インバウンドの回復で民泊や簡易宿所を始めた方がいる一方で、民泊をやめる、または賃貸住宅に戻すという相談も増えています。自治体の規制の強化、運営代行の手数料、清掃の人手不足、近隣との関係など、理由はさまざまです。
民泊を始めるときの税務は多くの解説がありますが、やめるときの税務はあまり整理されていません。家具や家電はどう処理するのか、個人と法人で何が違うのか、住宅として貸すと消費税で何が起きるのか、撤退の赤字を銀行にどう説明するのか。この記事では、民泊・簡易宿所をやめるときに押さえておきたい論点を、税務、企業会計、銀行からの見え方の3つの面から整理します。
- 民泊をやめるときは、①家具備品の処分、②物件の次の使い道(賃貸住宅・売却・自己使用)、③消費税の調整、④廃業の届出、⑤決算書と銀行への説明の5つを順に確認する
- 廃棄した家具備品の帳簿価額は除却損。法人は損金。個人は、事業所得なら全額必要経費、雑所得や事業的規模でない業務ならその所得の金額が限度(所得税法51条)
- 一括償却資産(20万円未満で3年償却)は、除却しても残額を一度に経費にできない
- 課税対応で消費税を全額控除した調整対象固定資産を、3年以内に住宅の貸付けへ転用すると、控除税額を戻す調整がある(消費税法34条)
- 撤退の損失の表示区分は企業会計の基準に沿って判断する。銀行には撤退理由と転用後の収支計画をセットで示す
民泊をやめるときに確認する5つのこと
民泊・簡易宿所をやめるといっても、その後の物件の使い道によって論点が変わります。最初に全体像を整理しておきましょう。
| 確認すること | 主な論点 | 関係する制度 |
|---|---|---|
| 1. 家具備品の処分 | 廃棄(除却)、売却、賃貸住宅で継続使用 | 法人税法、所得税法51条、一括償却資産の取扱い |
| 2. 物件の次の使い道 | 賃貸住宅に転用、売却、自己使用、転貸物件なら解約 | 所得区分、譲渡所得、解約違約金 |
| 3. 消費税 | 転用の調整、課税売上割合の変動、免税事業者の判定 | 消費税法33条・34条 |
| 4. 廃業の届出 | 住宅宿泊事業の廃業届、旅館業の廃止届、税務署への届出 | 住宅宿泊事業法、旅館業法、税法 |
| 5. 決算書と銀行 | 損失の表示区分、撤退理由と今後の収支の説明 | 企業会計の基準、銀行の格付け |
民泊の収入が、個人の場合に何所得に当たっていたか(雑所得・不動産所得・事業所得)は、やめるときの損失の扱いにも影響します。区分の考え方は民泊収入の所得区分で詳しく解説しています。
家具備品の処分:除却・売却・継続使用
廃棄した場合は除却損
民泊では、ベッド、寝具、ソファ、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、食器、スマートロックなど、多くの家具備品を買いそろえます。民泊をやめてこれらを廃棄した場合、残っている帳簿価額は除却損として処理します。処分費用(粗大ごみの手数料や回収業者への支払い)も、その期の経費です。
廃棄はしていないものの、倉庫に保管したまま今後使う見込みがない資産については、法人税基本通達7-7-2の「有姿除却」の取扱いがあります。使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産は、物理的に廃棄していなくても、帳簿価額から処分見込価額を差し引いた金額を除却損にできるというものです(所得税にも同様の取扱いがあります)。ただし、「別の物件で使うかもしれない」程度の状態では認められにくく、実際の廃棄に比べて判断が分かれやすい論点です。取壊しや除却損の考え方は建物の取壊し・除却損でも整理しています。
一括償却資産は除却しても残額を一度に落とせない
注意したいのが、1個20万円未満の資産を一括償却資産として3年で均等に償却している場合です。一括償却資産は、個々の資産を管理しない代わりに3年で均等に費用化する仕組みのため、途中で廃棄や売却をしても、残額をその期に一度に経費にすることはできず、3年間の償却を続けます(国税庁 質疑応答事例「一括償却資産を除却した場合の取扱い」)。
民泊の家具家電は1個あたりの金額が小さく、一括償却資産や少額減価償却資産の特例で処理していることが多いので、固定資産台帳でどの方法で処理したかを確認してください。家具備品の取得時の処理は家具付き賃貸の備品の税務で扱っています。
売却した場合、継続使用する場合
家具家電を中古で売却した場合、法人は帳簿価額との差額を売却益・売却損として処理します。個人は、業務用の家具などの売却は原則として譲渡所得になり、民泊の所得とは別に計算します。課税事業者であれば、事業用資産の売却代金は消費税の課税売上げになる点にも注意しましょう。
家具付きの賃貸住宅として貸し続ける場合は、家具備品をそのまま賃貸用の資産として償却を続けます。この場合は除却損は出ませんが、次に説明する消費税の「転用」の論点が生じることがあります。
個人と法人の違い:資産損失の制限
