税のしるべ(2026年11月2日)と週刊T&Amaster(2026年10月26日号)が、土地と建物を内訳を決めずに一括で買った不動産賃貸業者の消費税をめぐる東京地裁の判決(2026年10月14日)を報じました。納税者は固定資産税評価額の比率で建物の価額を出して仕入税額控除を計算しましたが、裁判所は、この物件では鑑定評価額の比率で按分するほうが基本的に合理的だと判断したと報じられています。
土地は消費税がかからず、建物には消費税がかかります。一括で買った代金のうち、建物にいくら割り当てるかで、控除できる消費税の額も、毎年の減価償却費も変わります。この記事では、報道された判決の要点を整理し、按分のルールと、不動産を買う前に決めておくべきことを解説します。
- 東京地裁(2026年10月14日判決)は、一括取得した土地建物について、固定資産税評価額では反映できない個別の事情があるとして、鑑定評価額の比率による按分を基本的に合理的と判断したと報じられた
- 個別の事情として、テナントの銀行が退去予定で後継が決まっていなかったこと、銀行特有の頑丈な構造で汎用性に劣ることなどが挙げられた
- 一方で、鑑定評価額には消費税相当額が含まれていないとして、建物の鑑定評価額に消費税相当額を足してから按分すべきとし、処分の一部を取り消した
- 固定資産税評価額の比率は「いつでも安全」ではない。購入前に内訳の根拠をそろえ、契約書で区分しておくのが基本
報道で示された判決の内容
| 項目 | 報道で示された内容 |
|---|---|
| 裁判所・日付 | 東京地方裁判所、2026年(令和8年)10月14日判決 |
| 納税者 | 消費税の課税事業者で、不動産賃貸業を営む |
| 取引 | 売買契約で土地と建物の内訳金額を合意せず、一括で取得 |
| 納税者の計算 | 固定資産税評価額の価額比で建物の価額を出し、課税仕入れに係る支払対価の額として申告 |
| 税務署の処分 | 鑑定評価額の価額比で出した建物価額によるべきとして更正処分等 |
| 個別の事情 | 建物を借りていた銀行が退去予定で、新しい借り手は未定。銀行が使っていた1〜4階は一体で使える銀行特有の構造で、頑丈につくられていた |
| 裁判所の見方 | ①一般的な事務所ビルより再調達原価が高い一方、②退去で賃料収入が大きく減る見込みで、賃貸市場での汎用性に劣る、③当時は建物価格や商業地の取引価格が上昇傾向だったが、商業地の公示価格は実際の取引価格より低かった、などと認定 |
| 判断 | 固定資産評価基準では適切に反映されない個別の要因があり、固定資産税評価額による按分は必ずしも合理的とはいえない。鑑定評価は①〜③を適切に考慮し、不動産鑑定評価基準に沿った適正なもの |
| 補強材料 | 鑑定評価額の建物比率と固定資産税評価額の建物比率が大きく乖離し、売買代金が鑑定評価額と近かった |
| 結論 | 鑑定評価額の比率による按分が基本的に合理的。ただし鑑定評価額は消費税相当額を含まないため、建物の鑑定評価額に消費税相当額を加えた額と土地の鑑定評価額の比率で按分するのが相当として、原処分を一部取り消し |
出典:税のしるべ「建物の課税仕入れに係る支払対価の額を巡り地裁判決、鑑定評価額建物比率で算定が合理的と判断」(2026年11月2日)、週刊T&Amaster「一括取得土地建物の鑑定評価額は合理的」(2026年10月26日号・No.1143)。判決文は、この記事を書いた時点で裁判所の裁判例検索には掲載されておらず、控訴の有無も確認できていません。
そもそも、なぜ土地と建物を分けるのか
消費税は、土地の譲渡には課税されず(非課税)、建物の譲渡には課税されます。買う側から見ると、建物の代金に含まれる消費税だけが仕入税額控除の対象です。建物の比率を高く見積もれば控除できる消費税が増え、低く見積もれば減ります。
所得税・法人税でも同じ按分が必要です。土地は減価償却しませんが、建物は耐用年数に応じて費用になります。つまり、建物比率は「消費税の還付・納付額」と「毎年の減価償却費」の両方を同時に動かす数字です。
| 建物比率を高くすると | 建物比率を低くすると |
|---|---|
