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「億万長者は政策の失敗」か?富裕税と海外移住をめぐる議論|日本の富裕層課税(1億円の壁・ミニマムタックス・出国税)とオーナー経営者の備え

日本経済新聞(2026年10月26日朝刊)に、英フィナンシャル・タイムズの論考「億万長者批判の盲点」(2026年10月18日付)の翻訳が掲載されました。米国の左派政治家が「すべての億万長者は政策の失敗の産物だ」と主張するなか、筆者は、資産を「どう築いたか」に目を向けるべきだと論じています。カリフォルニア州では11月に、億万長者の純資産に5%の1回限りの税をかける住民投票が行われる予定だとも紹介されています。

富裕層への課税をどう考えるかは、日本でも身近なテーマです。日本では、所得が極めて高い人への追加課税が強化されることが決まり、海外への移住に伴う課税の仕組みもあります。この記事では、論考の要点を紹介したうえで、日本の富裕層向けの課税を整理し、オーナー経営者が考えておくことを解説します。

この記事の結論
  • FTの論考は、億万長者を一律に批判するのではなく、資産の築き方(事業・相続・利権)で分けて考え、税制の抜け穴や利権に的を絞って対処すべきだと主張。高額な富裕税は富裕層を国外に追いやり、イノベーションを妨げるおそれがあるとする
  • 日本には富裕税はないが、所得が極めて高い人への追加課税(ミニマムタックス)があり、2027年分から特別控除額1億6,500万円・税率30%に強化される(財務省)
  • 海外移住には、国外転出時課税(出国税)や、相続税・贈与税の10年ルールなどの仕組みがあり、移住すれば日本の税金がなくなるとは限らない
  • オーナー経営者は、所得・資産・承継を一体で考え、制度の行方を見ながら早めに計画を立てたい

FTの論考の要点

項目論考の内容
主張一定の資産を築いたというだけで億万長者を批判するより、その資産をどう築いたかに目を向けるべき
資産を築く3つのルート①生産性の高い事業(イノベーション)、②資産の相続、③市場での影響力や政治的な利権の活用
的を絞った対策政治献金の規制強化、独占禁止法の運用の厳格化、既得利権の見直し、超富裕層の実効税率を一般市民より低くするような税制の抜け穴をふさぐこと、不透明な所有構造やペーパーカンパニーへの対処
富裕税への懸念今いる億万長者を国外に追いやり、将来のイノベーションや投資を妨げるおそれ。高額な富裕税があれば、アマゾン創業者は株式を売らざるを得ず、創業期の赤字を乗り越えられなかったと推定する研究も紹介
米国の動きカリフォルニア州は11月に、億万長者の純資産に5%相当の1回限りの税を導入するかを住民投票で問う予定

出典:日本経済新聞「[FT]億万長者批判の盲点」(2026年10月26日朝刊。英フィナンシャル・タイムズ2026年10月18日付、テジ・パリク氏の論考の翻訳)。

論考が「一般市民より低い実効税率を超富裕層に許すような税制の抜け穴」に触れている点は、日本でも議論されてきた「1億円の壁」と重なります。

日本の富裕層向けの課税

ここからは、税理士・公認会計士として、オーナー経営者や資産家の相談を受けてきた立場からの整理です。

1. 「1億円の壁」とミニマムタックス

日本の所得税は、給与や事業の所得には最高45%(住民税と合わせて約55%)の累進税率がかかる一方、株式の売却益や配当などの金融所得は、原則として約20%の分離課税です。このため、所得のうち金融所得の割合が高い人ほど、所得全体に対する税負担の割合が下がり、所得が1億円程度を超えるとかえって負担率が下がる、といわれてきました。これが「1億円の壁」です。

これに対応するため、所得が極めて高い人に追加の税負担を求める措置(いわゆるミニマムタックス)が設けられています。令和8年度の税制改正では、これを強化することが決まりました。

項目現行(2025年分から)改正後(2027年分から)
基準所得金額から差し引く特別控除額3億3,000万円1億6,500万円
税率22.5%30%

出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」、「特集 令和8年度 税制改正(国税)等について」。

この措置は、基準所得金額から特別控除額を引いた額に税率をかけた金額が、通常の所得税額を上回る場合に、その差額を追加で納める仕組みです。改正によって、対象となる所得の水準が下がり、追加の負担も大きくなります。株式の売却で大きな利益が出る年(たとえば自社株の売却やM&A)は、影響を受けやすいと考えられます(M&Aで会社を売ったときの手取りと税金)。

2. 国外転出時課税(いわゆる出国税)

