フィットネスクラブの売上は、新型コロナで大きく落ち込んだあと、少しずつ戻ってきました。一方で、2026年に入ってからジムの倒産は過去最多のペースで増えています。背景にあるのは、駅の近くや住宅地に増えた小型・低価格・24時間型のジムとの競争です。市場が消えているのではなく、立地と価格、サービスの形によって勝ち負けがはっきりしてきた業界です。
フィットネスジムの経営は、毎月の会費で売上が積み上がる一方、家賃・マシン・人件費の固定費が重く、会員数が損益分岐を下回ると一気に苦しくなります。この記事では、公的な統計で業界の今を整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、入会金・会費の税務とトレーナー報酬の源泉徴収、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 経済産業省の統計では、2024年のフィットネスクラブの売上は2,910億円(前年比+2.0%)、会員数は288万人。ただし前年比を積み上げると、2019年の水準の約86%にとどまる
- 倒産は東京商工リサーチの集計で2026年1〜8月に26件と同期間の最多。9割近くが従業員5人未満の小規模な事業者
- 公庫の調査(スポーツ施設提供業、35社)は、経常利益率の中央値▲5.4%、損益分岐点比率109.6%と厳しい。借入金は年商の8割前後
- 銀行が見るのは会員数、退会率、1人あたり単価、店舗ごとの採算。マシンと内装の投資の回収期間も問われる
- 税務は、返金しない入会金は原則受け取った期の売上、月会費・入会金は消費税の課税対象、個人のトレーナーへの報酬は源泉徴収の対象
フィットネス業界の今:売上は回復、競争は激化
統計で見る市場
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,910億円(前年比+2.0%) | 特定サービス産業動態統計 2024年 |
| うち会費収入 | 2,679億円(同+2.1%) | 同上 |
| 延べ利用者数 | 2億2,661万人(同+2.8%) | 同上 |
| 会員数 | 288万2,341人(同+1.0%) | 同上 2024年12月末 |
| 事業所数(調査対象) | 1,700事業所 | 同上 2024年12月末 |
| 従業者のうちパート・アルバイト等 | 3万3,927人(従業者4万2,443人) | 同上 |
| フィットネスクラブの事業所(全数) | 4,824事業所、従業者70,963人 | 経済センサス 2021年 |
出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」フィットネスクラブ 2024年12月分(e-Stat)、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」第5表(e-Stat)。経済センサスは個人経営を除く
経済産業省のこの統計は2024年12月分で終わり、2025年からは総務省の「サービス産業動態統計調査」に引き継がれました。総務省の推計値(集計の方法が違うため水準は比べられません)では、2025年の売上は前年比約1%減、2026年1〜8月は前年同期比約4%増で、足元は持ち直しています(総務省 サービス産業動態統計調査 参考表、2026年8月分速報)。
経済産業省の統計は2020年以降に調査の対象を広げたため、実数で2019年と比べることはできません。公表された前年比を2020年から2024年まで積み上げると、売上はコロナ前の約86%、会員数は約78%の水準です。利用は戻りつつあるものの、会員を取り戻すのは簡単ではないことが分かります。
倒産は小規模なジムに集中
| 集計 | 期間 | 件数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 東京商工リサーチ | 2026年1〜8月 | 26件(前年同期の2.6倍) | 同期間で最多。従業員5人未満が88.4%、販売不振が73.0% |
| 帝国データバンク | 2026年1〜7月 | 23件(前年同期19件) | 年間で過去最多だった2025年を上回るペース。うちパーソナルジム6件、業歴10年未満が6割超 |
