日本経済新聞(2026年10月26日、連載「20代からのマイホーム考」)が、不動産会社に対する監督処分と行政指導が9年ぶりの高水準になったと取り上げました。もとになっているのは、国土交通省が2026年10月2日に公表した「令和7年度宅地建物取引業法の施行状況調査」です。
記事はマイホームを買う人向けのものですが、物件を何度も買い、いずれ売る不動産投資家にとっては、もっと身近な話です。仲介会社は、物件情報の入り口であり、契約書類をつくる相手であり、売却のときには価格を左右する存在でもあります。この記事では、国土交通省の公表資料で数字を確認したうえで、仲介会社を選ぶとき・契約するときに確認したいことを、税務・会計・融資の面から解説します。
- 国土交通省によると、2025年度の宅建業者への監督処分は163件(前年度比10.9%増)、行政指導は768件(同29.7%増)。合計931件は、日経によれば2016年度以来9年ぶりの高水準。宅建業者数は13万3,727業者で12年連続の増加
- 報道された違反の例には、購入申込みを売主に報告しなかった、法定上限を超える仲介手数料、専任媒介の期間を超える特約、無資格者による重要事項説明などがある
- 仲介手数料には宅建業法の上限がある。400万円超の売買なら一方から「価格×3.3%+6.6万円」(税込)が目安
- 税務では、購入時の仲介手数料は取得価額、売却時は個人なら譲渡費用、法人なら損金。有利な条件で売り直すために払った違約金も譲渡費用になる
- 売却価格の数百万円の差は、法人なら売却益と純資産に直結する。媒介契約の形とレインズの状況確認で、売る側も自衛したい
報道と国土交通省の公表で示された内容
国土交通省の公表資料(令和8年10月2日)と、日本経済新聞の記事で示された主な事実は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 宅建業者数 | 2026年3月末で13万3,727業者(大臣免許3,238、知事免許130,489)。前年度より1,436業者(1.1%)増え、12年連続の増加 |
| 監督処分 | 163件(前年度比16件・10.9%増)。内訳は免許取消85件(14件減)、業務停止36件(20件増)、指示42件(10件増) |
| 行政指導 | 768件(前年度比176件・29.7%増)。宅建業法71条に基づき文書で行った指導・助言・勧告 |
| 合計 | 931件。日経によれば2016年度の948件以来、9年ぶりの高水準 |
| 宅地建物取引士 | 2025年度の新規登録は3万4,714人、総登録者数は124万3,738人 |
| 処分の例(日経の記事) | 筆者が2025年1月〜2026年9月に東京都に本社を置く会社への処分を調べたところ、重複を除き29社。専任の取引士の不足、重要事項説明書・契約書の不備、レインズへの登録義務違反が目立った |
| 書類の不備を超える例(同) | 他の希望者からの高い購入申込みを売主に報告せず、売主が手付解除で損害を被った例/土地だけの売買を新築一戸建てと誤認させる広告/法定上限を超える仲介手数料の受領/法定の期間を超える特約を付けた専任媒介契約/宅建士証を偽造した無資格者に賃貸借の重要事項説明をさせていた大手の例 |
記事は、件数の増加が業界全体の法令違反の増加を意味するわけではない、とも断っています。ただ、知名度や規模だけで取引の適切さは判断できないという指摘は、投資家にもそのまま当てはまります。
業務停止が前年度の2倍超に
国土交通省の表を見ると、免許取消は99件から85件に減った一方、業務停止が16件から36件へと倍以上に、指示も32件から42件に増えています。公表資料は件数の集計で、処分の理由の内訳までは示されていないため、件数だけで中身は分かりません。それでも、営業を続けながら是正を求められる業務停止・指示が増えている点は、取引の相手として注意しておきたいところです。
投資家が知っておきたい、仲介のルール
報道された違反の多くは、宅建業法が定めるルールを知っていれば、依頼者の側でも気づける可能性があるものです。
仲介手数料には上限がある
宅建業者が受け取れる報酬の額は、宅建業法46条に基づく国土交通大臣の告示で上限が決まっており、それを超えて受け取ることは禁じられています。国土交通省の資料によれば、売買の媒介の上限(消費税込み)は次のとおりです。
| 物件価格の部分 | 料率(税込) |
|---|---|
| 200万円以下の部分 | 5.5% |
| 200万円超400万円以下の部分 | 4.4% |
| 400万円超の部分 | 3.3% |
| 特例:800万円以下の低廉な空家等 | 費用を勘案して、30万円の1.1倍(33万円)まで |
400万円を超える物件であれば、一方の依頼者から受け取れるのは「物件価格×3.3%+6.6万円」が目安です。1億円の物件なら約337万円です。低廉な空家等の特例は2024年7月に400万円以下から800万円以下に広がりました。特例を使う場合も、媒介契約の締結の際にあらかじめ報酬額を説明し、合意する必要があるとされています。
