整骨院・接骨院の数は、この10年で大きく増え、いまは横ばいになりました。一方で、保険による施術の収入(柔道整復の療養費)は減り続けています。2025年度には、整骨院や鍼灸院などを含む療術業の倒産が過去30年で最多となりました。業界が縮んでいるというより、保険に頼る形から、自費の施術や予防・リハビリに軸足を移せたかどうかで差が開いているのが実態です。
整骨院の経営は、在庫がほとんどない一方で、人件費と家賃の比率が高く、来院数が少し減るだけで赤字に近づく構造です。この記事では、公的な統計で業界の今を整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、保険と自費の消費税、個人事業税などの税務の論点、施術管理者と事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 柔道整復の施術所は50,924か所(2024年末)で、2018年以降ほぼ横ばい。就業柔道整復師は78,666人
- 柔道整復の療養費は2014年度の3,825億円から、2022年度は2,747億円へ減少。厚労省の調査では、2024年度の医療保険の収益は▲5.8%、自費施術は+5.9%
- 療術業の倒産は2025年度に108件で、1996年度以降の最多。すべて負債1億円未満の小規模な事業者
- 公庫の調査(184社)では、経常利益率は中央値1.9%、人件費率は約5割。自己資本比率の平均はマイナス
- 税務は、保険施術は消費税非課税、自費施術は課税。個人事業税は第3種で3%。医師の診療報酬の特例は使えない
整骨院・接骨院業界の今:施術所は横ばい、保険の収入は減少
施術所と施術者の数
| 指標 | 数字 | 時点 |
|---|---|---|
| 柔道整復の施術所 | 50,924か所(2年前比+8か所) | 2024年末 |
| はり・きゅうの施術所 | 35,494か所(+4.7%) | 同上 |
| あん摩マッサージ指圧・はり・きゅうの施術所 | 38,595か所(+0.6%) | 同上 |
| 就業柔道整復師 | 78,666人(+1.3%) | 同上 |
| 就業はり師 | 136,736人(+4.0%) | 同上 |
| 療術業の民営事業所(参考) | 74,124事業所、従業者187,771人 | 経済センサス 2021年 |
出典:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」2025年7月29日、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」(e-Stat)。経済センサスと厚労省の統計は範囲が違うため、数を直接は比べられません
柔道整復の施術所は、2014年末の45,572か所から2018年末の50,077か所まで増え、その後はほぼ増えていません。経済センサスでは、療術業の事業所の約87%が従業者4人以下です。1事業所あたりの売上は約1,000万円と、小さな施術所が大半を占める業界です。
療養費の減少と自費へのシフト
| 年度 | 柔道整復療養費 |
|---|---|
| 2014年度 | 3,825億円 |
| 2017年度 | 3,437億円 |
| 2019年度 | 3,178億円 |
| 2020年度 | 2,831億円 |
| 2022年度 | 2,747億円 |
出典:厚生労働省 柔道整復療養費検討専門委員会「柔道整復療養費の令和8年度改定の基本的考え方(案)」2026年1月30日(保険局調査課の推計)
施術所の数が変わらないのに療養費の総額が減っているので、1施術所あたりの保険収入は細っています。厚労省が2026年2月に示した施術所の経営実態調査(回答2,356施術所)では、2024年度の1施術所あたりの平均の収益は約1,205万円、損益差額は約343万円でした。収益のうち医療保険分は前年度比▲5.8%、自費施術は+5.9%で、保険外の施術を行っている施術所は76.2%にのぼります(第33回専門委員会資料、2026年2月27日)。この調査は主な柔整師団体の会員が対象で、損益差額には個人の施術所の院長の報酬に当たる分が含まれる点に注意が必要です。
2026年7月の療養費改定と制度の変化
