子どもの数は減り続けています。それでも学習塾にかける費用は高い水準にあり、塾全体の売上は保たれてきました。一方で、2025年の学習塾の倒産は過去最多となりました。業界全体が沈んでいるのではなく、規模や立地、指導の形による差が広がっているのが実態です。
学習塾の経営は、在庫がなく粗利が高い一方、利益は生徒数と教室の固定費のバランスで決まります。この記事では、公的な統計で業界の今を整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、前受金と消費税などの税務の論点、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 小学生は565.4万人、中学生は306.0万人(2026年5月、速報値)でいずれも過去最少。一方、公立中学3年生の学習塾費は平均年34万1,220円と高い
- 2025年の倒産は過去最多の55件。92.7%が従業員5人未満、94.5%が負債1億円未満で、小規模な塾に集中している
- 公庫の調査(84社)では、経常利益率の平均は▲2.2%、中央値0.4%。黒字かつ自己資本プラスの企業は3分の1にとどまり、平均で5.7%
- 銀行が見るのは生徒数、1人あたり単価、退塾率、教室ごとの採算。前受金が多い塾は、現預金をそのまま余裕資金と見ない
- 税務は、授業料は消費税の課税対象、前受金は授業の実施に応じて収益に。業務委託の講師への報酬は源泉徴収の対象になり得る
学習塾業界の今:子どもは減り、1人あたりの支出は増える
需要を決める数字
| 指標 | 数字 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| 小学校の在学者 | 565.4万人(▲15.8万人、過去最少) | 文部科学省 2026年5月1日 速報値 |
| 中学校の在学者 | 306.0万人(▲4.5万人、過去最少) | 同上 |
| 高等学校の在学者 | 284.5万人(▲2.9万人) | 同上 |
| 出生数 | 671,270人(過去最少) | 厚生労働省 2025年 確定数 |
| 学習塾の事業所数 | 45,546事業所 | 経済センサス 2021年 |
| 学習塾の従業者数 | 314,634人 | 同上 |
| 学習塾の売上(収入)金額 | 約1兆329億円 | 同上 |
出典:文部科学省「令和8年度学校基本統計 速報値」令和8年8月26日、厚生労働省「令和7年人口動態統計(確定数)」、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査 産業別集計(サービス関連産業)」
同じ経済センサスで、必要な項目の数字が得られた18,850事業所を集計すると、1事業所あたりの受講生は94人、売上は約4,481万円、受講生1人あたりの年間売上は約47万5千円でした。受講生数は2020年末時点です。
学習塾にかける費用
| 区分(保護者の年間支出・2023年度) | 公立 | 私立 |
|---|---|---|
| 小学校 平均 | 75,194円 | 259,492円 |
| 小学校 第6学年 | 145,161円 | 442,735円 |
| 中学校 平均 | 230,385円 | 168,058円 |
| 中学校 第3学年 | 341,220円 | 202,127円 |
| 高等学校(全日制)平均 | 147,140円 | 166,867円 |
| 高等学校 第3学年 | 206,454円 | 214,709円 |
出典:文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」結果の概要(令和8年1月16日 訂正版)。学年別の「学習塾費」の平均
金額のピークは、私立小学校の6年生と公立中学校の3年生です。中学受験と高校受験の直前期に費用が集中していることが分かります。
経済産業省の分析によると、受講生の数にもとづく学習塾指数は下がる傾向でも、売上高の指数はおおむね増加し、1人あたりの売上の指数は2016年以降上がり続けていました(経済産業省「止まらない少子化、学習塾への影響は?」2024年3月21日。2023年までのデータ)。生徒が減っても、単価を上げて売上を確保してきた業界といえます。ただ、このデータは調査対象の企業の動きであり、すべての塾に当てはまるわけではありません。
倒産は小規模な塾に集中
東京商工リサーチの集計では、2025年の学習塾の倒産は55件(前年53件)で、2006年以降で最多でした。
| 区分 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 負債1億円未満 | 52件 | 94.5% |