賃貸の媒介は、貸主と借主の双方から受け取る合計で借賃1か月分の1.1倍までが原則です(居住用は、承諾がなければ一方から0.55倍まで)。長期の空家等には、貸主から1か月分の2.2倍までの特例があります。
「コンサルティング料」「事務手数料」などの名目で、実質的に仲介の対価が上乗せされていないかは、請求書の内訳で確認しておきたいところです。入居者募集のAD(広告料)の扱いは、空室対策の広告費・AD・フリーレントの処理で解説しています。
専任媒介の期間と、レインズ
売却を1社に任せる専任媒介契約・専属専任媒介契約には、宅建業法34条の2で次のようなルールがあります。
| 項目 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | 一般媒介 |
|---|---|---|---|
| 他社への依頼 | できない | できない | できる |
| 自分で見つけた買主との直接取引 | できる | できない | できる |
| 契約の有効期間 | 3か月まで(自動更新は不可。依頼者の申出で更新) | 同左 | 法律上の上限なし |
| レインズへの登録 | 契約から7日以内(休業日を除く) | 5日以内(同) | 義務なし |
| 依頼者への業務報告 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 | 義務なし |
日経の記事で紹介された「法定の期間を超える特約を付けた専任媒介契約」は、この有効期間のルールに反するものです。
また、2025年1月からは、専任媒介の業者がレインズに登録する事項に「取引の申込みの受付に関する状況」が加わりました。売主は、レインズの登録証明書などで、物件が「公開中」か「書面による購入申込みあり」かといった状況を確認できます。ただし、記事が指摘するとおり、仲介会社に届いた購入申込みの中身までは売主には見えません。
「囲い込み」が起きる理由
自社で買主も見つければ、売主と買主の両方から手数料を受け取れます。そのため、他社からの購入申込みや問い合わせを売主に伝えない「囲い込み」が問題になってきました。日経の記事で紹介された処分例が囲い込みを目的としたものかどうかは分からない、とされていますが、売主にとっては、より高く売れたはずの機会を知らないまま失うという点で同じ結果になります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る仲介手数料と違約金の税務上の扱い
ここからは、税理士・公認会計士として、不動産投資家の財務を見てきた立場からの考えです。
仲介会社に払うお金は、払う場面によって税務上の扱いが変わります。法人と個人の違いも含めて整理します。
| 支出 | 個人(不動産所得・譲渡所得) | 法人 |
|---|---|---|
| 購入時の仲介手数料 | 取得費(取得価額)に含める。建物分は減価償却で費用に、土地分は売却まで費用にならない | 取得価額に含める(法人税法施行令54条)。土地・建物に按分 |
| 売却時の仲介手数料 | 譲渡費用として譲渡価額から差し引く | 売却に伴う費用として損金 |
| 有利な条件で売り直すために前の契約を解除して払った違約金 | 譲渡費用(国税庁タックスアンサーNo.3255) | 損金 |
| 入居者募集の仲介手数料 | 不動産所得の必要経費 | 損金 |
購入時の仲介手数料を土地と建物にどう按分するかは、購入時の仲介手数料と取得価額への算入で、譲渡費用の範囲は不動産売却の譲渡費用に入るもの・入らないもので詳しく解説しています。
手付解除になったとき
日経の記事の例のように、売主が先の買主との契約を手付解除し、手付金相当額を負担するケースでは、その負担がどう扱われるかが問題になります。国税庁のタックスアンサー(No.3255、令和8年4月1日現在法令等)は、既に結んだ売買契約を解除して、より有利な条件で売るために払った違約金を譲渡費用に挙げています。後で別の買主に実際に売った場合は、この考え方に当たるかを確認することになります。
逆に、解除の結果として売主が受け取った手付金などは、個人か法人か、事業として行っているかによって所得の区分が変わります。金額が大きい場合は、申告の前に税理士に相談してください。
上限を超える手数料を請求されたら
上限を超える報酬を受け取ることは宅建業法で禁じられています。請求書の名目を問わず、実質的に仲介の対価に当たるものの合計が上限内かを確認し、疑問があれば支払う前に根拠を求めるべきです。上限内でも、経費として処理する以上は、何の対価かが分かる契約書・請求書を残しておくことが、税務調査への備えにもなります。
なお、仲介会社の担当者個人に謝礼を渡す慣行がある場合の税務は、不動産業者の担当者への謝礼の税務をご覧ください。
会計上の見え方と、銀行からの見え方
