「次の物件のローン、固定金利と変動金利のどちらにすべきでしょうか」。2026年に入り、不動産投資家の方からこのご相談が明らかに増えました。日本銀行は9月の会合で政策金利を1.25%程度に引き上げ、11月には大手銀行の短期プライムレートが年2.625%に上がっています。変動金利で借りている方ほど、利息の増え方を実感し始めている時期です。
不動産投資ローンの固定金利と変動金利は、「どちらが得か」を当てるゲームではありません。金利の予想は専門家でも外れます。大切なのは、金利が上がっても返済と次の融資が止まらない借り方になっているかです。この記事では、1億円・30年の試算をもとに、固定と変動の違い、見落としやすいコスト、銀行の評価への影響、個人と法人の違いを整理します。
- 固定金利は返済額が読める代わりに、借りる時点の金利が高め。変動金利は当初は低いが、上昇リスクを自分で負う
- 1億円・30年の元利均等返済なら、金利が1%上がると毎月の返済は約5万円増える
- 固定金利は、保有期間の途中で売却・借り換えすると違約金(清算金)がかかることがある。保有予定の期間と固定期間をそろえる
- 銀行は金利の種類より、金利が上がってもICR・債務償還年数が耐えられるかを見る
- 個人は、土地を取得するための借入の利子に損益通算の制限がある。法人にはこの制限がない
不動産投資ローンの固定金利と変動金利の違い
不動産投資ローン(アパートローンや、法人で借りる事業性の融資)の金利は、大きく3つの型に分かれます。
| 金利の型 | 金利の決まり方 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|---|
| 変動金利 | 短期プライムレートなど銀行の基準金利+上乗せ幅。基準金利が動くと、契約で決めた見直し日から金利が変わる | 借りる時点の金利が低め。途中返済の違約金がかからないことが多い | 金利上昇の影響をそのまま受ける |
| 固定期間選択型 | 3年・5年・10年など、決めた期間だけ金利を固定。期間が終わると、その時点の金利で変動か再固定を選ぶ | 一定期間の返済額が読める | 固定期間中の途中返済に違約金がかかることがある。期間終了時の金利は読めない |
| 全期間固定 | 返済期間すべての金利を固定 | 返済計画が最後まで確定する | 金利は最も高めになりやすい。取り扱う金融機関が限られる |
固定金利の水準は、一般に市場の長期金利(銀行が資金を固定で調達するコスト)に、銀行の上乗せ幅を加えて決まります。そのため、固定期間が長いほど金利は高くなるのが普通です。短期の金利が上がっている局面でも、長期の金利が先に下がる場面もあり、両者は同じ動きをするとは限りません。
もう一つ押さえておきたいのが、金利は「基準金利+上乗せ幅(スプレッド)」でできているという点です。基準金利は市場と銀行が決めますが、上乗せ幅は、借り手の決算書や格付け、取引の状況で変わります。固定か変動かを選ぶ前に、上乗せ幅を下げられる財務になっているかのほうが、長い目で見て返済額への影響が大きいこともあります。金利の交渉については融資の金利交渉のしかたで詳しく解説しています。
1億円・30年で比べると、返済額はどれだけ違うか
具体的な数字で見てみましょう。1億円を30年、元利均等返済で借りた場合の、金利ごとの返済額です(試算のための仮定で、実際の条件は金融機関によって異なります)。
| 金利 | 毎月の返済額 | 年間の返済額 | 1年目の利息 |
|---|---|---|---|
| 2.0% | 約37.0万円 | 約444万円 | 約198万円 |
| 2.5% | 約39.5万円 | 約474万円 | 約247万円 |
| 3.0% | 約42.2万円 | 約506万円 | 約297万円 |
| 3.5% | 約44.9万円 | 約539万円 | 約347万円 |
| 4.0% | 約47.7万円 | 約573万円 | 約397万円 |
金利が1%上がると、毎月の返済は約5万円、年間で約60万円増えます。家賃収入が年800万円の物件なら、手残りがそれだけ薄くなる計算です。
次に、10年間で払う利息の合計を、変動と固定で比べてみます。
