不動産投資を続けていると、物件ごと、金融機関ごと、時期ごとに資産管理会社が増えていくことがあります。3社、4社と増えると、決算・申告の費用、銀行への説明、資金の移動の手間が重くなり、「そろそろ会社をまとめたい」というご相談につながります。その方法の一つが資産管理会社どうしの合併です。
合併は、不動産を売買で移す場合と比べて、不動産取得税がかからず、適格合併なら含み益にも課税されないという大きな利点があります。一方で、適格合併の要件、繰越欠損金の引継ぎ制限、会計処理、借入先の銀行への説明など、事前に確認すべきことも多くあります。
この記事では、資産管理会社の合併について、税務上の扱い、企業会計上の扱い、銀行からの見え方の3つの観点から整理し、組織再編の行為計算否認に関する最高裁判決を紹介します。
- 同じオーナー(親族を含む)が100%持つ会社どうしの合併は、金銭等を交付せず、完全支配関係が続く見込みなら適格合併になるのが原則。資産は帳簿価額で引き継がれ、含み益に課税されない
- 被合併法人の繰越欠損金は適格合併なら原則引き継げるが、支配関係が5年前の日(または設立の日)から続いていないと制限がかかる場合がある
- 合併による不動産の取得は不動産取得税が非課税。登録免許税は1,000分の4
- 会計は「共通支配下の取引」として帳簿価額で引継ぎ。親会社が子会社を吸収するときは抱合せ株式消滅差損益の表示区分に注意
- 銀行はもともとグループを合算して見ている。合併前に全取引銀行に説明し、借入契約の条項と担保の扱いを確認する
資産管理会社を合併する理由と、ほかの方法との違い
資産管理会社の合併を検討する理由は、主に次のようなものです。
- 管理コストの削減:決算・申告、法人住民税の均等割、会計ソフト、口座の管理を1社にまとめる
- 損益の通算:赤字の会社と黒字の会社を1社にすれば、同じ会社の中で損益が相殺される
- 銀行への説明の簡素化:会社ごとに異なる決算書を説明するより、1社の決算書で規模と収益力を示せる
- 承継の準備:相続や事業承継の前に、株式を持つ会社の数を整理しておく
会社をまとめる方法は合併だけではありません。不動産を売買で一方の会社に移す方法、株式交換・株式移転で持株会社の下に集める方法もあります。主な違いは次のとおりです。
| 方法 | 不動産の名義 | 不動産取得税 | 含み益への課税 | 会社の数 |
|---|---|---|---|---|
| 合併(適格) | 合併法人へ移る | 非課税 | なし(帳簿価額で引継ぎ) | 減る |
| 売買 | 買主の会社へ移る | 課税 | 売主の会社に譲渡益課税 | 変わらない(売主の会社は残る) |
| 株式交換・株式移転(適格) | 動かない | なし | なし | 増えるか同じ(親会社の下に並ぶ) |
持株会社の下に集める方法は株式交換・株式移転で持株会社をつくる税務で、ホールディングス化の全体像は不動産会社のホールディングス化で解説しています。
個人の不動産は合併では移せない
合併は会社どうしの制度です。オーナー個人が持つ不動産を会社にまとめたい場合は、売買や現物出資によることになり、個人には譲渡所得、会社には不動産取得税や登録免許税がかかります。個人と法人では、損失の扱いも異なります。
| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 合併による統合 | できない(売買・現物出資で移す) | できる |
| 損失の繰越し | 青色申告の純損失は原則3年 | 青色申告の欠損金は10年(平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じたもの) |
| 赤字と黒字の相殺 | 同じ人の所得の間で損益通算(不動産所得の損失のうち土地の借入金利子の部分などは対象外) | 同じ会社の中なら相殺。別会社どうしは相殺できない(グループ通算制度を除く) |
個人から法人への物件の移し方は個人の物件を法人に移す税務をご覧ください。
税務上の扱い①:適格合併の要件
法人税では、合併は原則として、被合併法人(消える会社)が資産・負債を時価で合併法人に譲渡したものとして扱われます。ただし、一定の要件を満たす適格合併であれば、資産・負債は帳簿価額で引き継がれ、含み益に課税されません。
