車検、定期点検、故障の修理、事故車の板金塗装。自動車整備業は、約8,270万台の車の安全を地域で支える仕事です。整備の売上は増え続けていますが、現場では整備士の不足と高齢化、車の電子化への対応が大きな課題になっています。
自動車整備業の経営は、法律で決まった点検・車検の需要に支えられて売上が安定しやすい一方、利益が残りにくく、自己資本も薄くなりがちです。この記事では、日本自動車整備振興会連合会(日整連)の調査や国土交通省の資料で業界の今を整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、税務の論点、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 総整備売上高は6兆6,592億円(令和7年度調査、前年度比+6.4%)で4年連続の増加。専・兼業の伸びは+10.1%、技術料(工賃)も+5.8%と上昇している
- 整備要員の平均年齢は47.7歳、専業では53.0歳。有効求人倍率は4.99倍(令和5年度)で、人手の確保が最大の経営課題
- 整備要員1人あたりの年間整備売上高は、専・兼業1,254万円に対しディーラー2,564万円。工賃の見直しと生産性の向上に余地がある
- 銀行は、実質の自己資本、社長からの借入金、設備投資の採算、整備士の確保を見る。公庫の調査では小規模な整備業の自己資本比率の中央値は▲6.8%
- 承継では、認証の地位は法律上承継できるが、整備主任者・検査員などの人と、工場の土地を引き継げるかが企業価値を左右する
自動車整備業の今:売上は増え、人が足りない
売上と事業場の状況
| 指標 | 令和7年度調査 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 総整備売上高 | 6兆6,592億円 | +6.4% |
| うち専業 | 2兆5,488億円(38.3%) | +13.4% |
| うち兼業 | 7,746億円(11.6%) | +0.4% |
| うちディーラー | 3兆493億円(45.8%) | +2.5% |
| 企業数 | 72,317 | ▲0.2% |
| 事業場(認証工場)数 | 92,251 | ▲0.14% |
| うち指定工場 | 29,810 | ▲0.4% |
| 整備要員数 | 402,367人 | +0.1% |
| うち整備士数(保有率) | 333,475人(82.9%) | +0.1% |
| 1事業場あたりの整備要員 | 4.36人 | +0.01人 |
出典:日本自動車整備振興会連合会「令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要について」令和8年1月30日。令和7年6月30日現在。売上高は令和6年7月から令和7年6月までに終了した決算の実績
事業場数は4年ぶりに減少し、指定工場は3年連続で減っています。作業別の売上は、車検整備2兆7,037億円(+6.4%)、定期点検整備4,928億円(+7.9%)、事故整備1兆2,253億円(+9.4%)、その他整備2兆2,374億円(+4.6%)です。車検と定期点検で全体の約5割を占め、保有車両(令和7年3月末で約8,270万台、+0.2%)に支えられた法定需要が、この業界の土台になっています。
人手不足と高齢化
国土交通省の「省力化投資促進プラン―自動車整備業―(案)」令和7年5月14日によると、自動車整備業の有効求人倍率は4.99倍(令和5年度、全産業平均1.17倍)です。整備専門学校の入学者数は20年で1万2,394人から5,653人へと半減し、整備工場の約8割は従業員が10人以下です。
| 項目(令和7年度調査) | 専業 | 兼業 | ディーラー | 全体(自家を除く) |
|---|---|---|---|---|
| 整備要員の平均年齢 | 53.0歳 | 49.0歳 | 37.9歳 | 47.7歳 |
| 整備要員の平均年収 | 395.7万円 | 420.4万円 | 535.1万円 | 442.9万円 |
| 1人あたり年間整備売上高 | 1,257万円 | 1,243万円 | 2,564万円 | 1,660万円 |
出典:日整連「令和7年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」から作成(千円単位の数値を万円に換算)
専業工場の平均年齢は50歳を超え、年収はディーラーより約140万円低い水準です。1人あたり売上の差は、対象車両の新しさや作業内容の違いもありますが、同じ車検でも工賃や入庫の管理で差がつく余地を示しています。
市場からの退出も増えています。帝国データバンクの調査では、2026年1〜6月の自動車整備業の休廃業・解散は259件(前年同期186件)、倒産36件と合わせて295件で、半期として過去最多でした(帝国データバンク、2026年7月8日)。
電子化への対応:OBD検査と特定整備
車検には、令和6年10月から(輸入車は令和7年10月から)、電子装置の検査(OBD検査)が加わりました。対象は令和3年10月以降の新型車(輸入車は令和4年10月以降)で、車検証の備考欄に記載があります。電子装置の診断に対応する設備と人材が、工場の受入れ能力を左右します(国土交通省「OBD検査」)。