| シナリオ(1億円・30年・元利均等) | 10年間の利息の合計 |
|---|---|
| 変動2.0%のまま10年 | 約1,742万円 |
| 変動2.0%で始まり、6年目から3.0% | 約2,155万円 |
| 変動2.0%で始まり、6年目から3.5% | 約2,365万円 |
| 10年固定2.8% | 約2,475万円 |
この仮定では、変動金利が6年目から1.5%上がっても、10年間の利息は10年固定のほうが多くなります。逆に、上昇がもっと早く、もっと大きければ、固定のほうが有利になります。つまり、固定金利は「金利上昇に備える保険」で、その保険料が当初の金利差です。保険料を払ってでも返済額を確定させたいかどうかが、判断の出発点になります。
借入全体で金利が上がったときの影響の試算方法は、不動産投資の金利上昇対策もあわせてご覧ください。
固定金利が向くケース、変動金利でよいケース
どちらが向くかは、物件ではなく「借り手の財務」と「保有の計画」で決まります。
| 判断の軸 | 固定金利が向く | 変動金利でもよい |
|---|---|---|
| 物件の収支の余裕 | 返済比率が高く、金利が1〜2%上がると手残りがほぼなくなる | 金利が2%上がっても、手残りが十分に残る |
| 手元の現預金 | 薄い。金利上昇分を手元資金で吸収できない | 厚い。数年分の利息の増加を吸収できる |
| 保有予定の期間 | 長く持つ予定で、固定期間中に売る可能性が低い | 数年以内の売却や借り換えを考えている |
| 借入の残高・期間 | 残高が大きく、残り期間が長い | 残高が小さい、または残り期間が短い |
| 借入の構成 | 借入の大半が変動金利で、上昇リスクが集中している | すでに一部を固定化している |
実務では、すべてを固定か変動かに寄せるのではなく、組み合わせるのが現実的です。たとえば、長期保有の主力物件は固定、売却を視野に入れている物件は変動、というように、物件ごとの出口に合わせて選びます。借入の総額のうち、どれだけが金利上昇の影響を受けるかを把握しておくことが大切です。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る見落としやすい3つのコスト
1. 固定期間中の途中返済にかかる違約金
固定金利の借入を、固定期間の途中で返すと、違約金(清算金、期限前弁済手数料などと呼ばれます)がかかることがあります。銀行は固定で資金を手当てしているため、途中で返されると損失が出るからです。金額の決め方は契約によって違い、市場の金利が下がっているときほど高くなる仕組みのものもあります。
不動産投資では、売却して次の物件に入れ替えることが珍しくありません。固定期間と保有予定の期間がずれていると、売却益の一部を違約金で失うことになります。売却や借り換えの可能性がある物件は、契約前に違約金の計算方法と、試算の例を必ず確認してください。繰り上げ返済の判断は繰り上げ返済のメリット・デメリット、借り換えの注意点は借り換えのメリットと注意点で解説しています。
2. 固定期間が終わった後の金利
固定期間選択型は、期間が終わると、その時点の金利で選び直します。5年固定で借りて、5年後に金利が大きく上がっていれば、そこで返済額が一気に増えます。固定期間の終了は、金利上昇リスクを先送りしているだけともいえます。終了時の優遇幅(上乗せ幅の引き下げ)が引き継がれるかどうかも、契約で確認しておきたい点です。
3. 変動金利の「返済額が増えるタイミング」
住宅ローンの変動金利では、返済額の見直しを5年ごとに行い、見直し後の返済額を直前の1.25倍までに抑える仕組み(いわゆる5年ルール・125%ルール)が多く見られます。一方、事業性のアパートローンや法人向けの融資では、こうした仕組みがない契約も少なくありません。その場合、基準金利が上がると、次の見直し日から返済額がそのまま増えます。借入ごとに、基準金利、見直しの時期、返済額の決まり方を一覧にしておくと、金利の動きに慌てずに済みます。短期プライムレートが上がったときに、実際の借入の金利がいつ変わるかの確かめ方は、短期プライムレートが2.625%にで解説しています。
