政府が2026年10月23日、上場企業等を除くすべての内国法人に「実質的支配者」の情報の把握と届出を義務付ける法案を閣議決定し、国会に提出しました。税のしるべ(2026年11月2日号)、週刊税務通信(同日号)、日本経済新聞(2026年10月23日)が報じています。
10月に取り上げた時点では、どの法人に何を求めるのかは示されていませんでした。今回、法案の条文で中身が見えてきました。社員一人の会社も、家族の資産管理会社も、一般社団法人も対象です。株主が動くたびに届出が必要になり、家族信託の受託者にも新しい義務がかかります。この記事では、内閣官房が公表した法律案をもとに、オーナー経営者が押さえておくことを整理します。法案はまだ成立していないため、国会での修正や政省令で内容が変わる可能性があります。
- 法案の対象は、上場企業等を除くすべての内国法人と一部の外国法人。日本経済新聞は約450万法人としている
- 届出先は法務局。議決権の25%超を直接または間接に持つ個人などの氏名・住所などを届け出る。変更は知った日から30日以内
- 既存の法人は施行日から30日以内に届出。施行は公布から1年6月以内で、日本経済新聞は2028年夏までの運用開始を想定と報じている
- 届け出なければ過料、催告にも応じなければ罰則。概要では期限から3年間届出がないと登記閉鎖
- 情報は非公開だが、金融機関は法人の同意なしに閲覧を請求できる条文になっている。銀行に出している内容と届出をそろえる必要がある
- 信託の受託者にも、委託者・受益者などの情報の把握と記録の義務がかかる。家族信託の受託者も確認が必要
報道と法案で示された内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法案の名称 | 法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案(法人実質的支配者透明化法案) |
| 経緯 | 10月23日に閣議決定し国会に提出。日本経済新聞は、12月12日までの今国会での成立をめざすと報道 |
| 対象 | 上場会社、国・地方公共団体などを除く全法人。投資事業有限責任組合、有限責任事業組合(LLP)、国内の不動産の所有者として登記された外国法人なども含む |
| 届出の内容 | 実質的支配者の氏名または名称、住所、該当する区分のほか、法務省令で定める事項。概要には生年月日、国籍も例示 |
| 届出先 | 法務局(法務大臣) |
| 期限 | 成立の日から30日以内。変更や誤りは知った日から30日以内。既存の法人は施行日から30日以内 |
| 施行 | 公布から1年6月以内の政令で定める日(一部を除く)。施行前に届け出ることも可能になる見込み |
| 背景 | マネーロンダリング対策、経済安全保障、土地を所有する法人の把握。FATFの対日審査が2028年夏頃に予定され、G7で届出制度がないのは日本のみ |
| 税理士の関わり | 税理士法人等も届出の対象。税理士等が顧問先の情報を提供できる方向(週刊税務通信) |
出典:内閣官房「法人等の実質的支配者に係る情報の把握等に関する法律案」概要・要綱・法律案(2026年10月23日)、日本経済新聞「国内全450万法人に『実質的支配者』報告義務 マネロン対策ようやく」(2026年10月23日)、税のしるべ「上場企業等を除く全法人に『実質的支配者』の報告を義務付けへ、法案を国会に提出」(2026年11月2日号)、週刊税務通信 No.3922(2026年11月2日号)。
誰が「実質的支配者」になるのか
法案の定義は、法人の形で分かれます。
| 法人の形 | 実質的支配者 |
|---|---|
| 持株数に応じて議決権がある法人(株式会社など。資本多数決法人) | ①議決権の4分の1超を直接または間接に持つ個人等 ②①がなければ、出資・融資・取引などを通じて事業活動に支配的な影響力を持つ個人等 |
| それ以外の法人 | 収益の配当や財産の分配を4分の1超受けられる権利を持つ個人等、または出資・融資・取引などを通じて支配的な影響力を持つ個人等 |
| 上のいずれもいない場合 | 法人を代表し、業務を執行する個人 |
