融資・資金調達

信用金庫の4割弱で国債などの含み損が純資産の5割超|「余裕あるうちに前倒し処理」は取引先の中小企業に何を意味するか

日本経済新聞(2026年10月)が、信用金庫の有価証券の含み損を取り上げました。2026年3月期に、全国254の信用金庫のうち4割弱にあたる93金庫で、保有する有価証券の含み損が純資産の50%を超えていたという内容です。全国信用金庫協会の会長は、インタビューで「自己資本も業務純益も十分余裕があるうちに前倒し処理することが最優先課題」と語っています。

信用金庫は、地域の中小企業にとって最も身近な金融機関の一つです。この記事では、報道で示された内容を引用しながら、信用金庫で何が起きているのか、そして信金と取引する中小企業にどんな影響がありうるのかを考えます。

この記事の結論
  • 2026年3月期に、93の信用金庫で有価証券の含み損が純資産の50%超。100%を超えると金融庁の行政処分の対象になりうる。17の信金が最終赤字を計上した(日本経済新聞)
  • 含み損の主な原因は金利上昇による国債などの値下がり。満期まで持てば元本は戻るため、貸出先の不良債権とは性質が違う、と業界は説明している
  • 中小企業への影響は、融資がなくなることではなく、金利の見直しと融資先の選別という形で表れやすいと考えられる
  • 「含み損は余裕があるうちに処理する」という考え方は、会社の財務にもそのまま当てはまる。決算書の実態を整え、取引金融機関を分散しておきたい

報道で示された内容

記事では、次のような内容が紹介されています。

項目報道で示された内容
含み損が純資産の50%超の信用金庫2026年3月期に全254金庫のうち93金庫(4割弱)
行政処分の目安有価証券の含み損が純資産を上回る「100%超」になると、行政処分を判断できる早期是正措置のルールがある。金融庁は「画一的な運用はしない」と業界に伝えている
2026年3月期の赤字全国17の信用金庫が最終赤字を計上。協会の会長は、含み損の前倒し処理による「前向きな赤字」と説明
業界の支援の仕組み信金中央金庫が各信金に資本支援する仕組みがあり、国債の含み損を巡って、2025年3月期に栃木信金、2026年3月期に稚内信金へ資本支援
長期金利新発10年物国債の利回りが2026年9月に一時3.115%と、1996年8月以来の高い水準
協会会長の見方長期金利が3〜4%台でも、業界として健全性を維持できる。急に5%を超えるような場合は大変なことになる

出典:日本経済新聞「信用金庫、国債含み損を前倒し処理へ 協会会長『余裕あるうちに』」(2026年10月)。

協会の会長は、業界として「金利はいつまでも上がらない」という思い込みがあったことを認め、反省すべき点があると語っています。

なぜ信用金庫に含み損が生まれたのか

信用金庫は、集めた預金のうち、貸出に回しきれない分を国債などの債券で運用してきました。低金利の時代に買った債券は、利率も低いものです。金利が上がると、新しく発行される債券の利率が高くなるため、利率の低い古い債券は市場で値下がりします。これが含み損です。

項目内容
含み損の正体金利上昇で、低い利率の時代に買った債券の時価が下がったもの
不良債権との違い国債は満期まで持てば元本が戻る。貸出先が返せなくなった不良債権とは違い、取り返せない損失ではない、と業界は説明
それでも問題になる理由含み損が大きいと、純資産(自己資本)が実質的に目減りし、金融機関としての余力が小さくなる。売却して損を確定させると、その期は赤字になる
前倒し処理とは含み損のある低利の債券を売って損を確定させ、利率の高い債券や貸出に資金を振り向けること。その期は赤字でも、将来の収益力は回復しやすい

今回の報道で注目したいのは、協会の会長が、自己資本と本業の利益に余裕があるうちに、損を出してでも処理するという方針を明確にしたことです。金利がさらに上がれば含み損は膨らむので、処理を先送りするほど選択肢は狭まります。

取引先の中小企業にはどんな影響があるか

ここからは、税理士・公認会計士として、また融資を受けながら事業を続けてきた経営者としての考えです。

融資がなくなるわけではない

まず押さえておきたいのは、信用金庫にとって貸出は本業の収益源だということです。含み損を処理して低利の債券から資金を引き揚げれば、その資金の振り向け先として、むしろ地域の企業への貸出を伸ばしたいと考える信金もあるはずです。今回の報道は、信金が融資を絞るという話ではありません。

金利の見直しは進みやすい

一方で、含み損の処理で減った利益を取り戻すには、貸出の利ざや(貸出金利と預金金利の差)を改善する必要があります。預金の獲得競争も激しくなるなかで、貸出金利の引き上げの相談が増えていくことは考えておくべきでしょう。変動金利の借入が多い会社は、金利が上がったときの返済負担を試算しておくことをおすすめします(金利上昇局面で中小企業がやるべき借入対策)。

融資先の選別は強まりうる

自己資本に余裕がなくなると、金融機関はリスクの高い融資を増やしにくくなります。決算書の数字が良く、説明がしっかりしている会社には引き続き条件の良い融資が出る一方で、赤字や債務超過の会社、情報の共有が少ない会社は、条件が厳しくなりやすくなります。銀行全体でも貸出余力が細りつつあることは、銀行の貸出余力に限界、ファンドが企業融資の担い手にでも取り上げました。