| 従業員5人未満 | 51件 | 92.7% |
| 原因が販売不振 | 45件 | 81.8% |
出典:東京商工リサーチ「2025年の『学習塾』倒産 過去最多の55件」2026年1月17日
帝国データバンクの集計(負債1,000万円以上の法的整理)でも2025年は46件で最多でした(速報、2026年1月)。少子化に加え、講師の確保の難しさや物価の上昇が背景に挙げられています。
2026年12月のこども性暴力防止法
2026年12月25日に、いわゆる日本版DBSを定めたこども性暴力防止法が施行されます。学習塾は義務ではなく、国の認定を受ける任意の仕組みです。認定の対象となるのは次の要件をすべて満たす事業です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 児童等に技芸または知識を教えること |
| 期間 | 標準的な修業期間が6か月以上 |
| 形態 | 対面での指導(オンライン中心でも対面を想定する事業は対象) |
| 場所 | 事業者が用意する場所で指導 |
| 人数 | 教える人が3人以上(雇用の形を問わない) |
出典:こども家庭庁「こども性暴力防止法に関するQ&A」令和8年4月。認定の申請手数料は1事業あたり3万円
講師が1〜2人の塾は認定の対象になりません。保護者が認定の有無を塾選びの目安にすれば、小規模な塾は、安全管理の取り組みを別の形で説明する必要が出てきます。認定を受ける塾は、確認の手続きや研修、記録の管理の手間と費用を見込んでおきましょう。
収益構造と決算書の特徴
公庫の指標で見る学習塾
日本政策金融公庫の調査の「学習塾」は84社で、うち黒字かつ自己資本プラスの企業は28社です。
| 指標 | 平均 | 中央値 | 黒字かつ自己資本プラスの企業の平均 |
|---|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | ▲2.2% | 0.4% | 5.7% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 0.1% | 1.8% | 8.5% |
| 人件費対売上高比率 | 45.9% | 49.0% | 39.7% |
| 諸経費対売上高比率 | 40.7% | 38.5% | 41.1% |
| 借入金回転期間 | 5.2か月 | 4.1か月 | 2.5か月 |
| 自己資本比率 | ▲53.0% | ▲10.7% | 30.3% |
| 損益分岐点比率 | 105.4% | 100.5% | 96.0% |
| 従業者1人あたり売上高 | 779万円 | 527万円 | 785万円 |
| 従業者1人あたり人件費 | 281万円 | 206万円 | 264万円 |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)教育,学習支援業 業種別(2026年8月公表)
自己資本比率の中央値がマイナスということは、調査対象の半数以上が債務超過であることを意味します。黒字企業は人件費率が平均より約6ポイント低く、借入も半分以下です。損益分岐点比率が100%前後ということは、生徒が数人抜けるだけで赤字に近づく構造です。
決算書の読み方
| 項目 | 学習塾の特徴 |
|---|---|
| 売上原価 | ほぼ教材費のみ。公庫の売上高総利益率は平均92.5% |
| 人件費 | 正社員の教室長と、学生などの講師。個別指導は授業のコマ数に連動しやすい |
| 地代家賃 | 駅前の教室の賃料が大きな固定費。諸経費が売上の約4割 |
| 広告費 | 春と夏の募集の時期に集中する |
| 前受金 | 講習費や年払いの授業料で負債に計上される |
| 売掛金 | 口座振替やカード決済の入金までの短い期間が中心 |
| 季節性 | 夏期・冬期・春期の講習で売上が増え、受験生の卒業後に生徒数が落ち込む |
指導の形によって、数字の形も変わります。
| 項目 | 集団指導 | 個別指導 |
|---|---|---|
| 利益の出どころ | 1クラスの人数 | 講師1人あたりの生徒数とコマの稼働 |
| 人件費 | 固定費に近い | 変動費に近い |
| 講師の確保 | 指導力のある専任講師に依存 | 学生講師の人数が必要 |
| 銀行が見る指標 | クラスの充足率 | コマの稼働率、講師の充足 |
銀行は学習塾のどこを見るか
生徒数と単価の管理
銀行は、決算書だけでなく来期の生徒数がどうなるかを知りたいと考えます。教室ごとに、毎月次の数字を出せるようにしましょう。
