1口100万円前後から都心の一棟ビルや商業施設に出資できる不動産小口化商品。相続対策や分散投資の手段として、不動産投資家だけでなく会社経営者からのご相談も増えています。なかでも多いのが、民法上の組合契約を使った任意組合型の商品です。
ここで誤解されやすいのが、税金の扱いです。「不動産所得になるので、初年度の赤字は給与所得と損益通算できる」と考えて出資したところ、確定申告の段階で赤字はなかったものとされると知る、というケースがあります。この記事では、任意組合型の不動産小口化商品の損失について、税務上の扱い(個人と法人の違い)、会計上の扱い、銀行からの見え方、実務のチェックポイントを、不動産事業者向けに整理します。
- 任意組合型の商品は、組合事業の利益・損失が出資者に直接帰属する(構成員課税)。個人の出資者には、原則として不動産所得として課税される
- ただし、組合事業の重要な業務の執行の決定に関与し、契約交渉などの重要な部分を自ら執行する組合員でなければ「特定組合員」となり、組合事業から生じた不動産所得の損失は生じなかったものとみなされる(租税特別措置法41条の4の2)
- 給与所得との損益通算だけでなく、自分の賃貸物件の黒字や、別の組合事業の黒字との通算もできない。純損失の繰越しもない
- 判定と計算は組合契約ごと。確定申告では組合事業ごとの収支の明細書を添付する
- 法人で出資する場合も、組合事業の損失の損金算入を制限する規定(同法67条の12)がある。会計上は持分相当額を出資金として計上し、銀行は「流動性の低い投資」として見ることが多い
不動産小口化商品の3つの型と、税金の扱いの違い
不動産小口化商品には、主に次の型があります。どの型かで、出資者の所得の種類が変わります。
| 型 | 出資者の立場 | 個人の所得区分(原則) | 損益通算 |
|---|---|---|---|
| 任意組合型 | 民法上の組合員として、不動産を共有持分の形で実質的に保有 | 不動産所得 | 特定組合員なら損失はなかったものとみなされる |
| 匿名組合型 | 営業者に出資し、利益の分配を受ける(不動産は営業者のもの) | 原則として雑所得 | 雑所得の損失は他の所得と通算できない |
| 賃貸型(共有持分を直接取得して賃貸) | 不動産の共有者として、自ら賃貸する | 不動産所得 | 一般の不動産所得と同じ(土地等の借入金利子などの制限はある) |
任意組合型は、組合の財産が組合員の共有になり、相続のときに不動産として評価される点が特徴で、相続対策として紹介されることが多い商品です。一方、出資者の多くは、物件の運営を「理事長」などの業務執行組合員(多くは事業者)に任せます。この「運営を任せている」という点が、損失の扱いを大きく変えます。
なお、相続税の評価については、国税庁が貸付用不動産の評価に関する通達案を意見公募に付しており、小口化された貸付用不動産も対象に含まれています。経緯はタワーマンション節税の最高裁判決と通達案で整理しています。
税務上の扱い(個人):特定組合員の損失はなかったものとみなされる
特定組合員とは
租税特別措置法41条の4の2は、平成17年度税制改正で設けられた規定です。国税庁のタックスアンサー(No.1391)の整理では、次の個人が対象です。
- 民法組合等の特定組合員:個人の組合員のうち、組合事業の重要な業務の執行の決定に関与し、かつ、その業務のうち契約を締結するための交渉などの重要な部分を自ら執行する組合員以外の者
- 信託の受益者である個人(信託から生じた不動産所得の損失)
ここでいう重要な業務とは、組合事業の重要な財産の処分・譲受けや、多額の借財に関する業務です(租税特別措置法施行令26条の6の2)。つまり、物件の売買や借入れの意思決定に関与し、その交渉まで自分で行っていない限り、特定組合員になります。一般的な小口化商品の出資者は、物件の取得・売却・借入れを事業者に任せているので、ほとんどの出資者が特定組合員に当たると考えてよいでしょう。
国税庁の通達の解説(措置法通達41の4の2-4)では、特定組合員に当たらないためには、組合員になった日以後のすべての重要業務について、執行の決定に関与し、重要な部分を自ら執行していることが必要とされています。一度でも関与しなかった場合は要件を満たさないとされている点にも注意が必要です。
「なかったものとみなす」の意味
特定組合員の組合事業から生じた不動産所得の損失は、所得税の計算上、生じなかったものとみなされます。具体的には、次のすべてができません。
- 給与所得・事業所得など、他の所得との損益通算