資産管理会社の合併で関係するのは、主に次の2つの類型です。
| 類型 | 合併直前の関係 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 完全支配関係がある法人間 | 一方が他方の株式を100%持つ、または同一の者が両社の株式を100%持つ | ①合併法人の株式以外の資産(金銭など)を交付しない、②(同一の者が100%持つ場合)合併後もその完全支配関係が継続する見込み |
| 支配関係がある法人間 | 50%超100%未満の関係 | 上記の①②(支配関係の継続)に加え、③被合併法人の従業者のおおむね80%以上が合併後も業務に従事する見込み、④被合併法人の主要な事業が合併後も継続する見込み |
ポイントは次の3つです。
- 「同一の者」には個人も含まれる:オーナー個人とその親族などの特殊関係者が持つ株式を合わせて判定する。兄弟会社どうしの合併でも、オーナー一族で両社を100%持っていれば完全支配関係になり得る
- 支配関係(50%超100%未満)の場合は従業者・事業の要件がある:従業員がいない、または少ない資産管理会社では、要件を満たすかの検討が必要になる。完全支配関係のほうが判定は単純
- 合併後の株式の動きに注意:合併後にオーナーが株式を譲渡・贈与する予定があると、継続見込みの要件に影響することがある。承継の計画とあわせて順番を決める
非適格合併になると、被合併法人の資産を時価で譲渡したものとして、最後の事業年度で含み益に課税されます。築年数の経った物件で帳簿価額が低くなっていると、含み益が大きくなりがちです。また、非適格合併では株主にみなし配当の課税が生じることもあります。100%グループ内の取引には、グループ法人税制による譲渡損益の繰延べの仕組みもあるため、非適格になる場合の影響は個別に試算してください。
なお、合併は包括承継で、消費税の課税対象となる資産の譲渡には当たりません。ただし、合併後の消費税の納税義務の判定には合併特有の規定があるため、免税事業者・課税事業者の別や簡易課税の選択とあわせて確認が必要です。
税務上の扱い②:繰越欠損金の引継ぎ制限
資産管理会社の合併でよく問題になるのが、被合併法人の繰越欠損金です。適格合併であれば、被合併法人の未処理の欠損金は原則として合併法人に引き継がれます。しかし、欠損金を目当てにした合併を防ぐため、次の制限があります。
- 合併法人と被合併法人の間の支配関係が、合併の日を含む事業年度の開始の日の5年前の日から継続している場合は、制限なし
- 5年前の日より後に設立された会社でも、設立の日から継続して支配関係がある場合は、制限なし
- 上記に当たらない場合でも、みなし共同事業要件(事業の関連性、事業規模の比率、特定役員の引継ぎなど)を満たせば、制限なし
- いずれにも当たらないと、支配関係が生じる前の事業年度に生じた欠損金などが引き継げなくなる。合併法人自身の欠損金や、含み損のある資産の譲渡損失にも、同様の制限がかかる
オーナー個人が株主の会社どうしでも、同一の者による支配関係が続いているかで判定します。国税庁の名古屋国税局は、個人の株主が株式を持つ法人どうしの合併で、株式の保有関係が途中で変わっていた事案について、支配関係の継続により引継ぎ制限の判定を行った文書回答事例を公表しています(名古屋国税局 文書回答事例「株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて」)。株式の保有関係に変更がある場合は、こうした事例も参考に、いつから支配関係があったかを丁寧に確認します。
繰越欠損金と物件売却益の関係は繰越欠損金と売却益で解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る不動産取得税・登録免許税
合併では被合併法人の不動産の名義が合併法人に移りますが、売買とは扱いが大きく異なります。
| 税目 | 合併による取得 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 不動産取得税 | 非課税 | 地方税法73条の7第2号(法人の合併による不動産の取得) |
