「銀行の評価が、購入価格より3,000万円も低いと言われた」。不動産投資のご相談で、よく聞く話です。物件探しでは利回りに目が行きますが、融資の場面で金額を決めるのは、銀行が独自に計算する担保評価です。
担保評価の中心が、積算評価と収益還元評価です。名前は聞いたことがあっても、自分で計算したことがある方は多くありません。この記事では、積算評価と収益還元評価の計算方法を一棟マンションの試算例で示し、なぜ銀行ごとに結果が違うのか、評価が足りないときにどう考えるのかを整理します。
- 積算評価は「土地の値段+建物を今建て直した価格から古くなった分を引いた額」。担保として回収できるかの目安になる
- 収益還元評価は「物件の純収益÷還元利回り」。家賃で返せるかの目安になる
- 土地単価、建物の単価、還元利回り、掛け目は金融機関ごとに異なり、多くは公表されていない。同じ物件でも評価は変わる
- 評価が購入価格を下回ると、差額は自己資金で埋めるのが基本。価格交渉、別の金融機関、追加の担保も選択肢になる
- 買う前に2つの評価を自分で試算すると、どの金融機関に持ち込むべきかが見えてくる
積算評価と収益還元評価の違い
金融機関が不動産を見る目的は、大きく2つあります。万一返済が止まったときに担保を処分して回収できるかと、物件の家賃で返済が続けられるかです。この2つの問いに対応するのが、積算評価と収益還元評価です。
| 項目 | 積算評価 | 収益還元評価 |
|---|---|---|
| 確かめたいこと | 担保としての回収の見込み | 家賃による返済の余力 |
| 計算のもと | 土地の面積と単価、建物の面積と築年数 | 家賃収入、空室、経費、還元利回り |
| 評価が出やすい物件 | 土地が広い、郊外の一棟物件 | 都心で賃料が安定した物件 |
| 評価が出にくい物件 | 区分マンション、狭い土地の物件 | 空室が多い、経費率が高い物件 |
| 動きやすい要因 | 路線価などの地価、築年数 | 賃料の下落、金利や利回りの水準 |
考え方の土台は、国土交通省の不動産鑑定評価基準にある原価法と収益還元法です。原価法は、対象の不動産を今あらためて調達すると仮定した再調達原価から、古くなった分を差し引いて価格を求めます。収益還元法は、不動産が将来生み出す純収益から価格を求めます。
ただし、銀行の社内の評価は、鑑定評価そのものではありません。多くの場合、鑑定の考え方を簡略にした、金融機関ごとの計算式が使われます。計算の中身は公表されていないことがほとんどです。
審査全体の流れの中で物件の評価がどこに位置づけられるかは、不動産投資ローンの審査基準で解説しています。
積算評価の計算方法
土地の単価に使われるもの
土地の単価には、公的な評価がよく参考にされます。ただし、どれを使うかは金融機関によって異なります。
| 指標 | 公表する機関 | 水準の目安 |
|---|---|---|
| 公示価格 | 国土交通省 | 基準となる価格 |
| 路線価(相続税) | 国税庁 | 公示価格等を基にした価格の80%程度 |
| 固定資産税評価額(宅地) | 市区町村 | 公示価格等の7割を目途 |
路線価は国税庁の「財産評価基準書」で、固定資産税評価額は毎年届く課税明細書や評価証明書で確認できます。形の悪い土地や、道路付けが悪い土地、前面道路が狭い土地は、単価を割り引かれることがあります。また、再建築ができない土地や、容積率を超えている建物は、そもそも評価が大きく下がることがあります。
建物の評価と「残存年数」
建物は、まず同じ建物を今建てた場合の価格(再調達価格)を、延床面積×構造ごとの単価で計算します。この単価は金融機関ごとに定めており、公表されていないのが一般的です。
次に、古くなった分を差し引きます。実務でよく使われるのが、法定耐用年数を物件の寿命とみなし、残りの年数の割合を掛ける方法です。法定耐用年数は、住宅用で鉄筋コンクリート造47年、重量鉄骨造34年(骨格材の肉厚が4mm超の場合)、木造22年です。
法定耐用年数は税務上の決まりで、建物が実際に使えなくなる年数ではありません。それでも融資の場面で使われることが多いのは、物差しとして明快だからです。法定耐用年数を過ぎた建物は、積算評価がほとんど出ないことがあるのは、このためです。耐用年数と融資期間の関係は、融資期間と耐用年数で解説しています。
収益還元評価の計算方法