預金について

報道では、信金の含み損は主に国債によるもので、健全性に問題が生じるわけではないと説明されています。また、信用金庫の預金も預金保険制度の対象で、1金融機関あたり元本1,000万円までとその利息が保護され、利息のつかない決済用預金は全額保護されます。過度に心配する必要はありませんが、手元資金が大きい会社は、預け先を複数に分けておくと安心です。

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「含み損は余裕があるうちに」は会社の財務にも当てはまる

今回の協会会長の発言は、会社の財務を考えるうえでも示唆に富んでいます。

会社にも、帳簿には表れない含み損があります。値下がりした不動産や有価証券、回収の見込みが薄い売掛金や貸付金、売れ残った在庫などです。銀行は、決算書の数字だけでなく、こうした含み損を差し引いた実態の純資産を見て融資を判断します。

含み損を抱えたままにしておくと、

  • 銀行から見た実態の純資産が小さくなり、格付けが上がらない
  • 金利上昇や市況の悪化で、含み損がさらに膨らむ
  • 処理しようとしたときには、利益や資金に余裕がなくなっている

という悪循環に陥りやすくなります。利益に余裕がある年に含み損を処理し、決算書の実態を整えておくことは、会社にとっても次の融資への備えになります。処理の方法と税務上の扱いは、含み損の処理の考え方で解説しています。なお、税務上の損金になるかどうかと、決算書にどう表すかは別の問題なので、処理の前に税理士に相談してください。

信金と取引する中小企業が、今からやっておきたいこと

  1. 決算書と試算表を早く・正確に出す:金融機関が融資先を選ぶ局面では、情報を早く出せる会社が有利です(決算書を銀行に出す前のチェック)
  2. 金利の見直しの相談に備える:借入ごとの金利と残高を一覧にし、金利が上がったときの影響を把握しておきます。交渉の進め方は融資の金利交渉で解説しています
  3. 取引金融機関を分散する:信用金庫は地域の企業にとって心強い存在です。そのうえで、地方銀行や日本政策金融公庫など、性格の違う金融機関とも取引を持っておきます(信用金庫と地方銀行の違い)
  4. 融資枠を平時に確保する:当座貸越などの枠は、必要になってからでは設定しにくいものです(当座貸越とは)
  5. 自社の含み損を把握する:不動産、有価証券、売掛金、貸付金、在庫の含み損を洗い出し、実態の純資産を確認しておきます(銀行格付けを上げる方法)

今後も注意して見ていきたいこと

  • 長期金利の水準:協会の会長は、3〜4%台なら健全性を維持できる一方、急に5%を超えるような場合は大変なことになると語っています。長期金利の動きは、信金の運用だけでなく、貸出の金利にも直結します
  • 各信金の決算と経営計画:取引している信金の決算で、含み損の状況や処理の方針がどう説明されているかを確認しておくとよいでしょう。ディスクロージャー誌やウェブサイトで公表されています
  • 貸出の方針:含み損を処理した後、信金がどの分野に貸出を伸ばそうとしているのか。担当者との面談で聞いておくことをおすすめします
  • 業界の支援の仕組み:信金中央金庫による資本支援がどこまで広がるか

金融機関の事情は、借り手にはコントロールできません。コントロールできるのは、自社の決算書と、金融機関との付き合い方です。信金が「余裕があるうちに」と動いているのと同じように、会社も、利益と資金に余裕があるうちに財務を整えておくことが、次の局面への一番の備えになると考えています。

まとめ

  • 2026年3月期に、93の信用金庫で有価証券の含み損が純資産の50%を超えた。業界は、余裕があるうちに前倒しで処理する方針を示した
  • 含み損の主な原因は金利上昇による国債などの値下がりで、不良債権とは性質が違う
  • 中小企業への影響は、融資がなくなることではなく、金利の見直しと融資先の選別という形で表れやすい
  • 信金の預金も預金保険制度の対象。手元資金が大きい会社は、預け先を分けておくと安心
  • 「含み損は余裕があるうちに処理する」は会社の財務にも当てはまる。決算書の実態を整え、取引金融機関を分散しておく

取引している金融機関との付き合い方や、決算書が銀行からどう見えているかを確認したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

取引している信用金庫に含み損があると、預金は大丈夫ですか?
報道では、含み損の多くは日本国債などの債券によるもので、満期まで持てば元本が戻るため、貸出先の不良債権とは性質が違うと説明されています。また、信用金庫の預金も預金保険制度の対象で、1金融機関あたり元本1,000万円までとその利息が保護され、利息のつかない決済用預金は全額保護されます。過度に心配する必要はありませんが、預金が大きい会社は、預け先を分けておくと安心です。
信用金庫の含み損処理で、融資は借りにくくなりますか?
含み損を処理すると、その期の利益や自己資本が減ります。一方で、信用金庫にとって貸出は本業の収益源なので、融資をやめるわけではありません。ただ、利益を立て直すために、貸出の金利を見直したり、融資先をより選んだりする動きは強まりうると考えています。決算書と試算表を早く出し、信金との情報共有を密にしておくことが、条件の良い融資につながります。
メインバンクが信用金庫だけの場合、何をしておけばよいですか?
信用金庫は地域の中小企業にとって心強い存在で、取引をやめる必要はありません。そのうえで、地方銀行や日本政策金融公庫など、性格の違う金融機関とも取引を持っておくと、どこか1つの融資姿勢が変わったときにも資金調達の道が残ります。当座貸越などの融資枠も、平時のうちに確保しておくと安心です。

※本記事は2026年10月20日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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