2026年7月施術分から、柔道整復の療養費は改定率+0.60%で改定されました。初検料は1,550円から1,560円、後療料は505円から550円に上がっています。一方で、次のように長期・多部位の施術への見直しも進んでいます。
| 時期 | 主な変更 |
|---|---|
| 2024年10月 | 明細書の交付義務を、明細書を発行できるレセコンを置くすべての施術所に拡大。5か月超の長期施術は75%、5か月超かつ月10回以上は50%で算定 |
| 2026年7月 | 2部位目を80%、3部位目を60%で算定。明細書発行加算(毎回10円)。直近1年で通算8か月以上かつ9部位以上の患者を償還払いへの変更対象に追加 |
| 検討中 | オンライン請求(当初の2026年度稼働は見直し、時期は未定)、施術管理者の実務経験3年の短縮 |
出典:厚生労働省 保発0601第4号(2026年6月1日)、保発0601第5号、第35回専門委員会資料(2026年4月30日)
単価は少し上がっても、長く多く通う患者で売上を作る形は続けにくくなる、というのが制度の方向です。
倒産は小規模な施術所に集中
東京商工リサーチの集計(療術業、負債1,000万円以上)では、2025年度(2025年4月〜2026年3月)の倒産は108件で、1996年度以降で最多でした。原因の8割超は販売不振で、すべてが負債1億円未満です(東京商工リサーチ、2026年4月19日)。2026年1〜7月も68件と前年同期を上回り、「人手不足」による倒産も出てきました(同、2026年8月)。
収益構造と決算書の特徴
公庫の指標で見る施術所
日本政策金融公庫の調査の「あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所」は184社(法人)で、うち黒字かつ自己資本プラスの企業は79社です。
| 指標 | 平均 | 中央値 | 黒字かつ自己資本プラスの企業の平均 |
|---|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | ▲0.1% | 1.9% | 7.0% |
| 人件費対売上高比率 | 49.1% | 50.0% | 44.5% |
| 自己資本比率 | ▲18.1% | 3.2% | 22.8% |
| 借入金回転期間 | 6.5か月 | 4.9か月 | 4.1か月 |
| 損益分岐点比率 | 101.6% | 99.7% | 96.0% |
| 従業者1人あたり売上高 | 667万円 | 598万円 | 703万円 |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)医療,福祉(2026年8月公表)
損益分岐点比率が100%前後ということは、来院が数%減るだけで赤字になるということです。規模別では、従業者1〜4人の経常利益率の平均が▲1.9%、20〜49人が3.0%で、人数が多いほど利益率が高い傾向があります。黒字企業は人件費率が平均より約5ポイント低く、1人あたりの売上が高いのが特徴です。
決算書の読み方
| 項目 | 整骨院の特徴 |
|---|---|
| 売上 | 患者の窓口負担、療養費(保険者への請求分)、自費施術、物販 |
| 売掛金 | 療養費の請求分。厚労省の資料では支払いは施術の翌々月以降で、常に2か月分前後が未収になる |
| 売上原価 | ほぼなし(サポーター、サプリなどの物販分のみ) |
| 人件費 | 柔道整復師・鍼灸師の給与。売上の約半分 |
| 地代家賃 | 駅前・路面の店舗の賃料。複数院展開では最大の固定費 |
| 設備 | 内装、電療機器、ベッド、レセコン。機器のリースも多い |
| 前受金 | 回数券や自費コースの前払い |
| 返戻・減額 | 保険者の審査で戻された請求。売掛金の回収不能・遅延の要因 |
療養費の売掛金は、施術をした時点の売上として計上します。入金ベースで記帳していると、売上と利益が実態より約2か月分遅れて見えます。返戻された請求を売掛金に残したままにしないことも、決算書の信頼性に直結します。
銀行は整骨院のどこを見るか
来院数と保険・自費の割合
銀行は、決算書の数字に加えて、来年も同じ売上が立つかを知りたいと考えます。院ごとに、毎月次の数字を出せるようにしておきましょう。