出典:東京商工リサーチ、2026年9月7日、帝国データバンク「『フィットネスクラブ』の倒産動向(2026年1-7月)」2026年8月13日。いずれも負債1,000万円以上。両社は集計の定義が違う
両社とも、背景として、低価格の小型ジムの集中出店による店舗過剰、入会金無料のキャンペーンの常態化、人件費と光熱費の上昇を挙げています。開業して10年以内のジムの倒産が多いことは、出店時の資金計画の重要さを示しています。
パーソナルトレーニングをめぐる消費者トラブル
国民生活センターによると、パーソナルトレーニングに関する相談は2021年度の495件から2025年度は1,457件に増えました。高額な契約や解約料、エステなどとのセット勧誘が問題とされています(国民生活センター、2026年10月7日)。消費者庁も、パーソナルトレーニング中の事故が増えていると注意を呼びかけています(消費者庁、2026年8月6日)。
なお、スポーツクラブやパーソナルトレーニングは、特定商取引法の「特定継続的役務提供」(エステ、学習塾など7つ)には指定されていません(消費者庁 特定商取引法ガイド)。法律上のクーリング・オフがない分、契約書と規約、解約時の精算ルールを分かりやすく整えておくことが、トラブルと評判の悪化を防ぐことにつながります。痩身のエステと組み合わせて契約する場合は、エステの部分が対象になり得るため注意が必要です。
収益構造と決算書の特徴
公庫の指標で見るスポーツ施設提供業
日本政策金融公庫の調査には「フィットネスクラブ」単独の区分がないため、近い業種の「スポーツ施設提供業」(35社、うち黒字かつ自己資本プラスの企業12社)で見ます。
| 指標 | 平均 | 中央値 |
|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | ▲6.5% | ▲5.4% |
| 人件費対売上高比率 | 38.2% | 38.0% |
| 自己資本比率 | ▲38.0% | ▲9.9% |
| 借入金回転期間 | 12.6か月 | 9.6か月 |
| 損益分岐点比率 | 111.9% | 109.6% |
| 従業者1人あたり売上高 | 1,022万円 | 663万円 |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)サービス業 業種別(2026年8月公表)。調査対象が少ないため幅をもって見る必要がある
黒字かつ自己資本プラスの12社の平均は、経常利益率5.8%、自己資本比率12.9%、損益分岐点比率98.6%でした。黒字のジムでも損益分岐点に近いのが、この業種の特徴です。中央値の借入金回転期間9.6か月は、借入金が年商の約8割あることを意味し、出店時の設備投資を借入でまかなっている構造がうかがえます。
決算書の読み方
| 項目 | ジムの特徴 |
|---|---|
| 売上 | 月会費が中心。入会金、パーソナルトレーニング、物販(プロテインなど)、スクール |
| 売掛金 | カード決済・口座振替の入金待ち。期間は短い |
| 前受金 | 年会費・回数券・パーソナルのコース代金の前受け |
| 売上原価 | ほぼなし(物販分のみ) |
| 人件費 | 総合型はスタッフ・インストラクターが多い。24時間無人型は少ない |
| 地代家賃 | 立地と面積で決まる最大の固定費 |
| 水道光熱費 | プール・浴室のある総合型で特に重い |
| 設備 | 内装、トレーニングマシン、空調・シャワー、入退館システム。リースも多い |
業態によって、数字の形が大きく変わります。
| 項目 | 総合型(プール・スタジオ付き) | 小型・24時間型 | パーソナルジム |
|---|---|---|---|
| 会費の単価 | 高い | 低い | 1回・コース単位で高い |
| 損益分岐の会員数 | 多い | 中程度 | 少ない(トレーナーの稼働で決まる) |
| 主な固定費 | 人件費、光熱費、施設 | 家賃、マシン、システム | 家賃、トレーナーの人件費 |
| 銀行が見る指標 | 会員数と光熱費の推移 | 会員数、退会率、商圏の競合 | トレーナー1人あたり売上、前受金 |