家具備品の除却損や、物件の解約にともなう損失の扱いは、個人と法人で大きく違います。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 家具備品の除却損 | 除却した事業年度の損金 | 事業所得・事業的規模の不動産所得なら全額必要経費。雑所得・事業的規模でない業務なら、資産損失を差し引く前のその所得の金額が限度(所得税法51条1項・4項) |
| 家具備品の売却 | 売却損益として所得に含める | 原則として譲渡所得(総合課税) |
| 転貸型民泊の解約違約金・原状回復費 | 損金 | その業務の所得の必要経費 |
| 赤字の扱い | 繰越欠損金として翌期以降に繰越し(青色申告など一定の要件) | 雑所得の赤字は他の所得と損益通算できない |
| 消費税 | 課税事業者なら転用・割合変動の調整を確認 | 同じ |
国税庁のタックスアンサー「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」でも、賃貸用固定資産の取壊しや除却などの損失は、事業として行われている場合は全額が必要経費になる一方、それ以外の場合はその年の不動産所得の金額(資産損失を差し引く前)が限度になると説明されています。
個人で民泊を行い、所得区分が雑所得だった方は特に注意が必要です。民泊をやめた年は宿泊収入が少なく、雑所得の金額も小さくなりがちです。その年の雑所得の金額を超える除却損は必要経費にできず、他の所得とも通算できません。廃業の時期と家具の処分の時期を、年をまたぐかどうかも含めて事前に検討しておく価値があります。
法人の場合は所得区分がないため、除却損はそのまま損金になり、ほかの賃貸事業の利益と相殺されます。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る賃貸住宅へ転用するときの消費税
宿泊は課税、住宅の家賃は非課税
民泊や簡易宿所の宿泊料は、消費税の課税売上げです。一方、住宅として貸す家賃は非課税売上げです。同じ物件でも、民泊から賃貸住宅に切り替えると、消費税の世界では「課税業務」から「非課税業務」への転用になります。
調整対象固定資産の転用の調整(消費税法34条)
課税事業者で、個別対応方式により、建物や設備の消費税を「課税売上げにのみ要するもの(課税対応)」として全額控除していた場合、その資産が税抜100万円以上の調整対象固定資産で、課税仕入れの日から3年以内に住宅の貸付けなどの非課税業務に転用すると、転用した課税期間で仕入控除税額を減らす調整があります。
| 課税仕入れの日から転用した日まで | 仕入控除税額から控除する金額 |
|---|---|
| 1年以内 | 控除した消費税額の全額 |
| 1年超2年以内 | 控除した消費税額の3分の2 |
| 2年超3年以内 | 控除した消費税額の3分の1 |
民泊用に物件を取得して消費税の還付を受けたケースや、旅館業の許可を取るために大規模な設備投資をしたケースでは、この調整で納める消費税が増えることがあります。調整の仕組みは調整対象固定資産と課税売上割合の著しい変動、民泊用物件の取得時の論点は民泊用物件の取得と仕入税額控除で詳しく解説しています。
割合の変動と免税事業者の判定
比例配分の方法で計算していた場合は、転用の調整ではなく、取得後3年間の課税売上割合が大きく下がったときの第3年度の調整(消費税法33条)が問題になることがあります。また、宿泊収入がなくなれば、基準期間の課税売上高が減り、2年後に免税事業者になる場合もあります。ただし、課税事業者を選択して調整対象固定資産を取得した場合などは、一定期間は免税事業者に戻れない制限があります(課税事業者選択の2年・3年縛りを参照)。
どの調整が当てはまるかは、計算方式、取得の時期、選択届出の有無の組み合わせで決まります。民泊をやめる前に、過去3年間の申告書と固定資産台帳を顧問税理士に見てもらうのが確実です。
廃業の届出と、用途を戻すときの注意
住宅宿泊事業と旅館業の届出
住宅宿泊事業法の民泊をやめる場合は、事業を廃止した日から30日以内に廃業等の届出が必要です(多くの自治体は、民泊制度運営システムでの届出を案内しています)。旅館業(簡易宿所など)の許可を受けていた場合は、営業を廃止した日から10日以内に廃止の届出をするのが一般的です。様式や添付書類は自治体ごとに異なるので、管轄の保健所に確認してください。制度の違いは民泊新法と旅館業法の違いで整理しています。
税務署には、個人で民泊を事業として行っていた場合の廃業届や、消費税の事業廃止届(その事業者のすべての事業をやめる場合)など、状況に応じた届出があります。賃貸事業は続ける場合は、事業そのものの廃止ではないため、出す届出が変わります。
建物の用途を戻す場合