取得の付随費用は資産に、売却の費用は売却損益に
企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準=GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)でも、購入時の仲介手数料は固定資産の取得原価に含める付随費用です。費用にならない分、その期の営業利益は下がりませんが、建物分は減価償却を通じて毎期の費用になります。
売却時の仲介手数料は、売却損益の計算に含まれます。固定資産として持っていた物件の売却損益を特別損益に表示するか、販売用不動産として売上・売上原価に表示するかは、取引の実態と会計の基準に沿って判断することになります。税務上の損金算入と、決算書のどの区分に表示するかは別の問いです。
売却価格の差は、そのまま純資産の差になる
銀行は、法人の決算書の純資産や債務償還年数を見て、次の融資を判断します。囲い込みなどで本来より低い価格で売ってしまうと、その差額は売却益の減少となり、税引後の利益を通じて純資産を薄くします。
たとえば、1億円で売れたはずの物件が9,500万円で売れた場合、差は500万円です。仲介手数料も価格に比例して少し下がりますが、売主の手取りと純資産が数百万円単位で変わることに変わりはありません。著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」とみています。売却は、純資産を積み増す数少ない機会でもあるため、価格の決まり方には目を配っておきたいところです。
契約書類の不備は、担保評価にも響く
購入の場面で、重要事項説明書や契約書に不備があると、後になって法令上の制限や権利関係の問題が見つかることがあります。銀行は、担保としていざというときに売れるかを見ています。融資を申し込む前に、重要事項説明書と契約書の案文を金融機関にも見せておくと、こうした問題に早く気づけます。
投資家が仲介会社と取引するときのチェックポイント
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 仲介会社を選ぶ | 宅建業の免許番号、国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト」での処分歴。処分歴がないことは適切さの保証にはならない |
| 媒介契約(売却) | 専任・専属専任・一般のどれにするか。有効期間(3か月まで)と更新の方法。報酬額の説明と合意 |
| 販売活動中(売却) | レインズの登録証明書とステータスを定期的に確認。購入申込みは価格・条件にかかわらずすべて報告してもらうよう、契約時に念押し |
| 契約前(購入・売却) | 重要事項説明書・契約書の案文を事前に入手。宅建士証の提示を受ける。疑問点は根拠資料を求める |
| 支払い | 仲介手数料が上限内か。名目の違う手数料が上乗せされていないか。請求書・領収書を保存 |
| 決算・申告 | 購入時は取得価額に算入し土地・建物に按分。売却時は譲渡費用(個人)・損金(法人)。違約金・手付の扱いを確認 |
一般媒介にすれば囲い込みの心配は減りますが、レインズへの登録や業務報告の義務がなく、仲介会社が販売活動に力を入れにくくなることもあります。日経の記事も、どちらが適しているかは売却の方針によると述べています。物件の性格(流通性の高い区分マンションか、買い手が限られる一棟物件か)と売却の期限を踏まえて選ぶのが現実的です。
今後も注意して見ていきたいこと
- 囲い込み対策の運用:2025年1月に始まったレインズへの取引状況の登録が、処分や指導にどう反映されていくか
- 処分の中身の公表:国土交通省や都道府県が公表する処分の内容に、価格や報告に関わる違反がどの程度含まれるか
- 報酬規制の見直しの影響:低廉な空家等の特例の拡大で、地方の安い物件の取引コストがどう変わるか
- 不動産市況との関係:取引の増加と業者数の増加が続くなかで、行政指導の件数が高い水準のまま推移するか
まとめ
- 国土交通省の調査で、2025年度の宅建業者への監督処分は163件、行政指導は768件。合計931件は9年ぶりの高水準と報じられた。業務停止は前年度の2倍超
- 報道された違反には、購入申込みの未報告、上限を超える仲介手数料、専任媒介の期間を超える特約、無資格者による重要事項説明などがある。会社の規模や知名度だけでは判断できない
- 仲介手数料の上限、専任媒介の期間と報告義務、レインズの取引状況の確認方法を知っておくことが、投資家にとって最初の自衛になる
- 税務では、購入時の仲介手数料は取得価額、売却時は譲渡費用(個人)・損金(法人)。有利な条件で売り直すための違約金も譲渡費用になる
- 売却価格の差は、法人では純資産の差としてそのまま残る。売却は純資産を積み増す機会と考え、価格の決まり方に目を配りたい
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