日本経済新聞(2026年10月29日朝刊)の「きょうのことば」が、「実質株主」を取り上げました。株主名簿には載らず、実質的に株式を持って議決権を行使する株主のことで、政府は、企業と投資家の対話を促す観点から、実質株主を把握しやすくする制度づくりを検討しています。
上場企業の話に見えますが、「株主名簿に載っている人と、本当に株を持っている人が違う」「誰が議決権を持っているのか分からない」という問題は、中小企業でもよく起きます。この記事では、報道の内容を紹介したうえで、議決権の割合ごとの権利を一覧にし、株の集中、相続、事業承継で考えておくことを整理します。
- 実質株主は、名義上の株主とは別に、実質的に株式を持って議決権を持つ株主。上場企業では、株主名簿にカストディアン(資産管理専門の銀行)の名義が載るため、本当の株主が見えにくい(日本経済新聞)
- 中小企業でも、名義株や相続での株式の分散で、議決権を誰が持っているのかが分からなくなることがある
- 議決権は、1株・1%・3%・10%・3分の1超・過半数・3分の2以上・90%などの割合で、できることが大きく変わる
- オーナーは、自社の議決権の分布を正確に把握し、3分の2以上を押さえることを目安に、株の集中・相続・事業承継の計画を立てたい
報道で示された内容
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 実質株主とは | 株式の名義上の保有者とは異なり、実質的に株式を保有して株主総会での議決権を持つ株主 |
| カストディアン | 機関投資家は株式の保管・管理を資産管理専門銀行に委託することが多く、実質株主の機関投資家はカストディアンに議決権の行使を指図するのが一般的 |
| 規模 | 日本マスタートラスト信託銀行の資産管理残高は2026年6月末時点で1,000兆円超、2025年3月時点と比べて30%増 |
| 保有比率 | 2025年度の投資部門別の株式保有比率で、カストディアンを含む「信託銀行」や「外国法人など」が5割超 |
| 課題と政府の動き | 株主名簿にはカストディアンの名義が載るため、企業は背後にいる真の株主を把握しにくい。政府は実質株主を把握しやすくする制度づくりを検討 |
出典:日本経済新聞「きょうのことば 実質株主とは 株主名簿に記載されず、議決権保有」(2026年10月29日朝刊)。
法人を実際に支配する個人(実質的支配者)を把握する動きも進んでおり、「名簿の上の株主」と「本当の株主・支配者」を一致させる流れが強まっています(「実質的支配者」の把握を政府が法人に求める方向に)。
議決権の割合ごとの主な権利
ここからは、公認会計士・税理士として、オーナー経営者の株主構成の整理を支援してきた立場からの整理です。主に会社法の定めで、非公開会社(株式の譲渡に会社の承認が必要な会社)を想定しています。定款で要件を変えている場合や、取締役会を置いているかどうかなどで扱いが変わる権利もあります。
| 議決権の割合 | 主な権利・できること |
|---|---|
| 1株(1個)から | 株主総会での議決権の行使、説明を求める権利、株主総会の決議の取消しの訴え、役員の責任を追及する訴え(株主代表訴訟)など |
| 1%以上(または300個以上) | 株主提案権(取締役会を置く会社の場合)、株主総会の招集手続などを調べる検査役の選任の請求 |
| 3%以上 | 会計帳簿の閲覧・謄写の請求、株主総会の招集の請求、役員の解任の訴え、業務の執行を調べる検査役の選任の請求 |
| 10%以上 | 会社の解散の訴え |
| 3分の1超 | 特別決議を単独で否決できる(いわゆる拒否権) |
| 過半数 | 普通決議を単独で可決できる(取締役の選任・解任、役員報酬、配当など) |
| 3分の2以上 | 特別決議を単独で可決できる(定款の変更、合併・会社分割、事業譲渡、減資、特定の株主からの自己株式の取得、監査役の解任など) |
| 4分の3以上など | 特殊決議(株主ごとに異なる取扱いを定める定款の変更などは、総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上) |
| 90%以上 | 特別支配株主として、残りの株主に株式の売渡しを請求できる |
それぞれの権利の詳しい内容と判例は、株式の保有比率ごとの権利を一覧で解説と少数株主の権利とはで解説しています。
ポイントは、3%を持つ株主は帳簿を見ることができ、3分の1を超える株主は会社の重要な決定を止めることができる、ということです。親族や元役員、取引先に少しずつ株が渡っていると、その合計がこうした割合を超え、思わぬところで経営の自由がきかなくなることがあります。
中小企業で「本当の株主」が分からなくなる場面
| 場面 | 起きること |
|---|---|
| 名義株 | 設立時に親族や知人の名前を借りて株主にした。名義人やその相続人が、自分の株だと主張することがある(名義株とは) |
| 相続での分散 | 株主が亡くなるたびに、株が相続人に分かれていく。連絡のとれない株主や、株を共有する相続人が増える |
| 記録の不一致 | 株主名簿、法人税申告書の株主の記載、贈与の記録が合っていない |
| 株主総会の手続きの不備 | 総会を開かずに議事録だけ作っていた。後から決議の効力が争われることがある(株主総会を開かずに長男を取締役から解任、裁判所は「決議なし」) |
上場企業の実質株主の問題とは仕組みが違いますが、「議決権を誰が持っているのか」を正確に把握できていないと、株主総会の決議、事業承継、M&Aのいずれの場面でも問題になる点は同じです。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る株の集中・相続・事業承継で考えておくこと
- 議決権の分布を正確に把握する:株主名簿、法人税申告書、贈与・売買の記録を突き合わせ、株主ごとの株数と議決権の割合を一覧にする。名義株の疑いがある株もはっきりさせておく
- 3分の2以上を目安に集中させる:オーナー(または後継者)が特別決議を単独で可決できる状態にしておくと、経営と承継が安定する。分散した株は、買取り、自己株式の取得、売渡請求などで集める(分散した株式を集中させる方法)
- 相続で分散させない:遺言で株式を後継者にまとめる、定款に相続人に対する売渡請求の定めを置く、種類株式を使うなどを検討する(株式が分散しているリスク)
- 承継の順番を計画する:後継者に株を渡すとき、議決権の過半数・3分の2がいつ移るのかを計画に入れる。株を渡すほど、先代の思いどおりには会社を動かせなくなる
- 評価と税金も合わせて考える:株を集める・渡すときには、株価の評価と、贈与税・相続税・所得税がかかる。非上場株式の評価方法の見直しの議論も続いている(非上場株の相続評価の見直しに自民党から異論)
まとめ
- 実質株主は、名義上の株主とは別に、実質的に株式を持って議決権を持つ株主。政府は、上場企業が実質株主を把握しやすくする制度を検討している
- 中小企業でも、名義株や相続での分散で、議決権を誰が持っているのかが分からなくなることがある
- 議決権は、1%・3%・10%・3分の1超・過半数・3分の2以上・90%などの割合で、できることが大きく変わる
- オーナーは、議決権の分布を正確に把握し、3分の2以上を目安に株を集中させ、相続と事業承継の計画を立てておきたい
株主構成の整理や、議決権を踏まえた事業承継の計画を一度確認したい方は、お気軽にご相談ください。