銀行は「金利の種類」より「金利上昇への耐性」を見る
銀行の審査で問われるのは、固定か変動かそのものではありません。金利が上がっても返済が続き、財務が傷まないかです。見られる主な指標は次のとおりです。
- ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ):利息の何倍の利益があるか。変動金利の借入が多いと、金利上昇で利息が増え、ICRが下がりやすい。計算方法はICRとは?不動産投資の融資で見られる指標で解説しています
- 債務償還年数:借入を何年で返せるか。著書のモデルでは「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内が健全、20年超は厳しい目安です。利息が増えて経常利益が減れば、年数は長くなります
- 返済比率・手残り:物件ごとの家賃収入に対する返済額の割合。金融機関によっては、実際の金利より高めの金利で返済余力を確かめることもあります
固定金利で借りていれば、金利が上がっても利息は増えず、これらの指標は守られます。その代わり、当初の金利が高い分、足元の経常利益は少し小さくなります。変動金利なら足元の利益は大きく見えますが、上昇局面では毎年少しずつ指標が悪化していきます。
私自身、2019年に複数の銀行から融資を止められたとき、問われたのは物件1つひとつの利回りではなく、債務超過になっていた財務全体でした。金利の選び方も同じで、1つの物件ではなく、借入全体と決算書でどう見えるかで考えることが、次の融資につながります。銀行が審査で何を見ているかは不動産投資ローンの審査基準もご覧ください。
個人と法人で違う点
| 項目 | 個人(不動産所得) | 法人 |
|---|---|---|
| 支払利息の扱い | 必要経費になる(元本の返済は経費にならない) | 損金になる(元本の返済は損金にならない) |
| 赤字のときの損益通算 | 不動産所得の赤字のうち、土地を取得するための借入の利子に相当する部分は、給与など他の所得と損益通算できない(租税特別措置法41条の4) | 損益通算の制限はない。赤字は繰越欠損金として翌期以降に繰り越せる(青色申告など一定の要件あり) |
| 金利上昇の影響が出る場所 | 確定申告の不動産所得、手残りのキャッシュ | 決算書の経常利益、ICR、債務償還年数、銀行の格付け |
| 金利の選び方で意識する点 | 手残りと、給与収入を含めた家計全体の返済余力 | 決算書の見え方と、次の融資の枠 |
個人の場合、金利が上がって不動産所得が赤字になっても、土地の取得に充てた借入の利子に相当する部分は、給与所得などとの損益通算ができません。「金利が上がっても、赤字なら所得税が減るから相殺される」とは考えないほうが安全です。
法人の場合は、利息の増加がそのまま決算書の経常利益を押し下げ、銀行の格付けに反映されます。複数の物件を法人で持ち、これからも買い進めたい方ほど、金利上昇で決算書がどう変わるかを、借入を組む前に試算しておくことをおすすめします。
まとめ
- 固定金利は返済額を確定させる「保険」で、当初の金利差がその保険料。変動金利は低い金利と引き換えに上昇リスクを負う
- 1億円・30年なら、金利1%の上昇で毎月約5万円の返済増。自分の物件で、金利が1〜2%上がったときの手残りを試算する
- 固定金利は、固定期間中の売却・借り換えで違約金がかかることがある。保有予定の期間と固定期間をそろえる
- アパートローンや法人の融資では、5年ルール・125%ルールがない契約も多い。見直しの時期と方法を契約書で確認する
- 銀行は金利の種類より、金利上昇へのICR・債務償還年数の耐性を見る。固定と変動を組み合わせ、借入全体で説明できるようにする
- 個人は土地取得の借入の利子に損益通算の制限がある。法人は経常利益と格付けへの影響を意識する
税理士法人クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、借入全体の金利の構成と、決算書の見え方の両面から、不動産投資家の資金計画をサポートしています。初回のご相談は無料です。不動産投資家向けサービスからお問い合わせください。
