中古の一棟マンションやビルを買う前に、建物状況調査(インスペクション)、エンジニアリングレポート、土壌汚染の調査、境界の測量、遵法性の確認などを依頼する方が増えています。規模の大きい物件では、調査費用が数十万円から数百万円になることもあります。
そこでよく聞かれるのが、「この調査費用は経費にできるのか」「調べた結果、買わなかったらどうなるのか」という質問です。答えは、物件を買ったかどうか、法人か個人か、何のための調査かで変わります。この記事では、デューデリジェンス(DD)費用の取得価額と経費の線引きを、税務、会計、銀行からの見え方の3つの面から整理します。
- 購入した物件の調査費用は、原則として取得価額に含める(法人税法施行令54条1項1号、所得税法施行令126条1項1号の「購入のために要した費用」)
- 不動産取得税・登録免許税のように「取得価額に入れないことを選べる」費用(法人税基本通達7-3-3の2)とは別物。調査費用は選べないのが原則
- 国税不服審判所は、資産の取得のために実質的に欠かせない費用は「購入のために要した費用」に当たると判断している(平成13年9月3日裁決)
- 購入を見送った物件の調査費用は、法人なら見送りを決めた期の損金が一般的。個人は業務開始の前か後かで扱いが分かれる
- 決算書の表示区分は企業会計の基準に沿って判断する。調査報告書は、銀行への説明資料としても活かせる
購入前に払う調査費用の種類
物件の購入前に発生する調査費用には、主に次のようなものがあります。何の調査かによって、後で土地と建物のどちらに配分するかも変わります。
| 調査の種類 | 主な内容 | 主に関係する資産 |
|---|---|---|
| 建物状況調査(インスペクション) | 構造の劣化、雨漏り、設備の不具合の確認 | 建物 |
| エンジニアリングレポート(ER) | 建物の劣化診断、今後の修繕・更新費用の見込み、再調達価格、地震リスクの評価など | 建物(評価の内容によっては土地にも関係) |
| 遵法性の調査 | 建築確認・検査済証、容積率・建ぺい率、用途変更の可否の確認 | 建物・土地 |
| 土壌汚染の調査 | 地歴の調査、土壌の採取・分析 | 土地 |
| 境界の確定・測量 | 隣地との境界の確認、実測 | 土地 |
| 不動産鑑定・価格調査 | 購入価格の妥当性、土地と建物の価格の区分 | 土地・建物 |
| 弁護士・税理士などのDD | 賃貸借契約・権利関係の確認、購入の方法(個人か法人か、信託受益権か)の検討 | 内容による |
なお、既存住宅の売買では、宅地建物取引業法により、仲介の契約の際に建物状況調査を行う者のあっせんの有無を示すことなどが定められています。ただし、実際に調査を依頼し、その費用を誰が負担するかは、当事者の取り決め次第です。
税務上の原則:購入した物件の調査費用は取得価額に入れる
法令の定め
購入した減価償却資産の取得価額は、法人税法施行令54条1項1号で、「購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」と、事業の用に供するために直接要した費用の合計額とされています。個人の場合も、所得税法施行令126条1項1号に同じ趣旨の定めがあります。
土地のように減価償却をしない資産についても、法人税基本通達7-3-16の2により、同じ考え方で取得価額を計算します。
購入を決めるために行い、その結果を踏まえて実際に物件を取得した調査の費用は、その物件の「購入のために要した費用」として取得価額に含めるのが原則です。建物部分に係る費用は耐用年数にわたって減価償却され、土地部分に係る費用は売却するまで費用になりません。
「取得価額に入れないことを選べる費用」との違い
法人税基本通達7-3-3の2は、固定資産の取得に関連して支出するものであっても、取得価額に入れないことができる費用として、次のものを挙げています。
- 不動産取得税、登録免許税その他登記又は登録のために要する費用などの租税公課等
- 建物の建設等のために行った調査、測量、設計、基礎工事等で、その建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用
- いったん締結した固定資産の取得に関する契約を解除して、他の固定資産を取得することとした場合に支出する違約金
ここで注意したいのは、2号が対象にしているのは「計画を変更して不要になった」調査費用だという点です。購入した物件のための調査費用まで、損金にすることを選べるという意味ではありません。取得の付随費用の全体像は不動産の取得にかかる費用の全体像で整理しています。
法人と個人の比較
| 場面 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 購入した物件の調査費用 | 取得価額に算入(法人税法施行令54条1項1号。土地は法人税基本通達7-3-16の2) | 取得価額に算入(所得税法施行令126条1項1号) |
