定期借地権で土地を貸す、あるいは借りて建物を建てる。このとき、地代とは別に保証金や前払地代(前払賃料)といった大きな一時金がやり取りされることがあります。数千万円単位になることも珍しくありません。
ところが、この一時金は名前は似ていても、税務上の性格がまったく違います。返還する保証金なのか、返さない権利金なのか、将来の地代に充てる前払賃料なのか。区分によって、地主側の所得税、借地人側の経費計上、消費税、相続税評価、そして決算書の見え方が変わります。この記事では、定期借地権の保証金と前払地代の税務を、国税庁の文書回答に沿って、法人と個人の違い、会計処理、銀行からの見え方まで整理します。
- 定期借地権の一時金は、権利金(返還不要)・保証金(原則返還)・前払賃料(地代に充当)の3つで税務上の扱いがまったく異なる
- 個人地主が預かる保証金は、無利息で使える経済的利益として扱われる。金融資産で運用なら計算不要、業務用資金に充てれば収入と経費が相殺、それ以外に使うと不動産所得の収入に算入
- 前払賃料方式は、国税庁の文書回答(平成17年1月7日)が示した書式例に沿った契約書と実態があれば、地主は前受収益、借地人は前払費用として、各年分ずつ収益・費用にできる
- 前払賃料は保証金に当たらないため、個人地主に経済的利益の課税はない(平成17年6月28日照会への回答)
- 決算書では、保証金は負債、前払賃料の未経過分は前受収益。現預金が増えても純資産は増えないことを、銀行に説明できるようにしておく
定期借地権の一時金は3種類:権利金・保証金・前払賃料
定期借地権は、借地借家法に基づき、契約の更新がなく期間満了で終了する借地権です。期間満了で確実に土地が戻るため、地主にとっては土地を手放さずに安定した地代を得られる方法として、住宅・店舗・物流施設などで使われています。
定期借地権の設定時に授受される一時金は、大きく3つに分かれます。国税庁が公表している書式例の解説でも、権利金と保証金を次のように区別しています。
| 一時金 | 性格 | 返還 | 地主(個人)の所得税 | 地主(法人)の法人税 | 借地人の処理 |
|---|---|---|---|---|---|
| 権利金 | 借地権設定の対価 | 不要 | 原則として不動産所得。土地の時価の2分の1を超える場合などは譲渡所得 | 受け取った事業年度の益金 | 借地権として資産計上(非償却) |
| 保証金 | 地代不払いや建物撤去不履行の担保 | 原則必要 | 預り金(負債)。経済的利益の課税の問題あり | 預り金(負債) | 差入保証金として資産計上 |
| 前払賃料 | 契約期間の地代の前払い | 未経過分のみ(中途解約時) | 前受収益とし、各年分の賃料相当額を収入金額に算入 | 前受収益とし、各年分を益金に算入 | 前払費用とし、各年分を必要経費・損金に算入 |
ポイントは、名前ではなく実態と契約内容で区分が決まることです。「保証金」と呼んでいても返還しない部分があれば権利金の性格を持ちますし、「前払地代」と呼んでいても後述の要件を満たさなければ前払賃料として扱われません。
権利金を受け取る普通の借地権の税務や、借地権の認定課税については地代収入・底地の税務と借地権の認定課税、借地権付き建物を取得した側の処理は借地権付き建物の取得と借地権の税務で解説しています。
保証金の経済的利益:個人地主に課税されるのはどんなときか
定期借地権の保証金は、数十年後に返還するお金を、それまで無利息で預かるものです。地主は、その間、利息を払わずに資金を使えることになります。所得税では、この無利息で使える利益(経済的利益)に着目した取扱いがあります。
国税庁が公表している文書回答(平成17年6月28日付の照会に対する回答)の注記では、定期借地権の設定に伴って個人の地主が預かる保証金(借地人が返還請求権を持つもの。名称は問わない)の経済的利益について、次の3つの区分で取り扱うことが示されています。
| 保証金の使い道 | 所得税の扱い |
|---|---|
| ① 業務用資金として運用、または業務用資産の取得に充てた | 各年の経済的利益の額を不動産所得の収入金額に算入し、同額をその業務の必要経費に算入(結果として相殺) |
| ② 預貯金・公社債などの金融資産で運用 | 経済的利益に係る所得の計算は不要 |
| ③ ①②以外(生活資金など) | 各年の経済的利益の額を、保証金を返還するまでの各年分の不動産所得の収入金額に算入 |
経済的利益の額は、保証金の額に国税庁が各年分について示す適正な利率を掛けて計算します。適正な利率は、各年中の10年長期国債の平均利率などをもとに国税庁が公表しています。年によって変わるため、計算する年分の利率を必ず確認してください。
実務で注意したいのは③です。たとえば、預かった保証金を自宅の購入資金や家族の生活費に充てていると、返還するまで毎年、不動産所得の収入に経済的利益を加算する必要があります。保証金を受け取ったら、どの口座で管理し、何に使ったかを記録に残しておくことが大切です。
なお、この経済的利益の取扱いは所得税(個人)の話です。法人の地主が預かった保証金は、負債(預り保証金)として計上し、返還時に取り崩すのが基本的な処理です。
前払賃料方式:国税庁の文書回答が示した要件