| 登録免許税(土地・建物の所有権移転) | 不動産の価額の1,000分の4 | 課税標準は原則として固定資産課税台帳の価格(国税庁 No.7191 登録免許税の税額表、令和8年4月1日現在) |
| 消費税 | 課税対象外 | 包括承継のため資産の譲渡に当たらない |
不動産取得税の非課税は、適格・非適格を問わず「法人の合併」による取得に適用されます。会社分割の場合は、一定の要件を満たす分割に限って非課税になる点が合併と異なります。抵当権の移転登記なども必要になるため、司法書士に登記費用の見積りを取っておきましょう。
判例:組織再編の行為計算否認(最高裁平成28年2月29日判決)
合併による欠損金の引継ぎをめぐっては、組織再編に係る行為計算否認(法人税法132条の2)を扱った最高裁判決が2件、同じ日に出ています。
| 項目 | いわゆるヤフー事件 | いわゆるIDCF事件 |
|---|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 | 最高裁判所第二小法廷 |
| 判決日 | 平成28年2月29日 | 平成28年2月29日 |
| 事件番号 | 平成27年(行ヒ)第75号 | 平成27年(行ヒ)第177号 |
| 掲載 | 民集70巻2号242頁 | 民集70巻2号470頁 |
| 結果 | 棄却(納税者の上告を退ける) | 棄却(納税者の上告を退ける) |
| 一次情報 | 裁判所 裁判例結果詳細 | 裁判所 裁判例結果詳細 |
- ヤフー事件の事案:会社が他社の発行済株式の全部を買収して完全子会社にしたうえで吸収合併し、子会社の多額の未処理欠損金額を引き継いだ。買収前に親会社の代表取締役社長が子会社の取締役副社長に就任しており、これにより欠損金の引継ぎ制限を外す要件(特定役員の継続)を満たすとされていた
- IDCF事件の事案:新設分割で設立した会社の株式を、分割した会社が譲渡する計画のもとで行われた分割について、同条の適用が争われた
- 判断:「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、組織再編税制の規定を租税回避の手段として濫用して法人税の負担を減少させるものをいう。濫用かどうかは、通常は想定されない手順や方法、実態とかけ離れた形式など不自然なものか、税負担の減少以外に合理的な事業目的などがあるか、といった事情を考慮して判断する。いずれの事案でも同条の適用が認められた
実務への示唆:この2件は上場会社グループの大型の再編ですが、示された考え方は中小の資産管理会社の合併にも関わります。要件を形式的に満たすことだけを目的に、合併の直前に役員を送り込む、株式を一時的に移す、といった手順は避けるべきです。管理コストの削減、銀行への説明の一本化、承継の準備など、合併の事業上の目的を説明できること、手順が自然であることが大切です。ただし、この判決によって欠損金のある会社との合併がすべて否認されるわけではありません。個別の事実関係で判断されます。
会計上の扱いと表示
企業会計は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従って処理します(会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」、法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」)。合併は、企業会計基準委員会の「企業結合に関する会計基準」と適用指針の対象です。
- 共通支配下の取引:同じオーナーが支配する会社どうしの合併は、一般に共通支配下の取引として扱われ、資産・負債は時価に評価替えせず、適正な帳簿価額で引き継ぐ
- 親会社が子会社を吸収するとき:親会社が持っていた子会社株式の帳簿価額と、引き継ぐ純資産の差額は、抱合せ株式消滅差損益として処理される。この差損益は、営業利益や経常利益ではなく特別損益の区分で表示するのが原則とされている
- 税務との違い:税務では、適格合併の抱合せ株式に係る差額は損益にならず、資本金等の額・利益積立金額の調整で処理される。会計上は特別損益が出ても、法人税の所得には影響しない