出典:内閣官房「法律案要綱」2(3)。「個人等」には、上場会社や国なども含まれます。間接保有の算定方法は政令で定められます。
実務で気をつけたい点が3つあります。
1. 「50%超の人がいれば、その人だけ」ではなくなる。 今の金融機関の確認では、議決権の50%超を持つ個人がいれば、その人を実質的支配者とします。法案の定義には50%超の段階がなく、4分の1を超える人はすべて該当します。たとえば父60%、長男30%、長女10%の会社なら、今の確認では父だけですが、法案の定義では父と長男の2人が該当すると読めます(政令の内容は確認が必要です)。
2. 無議決権株式は計算から外れる。 役員の選任や定款の変更など経営に重要な議案の全部で議決権を行使できない株式は、議決権から除くとされています。一方、②の「支配的な影響力」は①に該当する人がいない場合の判定です。そのため、前回の記事で触れた黄金株のように、25%超を持つ別の人がいる会社では、拒否権を持つ人が定義上出てこないことがありえます。
3. 合同会社は別の基準になる可能性がある。 合同会社は原則として社員ごとに議決権を持つため、定款の定め方によっては「資本多数決法人以外」に当たり、配当や財産分配の権利で判定することになると考えられます。一般社団法人も同じ区分に当たりえます。資産管理会社を合同会社にしている場合は、定款を確認しておきたいところです。
間接保有も含みます。持株会社や資産管理会社を通じて持っている場合は、最終的な個人までたどる必要があります(持株会社をつくって株主構成を整理する)。
期限と罰則
| 場面 | 法案の定め |
|---|---|
| 新しく設立した法人 | 成立の日から30日以内に届出 |
| 既存の法人 | 施行日から30日以内に届出(施行前の届出も可) |
| 変更・誤りがあった場合 | 知った日から30日以内に届出 |
| 届出をしなかった場合 | 代表者等に100万円以下の過料(正当な理由がない場合) |
| 催告の期間内に届け出ない、虚偽の届出 | 6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科。法人にも罰金 |
| 期限から3年間届出がない場合 | 登記閉鎖の措置(内閣官房の概要。無届の法人には、まず書面などで催告) |
| 情報の保存 | 清算結了の登記の時などから7年間、法務大臣が保存 |
出典:内閣官房「法律案」第5条・第6条・第9条・第25〜27条・附則第2条、同「概要」。
届出には、実質的支配者であることなどを証する情報も併せて提供します。法人は、実質的支配者と思われる人や、知っていると思われる株主に照会でき、照会を受けた人は正当な理由がない限り回答する義務があります。
中小企業で一番起こりやすいのは、変更の届出漏れだと考えています。自社株の贈与、相続、持株会社の設立、役員への譲渡などで25%のラインをまたぐと、30日以内の届出が必要になります。事業承継の手続きの一覧に「実質的支配者の変更届」を加えておく必要があります。
相続の場面では、遺産分割が終わるまでの株式の扱いなど、法案だけでは読み切れない論点もあります。政省令やQ&Aを確認する必要があります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行からの見え方
ここからは、公認会計士・税理士として、また融資を受けて事業を続けてきた立場からの考えです。
届け出た情報は一般には公開されません。閲覧できるのは、法人本人や記録された本人のほか、法令で定める事務に必要な国や地方公共団体の機関、法人の同意を得た特定事業者(金融機関や士業者など)です。
ただし、要綱には重要なただし書きがあります。預金保険法上の金融機関などは、法人の同意がなくても閲覧を請求できるとされています。さらに、国の機関や特定事業者は、記録と違うことを知ったら法務大臣に通報する義務を負います。
つまり、銀行に提出した株主名簿と、法務局に届け出た内容が食い違っていれば、見つかりやすくなります。これまで「名義株のまま」「親族の持分が古いまま」で済んでいた会社は、融資の場面で説明を求められることが増えると考えています。株主構成を根拠とともに説明できるようにしておくことは、銀行との取引を続けるうえでも備えになります。