純収益は「満室の家賃」ではない
販売資料の「表面利回り」は、満室の年間家賃を物件価格で割ったものです。銀行は、ここから空室や経費を差し引いた純収益で考えます。運営経費には、管理費、修繕費、固定資産税・都市計画税、損害保険料、共用部の水道光熱費などが入ります。返済額や減価償却費は入れません。
銀行は、販売資料の数字をそのまま使うとは限りません。空室率を一定の水準に置き換えたり、相場より高い賃料を引き下げたりして、保守的に計算し直すのが一般的です。現在の賃料が新築時のままの部屋が多いと、退去後の賃料下落を見込まれることもあります。
還元利回りが1%違うと評価は大きく動く
還元利回りは、物件の収益からどのくらいの価格が妥当かを計るための率です。立地、築年数、構造、周辺の取引の利回りなどをもとに決まります。国土交通省の鑑定評価基準では、類似の不動産の取引利回りなどをもとに定める考え方が示されていますが、銀行の社内で使う利回りは公表されていません。
割り算の分母であるため、わずかな差が大きな差になります。純収益が1,350万円の物件なら、次のとおりです。
| 還元利回り | 収益還元評価 |
|---|---|
| 5% | 2億7,000万円 |
| 6% | 2億2,500万円 |
| 7% | 約1億9,300万円 |
なお、鑑定評価の収益還元法には、保有期間中の収益と売却価格を現在価値に割り戻すDCF法もあります。一般の投資家向けの融資では、上の表のような簡単な計算(直接還元法)を目安にするとよいでしょう。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る一棟マンションで試算してみる
具体的な数字で計算してみます。ここで使う単価、利回り、経費率はすべて説明用の仮の数字で、特定の金融機関の基準ではありません。
| 物件の前提(仮の例) | 内容 |
|---|---|
| 物件 | 鉄筋コンクリート造の一棟マンション(住宅用)、築17年 |
| 売出価格 | 2億4,000万円(表面利回り7.5%) |
| 土地 | 300㎡、路線価 20万円/㎡ |
| 建物 | 延床面積 600㎡、再調達の単価 30万円/㎡ |
| 満室の年間家賃 | 1,800万円 |
| 空室損と運営経費 | 家賃の25% |
| 還元利回り | 6% |
積算評価は次のとおりです。
- 土地:300㎡ × 20万円 = 6,000万円
- 建物:600㎡ × 30万円 × 30年 ÷ 47年 = 約1億1,490万円(残存年数は47年−17年=30年)
- 合計:約1億7,500万円
収益還元評価は次のとおりです。
- 純収益:1,800万円 × 75% = 1,350万円
- 評価:1,350万円 ÷ 6% = 2億2,500万円
| 金融機関の見方 | 評価額 | 売出価格との差 |
|---|---|---|
| 積算評価を重く見る | 約1億7,500万円 | 約6,500万円の不足 |
| 収益還元評価を重く見る | 2億2,500万円 | 1,500万円の不足 |
同じ物件でも、どちらを重く見るかで、足りない金額が5,000万円も変わります。さらに、銀行によっては評価額に掛け目を乗じたり、物件価格に対する融資割合の上限を設けたりします。購入時の諸費用も別に必要になるため、実際に用意する自己資金はこれより多くなるのが普通です。必要な自己資金の考え方は、不動産投資の自己資金はいくら必要かで解説しています。
この例の物件は土地が小さめで、都心寄りの物件に多い形です。逆に、郊外の広い土地に建つ築古の物件は、積算評価が高く収益還元評価が低いこともあります。区分マンションで積算評価が出にくい理由は、区分マンションと一棟物件の融資の違いをご覧ください。
銀行ごとに評価が変わる理由
同じ物件なのに評価が違うのは、計算の次の部分が金融機関ごとに違うからです。
- 土地の単価に何を使うか、掛け目をどの程度にするか
- 建物の再調達の単価、耐用年数の扱い
- 空室率、経費率、賃料の査定の厳しさ
- 還元利回りの水準
- 積算と収益のどちらを基準にするか、低いほうを採用するか
金融機関側から見れば、評価は「いくらなら回収できるか」という社内の判断です。営業地域の外の物件は評価を出さない、一定の築年数を超えると建物を見ない、といった方針を持つところもあります。だからこそ、1つの金融機関で評価が伸びなくても、別の金融機関では違う結果になることがあります。