| 仕入税額控除が増える(還付や納付減) | 仕入税額控除が減る |
| 減価償却費が増え、毎年の利益が減る | 減価償却費が減り、毎年の利益が増える |
| 売却時の簿価が早く下がり、譲渡益が出やすい | 簿価が残り、譲渡益は出にくい |
| 税務署から根拠を問われやすい | 消費税の面では問題になりにくい |
按分のルールはどう決まっているか
国税庁の消費税法基本通達11-4-2は、土地と建物を同じ人から同時に買った場合、支払った対価を建物(課税仕入れ)の部分とそれ以外の部分に合理的に区分する必要があるとしています。所得税・法人税の土地の譲渡等に係る課税の特例の計算で区分している場合は、その区分によることができるともしています(国税庁 消費税法基本通達 第11章第4節)。
売る側には、課税資産と非課税資産を一括で譲渡し、対価が合理的に区分されていないときは、それぞれの時価の比率で按分するという消費税法施行令45条3項の定めがあり、基本通達10-1-5が土地と建物の一括譲渡の扱いを示しています(国税庁 消費税法基本通達 第10章第1節)。
「合理的な方法」として実務でよく使われてきたのは、次の方法です。
| 方法 | 考え方 | 弱み |
|---|---|---|
| 契約書の区分 | 売主と買主が合意した内訳 | 時価からかけ離れていると認められない |
| 固定資産税評価額の比率 | 同じ市区町村が同じ基準で評価した土地・建物の比率 | 改修や収益性など、物件の個別の事情が反映されないことがある |
| 不動産鑑定評価の比率 | 鑑定士が個別の事情を考えて評価した比率 | 鑑定の前提や手法に不合理があれば退けられる |
| 差引法(路線価などで土地を出し、残りを建物) | 土地の公的な価格から逆算 | 公表裁決で合理的と認められていない |
これまでの公表裁決の流れは、土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例で6件を整理しています。固定資産税評価額の比率が採用された例が多い一方、改修工事が評価額に反映されていない物件では鑑定評価の積算価格の比率がより合理的とされた例もありました。今回の判決は、固定資産税評価額の比率を使った納税者側が退けられた点で、同じ方向の判断がまた一つ加わったと読めます。
ここからは、税理士・公認会計士として読み解く判決のポイント
ここからは、税理士・公認会計士として、不動産の取得のご相談を受けてきた立場からの考えです。
ポイント1:「固定資産税評価額の比率なら安全」は通らない場面がある
固定資産税評価額は、同じ機関が同じ時期に評価したものなので、按分の物差しとして使いやすいのは確かです。しかし、評価額は数年ごとの評価替えで、物件ごとの収益性やテナントの状況までは反映しません。今回のように、テナントの退去予定、特殊な構造、土地の取引価格の急な上昇などがあると、評価額の比率と実際の価値の比率が大きくずれます。
特に、商業ビル・一棟の事務所ビル・店舗など、建物の消費税を仕入税額控除できる物件では、按分の差がそのまま税額の差になります。
ポイント2:売買代金と鑑定評価額が近いことが決め手の一つになった
報道によると、裁判所は、鑑定評価額と固定資産税評価額の乖離に加えて、売買代金が鑑定評価額と近かったことも理由に挙げています。総額の妥当性が確かめられている鑑定は、内訳の比率にも説得力が出る、という見方です。逆に言えば、売買代金と大きくかけ離れた鑑定は、按分の根拠としても弱くなります。
ポイント3:税務署の計算もそのまま認められたわけではない
裁判所は、鑑定評価額には消費税相当額が含まれていないとして、建物の鑑定評価額に消費税相当額を足してから按分するのが相当とし、処分の一部を取り消しました。税込みの売買代金を分けるのであれば、物差しの側もそろえる、という考え方です。
仮の数字で示すと次のようになります(判決の数字ではありません)。
- 税抜の鑑定評価額で按分:建物 = 10億円 × 3億円 ÷ 9億円 ≒ 3億3,333万円
- 建物に消費税相当額を足して按分:建物 = 10億円 × 3.3億円 ÷ 9.3億円 ≒ 3億5,484万円