株式などの有価証券を1億円以上持つ人が国外に移住する場合、移住の時点で、まだ売っていない有価証券を売ったものとみなして、その含み益に所得税がかかる制度があります。一定の期間、日本に住んでいたことなどが要件で、手続きをすれば納税を猶予できる場合もあります。海外に移ってから株式を売れば日本の税金がかからない、という考え方に対応するための制度です。

3. 相続税・贈与税の「10年ルール」

相続税や贈与税は、財産を渡す人と受け取る人が日本に住んでいるかどうかで、課税される財産の範囲が変わります。原則として、渡す人と受け取る人の両方が10年を超えて国外に住んでいないと、国外にある財産まで日本の相続税・贈与税の対象になります。短期間の海外移住で相続税を避けることは難しくなっています。

4. 国外財産調書・財産債務調書

一定以上の国外財産や、所得・財産の大きい人は、税務署に財産の内容を報告する調書の提出が求められます。論考が触れる「不透明な所有構造」への対処は、日本でも報告制度の強化という形で進んでいます。

なお、国外転出時課税、相続税・贈与税の納税義務の範囲、各種調書の提出基準には細かな要件があります。具体的な判断は、国税庁の最新の案内で確認してください。

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オーナー経営者が考えておきたいこと

テーマ考えておくこと
所得のタイミング自社株の売却やM&Aで大きな利益が出る年は、ミニマムタックスの対象になりうる。2027年分からの強化も踏まえ、時期を含めて検討する
自社株の評価非上場株式の評価方法の見直しが議論されている(非上場株の相続評価の見直しに自民党から異論)
事業承継税制特例は2027年12月31日までの贈与・相続が対象(事業承継税制に政府税調で厳しい意見)
海外移住国外転出時課税、相続税・贈与税の10年ルール、移住先の税制を合わせて検討する。家族全体の生活設計と切り離さない
資産の持ち方持株会社や資産管理会社の活用、相続人ごとの財産の分け方を、評価と承継の両面から考える(オーナー家の資産管理会社と事業会社の関係)

FTの論考は、「事業を通じて社会に価値を生み出した結果としての富」と、「抜け穴や利権によって得た富」を分けて考えるべきだと述べています。日本のオーナー経営者にとっても、事業を伸ばし、雇用と納税を通じて社会に貢献しながら、制度に沿って正しく資産を承継していくことが、結果として最も確かな備えになると考えています。行き過ぎた節税策は、評価通達6項による否認などのリスクもあります(総則6項と株式評価)。

今後も注意して見ていきたいこと

  • カリフォルニア州の住民投票(11月):富裕税が導入されるか、導入された場合に富裕層の移住が起きるか
  • 日本の富裕層課税の議論:ミニマムタックスの強化に続き、金融所得課税の見直しが議論されるか
  • 非上場株式の評価と事業承継税制:年末の税制改正大綱で、どのような結論になるか

まとめ

  • FTの論考は、億万長者を一律に批判するのではなく、資産の築き方で分け、抜け穴や利権に的を絞って対処すべきだと主張している
  • 日本では、所得が極めて高い人への追加課税が、2027年分から特別控除額1億6,500万円・税率30%に強化される
  • 海外移住には、国外転出時課税や相続税・贈与税の10年ルールなどがあり、移住すれば税金がなくなるとは限らない
  • オーナー経営者は、所得・資産・承継を一体で考え、制度の行方を見ながら早めに計画を立てたい

自社株の売却や承継、海外移住を含めた資産の計画を一度確認したい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

日本にも富裕税はありますか?
日本には、純資産そのものに毎年課税する富裕税はありません。ただし、所得が極めて高い人に追加の税負担を求める措置(いわゆるミニマムタックス)が2025年分から導入され、令和8年度の税制改正で、2027年分の所得から特別控除額を1億6,500万円に引き下げ、税率を30%に引き上げることになりました。相続税や国外転出時課税など、資産に着目した課税もあります。
海外に移住すれば日本の税金はかからなくなりますか?
そう単純ではありません。株式などの有価証券を1億円以上持って海外に移る場合、まだ売っていない株式の含み益に課税される国外転出時課税(いわゆる出国税)があります。相続税や贈与税も、一定期間(原則10年)を超えて国外に住んでいないと、国外の財産まで課税対象になることがあります。移住を考える場合は、事前に専門家と十分に検討することが大切です。
オーナー経営者は何に気をつければよいですか?
自社株や不動産など資産が大きいオーナーは、所得だけでなく資産の評価や移転のタイミングで税負担が大きく変わります。非上場株式の評価方法の見直しや事業承継税制の期限、ミニマムタックスの強化など、制度が動いている時期です。海外移住や資産の移転を含めた計画は、制度の行方を見ながら早めに検討しておくことをおすすめします。

※本記事は2026年10月26日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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