日本経済新聞(2026年10月26日、27日朝刊)が、東京都千代田区が三菱地所レジデンスなどに対し、区内で計画する分譲マンションについて引き渡し後5年間の転売禁止を要請すると報じました。区は2025年に業界団体へ同じ趣旨の要請をしていますが、個別の物件について働きかけるのは初めてとされています。
マンションの短期売買への規制は、自民党でも税制を含めて議論が始まっています。「自分には関係ない」と思っている不動産投資家の方も、再開発の物件や新築の区分マンションを買う場面では、契約で売れない期間がある物件に出会う可能性が出てきました。この記事では、報道で示された内容を整理したうえで、転売禁止の特約が付いた物件を買う前に確認しておきたいことを、税務・融資・出口の3つの面から解説します。
- 千代田区は、都の制度で容積率の緩和を受ける再開発の分譲マンションについて、引き渡し後5年間の転売禁止の特約と、同一名義での複数住戸の購入禁止を事業者に要請する方針(日本経済新聞)。要請で、法令上の強制力はない
- 対象は区との調整が必要な市街地再開発事業などに限り、純粋な民間マンションには適用しない考えとされる
- 特約の「5年」と、税金の短期・長期の「5年」は数え方が違う。個人は売った年の1月1日時点で5年超かどうかで判定するため、特約の期間が明けた直後の売却は短期譲渡所得になることがある
- 売れない期間がある物件は、出口の自由度と担保としての見え方が変わる。購入前に、契約書・重要事項説明と、融資を受ける金融機関の考え方を確認しておきたい
報道で示された内容
日本経済新聞の報道で示された主な事実は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 要請する側・される側 | 東京都千代田区が、三菱地所レジデンスなどに要請(報道時点では27日にも要請する予定) |
| 対象の物件 | 区内で計画中の分譲マンション。都の制度で容積率の緩和を受ける物件。現在約100戸を約200戸に建て替える計画で、2030年着工、2036年完成予定 |
| 要請の内容 | 引き渡し後5年間の転売禁止の特約を付けること、同一名義での複数住戸の購入を禁じること |
| これまでの経緯 | 区は2025年7月、不動産協会に投機目的の取引防止への協力を要請。協会は引き渡し前の転売防止などの対策を打ち出した。今回は引き渡し後まで踏み込んだ |
| 今後の方針 | 区内で新たに開発されるマンションには同様の方針で臨む。ただし対象は市街地再開発事業など区との調整が必要なものに限り、純粋な民間マンションには適用しない |
| 背景の数字 | 不動産経済研究所によると、2026年4〜9月の東京23区の新築分譲マンションの平均価格は1億7,925万円(前年同期比34.7%上昇)。東京カンテイによると、築5年以内のマンションの転売率は千代田区が2025年に4.92%で23区で最も高い |
| 法的な位置づけ | 要請であり、法令上の強制力はない。財産権(憲法29条)との関係で慎重論もある |
報道では、自民党の住宅土地・都市政策調査会がマンション高騰の抑制策の検討に入り、税制上の措置で短期転売を防ぐ方策などが挙がっているとも伝えられています。国土交通省の令和9年度税制改正要望にも、新築マンションの価格高騰に対応し、実需に基づかない投機的な取引を抑える方策を検討するという項目が入っています。
税制の議論については、マンション高騰の抑制策、短期売買への課税強化を自民党が検討で、土地譲渡益重課の仕組みとあわせて解説しています。
「転売禁止の特約」は何を縛るのか
今回の要請は、法律や条例で売買を禁止するものではありません。事業者が要請を受け入れた場合に、分譲時の売買契約に、買主が一定期間転売しないことを約束する条項(特約)を入れるという形が想定されます。
そのため、実際に何が縛られるかは契約の条文しだいです。購入を検討するときは、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
| 確認したい点 | なぜ大事か |
|---|---|
| 禁止の期間と起算日 | 「引き渡しから5年」か「登記から5年」かで、売れるようになる日が変わる |
| 禁止される行為の範囲 | 売買だけか、賃貸や贈与、名義の変更も含むのか |
| 例外 | 相続、転勤、離婚、病気など、やむを得ない事情のときに売れるのか。事業者の承諾で売れるのか |
| 違反したときの扱い | 違約金、買戻し、損害賠償などの定めがあるか。その金額 |
| 名義の考え方 | 「同一名義で複数住戸の購入禁止」は、個人と自分の資産管理会社を別の名義として扱うのか |
報道に寄せられた専門家のコメントでも、購入後5年以内に相続や転職などで事情が変わった場合にも売れないのは問題になりうる、と指摘されています。投資用に限らず、自分や家族の事情で手放す可能性がある物件かどうかは、特約の例外の書き方で大きく変わります。
なお、規制の趣旨は投機目的の短期売買の抑制です。名義や持ち方を工夫して特約の趣旨をすり抜けることは、契約違反や事業者との紛争につながるおそれがあり、おすすめしません。
特約の「5年」と、税金の「5年」は数え方が違う
ここからは、税理士・公認会計士として、また不動産投資家の財務を見てきた立場からの考えです。
不動産投資家にとって「5年」といえば、まず思い浮かぶのが譲渡所得の短期・長期の区分です。しかし、特約の5年と税金の5年は、数え方がまったく違います。
個人は「売った年の1月1日」で判定する