同じ鑑定を使っても、計算の仕方で建物の価額が2,000万円ほど変わり、仕入税額控除もその分動きます。按分の「方法」だけでなく、税込・税抜をそろえるという計算の細部も争点になり得ることがわかります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方:按分は決算書にも残る
按分の結果は、建物と土地の帳簿価額として貸借対照表に残り、毎年の減価償却費として損益計算書に出ます。銀行は、償却前の利益(経常利益+減価償却費)で返済能力を見ることが多いため、建物比率を変えても償却前の利益は変わりませんが、経常利益と純資産は変わります。
| 銀行が見る指標 | 建物比率が高いと | 建物比率が低いと |
|---|---|---|
| 経常利益 | 償却費が多く、利益が小さく見える | 利益が大きく見える |
| 純資産 | 償却が進むほど早く減る | 減り方がゆるやか |
| 債務償還年数(著書の算式) | 償却前の利益で見るため、影響は小さい | 同左 |
| 更正を受けた場合 | 追徴税額と加算税で現預金が減り、決算書の修正も必要 | 同左 |
建物比率を高くして償却を早めると、利益が小さくなり、純資産の積み上がりが遅れます。筆者自身、2019年に、減価償却が速い物件が多く、簿価よりも負債が大きい債務超過の状態になり、複数の銀行から融資を断られた経験があります。按分は「消費税をいくら取り戻せるか」だけで決めず、決算書と次の融資にどう出るかまで見て、根拠のある数字にしておくことが大切です(減価償却と銀行のEBITDAの見方)。
買う前・申告前の実務の対応
| タイミング | やること |
|---|---|
| 購入の検討段階 | 固定資産税評価額の比率を確認し、売買代金の総額と比べる。テナントの退去予定、特殊な構造、大規模な改修の有無など、評価額に出ない事情を洗い出す |
| 契約の前 | 売主と土地・建物の内訳を合意し、契約書に明記する。根拠(評価額の比率、鑑定、建築費の資料など)を残す |
| 個別の事情が大きい物件 | 不動産鑑定評価の取得を検討する。鑑定の前提(賃料、空室、再調達原価)が実態と合っているかを確認する |
| 申告の前 | 消費税(課税仕入れの額)と、所得税・法人税(建物の取得価額)で同じ按分を使う。税込・税抜の扱いをそろえる |
| 住宅として貸す建物 | 居住用賃貸建物は原則として仕入税額控除ができない(居住用賃貸建物の消費税)。それでも減価償却の面で按分は重要 |
| 消費税の還付を受ける場合 | 還付申告は確認の対象になりやすい。按分の根拠を説明できる資料をそろえておく(不動産の消費税還付の全体像) |
税務調査で按分を問われたとき、「固定資産税評価額の比率を使ったから」だけでは説明として足りない場合があることを、今回の判決は示しています。なぜその比率が物件の実態に合っているのかを、購入時点の資料で説明できるようにしておきましょう。
今後も注意して見ていきたいこと
- 判決文の公表と控訴の有無:裁判所の裁判例検索への掲載と、高裁で判断が維持されるか
- 固定資産税評価額の比率の扱い:どのような事情があれば「合理的でない」とされるのか、事例の積み重ね
- 税込・税抜の調整:鑑定評価額に消費税相当額を足して按分するという計算方法が、今後の実務でどう扱われるか
まとめ
- 東京地裁は2026年10月14日、一括取得した土地建物について、固定資産税評価額では反映できない個別の事情があるとして、鑑定評価額の比率による按分を基本的に合理的と判断したと報じられた
- テナントの退去予定や銀行特有の構造、売買代金と鑑定評価額が近いことなどが理由に挙げられた。一方、建物の鑑定評価額に消費税相当額を足して按分すべきとして、処分は一部取り消された
- 建物比率は、仕入税額控除と減価償却費の両方を動かし、決算書の利益と純資産にも残る
- 購入前に内訳の根拠をそろえて契約書で区分し、消費税と法人税・所得税で同じ按分を使うのが基本
一括で買う予定の土地建物の按分や、消費税の還付申告の根拠づくりを確認したい方は、お気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。
