日本経済新聞(2026年10月31日朝刊)が、総務省が、国内で不動産賃貸業や駐車場業を営む海外居住者の所得に個人事業税を課す方向で検討に入ったと報じました。政府・与党の2027年度税制改正大綱への反映をめざすとされています。
海外赴任中に自宅以外の賃貸物件を持ち続けている方や、賃貸物件を相続した海外在住のご家族がいる方に関わる話です。対象の件数は多くないと報じられていますが、制度の空白が埋まる方向の動きです。この記事では、まだ検討段階であることを前提に、今の仕組み、対象になる規模の目安、税額の計算、今のうちに確認しておくことを整理します。
- 総務省は、国内で不動産賃貸業・駐車場業を営む海外居住者に個人事業税を課す方向で検討に入った。2027年度税制改正大綱への反映をめざす(日本経済新聞)
- 今は国内に事務所や住所がある人にしか課税できず、海外に転居した日本人や国外に住む相続人も課税されていない
- 所得税は、海外に住んでいても国内の不動産所得に課税されている。今回の検討は、国税と地方税の差を埋めるもの
- 対象の目安は東京都の基準で住宅10室以上など。税額は(所得−事業主控除290万円)×5%が基本で、青色申告特別控除は使えない
- まだ決定ではない。今やっておくのは、該当しそうな規模かの確認と、手取りの試算
報道で示された内容
記事では、次のような内容が紹介されています。
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 検討の内容 | 国内で不動産賃貸業や駐車場業を営む海外居住者の所得に課税する方向。個人事業税の海外居住者への適用を検討 |
| めざす時期 | 政府・与党の2027年度税制改正大綱への反映 |
| 今の扱い | 国内に事務所や住所がある場合に限って都道府県が課税。海外居住者への課税権はない |
| 背景 | 所得税では海外居住者の国内不動産所得も課税対象で、国税と地方税で扱いに差がある |
| 今課税されていない例 | 海外に住む外国人の貸付けのほか、国内で課税されていた日本人の海外転居、相続人の国外居住 |
| 影響の規模 | 都市部の都道府県によるサンプル調査で、年間50〜60件程度が新たに対象になる可能性 |
| 今後の論点 | 複数の都道府県に不動産を所有する場合の対応など |
| 税収などの規模 | 2024年度の個人事業税収は2,405億円、課税された人は111万人。うち不動産賃貸業31万7,262人、駐車場業1万1,736人 |
出典:日本経済新聞「海外居住者の国内不動産、賃貸事業に課税 公平性確保へ総務省検討」(2026年10月31日)。
これは総務省の検討の段階の報道です。課税の開始時期や具体的な要件は、大綱と法改正を待つ必要があります。この記事の「対象の目安」は、今の国内居住者向けの基準をもとにした説明で、海外居住者に同じ基準が使われると決まったものではありません。
なぜ今は課税されていないのか
個人事業税は、事務所や事業所のある都道府県が課税する税金です。東京都も、都内に事務所や事業所を設けて法定業種の事業を行う個人を課税の対象と説明しています。
国内に住む大家さんは、賃貸専用の事務所がなくても、住所を事務所とみなして課税できます。一方、国内に事務所も住所もない人には、課税の根拠になる場所がありません。これが、今回の検討の出発点です。
税の種類ごとに整理すると、次のようになります。
| 税の種類 | 国内の不動産を貸す海外居住者への課税 |
|---|---|
| 所得税(国税) | 課税される。国内の不動産所得は国内源泉所得で、原則として確定申告が必要 |
| 家賃の源泉徴収 | 借主が法人や事業者などの場合、原則20.42%を差し引いて支払う(個人が自己や親族の居住用に借りる場合は不要) |
| 個人事業税(都道府県) | 国内に事務所や住所がなければ、今は課税されない。ここが検討の対象 |
国税庁のタックスアンサーNo.1926では、1年以上の予定で海外に転勤すると、国内に住所がない人と推定されて非居住者として扱われると説明しています。確定申告には納税管理人を定める必要があり、源泉徴収された税額は確定申告で精算します。詳しくは非居住者から借りる・買うときの源泉徴収と海外移住と税金で解説しています。
なお、「海外に住んでいる」ことと「国内に事務所や住所がない」ことは同じではありません。国内に事務所にあたる場所を持っていれば、今でも課税の対象になります。
対象になる規模の目安と税額の計算
東京都の認定基準
個人事業税の対象になる不動産貸付業・駐車場業の基準は、都道府県が定めています。東京都の基準は次のとおりです。
| 区分 | 東京都の認定基準 |
|---|---|
| 建物(住宅)・一戸建 | 10棟以上 |
| 建物(住宅)・一戸建以外 | 10室以上 |
| 建物(住宅以外)・独立家屋 | 5棟以上 |
| 建物(住宅以外)・独立家屋以外 | 10室以上 |
| 土地(住宅用) | 契約件数10件以上、または貸付総面積2,000㎡以上 |
| 土地(住宅用以外) | 契約件数10件以上 |
| 複数の種類を持つ場合 | 上の基準を合計して10以上(東京都の基準の数え方による) |
| 規模が大きい建物 | 貸付用建物の総床面積600㎡以上、かつ年間賃貸料収入1,000万円以上 |
| 駐車場業 | 駐車可能台数10台以上(建築物・機械式などは別の基準) |