国税庁のタックスアンサー(No.1440、令和8年4月1日現在法令等)によれば、個人が土地建物を売った場合、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得です。税率は、所得税が長期15%・短期30%で、これに復興特別所得税と住民税が加わり、合計で長期は約20%、短期は約39%になります。
| 区分 | 判定 | 税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計) |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間が5年超 | 約20%(20.315%) |
| 短期譲渡所得 | 売った年の1月1日時点で所有期間が5年以下 | 約39%(39.63%) |
特約が明けた直後に売ると、短期になることがある
たとえば、2036年3月に引き渡しを受けた物件で考えます(取得の日は、原則として引き渡しを受けた日)。
- 特約の5年は、2041年3月に明ける
- 2041年1月1日時点の所有期間は4年9か月。2041年中に売ると短期譲渡所得
- 長期譲渡所得になるのは、2042年1月1日時点で5年超となるため、2042年に入ってからの売却
つまり、「特約が明けたらすぐ売る」計画を立てると、税率がほぼ2倍の短期譲渡所得になる期間が残ります。出口の時期は、特約の期間と税金の判定日の両方で考える必要があります。
法人で持つ場合は、税金の面では短期・長期の区別がない
法人には、譲渡所得の短期・長期の区別はありません。売却益は、ほかの利益と合わせて通常の法人税の対象になります(土地譲渡益重課は1998年から適用が停止されています)。ただし、特約は名義を問わず契約で縛るものです。また、同一名義での複数住戸の購入禁止があれば、法人で複数戸をまとめて買うこともできなくなります。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方と、出口の自由度
転売禁止の特約は、融資の場面でも無関係ではありません。
担保としての「売れる力」
銀行は、物件を担保に取るとき、評価額だけでなく、いざというときに売って回収できるかも見ています。一定期間は自由に売れない物件をどう評価するかは、金融機関ごとに考え方が異なり、現時点で決まった扱いがあるわけではありません。購入前に、融資を受ける予定の金融機関に特約の内容(期間・例外・違約の定め)を伝えて確認するのが確実です。
決算書の見え方:売れない期間は「入れ替え」ができない
不動産投資では、値上がりした物件を売って利益を確定し、その利益で純資産を厚くして次の融資につなげる、という財務の組み立てをすることがあります。売れない期間が長い物件は、この入れ替えの選択肢が使えない期間がある資産です。
借入で買う場合は、特約の期間中ずっと持ち続けることを前提に、家賃収入(または自分で住む場合は家計)で返済が回るかを確認しておきたいところです。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)が10年以内なら健全とみています。売却益を当てにしない前提で、この数字がどう動くかを試算しておくと安心です。
投資家が買う前に確認したいこと
| 確認すること | 確認先 |
|---|---|
| 転売禁止の期間・起算日・例外・違約の定め | 重要事項説明書、売買契約書(事前に案文を取り寄せる) |
| 同一名義の複数住戸の制限と、名義の考え方 | 売主(事業者) |
| 特約の期間中に賃貸に出せるか | 売買契約書、管理規約 |
| 融資の可否と担保の評価 | 融資を受ける予定の金融機関 |
| 売れるようになる日と、長期譲渡所得になる日 | 引き渡し予定日から逆算(税理士に確認) |
| 特約の期間中も返済が回るか | 家賃収入・家計の資金繰り表、債務償還年数の試算 |
都心のマンション市況と金利の動きについては、東京の新築マンション価格と金利の見通し、銀行の不動産向け融資の姿勢については、地方銀行の不動産融資の動きもあわせてご覧ください。
今後も注意して見ていきたいこと
- 事業者の対応:三菱地所レジデンスなどが要請をどこまで受け入れ、実際の契約にどのような特約が入るか
- ほかの自治体への広がり:千代田区以外の都心の区や、大阪などの大都市で同じような要請が出てくるか
- 税制の議論:自民党の調査会での短期転売への課税の検討と、年末の令和9年度税制改正大綱にどう盛り込まれるか
- 財産権との関係:要請の範囲を超えて条例や法律で規制する動きが出た場合の議論
まとめ
- 千代田区は、容積率の緩和を受ける再開発の分譲マンションについて、引き渡し後5年間の転売禁止と、同一名義での複数住戸の購入禁止を事業者に要請する方針と報じられた。個別物件への要請は初めて
- 要請に法令上の強制力はないが、特約として売買契約に入れば買主は契約に縛られる。期間・例外・違約の定めは契約書で確認を
- 特約の5年と、税金の短期・長期の5年は数え方が違う。個人は売った年の1月1日時点で判定するため、特約が明けた直後の売却は短期譲渡所得になることがある
- 売れない期間がある物件は、出口の自由度と担保としての見え方が変わる。融資を受ける金融機関への事前の確認と、売却益を当てにしない資金計画を
転売の制限がある物件の購入や、出口の時期と税金の試算、融資を受ける前の財務の確認をしたい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