保証金方式では、地主は数十年後に返還する負債を抱え続けます。これに対し、将来の地代の一部または全部を、設定時に一括して前払いしてもらうのが前払賃料方式です。返還が不要になる代わりに、地代の前受けとして扱います。
国税庁は、国土交通省からの照会(平成16年12月16日付)に対し、平成17年1月7日に次の取扱いで差し支えないと回答しています(出典:国税庁 文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」)。
- 借地権者(借地人)である法人または個人は、一時金を前払費用として計上し、その事業年度・年分の賃料に相当する金額を損金・必要経費に算入する
- 借地権設定者(地主)である法人または個人は、一時金を前受収益として計上し、その事業年度・年分の賃料に相当する金額を益金・収入金額に算入する
- 一時金は消費税法上、非課税となる土地の貸付けの対価の前受金に当たる
この取扱いを受けるための前提は、国税庁が公表している前払賃料について定めた定期借地権設定契約書の書式例の解説に示されています。主なポイントは次のとおりです。
- 一時金が前払賃料であること、契約期間(または最初の一定期間)にわたって賃料の一部(または全部)に均等に充当することを契約書で明確にする
- 契約期間満了時に、前払賃料を根拠として借地権の消滅の対価に当たるような金銭の授受を行わないことを明らかにする
- 中途解約時には、前払賃料の未経過分を借地人に返還する旨を定める
- 中途解約の違約金を定める場合に、未経過分の全部または一部を違約金とみなして返還しないような定めにすると、権利金や保証金と区別できなくなり、前払賃料として扱われない
- 契約書を契約期間にわたって保管し、取引の実態も契約に沿っていること
つまり、「前払地代」という名前をつけただけでは足りず、契約書の作り方と、その後の運用が契約どおりであることが前提です。前払費用の考え方全般は短期前払費用の特例と重要性の原則もあわせてご覧ください。定期借地の前払賃料は1年を超える期間の前払いなので、短期前払費用の特例の対象にはならず、期間に応じて按分するのが原則です。
前払賃料には経済的利益の課税がない
前払賃料を受け取った個人の地主には、保証金のような経済的利益の課税はあるのでしょうか。国税庁は、国土交通省からの照会(平成17年6月28日付)に対する回答で、前払賃料の経済的利益を毎年の不動産所得に計上しなくて差し支えないとしています(出典:国税庁 文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて」)。
理由は、前払賃料はいずれ全額が地代として収入に計上されるもので、契約が続く限り返還義務がなく、期間満了時にも返還を要しないため、経済的利益の課税対象となる保証金には当たらない、というものです。
同じ回答では、前払賃料の支払いに充てるための借入金について、住宅借入金等特別控除の特例などは適用されないことも示されています。前払賃料は土地の上に存する権利を取得するための対価ではない、という整理です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る消費税と相続税での扱い
消費税:土地の貸付けは原則として非課税です。前払賃料も非課税となる土地の貸付けの対価の前受金に当たり、課税事業者である地主は、各課税期間に対応する賃料相当額を「資産の譲渡等の対価の額」に含めて課税売上割合を計算します。受け取った年に全額を入れるのではない点に注意が必要です。借地人側では、非課税取引なので仕入税額控除の対象になりません。
相続税:前述の平成17年6月28日照会への回答では、前払賃料方式の定期借地権が設定されている場合、
- 借地人側の相続では、前払賃料の額を定期借地権の評価に反映させ、未経過分を別の財産として計上する必要はない
- 地主側の相続では、底地の評価は自用地の価額から定期借地権の価額を控除して評価し、前受収益に計上している未経過分を債務として控除することはできない
という扱いが示されています。一方、保証金は返還を要するため、借地人には債権、地主には債務として相続税の課税価格の計算に関係します(返還時期までの期間に応じて割り引いた額によることとされています)。相続対策として定期借地を使う場合は、保証金方式と前払賃料方式で評価の結果が違うことを踏まえて検討してください。不動産の相続税評価全般は不動産の相続税評価で解説しています。
会計上の扱いと決算書の表示
税務上の扱いと、決算書(企業会計)での表示は別の話です。企業会計は、会社法431条が定める「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、つまり一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って作成します。中小企業であれば、中小企業の会計に関する指針や中小企業の会計に関する基本要領が拠り所になります。法人税法22条4項も、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算すると定めています。