出典:東京都主税局「個人事業税」。基準はひとつの目安で、実態を総合的に見て判断されます。
所得税の「5棟10室」と似ていますが、別の制度です。空室も室数に数えるなど独自の数え方があります。詳しくは大家の個人事業税をご覧ください。
税額の計算
東京都の説明では、不動産貸付業・駐車場業は第1種事業で税率5%、事業主控除は年290万円です。青色申告特別控除は使えないため、所得税の計算で差し引いた分は足し戻します。
| 青色申告特別控除前の不動産所得 | 税額の計算 | 年間の税額 |
|---|---|---|
| 300万円 | (300万円−290万円)×5% | 5,000円 |
| 600万円 | (600万円−290万円)×5% | 15万5,000円 |
| 1,000万円 | (1,000万円−290万円)×5% | 35万5,000円 |
実際の税額は、ほかの所得や専従者給与などで変わります。報道も「おおむね5%」としています。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る影響を受けそうな人
ここからは、税理士・公認会計士としての考えです。検討の内容が報道どおりに進むとすれば、影響を受けそうなのは次の方々です。
| 立場 | 確認しておきたいこと |
|---|---|
| 海外赴任中に賃貸物件を持つ会社員 | 室数が基準に届くか。帰任後は住所地で課税される場合があるため、前後の年の扱いも確認する |
| 海外に移住した個人の大家さん | 物件の所在地が複数の都道府県にまたがるか。誰が税金の手続きを担うか |
| 賃貸物件を相続した国外在住の相続人 | 共有で相続した場合の数え方、管理会社と納税管理人の体制 |
| 海外に住む外国人の個人オーナー | 所得税の申告・納税の体制が整っているか |
| 法人で保有している人 | 個人事業税の話ではない。法人には別に法人事業税の仕組みがある(個人と法人の税金の違い) |
特に見落とされやすいのは、相続です。親が国内で個人事業税を納めていた賃貸物件を、海外に住むお子さんが相続すると、今は個人事業税がかからなくなる場合があります。報道でも、こうした例が今の制度で課税されていないものとして挙げられています。相続後の収支の見通しを立てるときは、この前提が変わる可能性を織り込んでおきたいところです。
銀行から見た影響と、今やっておくこと
個人事業税は、所得税の計算では必要経費になります。上の表の金額であれば、賃貸経営の損益を大きく変えるほどではありません。ただし、銀行が見るのは税引き後に返済へ回せるお金です。毎年かかる税金が増えれば、その分だけ返済の余力は減ります。金利が上がる局面では、小さな負担の積み重ねが返済比率に効いてきます。
もうひとつ気をつけたいのは、納税の管理です。海外に住んでいると、納税通知を受け取れずに滞納になる心配があります。地方税にも納税管理人の仕組みがありますが、海外居住者への個人事業税でどう運用されるかはまだ分かりません。滞納は、借換えや新規融資の場面で納税証明書を求められたときに問題になります。そもそも非居住者になると、個人名義の新規融資はほとんどの金融機関で受けにくくなります(海外移住すると不動産投資の融資はどうなる?)。
今のうちにやっておくとよいのは、次の4つです。
- 規模の確認:室数・棟数・駐車台数を物件の所在地ごとに一覧にし、都道府県の基準に照らす
- 手取りの試算:個人事業税が課税された場合の年間の税額を計算し、返済後の手残りを確認する
- 国内の窓口を決める:納税管理人、管理会社、税理士など、通知を受け取り納税を担う人を決めておく
- 所得税の手続きの見直し:確定申告、納税管理人の届出、家賃の源泉徴収が適切に行われているかを確認する
保有の形を法人に切り替えるかどうかは、個人事業税だけで決める話ではありません。移転にかかる税金や融資の条件、相続の見通しまで含めて判断するのが現実的です。
今後も注意して見ていきたいこと
- 2027年度税制改正大綱:海外居住者への課税が盛り込まれるか、適用の開始時期はいつか
- 課税する都道府県の決め方:事務所も住所もない人について、どの都道府県が課税するのか。複数の都道府県に物件がある場合の扱い
- 認定基準の扱い:国内居住者と同じ基準で判定するのか
- 徴収の方法:納税管理人の扱いや、海外への通知の方法
- 実質的支配者の届出制度:法人を通じた保有についても、海外居住者を含めた把握が進む流れにある(実質的支配者の届出、全法人に義務化へ)
まとめ
- 総務省は、国内で不動産賃貸業・駐車場業を営む海外居住者に個人事業税を課す方向で検討に入り、2027年度税制改正大綱への反映をめざす
- 今は国内に事務所や住所がない人には課税されず、海外に転居した日本人や国外に住む相続人も課税されていない
- 所得税は今も課税されており、今回の検討は国税と地方税の差を埋めるもの
- 東京都の基準では住宅10室以上などが目安。税額は(所得−290万円)×5%が基本で、青色申告特別控除は使えない
- まだ検討の段階。規模の確認、手取りの試算、国内の窓口づくりを先に進めておく
海外赴任中や海外移住後の賃貸経営について、税金の手続きや融資への影響を確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