- 自分で保有している賃貸物件の不動産所得の黒字との相殺(所得内の通算)
- 別の組合事業の不動産所得の黒字との相殺
- 純損失の繰越し(そもそも損失がなかったことになるため)
国税庁の通達(措置法通達41の4の2-1)では、複数の組合契約がある場合、特定組合員に当たるかどうかの判定と不動産所得の計算は組合契約ごとに行うとされています。黒字の組合事業はそのまま課税され、赤字の組合事業は切り捨てられる、という非対称な結果になります。
「初年度は取得費用や減価償却で赤字になるので、給与所得と通算して税金が戻る」という説明は、任意組合型の特定組合員には当てはまりません。赤字はなかったものとされ、2年目以降に黒字になった年だけが課税されます。
確定申告で必要になるもの
組合事業や信託から不動産所得が生じる人は、確定申告書に、組合事業ごと・信託ごとの収支に関する明細書を添付する必要があります(タックスアンサーNo.1391)。また、国税庁の通達では、損益計算書や収支内訳書は、組合事業に係る業務と、それ以外の不動産所得の業務とで区分して作成するとされています。
自分の賃貸物件と小口化商品をまとめて1枚の収支内訳書に入れてしまうと、損失の通算が混ざり、申告誤りの原因になります。
組合の損益をどう取り込むか
組合事業の損益は、組合の損益のうち分配割合に応じた金額が各組合員に帰属します(所得税基本通達36・37共-19)。取り込み方については、所得税基本通達36・37共-20で、組合の収入・費用・資産・負債を持分に応じて取り込む方法を原則としつつ、継続適用などを条件に簡便な方法も示されています。どの方法を採っても、特定組合員の損失が切り捨てられる点は変わりません。
法人と個人の違い:法人で出資する場合
「個人で赤字が通算できないなら、資産管理会社で出資すればよいのでは」と考える方もいます。しかし、法人にも組合事業の損失を制限する規定があります。
| 項目 | 個人の組合員 | 法人の組合員 |
|---|---|---|
| 根拠 | 租税特別措置法41条の4の2 | 租税特別措置法67条の12 |
| 対象 | 特定組合員(重要業務の決定に関与し、重要な部分を自ら執行する者以外) | 業務執行に関与しない組合員で、責任の範囲が実質的に限られている場合など |
| 損失の扱い | 組合事業の不動産所得の損失は全額なかったものとみなす | 出資額を基礎とした金額(調整出資金額)を超える部分などが損金不算入 |
| 他の所得との関係 | 他の所得とも、他の不動産所得とも通算不可 | 損金算入できる範囲の損失は、法人の他の所得と合算される |
| 申告書 | 組合事業ごとの収支の明細書を添付 | 別表九(二)で組合事業ごとに計算 |
法人の規定は、個人のように「損失は全額なし」という仕組みではなく、出資額を超えるような損失の取込みを制限するものです。ただし、組合事業が明らかに欠損とならないと見込まれるかどうか、損失補てんの契約があるかなどで適用の判断が分かれます(措置法通達67の12-4など)。法人での出資を検討する場合は、商品の契約書の段階で、規定の当てはまりを確認してください。
個人と法人のどちらで不動産を持つかという全体の考え方は、不動産投資の税金は個人と法人でどう違うかも参考にしてください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと表示
税務上の取扱いと、決算書の表示は別の話です。法人が任意組合に出資した場合、企業会計では、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って処理します。会社法431条は、株式会社の会計は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うと定めており、法人税法22条4項も、収益・費用の額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するとしています。
日本公認会計士協会の「金融商品会計に関する実務指針」では、組合等への出資は、原則として組合の財産の持分相当額を出資金として計上し、組合の営業で得た損益の持分相当額を当期の損益として計上する考え方が示されています。決算書上の表示としては、次のようになるのが一般的です。
- 貸借対照表:「出資金」「投資有価証券」などとして、投資その他の資産に表示
- 損益計算書:本業が不動産賃貸業でない会社では、組合からの損益は営業外収益・営業外費用に表示されることが多い。本業との関係や重要性によって表示が変わることもある