国土交通省の案では、スキャンツールの導入率を2024年度の67%から2029年度に100%に、労働生産性を2029年度までに2024年度比で25%高める目標を掲げています。
収益構造と決算書の特徴
小規模な整備工場の数字
日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」(2025年度調査、従業者50人未満の法人が対象)の「自動車一般整備業」(308社)を見ます。
| 指標 | 平均 | 中央値 | 黒字かつ自己資本プラスの企業の平均 |
|---|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 44.7% | 42.1% | 46.3% |
| 売上高経常利益率 | 0.0% | 0.5% | 3.9% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 2.6% | 2.3% | 6.5% |
| 人件費対売上高比率 | 29.0% | 26.9% | 29.1% |
| 受取勘定回転期間 | 0.9か月 | 0.8か月 | 1.0か月 |
| 借入金回転期間 | 7.7か月 | 6.4か月 | 5.7か月 |
| 自己資本比率 | ▲38.9% | ▲6.8% | 28.4% |
| 損益分岐点比率 | 108.9% | 101.9% | 97.0% |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)サービス業(2026年8月公表)
ポイントは3つあります。第一に、売上の入金が早いことです。受取勘定回転期間は1か月弱で、一般のお客さまの現金・カード払いが中心の工場では、売掛金の負担は比較的軽く済みます。第二に、利益率が低いことです。中央値の損益分岐点比率は100%を超えています。第三に、自己資本が薄いことです。自己資本比率の中央値がマイナスで、308社のうち「黒字かつ自己資本プラス」の企業は108社にとどまります。
売上の内訳で決算書の形も変わります。
| 売上の種類 | 利益の特徴 | 資金の動き | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 車検・定期点検 | 工賃中心で利益が残りやすい | お客さまの入金は早いが法定費用の立替がある | 入庫の時期が月ごとに偏る |
| 一般修理 | 工賃と部品の組み合わせ | 法人の取引先は月末締めが多い | 部品価格の上昇の転嫁 |
| 事故整備(板金塗装) | 保険会社の協定に左右される | 入金まで時間がかかりやすい | 仕掛りの管理 |
| 部品・タイヤ・オイル販売 | 粗利は商品次第 | 在庫を持つ | 不動在庫 |
銀行は整備工場のどこを見るか
「実質の自己資本」と社長からの借入金
小規模な整備工場では、社長や親族からの借入金が負債に入っていて、債務超過に見える会社が少なくありません。銀行は、社長の借入金を実質的な資本として評価するかどうか、社長個人の資産の状況も含めて判断します。役員借入金の明細と、返済を急がない方針を説明できるようにしておきましょう。
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。公庫の調査の平均のように償却前の利益率が2〜3%の水準では、返済に回せる資金はわずかです。工賃を少し見直すだけで、返済能力は大きく変わります。
設備資金:投資の採算を説明する
スキャンツール、リフト、検査機器、塗装ブースなどの設備投資では、次のように説明できると、融資の話が進みやすくなります。
- 投資で対応できる車種・作業が増え、外注していた作業を内製できる
- 1台あたりの作業時間が短くなり、受入台数が増える
- 投資額・返済額に対して、増える利益はいくらか
- 指定工場の場合、自社で車検を完結でき、回転が速くなる
工場の土地・建物が社長個人の所有である場合は、賃料の水準と担保提供の可否も確認されます。
業界固有のリスク
- 整備主任者などの資格者が辞めるリスク:認証の要件にかかわるため、特定の人に依存していないか
- 法令遵守:認証の基準を満たさない状態や不正な車検は、事業の停止や認証の取消しにつながる(道路運送車両法第93条)
- 価格転嫁:部品・塗料の上昇を工賃に反映できているか
- 高齢化:社長と主力の整備士が同世代で、10年後の体制が描けているか
- 税金・社会保険料の滞納:審査で最も厳しく見られる点の一つ
審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイント、保証協会付き融資とプロパー融資の違いは保証協会付き融資の落とし穴で解説しています。
自動車整備業特有の税務・会計の論点
車検の法定費用と消費税
実務で一番多い論点です。お客さまが本来納めるべき自動車重量税や検査の手数料は、それらとして受け取ったことが明らかであれば、課税売上の金額に含まれません(消費税法基本通達10-1-4の注)。
| 項目 | 取扱いの考え方 |
|---|---|
| 自動車重量税・検査手数料・印紙代 | 法定費用として受け取ったことが明らかなら、課税売上に含まれない |
| 自賠責保険料 | 保険料の立替分として区分する |
| 整備工賃・部品代 | 課税売上 |