| 建設計画を変更して不要になった調査・測量・設計の費用 | 取得価額に入れないことができる(法人税基本通達7-3-3の2(2)) | 業務の用に供する資産に関するものなら、必要経費にできるかを個別に確認 |
| 購入を見送った物件の調査費用 | 取得する資産がないため、見送りを決めた期の損金とするのが一般的 | すでに賃貸業を営んでいる場合は必要経費として検討。業務開始前の初めての物件は扱いが分かれる |
| 期末時点で購入するか未定の調査費用 | 仮払金などで資産に計上し、購入すれば取得価額へ、見送れば損金へ | 同様に、購入の有無が決まった年に整理する |
個人の場合、物件をまだ1つも持っておらず、不動産所得を生ずべき業務を始める前に、購入を見送った調査費用は、業務に係る必要経費と言えるかどうかが論点になります。業務の開始前の支出の扱いは個別の事情で判断が分かれるため、支出の前に顧問税理士に相談してください。
公表裁決事例:取得に「実質的に欠かせない費用」は取得価額に入る
国税不服審判所 平成13年9月3日裁決(裁決事例集No.62・249頁)
調査費用そのものの裁決ではありませんが、「購入のために要した費用」の範囲について、審判所の考え方がよくわかる事例です(国税不服審判所)。
- 事案:法人が土地を購入した際、売買契約に基づき、引渡し以後の期間に対応する固定資産税・都市計画税に相当する金額を売主に支払い、損金に算入した。原処分庁は土地の取得価額に算入すべきとして更正した
- 争点:買主が負担した固定資産税等に相当する金額は、土地の取得価額か、損金か
- 判断:審判所は、企業会計原則が有形固定資産の取得原価に付随費用を含めると定めていること、法人税法施行令54条1項はその付随費用を明文化したものであることを示したうえで、「資産の取得のために実質的に欠かせない費用と見られるものがあれば、これを『資産の購入のために要した費用』とするのが相当」とした。買主は固定資産税の納税義務者ではなく、その金額は土地を取得するための対価の一部として売主に支払ったものであるから、取得価額に算入すべきとして、審査請求を棄却した
実務への示唆
この裁決は固定資産税の精算金についての判断ですが、「取得のために実質的に欠かせない費用か」という判断の枠組みは、購入前の調査費用を考えるうえでも参考になります。購入を判断するために行い、その結果を踏まえて取得した物件の調査費用は、この枠組みからも取得価額に入れるのが自然です。
一方で、すでに保有している物件の定期的な点検や、購入とは関係のない市場調査の費用まで、取得価額に入れる必要はありません。その支出が、どの物件の取得と結びついているかを、見積書・請求書・調査報告書の宛先や日付で説明できるようにしておくことが大切です。固定資産税の精算金の扱いは固定資産税の精算金の処理で詳しく解説しています。
土地と建物への配分
取得価額に入れた調査費用は、土地と建物(建物附属設備、構築物を含む)に分けておく必要があります。建物に配分した分は減価償却されますが、土地に配分した分は費用になりません。
- 建物だけに関係する調査(建物状況調査、建物の劣化診断など):建物の取得価額
- 土地だけに関係する調査(土壌汚染の調査、境界の測量など):土地の取得価額
- 全体に関係する調査(鑑定評価、遵法性の調査、法務・税務のDDなど):土地と建物の取得価額の比率など、合理的な基準で配分
配分の基準に決まった方法はありませんが、恣意的に建物に寄せると、税務調査で引き直されるおそれがあります。複数の物件をまとめて買ったときの配分は複数物件の一括購入の処理、土地と建物の区分の考え方は土地と建物の按分の裁決・判例をご覧ください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
税務上の処理と会計上の表示は別物
税務上は、調査費用が損金・必要経費に算入されるか、取得価額に含めるかが論点です。一方、決算書の表示区分(資産計上か費用処理か、販管費か特別損失か)は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断する必要があります。会社法431条は会社の会計を「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うものとし、法人税法22条4項も、収益や費用の額を「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしています。
企業会計原則は、有形固定資産の取得原価に、原則として引取費用などの付随費用を含めるとしています。購入した物件の調査費用を取得原価に含める処理は、会計と税務で方向が一致します。
購入を見送った調査費用の表示
購入を見送った物件の調査費用は、その期の費用になります。毎期のように物件を検討して調査をしている不動産事業者なら、通常の営業活動の一部として販売費及び一般管理費に含めるのが自然でしょう。一方、大型の取得を断念して、規模に比べて多額の調査費用が一度に発生した場合には、臨時・多額のものとして特別損失に当たるかどうかが検討の対象になります。