- 新規患者数、延べ来院数、1人あたりの平均来院回数
- 保険と自費の売上の内訳、自費の1回あたり単価
- 回数券・コースの販売額と、消化された額
- 返戻の件数と金額、償還払いに移った患者の数
- 施術者1人あたりの売上と、人件費率
保険の割合が高い施術所ほど、長期・多部位の算定見直しの影響を受けます。2026年7月の改定で来院数と単価がどう変わったかを、改定前後で比較して説明できると、事業の見通しへの信頼が上がります。
運転資金と設備資金
療養費の入金が翌々月以降になるため、開業直後や新しい院を出した直後は、売上が立っても現金が足りない時期が生まれます。この分は運転資金として説明できます。
| 資金 | 内容 | 説明のポイント |
|---|---|---|
| 設備資金 | 内装、敷金・保証金、電療機器、ベッド | 損益分岐となる月の来院数と、到達までの月数 |
| 運転資金 | 療養費の入金までの立替、開業後の赤字、広告費 | 請求から入金までの月数と、売掛金の残高 |
| 納税資金 | 消費税(自費分)、所得税・法人税 | 自費が増えたときの消費税の納税額の見込み |
開業時の融資は日本政策金融公庫の創業融資、運転資金の考え方は運転資金の借り方で解説しています。
債務償還年数で見る返済能力
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。公庫の中央値の借入金回転期間は4.9か月、つまり借入金が年商の約4割です。経常利益率の中央値1.9%だけで返すと、減価償却費や現預金を考えない単純な計算で20年を超えます。施術所の多くは、利益に減価償却費を足しても返済に余裕がない水準にあると考えておくべきです。
自己資本比率の平均がマイナスであることからも分かるとおり、債務超過の施術所は珍しくありません。債務超過の会社が融資を受けるには、自己資本比率の目安もあわせて確認してください。
業界固有のリスク
- 療養費の制度変更:算定の見直しや償還払いへの変更で、同じ施術でも収入が減る
- 施術者の退職:院長や人気の施術者が独立すると、患者も移りやすい
- 不正請求への対応:受領委任の取扱いの中止は、事業の継続に直結する
- 近隣の競合:同じ商圏への出店、整体・リラクゼーションとの価格競争
- 個人と法人の混同:個人の院長が複数院を法人化した場合の、資金の出入りの整理
整骨院特有の税務・会計の論点
消費税:保険は非課税、自費は課税
国税庁の消費税法基本通達6-6-1は、健康保険法などにもとづく療養費の支給に係る療養を非課税としており、6-6-3で患者の一部負担金もその範囲に含まれます。労災保険や自賠責保険による施術も非課税です(消費税法基本通達 第6章)。
| 売上の種類 | 消費税の扱い |
|---|---|
| 療養費の対象となる施術(窓口負担を含む) | 非課税 |
| 労災保険・自賠責保険による施術 | 非課税 |
| 自費の施術(整体、トレーニング、美容鍼など) | 非課税の範囲に入らず、一般に課税 |
| サポーター・サプリなどの物販 | 課税 |
| 回数券の発行 | 発行時は不課税、施術した時点で課税(国税庁 質疑応答) |
保険の売上が中心の施術所は、課税売上が少ないため免税事業者のことが多いでしょう。しかし自費の割合を増やすと、課税売上高が1,000万円を超えて納税義務が生じることがあります。家賃や機器などの消費税は、課税売上と非課税売上の割合に応じてしか控除できないため、納税額の計算も複雑になります。自費のメニューを広げる計画を立てるときは、消費税の見込みも同時に試算しましょう。新設法人の場合の考え方は新設法人の消費税で解説しています。
回数券・コースの前受け
回数券や自費のコースの代金は、受け取った時点ではなく、施術をした時点の売上になります。法人税基本通達2-1-39は、商品引換券等の対価について、役務の提供に応じて益金とし、発行から10年を経過した日などの事業年度末に未使用分を一括して益金とするとしています(法人税基本通達 第6款)。消費税も、国税庁の質疑応答で、発行時は不課税、引き換えた時に課税とされています(質疑応答事例)。患者ごとの残回数を管理しておくことが、税務と返金対応の両方の基礎になります。
個人事業税と、医師の特例との違い