| 車検の代行手数料 | 課税売上 |
請求書や見積書で法定費用と整備代・手数料を分けて表示し、帳簿でも立替金として処理することが前提です。一式の金額でまとめて請求すると、説明が難しくなります。
簡易課税の事業区分
簡易課税を使う場合、自動車整備はサービス業として第五種事業(みなし仕入率50%)が基本です。一方、仕入れた商品をそのまま販売するタイヤやオイルの物販は、販売先に応じて第一種または第二種事業に当たります。事業区分の判定は取引ごとに行うため、整備と物販を分けて記帳しておくことが大切です(国税庁 タックスアンサーNo.6509、消費税法基本通達13-2-4)。
売上の計上時期と部品在庫
修理や車検は請負に当たるため、原則として車を引き渡した日の事業年度の売上です(法人税基本通達2-1-21の7)。期末をまたぐ事故修理は、完成・引渡しの日と、部品代などの費用の処理時期を合わせておきましょう。保険修理は入金が翌期になっても、引渡しが今期であれば今期の売上です。
期末の部品・タイヤ・オイルは棚卸資産に計上します。棚卸しをしないまま仕入を全額経費にしていると、税務調査で指摘されやすいだけでなく、銀行に在庫の実態を説明できません。
設備の減価償却
自動車整備業用設備の耐用年数は15年です(耐用年数省令 別表第二)。10万円未満の少額の資産は全額損金、20万円未満は3年間の一括償却を選ぶことができます(国税庁 タックスアンサーNo.5403)。工賃が中心の業種で納税額が大きくなる点も踏まえ、中間申告の時期は資金繰りに入れておきましょう。
事業承継・M&A:認証は引き継げても「人」は別問題
自動車特定整備事業を営むには、事業の種類・事業場ごとに地方運輸局長の認証が必要です(道路運送車両法第78条)。認証の基準として、特定整備に従事する従業員が2人以上、そのうち1人以上は一級または二級の整備士で、整備士の数は従業員の4分の1以上、さらに事業場ごとに整備主任者の選任が求められます(近畿運輸局「認証取得説明用資料」)。
| 承継の形 | 認証の扱い | 指定工場の指定 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社が同じなので残る。役員の変更は30日以内に届出(第81条) | 会社が同じなら残る。検査員の体制を確認 |
| 親族内承継(社長交代) | 同上 | 同上 |
| 合併・会社分割 | 承継した法人が地位を承継し、30日以内に届出(第82条) | 運輸支局に事前確認 |
| 事業譲渡 | 譲受人が地位を承継し、30日以内に届出(第83条) | 運輸支局に事前確認 |
指定(いわゆる民間車検場)は別の制度で、事業場ごとに自動車検査員の選任が必要です(第94条の2、第94条の4)。第82条・第83条を指定に準用する規定は見当たらないため、指定を維持する前提の承継では、形を決める前に運輸支局への確認が欠かせません。
他の許認可との比較は許認可はM&Aで引き継げるか、M&A全体の動きは中小企業M&Aの件数と最近の傾向にまとめています。
承継の前に整理しておきたいのは、次の点です。
- 整備主任者・自動車検査員が承継後も残るか。一人しかいない場合、その人の退職で事業が止まらないか
- 工場の土地・建物が社長個人の名義ではないか(事業用不動産の承継)
- 油水分離槽、廃油・塗料の保管の状況と、土壌への影響がないか
- 主要な法人の取引先、保険会社、ディーラーからの紹介が、社長個人の関係に頼っていないか
- 未払残業代など簿外の債務(労務DDと未払残業代のリスク)
- 社長の個人保証の扱い(事業承継と経営者保証)
廃業を選ぶ場合は、30日以内の届出で認証は効力を失います(第81条、第84条)。整備士と顧客を地域で必要としている同業者は多いため、廃業を決める前に、譲渡の可能性も検討する価値があります。
経営者が今やっておきたいこと
- 作業別・顧客別の粗利を把握し、1人あたり売上を毎月確認している
- 工賃の水準を見直し、部品・人件費の上昇を反映している
- 車検の請求書で、法定費用と整備代・手数料を分けて表示している
- 期末に部品・タイヤ・オイルの棚卸しを行い、不動在庫を把握している
- 社長からの借入金の明細を整理している
- スキャンツールなどの投資について、投資額と増える利益を計算している
- 法人税・消費税・社会保険料の納付資金を毎月積み立て、滞納がない
- 整備主任者・検査員の後任を育て、資格の取得を支援している
- 工場の土地・建物の名義と、承継の方法を整理している
資金繰り表の作り方は資金繰り表の作り方、運転資金の考え方は運転資金の融資はいくらが目安?で解説しています。トラックの整備が多い工場は、主な取引先である運送業の動向も参考にしてください。
まとめ
自動車整備業は、法定需要に支えられて売上が伸びる一方、整備士の不足と高齢化、車の電子化という構造的な課題を抱えています。人を採りにくいからこそ、工賃の見直しと設備投資で1人あたりの売上を高めることが、賃上げの原資になり、返済能力を高めます。請求書の区分や棚卸しといった基本を整えて決算書の信頼性を上げること、そして資格者と工場を次の世代に渡す準備を早めに始めることが、銀行の評価と事業の存続の両方を支えます。
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