- 在籍生徒数(学年別)、入塾者数、退塾者数と退塾の理由
- 生徒1人あたりの月額売上、講習の受講率
- 問い合わせから入塾に至る率と、1人獲得あたりの広告費
- 合格実績と、卒業生が抜けたあとの生徒数の見通し
- 講師の人数と、人件費率、1コマあたりの粗利
学年別の人数は、翌年度の売上の予測そのものです。中3と高3の比率が高い教室は、春に売上が大きく減ります。その落ち込みを資金繰り表に織り込んでいるかを、銀行は見ています。
前受金と手元資金
授業料の前受けが多い塾は、預金残高が多く見えます。ただ、これはこれから授業で返すお金です。銀行は貸借対照表の前受金を現預金と比べて見ます。特定商取引法の中途解約の場合は返金も発生します。前受金を除いた実質の手元資金を毎月把握しましょう。
授業料を半年分・1年分まとめて受け取る形は、資金繰りを楽にしますが、倒産時に受講者の被害につながりやすいため、社会の目も厳しくなっています。受け取った資金を、新規の教室の出店など長期の投資に充てるのは避けたほうが賢明です。
運転資金と設備資金
公庫の中央値の借入金回転期間は4.1か月と軽めです。ただ、償却前の利益率が低いと返済能力は不足します。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。公庫の中央値(4.1か月、償却前1.8%)で仮に計算すると、現預金と税金を考えなければ約19年、黒字企業の平均(2.5か月、8.5%)なら約2.5年です。借入の多さより、利益の薄さが返済力の差を生んでいます。
資金の使い道は次のように整理できます。
| 資金 | 内容 | 説明のポイント |
|---|---|---|
| 設備資金 | 教室の内装、敷金・保証金、机・PC | 新教室の損益分岐となる生徒数と、到達までの月数 |
| 運転資金 | 開校から軌道に乗るまでの赤字、春の広告費 | 生徒数の立ち上がりの計画と根拠 |
| 納税資金 | 消費税、法人税 | 前受けの資金と分けて管理しているか |
創業の場合は日本政策金融公庫の創業融資、運転資金の考え方は運転資金の借り方で解説しています。
業界固有のリスク
- 塾長への依存:看板講師が辞めると生徒も移るリスク
- 立地の変化:近隣への大手の進出、学校の統廃合
- オンライン・AI教材との競合:価格の比較にさらされる
- 事故・不祥事:一つの事案が教室全体の信用を失わせる
- 債務超過:社長からの借入金の扱いを整理し、自己資本比率の目安を確認する
審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントで解説しています。
学習塾特有の税務・会計・法務の論点
前受金の収益計上
授業は、提供した分から順に売上になります。法人税基本通達2-1-21の2は、一定の期間にわたって役務を提供するものについて、提供が進んだ日の属する事業年度の益金とする考え方を示しています(法人税基本通達 第3款)。
| 受け取ったお金 | 実務の考え方 |
|---|---|
| 月謝 | 授業を行う月の売上 |
| 夏期講習・年間授業料の前受け | 実施した授業の分を売上に。期末時点の未実施分は前受金 |
| 入会金(返金不要) | 原則、取引開始の日の属する事業年度の益金 |
| 教材費 | 教材を引き渡した時 |
入会金について、法人税基本通達2-1-40の2は、スポーツクラブの入会金を例に、返金不要の支払いは原則として取引開始の事業年度の益金としています。特定の期間の役務の対価の前受けと認められ、継続して期間に応じて計上している場合は、その処理も認められます(法人税基本通達 第7款)。
期末が2月や3月の塾は、春期講習や新年度の授業料の前受けが期末に重なります。入金ベースのまま決算を組むと、売上を前倒しで計上することになり、税負担と決算書の見え方の両方が変わります。生徒別の入金と授業の実施を突き合わせる仕組みを作りましょう。現金で受け取る場合は、現金売上の管理も参考にしてください。
消費税は課税
国税庁は、学習塾の入学金や授業料は一般に消費税の課税対象としています。非課税になるのは、各種学校に当たり、修業年限1年以上、年間授業時間680時間以上などの要件をすべて満たす場合に限られます(タックスアンサーNo.6233、質疑応答事例「学習塾等の授業料」)。
教室の家賃や広告費には消費税がかかりますが、最大の費用である給与にはかかりません。そのため、売上に対して納める消費税の割合が大きくなりやすい業種です。保護者から預かったお金が手元に残って見えるので、毎月積み立てておきましょう。中間申告の時期も資金繰りに入れておきます。