| 項目 | 整骨院・鍼灸院 | (参考)医師の診療所 |
|---|---|---|
| 個人事業税 | 第3種「医業に類する事業」、標準税率3% | 社会保険診療分は非課税 |
| 社会保険診療報酬の所得計算の特例(措法26条) | 対象外(療養費は「療養の給付」ではない) | 一定の要件で適用 |
| 消費税(保険分) | 非課税 | 非課税 |
出典:東京都主税局「個人事業税」、租税特別措置法(e-Gov)
個人事業税は、事業主控除(年290万円)を差し引いた所得に3%がかかります。視力に障害のある方が行う場合は第3種事業から除かれます。医療機関向けの特例は使えないため、診療所・クリニックの動向と経営のポイントの税務の話は、そのまま当てはまらない点に注意してください。
法人化の判断
複数院を展開する、または所得が増えた院長は、法人化を検討する場面が出てきます。法人化すると、開設者が変わるため施術所の開設の届出や、地方厚生局への受領委任の手続きをやり直す必要があります。手続きの間の療養費の請求をどう切り替えるかを、事前に計画しておきましょう。判断の考え方は個人事業主の法人化で解説しています。
事業承継・M&A:施術管理者と患者の引継ぎが論点
整骨院の承継で最も重要なのは、受領委任の施術管理者を誰が務めるかです。2024年4月以降に施術管理者として届け出るには、柔道整復師としての実務経験3年(うち保険医療機関での従事は2年まで)と、16時間以上の研修の受講が必要です(四国厚生支局)。院長が引退するときに要件を満たす後任がいないと、保険の取扱いが途切れてしまいます。
| 承継の形 | 主な論点 |
|---|---|
| 親族内承継(柔道整復師の子) | 施術管理者の要件を満たす時期、院長の個人保証の扱い |
| 勤務する柔道整復師への承継 | 院の取得資金、施術管理者の交代、患者への説明 |
| 法人の株式譲渡 | 法人格は変わらないが、施術管理者・役員の変更の届出。簿外の未払残業代や返戻の精査 |
| 個人院の事業譲渡 | 開設者が変わるため届出と受領委任の手続きのやり直し、賃貸借の承継、患者の個人情報の扱い |
買い手は、保険と自費の売上の内訳、返戻の状況、長期・多部位の患者の割合を確認します。保険に頼った売上は制度改定で減るリスクがあると見られ、自費の比率が高く、施術者が定着している院ほど評価されやすいでしょう。許認可の引継ぎの考え方は許認可はM&Aで引き継げるか、専門職の事業の譲渡については士業・専門職のM&A、施術者を引き留める条件はキーパーソンの引き留めで解説しています。売上が落ちた院でも、廃業を決める前に廃業と売却の比較をしておく価値があります。
経営者が今やっておきたいこと
- 院ごとに、保険と自費の売上、新規患者数、延べ来院数を毎月把握している
- 2026年7月の改定の前後で、来院数と1回あたり単価を比較した
- 長期・多部位の患者の割合と、償還払いに移る可能性のある患者を把握している
- 療養費の売掛金と返戻を、請求月ごとに管理している
- 回数券・コースの残回数を患者ごとに管理し、期末の前受金を計算している
- 自費を増やした場合の消費税の納税義務と納税額を試算した
- 個人事業税(3%)と所得税・住民税の納税資金を積み立てている
- 施術管理者の要件を満たす後任の候補を育てている
- 施術者の雇用契約、残業代、独立時の取り決めを点検した
資金の見通しは資金繰り表の作り方で解説しています。
まとめ
整骨院・接骨院は、施術所の数が横ばいのなかで療養費が減り、制度の見直しも続いている業界です。そのなかで、自費の施術や予防、スポーツ、介護予防など、地域の人の体を支える役割を広げている施術所は、売上を伸ばしています。
経営の数字で見ると、損益分岐点に近い施術所が多く、来院数と保険・自費の内訳、療養費の売掛金を毎月つかむことが、融資でも承継でも出発点になります。自費を伸ばすときは消費税、法人化や承継のときは施術管理者と受領委任の手続きを、早めに確認しておきましょう。
税理士法人クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、院ごとの損益管理や資金繰り表の作成、金融機関への説明資料づくりをお手伝いしています。資金調達のサポートの初回のご相談は無料です。