銀行はジムのどこを見るか
会員数と退会率
会費のビジネスでは、今いる会員がどれだけ残り、新しい会員がどれだけ入るかが、来年の売上をほぼ決めます。店舗ごとに、毎月次の数字を出せるようにしておきましょう。
- 月末の会員数、入会者数、退会者数(退会率)と退会の理由
- 会員1人あたりの月額売上、パーソナルや物販の利用率
- 1人獲得あたりの広告費と、入会金無料キャンペーンの影響
- 損益分岐となる会員数と、現在の会員数との差
- 商圏内の競合店の出店状況
銀行は、新しい店舗の融資を検討するとき、既存店の会員数がどのくらいの期間で損益分岐に届いたかという実績を重視します。出店の計画書には、既存店の立ち上がりの推移を必ず添えましょう。
設備資金と返済期間
内装とマシンへの投資が大きいため、返済期間を資産の耐用年数と合わせることが資金繰りの要になります。返済期間が短すぎると、利益が出ていても資金が足りなくなります(返済期間と耐用年数)。
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。ジムは減価償却費が大きいため、経常利益が小さくても償却前の利益で返済できているかが重要です。
| 資金 | 内容 | 説明のポイント |
|---|---|---|
| 設備資金 | 内装、マシン、空調・シャワー、入退館システム | 損益分岐の会員数と到達までの月数、マシンの更新時期 |
| 運転資金 | 開業前の家賃・人件費、開業後の赤字期間、広告費 | 会員の立ち上がりの計画と、既存店の実績 |
| 納税資金 | 消費税、法人税 | 前受けの年会費・コース代金と分けて管理しているか |
開業時は日本政策金融公庫の創業融資、開業後の資金は運転資金の借り方で解説しています。
前受金と手元資金
パーソナルジムのコース代金や年会費を前払いで受け取ると、預金が多く見えます。しかし、それはこれからのサービスで返すお金です。倒産したジムで前払いをした会員が被害を受けると、業界全体の信用も損なわれます。前受金を除いた実質の手元資金を毎月確認し、前受けの資金を新店舗の出店に回さないようにしましょう。
業界固有のリスク
- 近隣への競合の出店:低価格の小型ジムが商圏に入ると、会員が一気に移ることがある
- 光熱費の上昇:プールや浴室を持つ施設ほど影響が大きい
- マシンの陳腐化:更新しないと会員の満足度が下がる
- 人気トレーナーの退職・独立:パーソナルの顧客がついていく
- 事故:会員のけがは、賠償と評判の両面で影響する
- 債務超過:公庫の中央値でも自己資本はマイナス。債務超過の会社が融資を受けるにはも確認を
ジム特有の税務・会計の論点
入会金・会費の収益計上
| 受け取ったお金 | 法人税の考え方 |
|---|---|
| 月会費 | その月の売上 |
| 年会費の一括払い | 期間の経過に応じて売上。期末時点で未経過の分は前受金 |
| パーソナルのコース代金・回数券 | 実施した回の分を売上。未実施の分は前受金 |
| 返金しない入会金 | 原則として取引開始の日の属する事業年度の益金 |
| 退会時に返す入会金・保証金 | 預り金(売上ではない) |
法人税基本通達2-1-40の2は、返金しない入会金を原則として取引開始の事業年度の益金とし、その例としてスポーツクラブの会員契約の入会金を明記しています。特定の期間の役務の対価の前受けと認められ、継続して期間に応じて計上している場合は、その方法も認められます(法人税基本通達 第6款)。継続的なサービスの収益は、提供が進んだ日の事業年度の益金とする考え方が示されています(法人税基本通達 第3款 2-1-21の2)。入金ベースのまま決算を組むと、売上を前倒しで計上することになり、税負担と決算書の見え方の両方が変わります。
消費税
月会費は施設を利用するための対価として課税です。入会金は、退会時に返還しないものは課税、返還するものは不課税とされています(消費税基本通達5-5-5、タックスアンサーNo.6467)。人件費の多い総合型や、トレーナーを雇用するパーソナルジムは、給与に消費税がかからないため、売上に対して納める消費税の割合が大きくなりやすい点に注意が必要です。