表示区分は銀行の評価にも直結します。著書では「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介していますが、これは決算書の表示区分の話です。抱合せ株式消滅差損が出る場合、どの区分に表示するかは企業会計の基準に沿って判断するもので、取引の実態次第です。税務上の損金算入の問題とは切り分けて、顧問税理士・会計の専門家と事前に検討してください。
銀行からの見え方
- もともとグループで合算されている:銀行は、同じオーナーの会社を合算して見ていることが多い。合併しても、グループ全体の収益力や債務の額そのものは変わらない(銀行はグループ会社を合算して見る)
- 純資産の見え方が変わる:債務超過の会社を吸収すると、合併後の1社の純資産は小さくなる。逆に、黒字の会社に吸収させて赤字が相殺されれば、合併後の利益は安定して見える。合併後の貸借対照表を事前に試算しておく
- 債務償還年数:繰越欠損金を引き継げれば、合併後の法人税等の負担が軽くなり、著書のモデルでいう債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)が改善する場合がある。ただし、欠損金の利用を目的にした合併ではなく、事業上の目的があることが前提
- 借入契約と担保:合併で被合併法人の借入金は合併法人に包括的に承継されるが、多くの借入契約には合併を事前に通知・承諾を得る条項がある。会社法上の債権者保護手続(官報公告と、知れている債権者への個別の催告。異議を述べる期間は1か月以上)も必要になる。複数の銀行が別々の会社に貸している場合は、担保(根抵当権を含む)の扱いも確認する
- 格付けの指標:著書のモデル(129点満点。安全性・収益性・成長性・返済能力)では、合併後の1社の決算書で各指標が評価される。合併の初年度は比較の前期がないため、合併前の各社の合算数値を説明資料として用意しておくと伝わりやすい
クレフティでは、事務所としてホールディングス化や組織再編を支援してきた経験をもとに、税務の判定から銀行への説明まで一体でお手伝いしています。
実務のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 管理コストの削減、銀行への説明の一本化、承継の準備など、事業上の目的を説明できるか |
| 適格判定 | 完全支配関係か支配関係か。同一の者(親族を含む)の持株を正しく集計したか |
| 対価 | 合併法人株式のみか。無対価合併とする場合は、株主構成が適格になり得る関係にあるか |
| 継続見込み | 合併後に株式の譲渡・贈与・第三者割当の予定はないか |
| 繰越欠損金 | 支配関係が5年前の日(または設立の日)から続いているか。続いていない場合、引継ぎ制限の対象額を試算したか |
| 含み損のある資産 | 合併後に売却予定の物件で、譲渡損失の制限の対象にならないか |
| 登録免許税・登記 | 所有権移転登記(1,000分の4)、抵当権の移転登記などの費用を見積もったか |
| 消費税 | 合併後の納税義務の判定、簡易課税の選択を確認したか |
| 会計 | 共通支配下の取引としての処理、抱合せ株式消滅差損益の表示 |
| 銀行 | 借入契約の通知・承諾条項、担保の扱いを確認し、全取引銀行に事前説明したか |
| 会社法の手続 | 合併契約、株主総会の承認、債権者保護手続、登記のスケジュールを組んだか |
まとめ
- 資産管理会社どうしの合併は、同一の者による完全支配関係があり、金銭等を交付しなければ適格合併になるのが原則。資産は帳簿価額で引き継がれる
- 繰越欠損金は、支配関係が5年前の日(または設立の日)から続いていなければ、引継ぎが制限されることがある
- 合併による不動産の取得は不動産取得税が非課税、登録免許税は1,000分の4
- 最高裁平成28年2月29日判決(ヤフー事件・IDCF事件)は、組織再編税制を濫用した不自然な手順を否認した。事業上の目的と自然な手順が大切
- 会計は帳簿価額で引継ぎ。表示区分は企業会計の基準に沿って判断し、銀行には合併前の合算数値と合併後の試算で説明する
資産管理会社の整理や組織再編、銀行への説明にお悩みの方は、不動産投資家向けのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