講師の報酬と源泉徴収
講師を雇用していれば給与ですが、業務委託の形でも、個人に払う知識の教授の報酬は、報酬・料金として源泉徴収の対象です。国税庁の源泉徴収の手引は「技芸、スポーツ、知識等の教授・指導料」を挙げており、1回の支払いが100万円以下なら10.21%です(令和8年版 源泉徴収のあらまし 第5。2026年分)。
契約書が業務委託でも、時間や場所の拘束が強ければ、実態として給与に当たることがあります。給与なら源泉徴収の方法が変わり、社会保険や労働時間の問題も出てきます。学生講師の授業前後の準備時間や、テスト採点の時間の賃金の扱いも、未払残業代の指摘を受けやすい点です。
特定商取引法:クーリング・オフと中途解約
契約期間が2か月を超え、契約金の総額が5万円を超える学習塾の契約は、特定継続的役務提供に当たります。総額には入学金、受講料、教材費などを含みます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 入試の準備または学校の補習のための学力の教授(幼稚園・小学校の受験対策や、浪人生のみのコースは対象外) |
| 書面 | 契約前の概要書面、契約後の契約書面の交付 |
| クーリング・オフ | 書面受領から8日以内 |
| 中途解約(開始前) | 請求できる額の上限は1万1,000円 |
| 中途解約(開始後) | 提供済みの対価に加え、2万円または1か月分の授業料相当額のいずれか低い額が上限 |
税務と同じく、授業の実施状況を生徒ごとに記録することが、返金額の計算の基礎になります。教材も関連商品として解約の対象になることがあります。
事業承継・M&A:許認可より「人」と「生徒」が論点
学習塾に特別な許認可は求められないため、手続き面で承継のハードルは低い業種です。その代わり、会社の価値の多くが経営者本人と教室長、講師に属しています。創業者が授業の中心にいる塾では、社長が抜けると生徒が離れることを買い手が懸念します。社長への依存度を下げることが、承継の準備の中心になります。
| 承継の形 | 主な論点 |
|---|---|
| 親族内承継 | 指導の実績と、経営の役割の引継ぎ。株式の評価 |
| 社内の教室長への承継 | 株式の取得資金、個人保証の引継ぎ |
| 株式譲渡(M&A) | 契約関係は原則維持。簿外の未払残業代や前受金の精査 |
| 教室単位の事業譲渡 | 生徒・保護者への説明、個人情報の取扱い、賃貸借の承継 |
買い手が確認するのは、次の点です。
- 在籍生徒数の推移と、合格実績の信頼性
- 前受金の残高。有利子負債に準じる項目として価格の調整の対象になり得る
- 教室の賃貸借契約の残存期間と、チェンジ・オブ・コントロール条項
- フランチャイズ加盟の場合の契約の承継の可否
- 教室長の残留の条件、講師の雇用形態と未払残業代
- 生徒の個人情報の管理体制
- 社長の個人保証の扱い(事業承継と経営者保証)
債務超過の塾でも、生徒が定着していれば買い手が見つかることはあります。公庫の中央値が示すとおり、自己資本がマイナスの塾は珍しくありませんが、廃業を決める前に廃業と売却の比較をしておく価値があります。
経営者が今やっておきたいこと
- 教室ごと・学年別の生徒数と、損益分岐となる生徒数を毎月把握している
- 入塾率、退塾率、1人獲得あたりの広告費を計算している
- 地域の小中学生の人数の見通しを確認した
- 前受金を除いた実質の手元資金を毎月確認している
- 期末の前受金を、未実施の授業に基づいて計算している
- 消費税と法人税の納税資金を別の口座に積み立てている
- 講師の契約の実態を点検し、給与と報酬の区分、源泉徴収を確認した
- 授業の準備時間などの賃金の扱いを確認した
- 特定商取引法の書面と解約の精算のルールを整えた
- こども性暴力防止法の認定を受けるかどうかを判断した
- 塾長が不在でも回る指導の仕組みと、後継者の候補を検討している
資金の見通しは資金繰り表の作り方で解説しています。
まとめ
学習塾は、子どもの数が減るなかでも、受験期の高い需要に支えられ、単価を上げてきた業界です。しかし倒産が小規模な塾に集中しているように、生徒数が損益分岐を少し下回るだけで資金が苦しくなる構造があります。教室ごとの採算を毎月つかむこと、前受金を自由な資金と見ないこと、授業料の消費税と講師の処遇を正しく扱うことが、銀行の評価と事業の継続の両方につながります。塾長個人の力に頼る経営から、仕組みで続く経営に変えていくことが、承継の準備にもなります。
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