マシンの減価償却
トレーニングマシンの耐用年数は、器具及び備品の「スポーツ具」(3年)に当たるか、機械装置の「娯楽業用設備」に当たるかで変わります(国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。どちらに当たるかは、設備の構造や使い方による判断です。高額なマシンを導入するときは、購入前に区分を税理士と確認しておきましょう。リースか購入かで、決算書の負債と費用の見え方も変わります。
トレーナーへの報酬と源泉徴収
個人に払う「技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導」の報酬は、所得税法施行令320条で源泉徴収の対象とされています(所得税基本通達204-6)。税率は、同じ人への1回の支払いが100万円以下の部分は10.21%、100万円を超える部分は20.42%です(タックスアンサーNo.2795)。
契約が業務委託でも、シフトや勤務場所、指導の内容を細かく指示していれば、実態として給与と判断されることがあります。給与なら源泉徴収の方法が変わり、消費税の仕入税額控除もできなくなります。社会保険の加入も問題になります。M&Aの際に偽装フリーランスが簿外債務になることもあるため、契約の実態を点検しておきましょう。
事業承継・M&A:会員と店舗をどう引き継ぐか
ジムの開業に特別な許認可は通常必要ないため、手続き面で承継のハードルは高くありません。その代わり、会社の価値は会員、立地(賃貸借契約)、トレーナーに属しています。
| 承継の形 | 主な論点 |
|---|---|
| 親族内承継 | 経営の引継ぎ、株式の評価、個人保証の扱い |
| 社内の店長への承継 | 株式の取得資金、借入金と保証の引継ぎ |
| 株式譲渡(M&A) | 会員契約や賃貸借は原則維持。前受金、リース債務、未払残業代の精査 |
| 店舗単位の事業譲渡 | 会員への通知、会員の個人情報、賃貸借とリース契約の承継 |
| フランチャイズ加盟店の売却 | 本部の承諾、加盟契約の残存期間と承継の可否 |
買い手が確認するのは、会員数と退会率の推移、前受金の残高、マシンの更新時期とリース債務、賃貸借契約の残存期間とチェンジ・オブ・コントロール条項、そして人気トレーナーの残留の条件です。前受金は有利子負債に準じる項目として、価格の調整の対象になり得ます。会員数が損益分岐を下回る店舗でも、立地と設備を評価する買い手が見つかることはあります。閉店を決める前に廃業と売却の比較をしておきましょう。
経営者が今やっておきたいこと
- 店舗ごとに会員数、入会者数、退会率、1人あたり単価を毎月把握している
- 損益分岐となる会員数と、現在の会員数との差を把握している
- 商圏内の競合の出店状況と、価格・サービスの違いを整理した
- 年会費・コース代金の前受金を、未経過・未実施の分にもとづいて計算している
- 前受金を除いた実質の手元資金を毎月確認している
- 入会金の返金の有無を規約で明確にし、税務の扱いと合わせている
- マシンの更新計画と耐用年数、リースの残債を一覧にしている
- 借入の返済期間を設備の耐用年数と比べて点検した
- トレーナーの契約の実態を点検し、給与と報酬の区分、源泉徴収を確認した
- 契約書・規約・解約時の精算のルールを分かりやすく整えた
資金の見通しは資金繰り表の作り方で解説しています。会員制で前受金を扱う業種としては、学習塾の動向と経営のポイントも参考になります。
まとめ
フィットネスクラブ・ジムは、健康への関心の高まりを背景に需要が戻りつつある一方で、小型ジムの増加による競争の激化と、人件費・光熱費の上昇に挟まれている業界です。倒産が開業から日の浅い小規模なジムに集中していることは、出店の前の資金計画と、出店後の会員数の管理がいかに大切かを示しています。
会費のビジネスは、会員数と退会率を毎月つかんでいれば、売上の見通しを銀行に説明しやすい業種でもあります。数字で語れるジムほど、設備資金や次の出店の融資を受けやすくなります。
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