ただし、手当たり次第に持ち込むのは効率がよくありません。積算評価と収益還元評価のどちらが強い物件かを自分で把握しておくと、相談先を絞りやすくなります。
なお、金融機関は、固定金利の期間が終わった後や金利が上がった場合も返済が回るかどうかを、評価とは別に確かめます。還元利回りとあわせて、金利が上昇したときの備えも試算しておきましょう。
担保評価と決算書の評価は別物
見落とされがちなのが、銀行の担保評価と、決算書に載る物件の金額は別物だという点です。決算書の建物の金額(簿価)は、減価償却によって毎年減っていきます。銀行の積算評価は法定耐用年数の残りで計算するのに対し、税務の償却は中古の耐用年数の短縮などによって、より速く進むことがあります。
担保評価が十分にあっても、決算書の上で資産より負債が多ければ、債務超過と判定されます。代表の相亰も2019年に、減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(簿価)よりも負債の金額のほうが大きい債務超過の状態になり、複数の銀行から融資を断られました。物件1棟の担保評価だけでなく、買った後の決算書がどう見えるかまで確かめておくことが大切です。債務超過の見られ方は債務超過と融資、賃貸業の決算書の見られ方は不動産投資家・賃貸業の法人の銀行格付けで解説しています。
評価が購入価格に届かないときの考え方
試算や銀行の回答で評価が足りないと分かったら、次の順に検討します。
| 対応 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自己資金で埋める | 差額を頭金として入れる | 手元資金が減りすぎると、次の融資や修繕に響く |
| 価格交渉 | 評価額を根拠に売主と交渉する | 人気の物件では通りにくい |
| 別の金融機関 | 評価の方法が違う先に相談する | 地域や物件の条件に合う先を選ぶ |
| 追加の担保 | 持っている別の不動産などを担保に入れる | 次の物件で使える担保が減る |
| 物件の見直し | 購入そのものを見送る | 評価が低い物件は、売るときの買い手の融資も付きにくい |
最後の点は特に重要です。自分が融資を受けにくい物件は、売却するときに次の買い手も融資を受けにくく、出口の価格を下げる原因になります。評価は、融資額を決めるだけでなく、その物件の将来の売りやすさを映す鏡でもあります。
買う前の確認の手順は、次のとおりです。
- 路線価、固定資産税評価額、登記簿で土地と建物の情報を集める
- レントロールで現在の賃料を確認し、相場の賃料に置き換えて純収益を計算する
- 積算評価と収益還元評価の両方を試算し、売出価格と比べる
- 購入後の貸借対照表、返済額、手元資金の変化を試算する
- 物件の強みに合った金融機関に相談する
評価を高く見せるために、売買契約書の金額を変える、レントロールを書き換える、といった行為は絶対に行ってはいけません。不正融資として、一括返済を求められるなど、取り返しのつかない結果を招くおそれがあります。
まとめ
- 積算評価は土地と建物の価値、収益還元評価は純収益を還元利回りで割った価値から見た評価
- 土地の単価には公示価格、路線価(公示価格等の80%程度)、固定資産税評価額(公示価格等の7割が目途)などが参考にされる
- 建物は再調達の単価と残存年数で計算されることが多く、法定耐用年数を過ぎると評価が出にくい
- 還元利回りが1%違うだけで、収益還元評価は大きく変わる
- 単価や利回り、掛け目は金融機関ごとに異なり、同じ物件でも評価は変わる
- 評価が足りないときは、自己資金、価格交渉、別の金融機関、追加の担保、物件の見直しを検討する
- 担保評価と決算書の簿価は別物。買った後の決算書も試算する
税理士法人クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、物件を買う前の決算書の試算から金融機関とのやり取りまでをサポートしています。金融機関出身のコンサルタントも所属しており、事務所として累計120億円超の融資承認、20行超の金融機関との折衝の実績があります。初回のご相談は無料です。不動産投資家・不動産事業者向けの支援からお問い合わせください。