登記閉鎖も見過ごせません。休眠中の会社を残している場合、届出をしないまま放置すれば、閉鎖の対象になりえます。将来使う予定のない会社なら、清算を検討するきっかけになります。
家族信託の受託者にも義務がかかる
意外に見落とされそうなのが信託です。法案では、信託の受託者に次の義務がかかります。
| 項目 | 法案の定め |
|---|---|
| 対象 | 信託法上の信託など(政令で定めるものを除く) |
| 把握する情報 | 委託者、受託者、受益者などの氏名・住所。法人の場合はその実質的支配者 |
| 記録と保存 | 書面または電磁的記録を作成し、信託の清算結了後7年を経過するまで保存 |
| 既存の信託 | 施行日から30日以内に作成(すでに相当の記録があれば不要) |
| 違反 | 作成・保存の違反は100万円以下の過料 |
| 提示 | 国や地方公共団体の機関は、法令で定める事務に必要な場合に提示を求められる |
出典:内閣官房「法律案」第16〜18条・第28条・附則第4条。
受託者は法務局に届け出るのではなく、記録を作って保存する義務です。ただし、不動産や自社株を家族信託に入れている場合、受託者になっているお子さんなど個人にもこの義務がかかると読めます。どの信託が政令で除外されるかは、まだ分かりません(家族信託と不動産)。
今のうちに整理しておくこと
| 確認すること | 具体的な内容 |
|---|---|
| 持っている法人の洗い出し | 本業の会社、資産管理会社、持株会社、休眠会社、一般社団法人 |
| 株主名簿の整備 | 名義株、所在不明の株主、古いままの持分を確認する |
| 25%超の個人の把握 | 間接保有をたどり、該当する個人を一覧にする。50%超の人以外も確認する |
| 種類株式・定款の確認 | 無議決権株式、黄金株、合同会社の議決権の定め(種類株式を事業承継に使う) |
| 休眠会社の方針 | 使う予定がなければ清算も検討する |
| 信託の記録 | 受託者が委託者・受益者の情報を書面で持っているか確認する |
| 銀行への説明の整合 | 銀行に出している資料と実態が合っているか確認する |
今ある実質的支配者リスト制度は任意で、新法とどう接続するかは、これからの論点です。
資産管理会社の持ち方を見直すきっかけにもなります(資産管理会社とは)。株主構成を整理しておくことは、事業承継や相続、M&Aのときにも必ず役に立ちます。クレフティでは、ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介までを組み合わせて、不動産業の承継と地方銀行からの1.6億円の調達を支援した事例があります。
今後も注意して見ていきたいこと
- 国会審議:今国会で成立するか、修正があるか
- 政令・法務省令:間接保有の算定方法、届出事項、添付する情報、除外される信託
- 施行日:公布から1年6月以内の具体的な日付。施行前の届出の受付時期
- 手数料と手続き:オンラインでの届出や、税理士等による情報提供の方法
- 実質的支配者リスト制度の扱い:任意の制度をどう位置づけるか
- 重要土地等調査法の改正案:土地を持つ法人の実質的支配者の情報が、規制にどう使われるか
まとめ
- 上場企業等を除く全法人に、実質的支配者の把握と法務局への届出を義務付ける法案が、10月23日に国会に提出された。未成立で、内容は変わる可能性がある
- 議決権の25%超を持つ個人が基本。50%超の人がいても、25%超の人はすべて該当すると読める
- 既存の法人は施行日から30日以内、変更は知った日から30日以内に届出
- 無届には過料、催告に応じない場合や虚偽には罰則。概要では3年間届出がないと登記閉鎖
- 情報は非公開だが、金融機関は法人の同意なしに閲覧を請求できる条文になっている
- 信託の受託者には、関係者の情報の把握と記録の義務がかかる
株主構成の整理、種類株式や持株会社の設計、家族信託を使った承継について確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