| 立場 | 一時金 | 受け取った・支払った時 | 毎期の処理 | 表示区分の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 地主 | 保証金 | 現預金/預り保証金 | なし(返還時に取崩し) | 固定負債(返還期限が1年以内になれば流動負債) |
| 地主 | 前払賃料 | 現預金/前受収益 | 前受収益/地代収入 | 1年以内に収益化する分は流動負債、それ以外は固定負債(長期前受収益など) |
| 借地人 | 保証金 | 差入保証金/現預金 | なし | 投資その他の資産 |
| 借地人 | 前払賃料 | 前払費用/現預金 | 地代家賃/前払費用 | 1年以内に費用化する分は流動資産、それ以外は投資その他の資産(長期前払費用) |
地主側の地代収入を損益計算書のどこに表示するかは、会社の事業内容によります。不動産賃貸を本業とする会社なら売上高、本業が別にあって土地を貸しているだけなら営業外収益とするのが一般的です。どの区分になるかは取引の実態次第で、税務上益金になるかどうかとは別に、GAAPに沿って判断する必要があります。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
なお、上場企業などに適用される新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)では、借手が土地の賃借を含むリースについて使用権資産とリース負債を計上する考え方が採られています。中小企業の会計に関する指針・要領を使う会社には直ちに影響しませんが、取引先や親会社が上場企業の場合は、処理の違いを確認しておくとよいでしょう。
銀行からの見え方
定期借地の一時金は、金額が大きいぶん、決算書の印象を大きく変えます。
地主側(保証金を預かった場合)保証金を預かると現預金が増えますが、同額の負債も増えます。銀行は、預り保証金を将来返還が必要な実質的な負債として見ます。現預金が厚く見えても、純資産は増えていません。著書のモデルで使う債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)では、保証金で増えた現預金がそのまま分子を小さくするように見えますが、銀行によっては預り保証金を借入金に準じて扱い、調整して見ることがあります。保証金を建物の建築や借入金の返済に使ってしまうと、返還時の資金をどう確保するかを問われます。
地主側(前払賃料を受け取った場合)前払賃料は返還不要(中途解約時を除く)なので、保証金よりも資金の自由度は高くなります。ただし、受け取った時点では前受収益という負債で、純資産は増えません。その後は毎期、現金の入りを伴わない地代収入が計上されるため、損益計算書の利益とキャッシュフローがずれます。銀行が償却前利益やキャッシュフローで返済能力を見る際、前受収益の取崩し分を差し引いて見られる可能性があるため、前受収益の残高と取崩しの予定表を用意しておくと説明がスムーズです。
借地人側差入保証金や長期前払費用は、資産に計上されていてもすぐに現金化できる資産ではありません。銀行の実態バランスシートの評価では、換金性の低い資産として評価を割り引かれることがあります。一方、前払賃料方式であれば、毎期の地代の支払いが小さくなり、営業キャッシュフローは安定して見えます。建物の建築資金と前払賃料の資金をどう調達するか、融資の相談時にセットで説明するのがよいでしょう。
実務のチェックポイント
- 一時金が権利金・保証金・前払賃料のどれに当たるかを、名前ではなく契約内容で確認したか
- 前払賃料方式にする場合、国税庁の書式例に準拠した契約書(前払賃料であること、均等充当、中途解約時の未経過分の返還、違約金との区別)になっているか
- 個人地主が保証金を預かった場合、どの口座で管理し、何に使ったかを記録しているか(生活資金に充てると経済的利益の課税)
- 経済的利益を計算する場合、その年分の適正な利率を国税庁の公表資料で確認したか
- 前払賃料の収益・費用の計上を、各年分の賃料相当額に按分しているか(受取時・支払時の一括計上になっていないか)
- 課税事業者の地主は、前払賃料を各課税期間の課税売上割合の計算に正しく反映しているか
- 決算書で、保証金・前受収益・前払費用の1年基準による流動・固定の区分ができているか
- 銀行に、預り保証金の返還予定や前受収益の取崩し予定を説明できる資料があるか
まとめ
- 定期借地権の一時金は、権利金・保証金・前払賃料で税務上の性格がまったく違う。区分は名前ではなく契約内容と実態で決まる
- 個人地主が預かる保証金は、使い道によって経済的利益の課税が問題になる。生活資金などに充てると、返還まで毎年不動産所得の収入に算入
- 前払賃料方式は、国税庁の文書回答が示した要件を満たせば、地主は前受収益、借地人は前払費用として各年分ずつ計上でき、個人地主に経済的利益の課税もない
- 決算書では、保証金も前受収益も負債。現預金が増えても純資産は増えないことを踏まえ、銀行への説明資料を準備しておく
定期借地での土地活用や、借地の上に建物を建てる計画では、契約書の段階で税務と決算書の見え方を検討しておくことが大切です。不動産投資家・不動産事業者向けのサポートは不動産投資家向けサービスをご覧ください。初回のご相談は無料です。
