくなります。ただし、改修費が再取得価額(同じ建物を新築する場合の価額)の50%以下であれば、見積法のほか、取得価額と改修費を区分して計算する簡便計算(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-6)が認められています。
改修費が再取得価額の50%を超えると、どうなりますか?
見積法も簡便法も使えず、建物全体(取得価額と改修費の合計)に新築と同じ法定耐用年数を適用します(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-5-2)。築古の木造でも、住宅用なら22年で償却することになります。
改修工事を貸し出す前と後に分ければ、50%の判定を避けられますか?
おすすめしません。ただし書の対象は「事業の用に供するために」支出した資本的支出で、工事の時期だけでなく内容や計画で判断されます。また通達1-5-3は、事業に使い始めた後でも、一の計画に基づく資本的支出の合計が再取得価額の50%を超えると法定耐用年数によるとしています。工事の内容と時期は、見積書・契約書・募集開始日などの記録とともに、顧問税理士と事前に整理してください。

※本記事は2026年10月29日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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