どの区分にできるかは、その会社の規模、物件の検討の頻度、金額の大きさといった取引の実態次第です。「見送った費用だから特別損失」と一律に決められるものではないので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。税務と会計の関係は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いで詳しく解説しています。
期末に購入が決まっていないとき
決算期をまたいで物件を検討しているときは、期末時点で支払った調査費用を、仮払金や建設仮勘定などで資産に計上しておき、購入が決まれば取得価額に振り替え、見送りが決まればその期に費用にします。期末までに見送りが決まっていたのに資産に残しておくと、決算書の資産が実態より大きく見えてしまうため、決算前に検討中の案件の状況を確認しておきましょう。
銀行からの見え方
費用の処理が決算書の指標に与える影響
| 処理 | 決算書への影響 | 銀行の指標への影響 |
|---|---|---|
| 購入した物件の調査費用を取得価額に算入 | その期の利益は減らない。建物分は減価償却で毎期費用になる | 営業利益・経常利益はその期は守られる。償却前利益(減価償却費を足し戻した利益)には影響しにくい |
| 見送った物件の調査費用を販管費に計上 | 営業利益が減る | 営業利益・経常利益・債務償還年数に影響。毎期続くと「検討に費用がかかる会社」と見られる |
| 見送った物件の調査費用を特別損失に計上(実態が臨時・多額の場合) | 営業利益・経常利益は変わらず、当期純利益が減る | 経常利益ベースの指標は守られるが、純資産は同じだけ減る |
どの処理でも、払った現預金は同じです。銀行は決算書の区分だけでなく、なぜその費用が出たのかを見ます。見送った案件の調査費用が大きい年は、決算の説明の際に「どの物件を、なぜ見送ったか」を一言添えると、無計画な支出ではなく、慎重に投資判断をしている結果だと伝わります。
調査報告書は融資の説明資料になる
エンジニアリングレポートや建物状況調査の報告書は、費用の処理とは別に、銀行への説明資料としても価値があります。
- 建物の劣化の状況と、今後の修繕・更新費用の見込みが第三者の資料で示される
- 購入後の修繕計画と資金繰り表の根拠になり、「修繕費が想定外に膨らむ物件ではないか」という銀行の懸念に答えやすい
- 遵法性の確認結果は、担保としての評価や、将来の売却のしやすさの説明につながる
購入時の調査で見つかった修繕を、購入後に計画的に行うと、その工事が修繕費か資本的支出かという論点も出てきます。購入直後の工事の扱いは購入直後のリフォームは資産か経費かをご覧ください。融資を申し込むときの資料全体は不動産投資ローンの申込みに必要な書類にまとめています。
実務のチェックポイント
- 何の物件のための調査か:見積書・請求書・報告書の宛先、物件名、日付をそろえ、どの物件の取得と結びつくかを説明できるようにする
- 購入したか、見送ったか:購入した物件の調査費用は取得価額へ。見送った物件の調査費用は、見送りを決めた期に費用へ
- 選択できる費用と混同しない:不動産取得税・登録免許税は取得価額に入れないことを選べるが、調査費用は原則として選べない
- 土地と建物への配分:建物だけ、土地だけ、全体に関係する調査を分け、全体の分は合理的な基準で配分する
- 期末の検討中案件:仮払金などに残っている調査費用が、期末時点で見送り済みの案件のものではないか確認する
- 個人の業務開始前の支出:初めての物件で、購入前に調査費用を払う場合は、見送ったときの扱いを事前に税理士と確認する
- 消費税の区分:調査費用は課税仕入れになるのが通常。個別対応方式では、住宅の貸付け(非課税)用か、事務所・店舗(課税)用か、共通かを、物件の用途に合わせて区分する
- 報告書の保管:調査報告書は、融資の申込み、修繕計画、将来の売却の資料として保管する
まとめ
- 購入した物件の調査・デューデリジェンス費用は、「購入のために要した費用」として取得価額に含めるのが原則
- 法人税基本通達7-3-3の2で取得価額に入れないことを選べるのは、税金・登記費用、計画変更で不要になった調査・設計の費用、契約解除の違約金など。購入した物件の調査費用は対象外
- 国税不服審判所は、取得に実質的に欠かせない費用は取得価額に入るとしている(平成13年9月3日裁決)
- 見送った物件の調査費用は、法人なら見送りを決めた期の損金が一般的。個人は業務開始の前か後かで扱いが分かれる
- 決算書の表示区分は企業会計の基準に沿って実態で判断する。見送りの費用を一律に特別損失にはしない
- 調査報告書は、銀行への説明資料、修繕計画の根拠として活かせる
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