税務上、損金不算入となった損失があっても、会計上は持分相当の損失を計上し、法人税申告書の別表で加算する、という形になります。会計上の損益と税務上の所得がずれるので、翌期以降の申告で切り捨て・繰越しの管理を正確に行う必要があります。どの区分に表示するかは、取引の実態と会計基準に沿って判断するものなので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
不動産小口化商品は、銀行からは次のように見られることが多いです。
個人で出資している場合
住宅ローンやアパートローンの審査では、確定申告書の所得が基本になります。小口化商品の赤字は損益通算に使えないので、申告上の所得は赤字の分だけ小さくならない一方、手元の現金は出資で減っています。銀行は、預金残高や金融資産の明細を見て、「流動性のある資産がどれだけ残っているか」を確認します。小口化商品は、中途解約や譲渡に制限がある商品も多く、現預金と同じようには評価されないのが通常です。
法人で出資している場合
銀行は、決算書の「出資金」「投資有価証券」を、実態の価値と換金のしやすさで見直して評価することがあります(実態バランスシート)。持分の時価が分からない、譲渡に制限があるといった商品は、評価が保守的になりがちです。
また、組合からの損益が営業外に入ると、営業利益や償却前利益の改善にはつながりにくい一方、借入金で出資した場合は、債務償還年数の分子(借入金−現預金)が増えます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。小口化商品への出資が、この年数や自己資本比率にどう効くかを、出資の前に試算しておくことをおすすめします。
公表裁決事例・判例について
この記事の執筆時点で、国税不服審判所の公表裁決事例や裁判所の裁判例検索から、租税特別措置法41条の4の2の「特定組合員」の判定を主な争点とする事例を確認できなかったため、事例の紹介は控えます。判定の考え方は、国税庁が公表している通達の解説(個人課税課情報 第2号(平成18年1月27日))が参考になります。
損益通算の制限全体(土地等の借入金利子、国外中古建物など)と、関連する公表裁決事例は、不動産所得の赤字と給与所得の損益通算で整理しています。国外中古建物の制限については国外中古建物の損失制限をご覧ください。
実務のチェックポイント
| タイミング | 確認すること |
|---|---|
| 出資前 | 商品が任意組合型か、匿名組合型か、賃貸型か。契約書で、重要業務の決定と執行を誰が行うかを確認する |
| 出資前 | 初年度の赤字を前提にした「税金が戻る」という説明を受けていないか。特定組合員なら損失は切り捨てられる |
| 出資前(法人) | 租税特別措置法67条の12の当てはまり。損失補てんや責任限度の条項の有無 |
| 申告時 | 組合事業ごとに収支を区分し、明細書を添付しているか。自分の賃貸物件の収支と混ぜていないか |
| 申告時 | 黒字の組合事業はそのまま課税、赤字の組合事業は切り捨て、という計算になっているか |
| 決算時(法人) | 会計上の持分相当の損益と、税務上の損金不算入額の差を別表で管理しているか |
| 融資の場面 | 出資金の評価(時価・換金性)と、借入金で出資した場合の債務償還年数への影響を説明できるか |
まとめ
任意組合型の不動産小口化商品は、少額で優良な不動産に出資でき、相続対策の面でも注目されている商品です。ただし、税金の扱いには独特のルールがあります。
- 業務執行に関与しない一般的な出資者は特定組合員に当たり、組合事業の不動産所得の損失は生じなかったものとみなされる
- 給与所得との損益通算も、自分の賃貸物件の黒字との相殺も、別の組合事業との相殺もできない。判定と計算は組合契約ごと
- 法人で出資しても、租税特別措置法67条の12による制限がある
- 会計上は持分相当額を出資金として計上し、税務とのずれを申告書で管理する。銀行からは「換金しにくい投資」として保守的に見られやすい
税理士法人クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、不動産投資を「税金」だけでなく「決算書と銀行の評価」まで含めて設計するお手伝いをしています。小口化商品を含めた資産の持ち方や、出資前の契約書の確認もご相談ください。初回のご相談は無料です。
※この記事は2026年10月時点の法令・国税庁の公表資料にもとづいています。個別の商品の扱いは契約内容によって異なるため、出資の前に税理士にご確認ください。