旅館業の許可を取るために、共同住宅をホテル・旅館の用途に変更していた建物を共同住宅に戻す場合、変更する部分の床面積が200㎡を超えると、建築基準法上の確認申請が必要になることがあります。住宅宿泊事業法の民泊は、建物の用途が「住宅」のままなので、通常この問題はありません。用途変更の工事費は、内容に応じて修繕費か資本的支出かを判断します(用途変更の税務は住宅からホテルへの用途変更と税務も参照)。
会計上の扱いと決算書の表示
税務上は、除却損などが損金・必要経費に算入できるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。会社法431条は、株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとしており、法人税法22条4項も、収益や費用の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしています。
民泊の撤退にともなう損失は、毎期経常的に発生するものではありません。家具備品の一斉除却、転貸物件の解約違約金、用途を戻すための工事費のうち費用処理するものなど、臨時かつ金額が大きいものは、特別損失(固定資産除却損、事業撤退損など)として表示することが考えられます。著書でいう「費用は下に」は、このように実態として臨時の損失を、本業の利益と区別して表示するという意味です。毎年少しずつ入れ替える備品の除却まで特別損失にするような、実態と違う区分にしてはいけません。
また、撤退の判断をした時点で、まだ使っている設備に今後の使用見込みがない場合は、中小企業の会計に関する指針・要領の考え方に沿って、評価の見直しが必要になることもあります。判断に迷う場合は、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
銀行は、決算書の数字だけでなく、なぜ赤字になったのか、今後どうなるのかを見ています。民泊の撤退は、説明の仕方次第で評価が大きく変わります。
| 銀行が見るポイント | 撤退時の影響 | 説明のしかた |
|---|---|---|
| 経常利益・償却前利益 | 宿泊収入の減少で一時的に下がる | 転用後の家賃収入の見込みを示し、来期以降の利益水準を説明する |
| 特別損失 | 除却損・違約金などで当期純利益が下がる | 臨時の損失であること、再発しないことを説明する |
| 純資産 | 損失の分だけ減る | 撤退で手元資金の流出が止まることを示す |
| 債務償還年数 | 一時的に悪化することがある | 転用後の収支で何年に戻るかを試算して示す |
| 物件の担保評価 | 収益還元評価が変わる | 賃貸住宅としての賃料査定や入居状況の資料を出す |
著書の銀行格付けのモデルでも、収益性や返済能力の項目は利益の水準に左右されます。撤退した期だけを見ると点数は下がりますが、銀行は事業計画とあわせて見ます。撤退を決めたら、決算を待たずに、取引銀行に撤退の理由・損失の見込み額・転用後の収支計画を早めに伝えておくことが、次の融資を守るうえで大切です。用途転用と融資の関係は用途変更と銀行融資でも扱っています。
実務のチェックポイント
- 固定資産台帳で、民泊用の家具備品を通常の償却・少額減価償却資産・一括償却資産のどれで処理したかを確認したか
- 廃棄した資産の廃棄の記録(処分業者の伝票、写真、日付)を残したか。有姿除却にする場合は、使用をやめた事実と今後使わない理由を説明できるか
- 個人の場合、民泊の所得区分(雑所得・不動産所得・事業所得)と、除却損の必要経費算入の限度を確認したか
- 課税事業者の場合、建物や設備が調整対象固定資産に当たるか、課税仕入れから3年以内か、計算方式(個別対応・比例配分)は何かを確認したか
- 住宅宿泊事業の廃業届(30日以内)、旅館業の廃止届、税務署への届出の要否を確認したか
- 転貸型の民泊なら、賃貸借契約の解約予告期間・違約金・原状回復の条件を確認したか
- 撤退にともなう損失の表示区分を、実態に沿って顧問税理士と検討したか
- 取引銀行に、撤退理由と転用後の収支計画を説明する資料を用意したか
まとめ
- 民泊をやめるときは、家具備品の処分、物件の次の使い道、消費税、廃業の届出、決算書と銀行への説明を順に確認する
- 廃棄した家具備品は除却損。個人の雑所得や事業的規模でない業務では、必要経費にできる額に限度がある
- 一括償却資産は、除却しても3年間の償却を続ける
- 住宅の貸付けへの転用では、調整対象固定資産の転用の調整や課税売上割合の変動に注意する
- 撤退の損失の表示区分は、企業会計の基準に沿って実態どおりに判断する。銀行には撤退理由と転用後の収支計画をセットで説明する
民泊をやめるかどうかの判断は、税金だけでなく、物件の次の使い道や借入れの返済計画と一体で考える必要があります。税理士法人クレフティでは、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、物件の用途転換や撤退の局面でも、融資を受け続けられる決算書づくりを支援しています。初回のご相談は無料です。一般向けの民泊の税金の解説は民泊の税金と確定申告もご覧ください。
